TSして魔法少女になったら頭が可笑しい奴しかいないんだが 作:つる植物
魔法少女……TS転生した世界では普通に存在し、広く一般に認知されている。
彼女たちは異世界から侵略してくる魔物から世界を守るために、日夜戦いに明け暮れている。
転生してその存在を知った時は「ご苦労なこって……」と他人事に思っていたのは、今では懐かしい思い出だ。
16歳の俺は今、黒を基調としたヒラヒラのコスチュームを身に纏い、魔法少女ブラック・ブレイドとして、眼前に広がる魔物の群れに単身突っ込んでいるところだった。
異相空間。
現実世界を模した巨大な結界内に、万に迫る魔物の大群が押し寄せていた。
かつて魔物は現実世界に出現していた。
しかし二十世紀に異相空間が開発されて以降、魔物はすべてそこへ誘導されるようになった。
おかげで現実世界の被害はほぼゼロ。
もっとも、異相空間のコアを破壊されれば話は別だ。
だから俺たち魔法少女は、この結界内で魔物を狩り続けている。
義務として司令部にこれから突っ込むという通信を送る。ちなみに突撃命令は出ていない。
『司令部宛、こちらシアラ・ワン。魔物の群れを視認、これより突っ込む。オーバー』
『シアラ・ワン、許可できない。既に広域殲滅魔法を射出する準備中である。今すぐ規定のエリアまで退避せよ。オーバー』
『司令部宛、シアラ・ツーに「当てられるものなら当ててみろ」と伝えて。オーバー』
『シアラ・ワン、撤退せよ! 繰り返す、シアラ・ワン、撤退せよ!』
いつものやり取りを司令部と行った。
ちなみにシアラ・ワンとは俺のコールサイン。Sクラス1位という安直な意味だ。
シアラ・ツーは俺の天敵で同期でもある、Sクラス2位の魔法少女を指す。
抜刀と同時に二つの魔法を起動する。
斬撃を拡張する魔法。
そして自身の速度を加速する魔法。
魔物の姿は様々だ。
二足歩行もいれば四足歩行もいる。
だが共通点はある。
首があり、頭があり、心臓に相当する急所があることだ。
魔物1体に対し、Cクラスなら数人、Bクラスなら1人で対応するのが普通だ。
Aクラスだったら数体を同時に相手にできる。Sクラスは参考にならない。
それが万に近い数が押し寄せてきているのだ、普通なら総力を挙げて戦うのが当たり前だ。
しかし今回の戦闘で投入された戦力はSクラス2位1名のみ。しかし俺はいつもの如く勝手に突っ込んだ。
群れへ飛び込む。
一閃。
最前列の首がまとめて宙を舞い、そのまま群れの中心へ突っ込む。
70センチしかない刀身を振れば、拡張された刀身が5メートル先まで延びて敵を切断できる。
遠心力の関係上、切っ先に当てるのが一番威力が出るので、なるべく5メートルの間合いに入った敵を優先的に処理していく。
皮膚に焼けるような感覚があり、身体をひねる。次の瞬間、魔物の鋭い爪が、俺の身体があった場所を通過した。
「お触りは禁止だぞ!」
攻撃してきた魔物の首をカウンターで刎ねる。
ブラック・ブレイド固有の権能である『殺気感知』が、敵の攻撃を知らせてくれる。
紙装甲の俺は一撃でも食らえば死ぬのだが、俺は自分の権能に命を預け、すべての攻撃を回避するのであった。
俺が突っ込んだことで、俺に殺気が集中する。
一番強い殺気を出している奴が、この群れの統率個体だろう。
そっちの方向へ向かうのであった。
刎ね飛ばした首は既に百を超えていた。回避した攻撃の数は覚えていない。
全身が血に染まっている。もっとも、それは全部返り血だ。
身体は権能のせいで、焦げているかのように熱くなっている。
身体の一番熱くなっている方向に、体長5メートルを超える2足歩行の魔物、統率個体を発見したのであった。
殺意の奔流が俺の身体を焼く。全身に殺気を浴びて、俺の感覚が加速する。
腕に該当する部分がノーモーションで伸びて俺を突き刺そうとする。
時間にして一瞬。しかし過集中している俺にはスローモーションに見えた。
「当たるかよ!」
紙一重で回避して俺が刀を振るうと、統率個体の首と胴体が泣き別れとなった。
統率個体が死んだので、魔物たちの動きが鈍る。
俺は適当に周りの魔物を切り伏せながら、司令部と通信する。
『司令部宛、シアラ・ツーの魔法の準備が遅すぎたため、統率個体を撃破した。オーバー』
『こちら司令部、統率個体の撃破を確認した。現時点で広域殲滅魔法の準備が完了した。退避されたい。オーバー』
『司令部宛、そのまま撃ってどうぞ。オーバー』
『シアラ・ワン宛、司令部は退避を確かに勧告した。オーバー』
『司令部宛、さっさと撃たれたい』
通信を切る。
戦闘終了後のいつもの通信を司令部と行う。
魔法少女が魔物に殺されるのは言い訳できるが、フレンドリーファイアで死ぬのは問題になる。
俺がフレンドリーファイアで死んだときに、「退避を勧告したけれど、あいつが逃げませんでした」という、責任回避のための通信だ。
そして上空から濃密な殺気が降り注ぐ。魔物たちの殺気などマッチの火に感じるくらいの、同期の殺意だ。
この殺意は魔物たちではなく、明確に俺へ向けられている。同期は完全に俺を殺すつもりだ。
次の瞬間、広域殲滅魔法――『青い流星《アズール・カタストロフ》』が降り注いだ。
確認できるだけで1000を超える魔力弾だ。
あれ一つに俺数人分の魔力が詰め込まれている。余波でも当たれば俺は死ぬ。
殺意の純度が高ければ高いほど、逆に回避が容易になる。
俺は公園を散歩するかのように、流星を回避したのであった。
「相変わらず馬鹿げた威力だな」
流星が降り止んだ後には、何も残っていなかった。
魔物は一匹残らず消滅。立っているのは俺だけだ。
俺の視界の遥か先から、いまだに濃密な殺意が俺を射抜いている。
これだけの殺意を毎回向けられているのだ、俺は同期のSクラス2位が死ぬほど嫌いだった。
今回の件についてもクレームを入れたかったが、あの女に言葉で勝てる気はしない。
まぁ、勝手に戦場に出て射線に入ったのは、そもそも俺なんだが。
「はぁ、帰ろ」
俺は異相空間を後にしたのであった。