TSして魔法少女になったら頭が可笑しい奴しかいないんだが 作:つる植物
「ソフィアさん、よろしかったら模擬戦しませんか?」
「え?」
転校初日の最初の休み時間、九条からいきなり模擬戦の提案があった。
(何が目的だ?)
日本側も九条理子……いや、ブルー・カノンの情報について喉から手が出るほど欲しいのは分かっているはず。
予定ではある程度、九条と交流して模擬戦を申し込むが断られ、上の政治的決着により模擬戦をする流れを想定していただけに、この申し出は予想外だ。
(どうするか……まぁ、選択肢はないわね)
ここで上に確認を取ることもできたが、気が変わったと言われたら堪らない。
(確実に裏はある……まぁ、食い破るだけね)
「是非ともお願いします、放課後で良い?」
「勿論、アメリカの技術にはとても興味があるのよ」
私の権能がその言葉を嘘と断じた。しかし、ここで彼女の嘘を暴くメリットはない。
普通は秘匿されているはずの私の権能が露呈してしまう。
予定外だろうがやるしかない……私達は笑顔で詳細を詰めたのだった。
上に事後承諾を取る。祖国からは「存分にやれ」との御達しが来た。
放課後、大多数の観客が見守る訓練用仮想空間でブルー・カノンと相対する。
ちなみに魔法少女としての名前はあるのだが、本国では普通に本名でやり取りをしている。
仮想空間は1キロ四方の広大な空間で行われる。
互いに遠距離砲撃を得意とするタイプだ。
私は遠距離攻撃用の大きめのライフルを装備する。
スコープを覗くと、豆粒みたいな空中に悠然と佇むブルー・カノンの姿を確認する。
既に私の魔力レーダーが彼女を感知していないので、何らかの手段で妨害されているのは明らかだ。
スコープを覗くと彼女までの距離を正確に測定してくれたのだが、信用できるかも分からない。
恐らく向こうはブルー・カノンの情報を渡さないのではなく、逆に情報を飽和させるつもりだろうと当たりを付けた。
浮いている時点で魔法を行使している。その溢れ出た魔力をこの距離で感知できないのはかなりの問題だ。
それは彼女が祖国に飛んで侵入した場合、誰も把握できないからだ。
国防関係者の徹夜が決定したようなものだ。可哀想に……意見を求められるから私も徹夜だけど。
そしてあれは権能によるものだと思う、確証はないがそう感じる、魔法少女は何となく権能が分かるのだ。
相手は攻撃の予兆を今のところ見せていない。九条からは最初は反撃しないと言われている。
とりあえず撃つしかない。照準を合わせて引き金を引いたその瞬間、模擬戦は強制終了させられたのだった。
現実に戻ると、九条の元に職員が慌てて駆け寄ってくる。
「ブルー・カノンに出撃要請です。現在1000体程度の魔獣の出現を確認しました」
「了解と伝えて、すぐに行くわ」
職員は走って戻っていく。
1000体の魔獣。祖国でも処理に骨が折れる数だ。
模擬戦の中断はやむを得ない、次の機会はいくらでもあるだろう。
ブルー・カノンは笑顔で私を見ると、とんでもないことを言い出した。
「ソフィアさん、一緒に来る?」
「え?」
まるで「一緒にお花摘みに行きましょ?」みたいに話しかけられたので、反応と……そして理解が遅れてしまった。
ブルー・カノンが空中に浮かび、ブルー・カノンが生成した足場に立っている。
今度はレーダーがブルー・カノンの魔力を正確に捉えていた。
恐らく権能を一時的にオフしているのだろう……権能って気軽にオンオフできたっけ?
