TSして魔法少女になったら頭が可笑しい奴しかいないんだが 作:つる植物
大統領府国家安全保障会議のエリックは、連日日本から上がってくる報告書を読む度に、思わずため息が出るようになってしまった。
当初の予想では、日本はブラック・ブレイドとブルー・カノンに関する大部分の情報を制限すると考えられていた。
情報を制限する、または情報が全く出てこない。実はそれ自体が重要な情報なのである。
日本側が何を隠したいのか、何を重要に思っているのかの足がかりとなる。
そこからは優秀な諜報員や外交員の出番となる。
しかし実際の日本は想定外の動きを見せる。
狙いは明白、こちらを情報で飽和させて来ているのだ。
ゴミのような情報で飽和させるのならまだ分かる。
ゴミの選別はこちらの専門だ、森の中にある木を探すノウハウは世界一だと自負している。
問題は上がってくる情報が全て無視できない重要なものばかりと言うことだ。
森を隠すのに多数の森が用意されている感覚だ……流石に森の中から森を探すノウハウは存在しない。
ブラック・ブレイドがシールドをロートルな刀と技術と低い魔力で斬っている。
解析班は遠心力が最大となる斬撃拡張の先端で、シールドに適切な速度と角度なら一応可能だが現実的ではないと言う見解を出している。
止まっているシールドを斬ることすら神業なのに、それを毎回動きながらやっているとの結論付けた。
映像やデータを確認すると、斬撃拡張の先端の剣速もシールドに当たる角度も理論値通りなのが確認出来たらしい。
これが権能だったらまだマシだったのだが、純粋な技術でやっているとなると対策を検討せざるを得ない。
誰か1人が出来るようになると他の人も出来るようになる、技術のブレイクスルーは歴史上頻繁に起きているのだ。
ブラック・ブレイドの担当官がなぜ斬れるか聞いてみた所、「何となく?」と答えたらしい。
付帯意見として「ブルー・カノンの担当官の権能に反応なし」とあった。
深刻なのはブルー・カノンである。
現時点で「何らかの権能で魔力の探知が出来ない」、「権能で権能のオンオフが出来る」、「権能2つ以上は確実」、「魔法の行使に一切詠唱、溜めなし、恐らく何らかの権能」、「上級魔法5個同時に使用」、「上級魔法の威力は広域殲滅魔法レベルだが何の国際法にも引っかからない、法務部確認済み」などなどなどなど、恐らくこちらの毛根を死滅させるのが目的であろう情報が次々と上がってきている。
特に魔力が探知出来ない事実は、かなり致命的な問題だろう。
権能で魔力の隠蔽は良くあることであり、対策するノウハウは確立していた。
開発企業の上層部はこちらの報告書を何度も読み返して頭を抱えていることだろう。
全て無視出来ない深刻な情報で、国防関係者は毎日対策に追われている。
大統領の日報も日に日に厚くなる一方で、「民間の優秀なAIで要約して良いか?」と秘書に聞くくらいげんなりしているとか。
幸いな事に日本のSクラスは、脅威度は天元突破しているが危険度はそれほどでもないとのことだ。
2名とも我が国に対する明確な敵意は確認出来ておらず、日本の指揮下に入っている。
ブラック・ブレイドは命令を無視していると報告はあったが、魔物の群れに突っ込んで行くだけであり、協会も事実上追認している。
魔物に対する敢闘精神は実に好ましく思う。
模擬戦を好まず人間は斬りたくないと言う甘さがある。
ブルー・カノンも腹の底こそ読めないが、言動は典型的な日本のエリートであり、日本の方針に服しているのが見て取れる。
2名とも日本と言う国が制御出来ている暴力装置であり、日本の首根っこはこちらが完全に押さえている。
日本に対する対応を間違えない限りは危険ではないとの見解であった。
但しSクラスの人間は総じてどこか壊れている事が多く、現在まで2人の地雷は不明のため取り扱いは慎重を期す必要はある。
我が国がSクラスを持たない理由でもある。
地雷についてはその国が把握出来ていたり自認しているならまだマシな方で、本人含め把握出来ていない事のほうが多い。
各国がSクラス対応に慎重になる所以である。
留学生の2名を核地雷原でタップダンスさせて申し訳なく思うが、国家がそれを必要としている以上、誰かがやらねばならないのだ。
話を戻す、やはりブルー・カノンの脅威が事前の想定どおり突出する形となっている。
結果は予想どおりだが過程が想定外、しかもまだ転校して1週間でこれである。
忙しくなる事はあっても暇になる未来は見えない。
まぁ、情報分析担当官として売られた喧嘩は買わねばいけない。
舐められたら終わり、世界の共通事項だ。
インテリジェンスウォー、人が死なない戦争であるが敗北は我が国の国際的地位の低下を意味する。
腰の引けた頼りない同盟国と言う評価は改める。
殴り返して来るくらいでなければ組む価値もないと思っていたところだ。
日本もようやく外交と言う物を理解して来たらしい。
祖国の面子のためにやり遂げなければいけない。
間もなく80歳になろうとしている大統領も頑張っておいでだしな。
同僚とそろそろ日報を製本して大統領に提出せねばとジョークを飛ばし笑い合う。
頭の痛くなる報告を前に、俺達は今日も関係各所と連絡を取り合うのであった。