TSして魔法少女になったら頭が可笑しい奴しかいないんだが 作:つる植物
俺はクソ女……いや、今は九条理子(くじょう りこ)と一緒に夜の校舎を歩いていた。
夜の学校に1人で入ることができず困っていたが、生徒会室に灯りが付いたので連絡してみたら、まだ学校にいて付き合ってくれた。今日だけはクソ女ではなく九条と呼ぼう。
ブルー・カノンは金髪碧眼だが、今の九条はサラサラな黒髪に黒い目をしている。
お互いに一言も喋らないのだが、俺は夜の学校が怖くて喋れないだけであった。
九条が俺に殺気を向けているかどうかは分からない。権能は魔法少女のコスチュームを纏っているときしか発動しないからだ。
沈黙は九条が破った。
「あれだけ強いのに、なんで幽霊が怖いのよ……」
「幽霊は斬れない可能性があるだろ!」
「転生なんて非科学的な体験をしておいて……」
九条が蔑んだ目で俺を見てくる。あれは完全に呆れている感じだ。
何とか教室に着き、目的の教科書とノートを回収する。
同じクラスの九条の机を見ると、教科書もノートも全部入っている。
正規の出撃だった九条は宿題が免除されているのだが……。
「そういえば、お前が勉強しているところって見たことないな」
「教科書を読んで授業をちゃんと聞いていれば必要ないでしょ。一度で全部覚えられないの?」
「普通の人間には無理だよ……」
生まれながらに全て持っているだけのチート女だった。
まぁ広域殲滅魔法とか格好よく言っているが、結局は魔力弾を1000発同時に生成して完璧に並列制御するという、ふざけたことをしている女だ。
1000個の魔力弾というのも中々イカれているが、普通は多数の魔力弾を生成してぶっ放すという「1個の魔法」として使う。
ちなみに並列制御に関して、俺は2個が限界。多い奴でも5個が限界だろう。
俺以外のSクラスは何処かしら化け物じみているところがある。
未だにパンピーのつもりの俺が、化け物共と同じカテゴリに入れられているのは納得いかない。
友達に愚痴ると大体引かれる。何故だ?
「美鈴(みすず)、ちょっと時間ある?」
「ない」
「今付き合った借りを返しなさい」
「へいへい」
俺もそうなんだが、魔法少女化するとかなり好戦的になる。というか、そいつが持っている危ない性質が増幅される感じがする。
俺のような自堕落な人間が衝動に呑まれるのは理解できるが、九条のような完璧に自身を律している人格者であっても、その影響は避けられない。
俺は魔物を斬ることが楽しくなるし、九条は破壊衝動が強くなる。
ブルー・カノンさん曰く「壊せない物を壊せた時が一番気持ち良い」とか言ってたな。
その壊したい対象が俺なのは勘弁してほしい。
ちなみに無断出撃を決めているときの俺はブラック・ブレイドではない。
ブラック・ブレイドとブルー・カノンとの仲は最悪だ。
だが俺、黒井(くろい)美鈴と九条の仲は、魔法少女の時の煽りを受けて良くはないものの、一緒に校舎を歩ける程度には破綻していないのだ。
「これはこの公式が使えるわよ」
「……はい」
生徒会室で俺は九条先生指導の元、宿題をしていた。
借りを返すために借りを作っている気がしないでもない。
まぁ、1人で宿題をしたらかなり時間が掛かるからありがたい。
こいつに宿題を見てもらうのは随分と久しぶりだ。
「あー、終わった」
机に突っ伏す、普段使わない頭を使ったので死ぬほど疲れた。
「まったく……やればできるのに何でやらないのよ」
当時は私生活を九条にほぼ管理されていたのでできていただけである。
こいつはやたら俺を過大評価する、勘弁してほしい。
九条が熱々の紅茶を淹れてくれた。
ソーサーにはスティック砂糖が1本とミルクポーションが用意されていたので、遠慮なく紅茶にぶち込んでかき混ぜる。
ストレートで紅茶を嗜む九条の気が知れない、甘くない紅茶なんて紅茶じゃないだろと思う。
「相変わらず甘くするのね。それ紅茶の意味ないでしょ」
「甘くない飲み物は飲み物じゃないんだよ、俺にとっては」
このやり取りも紅茶の味も懐かしい。
甘い炭酸ばかり飲んでいたのだが、体に悪いと窘められて、甘い紅茶に落ち着いたのだ。
「最近は何を飲んでるの?」
「ペットボトルのミルクティー」
「……まぁ、ジュースよりはマシね」
諦めた表情をする九条であった。
「そういえば来週、スポンサー向けの会食があるのだけども、いい加減参加したら?」
「着ていく服がない。ジャージで良いなら行くけど」
「制服でいいわよ、あなた学生なんだから」
「おっさんばっかじゃん、面倒臭い」
子供相手のイベントなら出ても良いけど、子供向けのイベントは基本的に九条に声が掛かる。
ブルー・カノンの性格はともかく見た目はキラキラのお姫様だ。とにかく女児人気が高い。
Aクラスにいる男装の麗人系魔法少女と良くセットで呼ばれている。
「お金は沸いて出てくる訳じゃないのよ」
「それはそうなんだけど……」
「スポンサーの方々は若い女の子と話したいだけよ」
「だめじゃん、余計行きたくはなくなったよ」
接待とかマジで無理、殴る自信しかない。
「ブラック・ブレイドはおじさん方にとても人気よ。悪いようにはされないわよ」
「なんて言うか、男に女として見られるのマジで慣れないんだよ」
TSの弊害である。ちなみに女の子に対して興奮しなくもないが、九条には全く興奮しない。生活を管理されすぎて最早「母親」という認識である。
「あなたはどちらかと言うとヒーローとして認識されてるわ」
「何でや」
「独断専行、命令無視、紙装甲、刀、全回避。ロマンしかないんだって」
「あー」
言われてみれば確かに、男子が好きそうな要素てんこ盛りだな。
まぁでも、答えは1つだ。
「やっぱパスで」
「……でしょうね」
九条が宿題の借りを盾にしてくれば出たけれど、俺が本当に嫌なことに関しては絶対に引いてくれる。
俺を殺そうとする以外、マジで完璧な女だ。
「ごちそうさま。カップはどこに下げれば良い?」
「置いておいて」
「よろしく」
俺は立ち上がり、生徒会室のドアを開けると、月明かりすら無い漆黒の廊下が眼前に広がっていた……固まる。
「どうしたの?」
俺は引きつった顔で九条を見ると、涙目で懇願した。
「あの、寮まで送ってもらっていいっすか……」
九条はこれ見よがしに今日一番のため息を吐いた。