TSして魔法少女になったら頭が可笑しい奴しかいないんだが 作:つる植物
司令部がある本部に戻るとお偉いさん直々に怒られる。これも恒例行事のようなものだ。
血まみれなのでせめてシャワーを浴びさせてほしいが、相変わらず話が長い。
「ブラック・ブレイド、我々は組織として動いている。いい加減Sクラスの自覚を持ったらどうだね」
毎回Sクラスの自覚うんぬんの話をされてうんざりする。
俺は趣味で魔物を切っていたら勝手にSクラスに認定された。
Aクラスまでの昇格基準は明確化されているのに、Sクラスについてはブラックボックスになっているのはマジで解せない。
そもそも俺の魔力量ではBクラスになれないはずだ。ぜひともCクラスに戻してもらいたいものである。
説教から解放されて廊下を歩いていると……今一番会いたくないやつと出くわしてしまった。
「あらブラック・ブレイド、生きてたのね」
青いドレス風の衣装を身に纏った、金髪碧眼のクソ女。Sクラス2位のブルー・カノンである。
魔法少女協会の最大派閥を取り仕切っているので、取り巻きの魔法少女や職員を多数引き連れている。
あの女の魔法は当たる気はしないが、舌戦だとボコボコにされるので会話したくないのだが、そのまま行かせてくれるつもりはないようだ。
「おかげさまでな」
「しかし、あなたかなり臭うわよ」
ブルー・カノン……クソ女はわざとらしく鼻をつまむ動作をする。
「返り血だよ。さっさとシャワーを浴びたいから通してほしいんだが?」
「ふふ、野性味があってあなたにはお似合いの臭いだと思うわよ」
クソ女が俺を嗤うと、周りの取り巻きどももクスクスと嗤う。
孤児と大財閥の娘。俺の存在はさぞかし目障りだろう。
「しかし、あなた何でここに?」
「今日のことで説教されてた」
「独断専行と命令違反。説教で済ますなんて相変わらずぬるいわね、協会も」
「まったくだ」
クソ女は俺に対しては殺気を向けてくるクソ野郎だが、協会への……魔法少女全体の貢献度という点では俺は足元にも及ばない。
派閥の統制、協会内の政治、スポンサーやメディアの対応は、Sクラスでは唯一クソ女が完璧に行っている。
それでいて学校では生徒会長、成績は学年トップ、魔法を使わなくても運動能力抜群。化け物かな?
ちなみに俺は派閥なし、政治はできない、スポンサー主催の催しは出席したことなし、メディア対応全拒否。何で俺がSクラスで、しかも1位なんだろ。
「まぁ、確かにちょっと臭いがひどすぎるわ。行っていいわよ」
何様のつもりなのだろうか。相変わらずムカつく奴だ。
「ブルー・カノン、一つ言っておきたいことがあるんだが」
「……なに?」
「次はちゃんと殺す気で撃てよ。あんなんで俺を殺すのは無理だぞ」
「……ええ、次はちゃんと直撃させてあげる」
そう言って俺は奴の横を通りすぎる。俺の背中にある燃えるような熱さは、廊下の角を曲がるまで消えなかった。
女になって本当に面倒だと思うのが髪の毛の手入れだ。
男の時はシャンプーだけして放置、髪を乾かしたことすらなかった。
しかし今はシャンプーにコンディショナー、上がったあともいくつかの薬剤を付けて、さらにドライヤーで乾かさなければいけない。
男の時のシャワーの時間は手入れや着替え込みで10分もかからなかったのに、女になって1時間くらい平気でかかる。
中等部時代、寮でクソ女と同部屋だった時に仕込まれたことを、とりあえず続けている。
思えば女としての基礎は、中等部の時に全部クソ女に仕込まれたような気がする。
シャンプーもコンディショナーも薬剤も、クソ女がおすすめしてくれた奴ばかりだ。
2人で戦場デビューするまでは、飼い主と狂犬って言われたんだがなぁ。
日本では12歳になると魔法少女の適性を見られ、適性があれば晴れて協会が運営する全寮制の中高一貫校に入学させられる。
孤児であろうと財閥のお嬢様であろうと関係はない。
まぁ、高等部でCクラス以上であれば寮を出ることは許される。
寮は基本2人部屋なので、2人が耐えられないって奴もいれば、実家が近い奴もいる。
俺は孤児であり面倒なので、そのまま寮で生活を続けている。
俺のルームメイトは高等部に進学すると同時にいなくなった。
俺は今、自分のベッドではなく……もう持ち主がいないベッドの上に寝転んでいた。
(……宿題めんどくせぇ)
正規の命令で出撃した場合は色々免除になることがある。宿題も基本免除になる。
しかし俺は無断出撃。免除されないどころか、余計な説教まで追加されている。
クラスとしては独断専行、命令違反をする異端者だが、学校での俺は模範生そのものである。
週に3回の寝坊と月に3回の自主休校、授業中は基本的に居眠りという名の睡眠学習をして、成績は下の中で赤点は平均3教科くらい。完璧である……自分で言っててアホらしくなってきた。
基本的に魔法少女の魔力のピークは高校1年くらいで、3年にはかなり少なくなる。
高校卒業と同時に魔法少女も卒業となるので、みんな将来を見据えて勉強している。
しかしSクラスは魔力がいつまで経っても減退しない。
協会が卒業させてくれないので、将来設計もクソもない。
勉強する気が起きないのは当然だろう。
こんな環境で学年1位になるまで勉強する奴の顔が見てみたいものだ。
「とりあえず現実逃避はこれくらいにして勉強するか……」
俺は自分の机に向かい、カバンを開けて教科書とノートを取り出そうとして固まる。
「全部教室の机に置きっぱなしだった……」