TSして魔法少女になったら頭が可笑しい奴しかいないんだが 作:つる植物
クリーニングに出された制服、美容室で整えた髪、プロのメイクアップアーティストによるナチュラルメイク。馬子にも衣装な装いの俺は今、鷲の意匠が大好きな同盟国との海外留学生受け入れが決定したことを記念するパーティーに来ていた、帰りたい。
ある日、司令本部長の赤崎から呼び出しを食らった。
はっきり言って心当たりはない。最近は魔獣の出現も散発的だ。
俺が独断専行して命令無視をして戦場に出るのは、ブルー・カノンが指揮をする戦いだけだ。
何でもかんでも介入していたら、ランクが低い奴らの経験の場がなくなってしまう。
いくら俺でもそれくらいの分別は付いている。
流石に本部長の呼び出しを受けて無視する訳にはいかないので、渋々出頭した。
本部長室に入ると、目に隈を作った赤崎本部長がいた。
「……こんにちは」
「黒井隊員、よく来てくれました」
正直ブルー・カノンも嫌いだけど、本部長は苦手なんだよなぁ。
いつもキリッとしていて俺に強く当たってくる。
本部長をやっていたくらいだから、学生時代は勉強もできて超優秀だったんだろうなと思う。エリート系の奴とはマジで相性が悪い。
「実は、貴方にお願いがありまして」
「何ですか?」
何だろう、どんなお願いだろう、九条以上の適任者がいるとは思えない。
「ちなみに内密な話なので、口外は絶対にしないでください」
「それ、ギャグで言ってます?」
俺に機密情報を喋るとか、寝不足で冷静な判断ができなくなったか?
「真剣な話です。漏洩した場合は国際問題に発展しますので、本当に気をつけてください」
「は、はぁ」
「来週、同盟国との首脳会談があることは知っていますか?」
「俺がそんな事知ってると思いますか?」
本部長が頭を抱えている。やっぱり頼む相手を間違えているよ。
「来週、日本で同盟国との首脳会談があります。そこで、日本が同盟国から留学生を受け入れることが発表されます」
「え、それって大丈夫なんですか?」
さすがの俺でも不味いのは分かる。
この学校に来て一番最初に叩き込まれるのは、機密保持についてだ。
魔法少女に関する事は部外者に話すなと、魔法を使って縛りまでかけられる。
そこに部外者、しかも同盟国とはいえ他国が入るとなると、かなりヤバいはずだ。
「全く大丈夫ではありません。しかし、訳あって受け入れねばならないのです」
「はぁ」
まぁ、頭の良い上層部が決めた事だ。俺の思い付く程度の懸念には、何らかの対応が取られるのだろう。
「発表された後にパーティーが開かれます。それに出席してもらえませんか?」
「それって、うちの首相と同盟国の大統領が出席するやつですよね?」
「そのとおりです。九条さん以外にも、Aクラスの方も何名か出席します」
いや、そんなパーティーに出席できる訳ないだろ。
「ちなみに、断ったら?」
「明日は協会長から、それ以降は総理自らがパーティー当日まで頼みに行く算段が付いています」
断る選択肢ないじゃん!
俺は一般人だぞ!?
「基本的にサポートが付くので、その指示に従っていただければ大丈夫です」
まぁ、俺みたいな小娘に興味がある奴はいないだろ。タダで美味しい飯を食って、壁の花になって終わるまで大人しくしていよう。
「わかりました、出席します」
「ありがとうございます。後日、政府の担当者を紹介しますので打ち合わせをしてください」
「……はい」
そしてパーティー当日、何かすげぇ見られてヒソヒソ話されているので、死ぬほど居心地が悪い。
俺専門の担当官は若い女性の方で、かなりいい人だったのが救いだ。
「なんで注目されてんですかね」と聞いたら、何言ってんだこいつみたいな目で見られた。
なんでもSクラス1位である俺は、世界からの注目の的らしい。
俺を和ませるために中々面白いジョークを言ってくれて、緊張がちょっとほぐれた。
きょろきょろ見回して九条を探すと、俺と同じ制服姿なのに気後れすることなく、金髪の軍服を着ている女の子と楽しく談笑をしていた。
ちなみに俺は誰が留学生なのかを教えてもらっていない。協会は俺の情報保持能力を全く信用していないためだ。
九条と話している女の子が件の留学生なんだろうと思う。
魔力は俺と同じくらいだが、なんとなく雰囲気が魔法少女のような気がする。
同盟国は日本と全く違う基準でクラス分けされているらしく、魔力の多寡でどのクラスかの判断ができない。
しかし留学生に選ばれるくらいだ。おそらくAクラスだろうと当たりを付ける。
「もしもし、そこのお嬢さん。ちょっとよろしいですか」
ネイティブではない日本語で話しかけられたので振り向く。
俺に話しかけてきたのは、ドレスを着た20代の白人女性。その後ろには、同盟国の大統領が両手でサムズアップしていた。
まもなく80歳になろうというのに全く年齢を感じさせないパワフルな男。テレビやネットのニュースでたまに見る顔だから、さすがの俺でもわかる。
俺は冷や汗をかいて担当官を見ると、担当官も顔を青くして「何も聞いていない」と言わんばかりに首を振る。
あれだけ騒がしかった会場の音が消えた……プロの奏でるオーケストラだけが優雅に鳴り響いている。
会場中がいま、俺たちに注目していた。