TSして魔法少女になったら頭が可笑しい奴しかいないんだが   作:つる植物

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6 データ解析担当って大変ですよね

 私の目の前を両国の関係者があわただしく動いている。

 我が国のAクラス魔法少女エミリーと、ブラック・ブレイドの模擬戦が急遽行われることになった。

 

 奥様一筋の大統領が若い女性の通訳を希望していたのは、ブラック・ブレイドに接触するためだったのかと理解し、私、ソフィアは天を仰いだ。

 

 「あなたのところの大統領、かなり愉快ね」

 「すみません。ボスはかなりのいたずら好きで、我々も困っています」

 

 沈着冷静なエミリーも「え、ホントに戦うの? 何か聞いてる?」と私に通信を飛ばしてきたので、「何も聞いてない」と返信した。

 ブラック・ブレイドとの模擬戦は近接戦に特化したエミリーに課せられたミッションではあったが、留学先ですることを想定しており、こんなパーティー会場ですることを想定しているわけがない。

 ちなみに私は遠距離戦特化なので、ブルー・カノンとの模擬戦のミッションを当然に課されている。その下準備として今日接触していたわけだが……。

 パーティー会場の一部に、訓練用の異相空間が急遽展開される。

 頼りない刀を持った黒いドレス姿のブラック・ブレイドと、両手にガントレットを装着して上下迷彩服を着たエミリーが異相空間に転送された。

 

 ブラック・ブレイド。日本におけるSクラス1位。現状、近接戦においては世界最強と評されている。

 権能は『殺気感知』。使う魔法は、斬撃を拡張する魔法、自身のスピードを上げる魔法のみ。

 防御を捨てて回避に専念する、一撃離脱型の戦闘スタイルだ。

 武器は骨董品レベルの、日本で量産されている刀である。

 今日見た感じでは、オーラも何も感じなかった。

 しかし戦績は化け物。我が国の諜報員が祖国に正確な情報を上げたら、クビになりかけたのは有名な話だ。

 

 対して我が国でAクラスのエミリー。ガントレットは攻防一体の武器だ。

体術では右に出る者はいない。

 魔力自体はブラック・ブレイドよりは多いが、平凡の域を出ない。

 まぁ、我が国ではカートリッジシステムを採用しているので、魔力はガントレットを起動できる最低限あればいい。

 いかにカートリッジシステムを使いこなせるか、それがクラス分けの基準となっている。

 

 祖国のAIはエミリーが勝つことを予想している……が、エミリーが勝てる、いや勝負になる程度であればあんな戦績は不可能だろう。

 この会場には西側諸国の武官も多数いる。みんな真剣な目でスマホを異相空間に向けている。

 

 「そういえば九条さん、先ほどブラック・ブレイドと何やら通信していたみたいですが」

 「ええ、ちょっと。皆さんに楽しんでいただかねばならないので、少しばかりアドバイスを」

 「試合を少し長引かせろとでも?」

 「いいえ、それはさすがに興ざめしますよ」

 

 少し気になったが、まもなく模擬戦が始まりそうだ。私も異相空間に集中する。

 

 ブラック・ブレイドは右手に刀を持って自然体であった。

 鞘は確認できないので、居合は使わないらしい。

 エミリーは右のガントレットを前に出して構える。

 戦闘開始の合図が鳴る、エミリーが先に仕掛けた。

 右手にはめられたのガントレットから膨大な魔力が放出され、マッハに迫る速さでブラック・ブレイドに突っ込む。

 虚を突かれたブラック・ブレイドは、おそらく権能のおかげで間一髪のところで回避した。

 本来なら回避不能である攻撃を避けたのはさすがだ。

 

 (でも体勢が崩れている。エミリーの追撃が入る!)

 

 誰もがエミリーの勝利を確信し、エミリーを見ると、彼女の首は既に地面に落ちていた。

 

 「え?」

 

 会場がざわつく。誰も彼もがエミリーの勝利を確信したはずだ。

 練習用、つまり仮想空間なのでエミリーの首が一瞬で元通りになる。

 エミリー自身も何が起こったか理解できず、自分の首を不思議そうにさすっている。

 

 (おそらく回避と同時に拡張斬撃で斬ったのだろうけど、刀をまともに振れる体勢ではなかったのに……)

 

 「初手は譲ってあげるように言ったんですけど、こんなものですね」

 「九条、何が起きたか聞いて良い?」

 「見てのとおりよ。すれ違いざまに斬った。それだけ」

 「刀を振れる体勢ではなかったけど?」

 「本人は当て勘とか言ってたわね。なんとなく急所の位置がわかるから、どんな体勢でも刀さえ振れれば斬れるって言ってたわ」

 「権能ではない?」

 「野生の勘ね。権能はあくまで殺気感知よ」

 

 頼むから、データで表現できない項目を持ってこないでほしいと思った。

 

 「しかし、あのエミリーって子、相当な傑物ね。意表を突いて体勢を崩せるなんてすごいわね」

 「褒めてます?」

 「日本のAクラス魔法少女ですら、誰もできていないわ。すごいわね」

 

 おそらく心からそう思っているのだろう。

 感心している九条を観察する。

 九条に関してわかっているのは、膨大な魔力を持ち、膨大な並列処理ができることだけ。

 彼女に関しては我が国の諜報機関を以てしても、権能はおろか使える魔法の種類すらわからない。

 彼女が使っている『青い流星《アズール・カタストロフ》』も、ただ初級魔法を1000発撃っているだけに過ぎない。

 魔法には少なくとも中級と上級があるのだ。

 初級魔法であの威力。彼女の魔力で上級魔法を1000発撃てるのなら、我が国は焦土と化すだろう。

 

 異相空間に視点を戻すと、エミリーは釈然としないといった表情でブラック・ブレイドと握手を交わしていた。

 

 おそらくこの後、大統領の警備隊、諜報機関と解析班等、我が国総出で会議になるはず。意見を求められるだろうけど「何もわからない」以外に答えようがない。どう転ぶか予想がつかない会議を思うと、気が重くなった。

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