TSして魔法少女になったら頭が可笑しい奴しかいないんだが 作:つる植物
これが夢だとは理解できた。
『黒井 美鈴』として九条からもらった刀を手に持っている。
辺り一面は首と胴体が泣き分かれている人、人、人。
赤崎本部長やエミリーなどの知った顔もあれば知らない顔もある。
歩いて周りを探しても九条らしき死体がないことに少し安堵した。
少し笑ってしまう。
まだ『俺』だった時の残滓がこびりついているのかもしれない。
既に『私』の事を完全に思い出した今、意味のない感傷ではあったが少しだけ嬉しかった。
まぁ、多少俺が残っていたところで私のやる事は変わらない。
ただ当てもなく屍山血河を歩き続けた。
どれくらい歩いただろう、目の前に1人の少女が現れた。
顔を見ると無表情だ。
でも何だか嬉しい。
少女は私を殺すつもりなので殺気が全くない。
私が知っている少女ならきっと『俺』が『私』になったら殺してくれるだろうと思っていた。
解釈一致だ。
唯一の不満があるとすれば私は殺気しか感知できないことくらいか。
少女が私にどんな感情で相対しているのか。
感情を感知出来ればそれがわかったのに。
少女は折れた刀を持っていた。
なんでそんな武器を……そう思ったが……。
(あぁ、『俺』が初めて折った刀か……)
少女姿がブレると私の視界がくるくる回った。
床に落ちた時、初めて首が斬られた事に気付く。
(殺気がなければ反応は出来ないし、こんなものか……)
少女は泣き叫びながら私の首を拾い抱きしめる。
何か言っているがどんどん意識が遠くなっていくので上手く聞き取れない。
少女の体温の温かさと心臓の鼓動に安らぎを覚えて私は意識を完全に手放したのだった。
朝起きると気分は最悪だった。
いつもの夢を見ていたのは分かるのだが夢の内容は全く思い出せない。
数ヶ月ぶりの夢に気分は落ち込んで、ただでさえないやる気が0になったのを感じた。
(マジでだるい……)
スマホを取り出して九条スタンプを送る。
本当に落ち込んだ時にだけ送るスタンプ。
毛布を頭から被って丸まる。
九条が部屋に来てくれるのをひたすら待ち続けた。
九条は部屋に入るなり俺のベッドに腰を掛ける。
俺は毛布被ったまま九条の太ももに頭を置く。
「また怖い夢見たの?」
「……うん」
「そう」
同室の時はいつも膝枕をしてもらっていたと懐かしむ。
九条の顔を見ようと頭を下にすると大きな胸のせいで全く見えない。
出会ったばかりの時は見えていたのになぁと思った。
自分の胸を触ると僅かな膨らみはあるが中1ときから全く変わっていない気がする。
ちょっと惨めになってきた。
何となく九条の胸を鷲掴んでみた。
「どうしたの?私の胸に興味が出て来たの?」
「いや、何となく」
九条の胸を触ったが全然ドキドキしなかった。
「そういえば九条のこと、全然女としてみれねぇな」
「私は生まれたときから女よ?」
「あー、そうじゃなくて恋愛的と言うか、性的に見れないってこと。九条は?」
「美鈴に飼い犬以上の感情は持ったことないけど……」
知ってた。
「俺って本当に男の前世があるのか不安になってきた」
「どうして?」
「俺が本当に男だったら九条に惚れている自信がある」
「なにそれ、褒めても何も出てこないわよ」
同室の時は最初はドキドキしたのだが1週間しないうちに慣れた。
実家みたいな安心感って感じになってしまった。
「俺、前世は男……だったんだよな?」
「私に聞かれても美鈴しか分かんないわよ」
「だよなぁ」
「本部長とかは孤児院でそういう設定を作った可能性が高いって言ってたわ」
魔法少女になる前の記憶はあまりない。
当時は何も思わず何も考えずに生活していた。
でも普通に女の子として生活していた気がしなくもない。
魔法少女と覚醒して、言動が男のそれになった。
今はそんな気がする。
もう魔法少女になる前の記憶は朧げだ。
「なぁ」
「なに」
「もし俺が『俺』ではなくなって世界の敵になったらちゃんと俺を殺してくれよ」
何かあったわけじゃない、夢をみた時のお決まりの質問だった。
そしてお決まりの答えが返ってくる。
「その時は……一緒に行こうって言ってくれないの?」
「解釈不一致すぎるだろ……」
「美鈴と一緒ならどんな地獄でも怖くないわ」
『俺』だったら九条に着いて来てもらうだろう。
「『俺』が世界の敵になったら一緒に世界を滅ぼそうか」
「まぁ、美鈴が世界を滅ぼす姿は想像できないけど……」
それはそう。
『俺』だったら世界を滅ぼすくらいなら死んだ方がマシだと思う。
九条に殺されて一生引きずってもらいたい気持ちもあるけど。
「ちょっとは元気出た?」
「あぁ」
「でも、もう1限目は始まっているからゆっくりしてていいわよ」
「そーする」
目を瞑ると眠気が襲ってきた。
あぁ九条の膝枕は本当に落ち着く。
頭を優しく撫でてくれる。
ほんの数十分だけ、俺は意識を手放す。
……願わくば次に目が覚めた時は『私』じゃありませんように。