TSして魔法少女になったら頭が可笑しい奴しかいないんだが 作:つる植物
司令部本部長である赤崎は元魔法少女である。
まもなく40歳になるが、Sクラスの問題児2名のせいで最近はやたら老けて見られるのが悩みだ。
まぁ、自分が現役だった頃に同胞がそれなりに死んでいた時に比べれば、マシな悩みではある。
先日の異相空間での戦闘について、政府高官への説明に来たのだ。
ブルー・カノンが撮影した戦闘映像を見せる。
動画自体は非常に短い。戦闘開始から終了まで3分掛かっていない。万に迫る異形の軍隊が……文字通り蒸発したのである。
「信じられない。10年に1度あるかないかの大規模侵攻と聞いていたぞ」
「人的損害ゼロとの報告書を見て内容を疑ったが、映像を見れば納得だな」
「しかし、2位のブルー・カノンも1位のブラック・ブレイドも相変わらず化け物だな」
「ブラック・ブレイドの武器は既製品だそうじゃないか」
Bクラス以下は既製品の武器を使用するが、Aクラス以上はオーダーメイドが許されている。
ブルー・カノンの使う杖は九条財閥の財力とコネクションを最大限に活用した逸品物だ。
対してブラック・ブレイドは、最初に支給された刀を折った際、ルームメイトに譲ってもらった中古品を愛用している。
万に迫る大規模侵攻を無傷で切り抜けたはずなのだが、政府高官たちの顔は暗い。
「彼女たちは確かに優秀なのだが、優秀すぎるのも問題だな」
「まだ正式なルートでの打診ではありませんが、同盟国から彼女たちの力を借りたいとの打診が来ています」
世界中で魔物の侵攻は起きており、各国に魔法少女はいる。
Sクラスの魔法少女は数いるが、激戦区に投入されるので損耗はそれなりにある。
また、各国との情報交換のために、こちらの状況は世界に向けて公開できる範囲でしている。
各国から「正確な記録を公開するように」とクレームを受けたのは記憶に新しい。
「今回の大規模侵攻、通常なら総力戦です。今までならSクラス含め、多数の死傷者が出ますよ」
そう言った赤崎の脳裏には、もうこの世にいない同胞や、Sクラスの先輩の顔が思い浮かぶ。
Sクラスと言えど数の暴力には勝てない。
一騎当千であっても、1001匹目の敵に押し潰される。
しかし、あの2名は明らかに規格外である。
海の向こうにある同盟国の動きが、最近きな臭いらしい。経済規模は日本を遥かに凌駕しており、通常の軍事力では日本は足元にも及ばない。
日本最大の九条財閥ですら、世界の時価総額ではトップ30にすら入っておらず、同盟国の企業で占められている。
しかし、ブラック・ブレイドは単身で大統領含む要人の暗殺ができるだろうし、ブルー・カノンは歩く戦略兵器だ。
通常のSクラスであればこんな心配はない。他の国の軍や魔法少女を以てしても止められないのが問題なのだ。
日本に近い仮想敵国は、最近やたらと日本を非難してくる。
仮想敵国の方々はブラック・ブレイド対策の要人警護に高ランクを回してしまい、現場に魔法少女が足りず民衆の不満が高まっている。その目を逸らすために日本を非難してくる有様だ。
国内の魔獣の脅威がなくなったら、国際社会の脅威が増した。笑えない話である。
「とりあえず外務省は、同盟国に向けて武官としての魔法少女の留学を受け入れる方向で調整しているらしい」
「魔法少女の留学生。前代未聞だぞ……」
魔法少女は練習生すら貴重なのだが、恐らくAクラス以上が送り込まれてくるだろう。
魔法少女は学校を含めて軍事機密の塊なのだ。
各国のドクトリンに沿って育成されるため、受け入れる方も送る方も多大なリスクを孕んでいる。
部外者を受け入れるとは、随分と大胆な決断をしたものだ。
「総理は元魔法少女でしたっけ?」
「いえ、魔法少女適性はないと聞いています」
元魔法少女でないからこそできた決断だろう。魔法少女を外交カードとして割り切っている。
選挙で大勝しても苦労が続く。まぁ、ご自分の意思でなられたのだ。この難局を乗り切っていただかねば。
「赤崎本部長には、今後も何度か来てもらうことになる。各省庁と綿密なすり合わせが必要だ。各省庁の大臣、もしかしたら総理への説明も必要になるだろう」
「私がですか……? 高卒で、ブラック・ブレイドを笑えない成績の、ただの元魔法少女ですよ?」
高官たちの微かな笑い声が響く。
「現場の声は絶対に必要だ。今の時代に本部長になったご自身の運命を恨むんだな。それとも、あの2人を恨むかね?」
赤崎は首を横に振る。ありえない話だ。
「あの2人には個人的には感謝しかありません。今の激務も、遺族への報告に比べたらマシな仕事です」
赤崎自身、名前を思い出せるだけで数十人、数え切れないほどの戦死通告書の決裁をしている。
最後に判を押したのは、いつだっただろうか。
「それはそうだな。彼女たちがSクラスになって損耗率が明らかに減った。去年は世界で初めて、国内の魔法少女の死者がゼロだったからな」
「本当に信じられませんでした」
彼女たちが英雄として消費されないことが、これほど喜ばしいとは。
合同葬儀など2度と出席したくない。
女子高生たちが死地で頑張っているのだ。私たち大人は、彼女たちのために逃げるわけにはいかない。
大人としての責務を果たさねばならない。