TSして魔法少女になったら頭が可笑しい奴しかいないんだが 作:つる植物
エミリーの祖国での立場はかなり危ういものだった。
国籍は一応あったが5人家族で両親は立場の弱い南米系の合法移民、移民に対する不満が国中に蔓延し明日をも知れぬ日々を送っていた。
転機は12歳の時、魔法少女たり得る魔力量があったので徴兵されたのだ。
練習生であっても一家を養えるだけの給料をもらえ、そのほとんどを仕送りに充てていた。
おかげで下の2人は祖国のちゃんとした学校に通わせる事が出来て嬉しかった。
訓練と勉強は熾烈を極めた。
文字は辛うじて読めたが、書くことが出来なかったので同じような境遇の子と励まし合い協力して頑張った。
幸いあたしは頭はあまり良くなかったが体術に関しては誰にも負けなかった。
正規兵であるBクラスに上がり、熾烈な選抜を勝ち抜きAクラスに上がった日には家族全員に正式な市民権が交付された。
あたしは祖国に感謝しているし、もし死んでも文句はない。
残した家族に莫大な弔慰金が支払われる事になっている。
ただ死ぬのはあくまで祖国のためであり、狂人の自殺に付き合うつもりはない。
受理されない事は分かりきった事だが除隊願いを出した私を『卑怯者だ』と言う人は誰もいなかった。
未だに魔獣の中に突っ込んだ時の悪夢を時々見る、その時はすごい脂汗をかいて飛び起きる。
PTSDってやつなんじゃないのこれ? 正規に除隊する理由になるんじゃない?
ソフィアに言ったらすごい微妙な顔をされた。
魔獣の大量出現があったらまたあの中に飛び込まなきゃいけない……最初は莫大な手当が出るからこの任務にも乗り気だったけど、誰か代わってくんないかなぁ。
転校初日から黒井に模擬戦を挑み、こっちの攻撃に合わせて首を切られ続ける日々が続いていた。
首に来るのが分かっているのでシールドを展開したらシールドごと普通に切られた。
強度は十分であり勿論最硬度で展開、計算上では防御出来るはずだったが……。
まだシールドがそのままで首を切られているなら納得出来る部分はあったんだけどシールドは綺麗に真っ二つになっている。
祖国の解析班が頭を抱えていた。
模擬戦は1日1回しか受けてくれないため、残りは日本のAクラス、偶にはBクラスと模擬戦を行っていた。
他国の魔法少女に負けはしなかったが皆ちゃんと強くて、とても楽しい、理不尽に首を斬られるストレスがハンパないことになっていたので良いストレス解消になったし友達も出来た。
学校からアパートに帰ったら直ぐに会議が始まるのは億劫だった。
ソフィアは論理的な話が得意だから良いけど、あたしは戦場のブラック・ブレイドに付いて行けると言う1点で選ばれたので会議で発言する事はほとんどなく暇だった。
会議が終わればソフィアと食事しながら話し合う、お互いの情報のすり合わせだ。
黒井は意味が分からないが九条も同じ感じらしい、この任務で知り合ったが同じ苦労を通じて仲良くなっていった。
黒井は基本面倒くさがり屋であるが話を振ると結構喋ってくれる。
「シャンプーいい匂いだね、どこの使ってるの?」
「一神というやつ、九条に教えてもらった」
「いつもミルクティー飲んでるね、好きなの?」
「いや、ジュースはだめだって九条が……」
「カバンに付いているストラップすっごいキュートだね、どこで買ったの?」
「さぁ? 九条に貰ったやつだから九条に聞いて」
黒井の生活の至る所に九条の影が見え隠れしている、仲が悪いって報告書に書いてあったんだけどなぁ。
黒井と九条が学校で話したり接触している様子はなく、関係を聞くと死ぬほど嫌いって言っていた。
まぁ色々な関係があるから深入りはしないけど。
黒井の事で発見がある、お菓子をあげるとすごい美味しそうに食べるのだ。
祖国の実家にいた犬を思い出してすごく可愛い。
一杯上げていたら九条から「野良犬の餌付けはしないで」とクレームを入れられた。
九条との話し合いの結果、1日1回で合意した。
ブラック・ブレイドは頭が完全に狂っていて怖いが黒井は本当に可愛い。
なんていうかすっごいこっちの庇護欲を刺激してくる。
身だしなみとか微妙に崩れているのだ、めっちゃ気になる。
「黒井、ネクタイが曲がってる」
「……ん、ありがと」
「髪がちょっとはねてるよ、黒井」
「……直してくれてありがと」
「スカートの折り目が変になっちゃってるよ」
「……よく気付くなぁ、ありがと」
直そうとすると素直に応じてくれてちょっと照れくさそうにお礼を言ってくれる。
ひたすら甘やかしたくなってしまうのも無理はない。
そもそも自分は3人兄妹の一番上であり人のお世話をする事は結構好きだ。
でも祖国での同僚の魔法少女は皆自立している人ばかりでお世話することはない。
黒井はなんていうか「お世話をされる覚悟がある」って感じだ、こっちも遠慮なくお世話が出来てしまうのだ。
九条からまたクレームを入れられた。
ちなみに九条に黒井の可愛さについての話を振ったら結構食い気味に食いついてくれた。
3年間、九条が黒井のお世話をしていたってちょっと自慢げに言ってた……なんて羨ましい。
黒井はその内とことん甘えちゃうようになるらしい、黒井の自立の妨げになるから程々にって言われた。
……黒井をお世話し続けて滅茶苦茶甘えてもらってぐちゃぐちゃに1つになって行く終焉も心の奥底でありかなと思ってしまったけど首を振る。
それはきっと甘美な破滅だろう、けれどあたしには背負っている物が多すぎる、冷静になったのだった。