魔法少女化しているときだけ権能を使えるので、私は学校にいる間は常時魔法少女化している。
魔法少女になるだけでも魔力を消費するので他の国ではやらないが、カートリッジシステムがあるので我々には可能だ。
まぁ、祖国でやっても意味がないのでしていないが、私は任務があるのでやっている。
ブルー・カノンの権能に当たりを付ける。レーダーに映らなくなる何らかの権能と、一時的にオフできる権能。
2つの権能を持つタイプのSクラス。オーソドックスなタイプなのだが……問題はまだ持っていそうなことだ。
3つ以上持っているなんて聞いたことがないけれど、普通にありそうで困る。
ブルー・カノンの存在自体がありえないのだ。常に最悪を想定するべきだ。
「ブルー・カノン、射撃準備はしないのですか?」
「まだ必要ないわね。もうちょっと待ったら……ほら来た」
異相空間に侵入してきたブラック・ブレイドが、そのまま魔物の群れに突っ込んでいった。
さらに遅れてエミリーも突っ込んでいった……うわぁ、可哀想。
アメリカでは射撃で群れを削って、残りを近接が潰すのが基本戦術だ。
あんな大群に突っ込んでいったりしない。
あの沈着冷静なエミリーが半泣きになっているのを初めて見た。
ブラック・ブレイド担当なので一緒に行ったのだと思う。
「ソフィアさん、1つ確認したいんだけど」
「何ですか、ブルー・カノン」
「使ってほしい魔法ってあります?」
「え?」
何か今日は驚いてばっかりだ。
「転入祝いです、何か指定してください」
転入祝いは嘘だけど、こっちの指定の魔法を使ってくれるらしい。
「上級魔法を使って下さい」
「ふふ、任せて」
ニコリと笑い杖をかざすと、色が違う5発の魔法弾が瞬時に生成される。
詠唱もしていなければ溜めない。さらに全弾属性が違うとか辞めてほしい。
属性魔法などはっきり言ってナンセンスの塊だ。
最近はどの国でも魔力弾そのものに貫通効果か炸裂効果を付けている。
昔は魔法のイメージがしやすいので使われていた。
しかし魔法が兵器になって久しい今では、属性変換は変換するときに余計なロスがあるし詠唱も長くなるので、余程の理由がない限りは使わない。
1個の魔力弾にはとてつもない魔力が詰め込まれている。
単純計算で一発200匹を吹っ飛ばす威力がある。上級魔法って10匹吹っ飛ばすという国際規定があったはず。
上級魔法級を5発を一つの魔法で生成するのは国際法違反、だからって個別に5発は本当にどうしようもない。
こっちも訳が分からないが、下も訳が分からないことになっている。
攻撃を紙一重で避けると同時に、魔獣の首がボロボロ落ちていっている。
骨董品の武器でスパスパ斬っているのも意味不明だが、飛んでいるのは首だけで他の部位が一切飛ばないのも意味不明だ。
ちなみに彼女がCクラスのときからあんな感じなのは裏が取れている。
「エミリーさんは相変わらずすごいわね、ブラック・ブレイドについて行けてるなんて」
心からの称賛らしい、私もすごいと思う。
ブラック・ブレイドが統率個体の首を刎ねた……他の個体よりかなり硬いんですけど……。
エミリーが即座に緊急離脱機構を使用して空高く飛び上がる。カートリッジのエネルギーを全て使用して、登録してある場所まで自動で移動する機能。祖国のAクラスの装備に標準搭載された機能だ。
残っていれば死んでしまうし、使用許可は上から出ている。
「それでは」
『シアラ・ツーより司令部あて、広域殲滅魔法の準備が整ったわ、オーバー』
『司令部よりシアラ・ツー宛、シアラ・ワンには既に退避勧告済みだ。射出せよ、オーバー』
『了解、オーバー』
簡単な無線通信を行う。知ってはいるが、本当に友軍に向かって破滅的な魔法を射出した。
5色の魔法弾がブラック・ブレイド目がけて降り注ぐ。
着弾した地点から破滅的な爆発が起きる。キノコ雲って初めて見た……。
ブラック・ブレイドの魔力反応はちゃんとある……なんであれで死んでいないんだ?
巻き込まないように計算されているならまだ分かるが、殺す気で撃っている。
ブラック・ブレイドの権能の関係上、殺す気ほど避けやすいというのは分かるが……理解はできるが到底納得できる光景ではない。
『シアラ・ツー宛、魔獣の反応は全て消失、帰還されたい、オーバー』
『シアラ・ツー了解、帰還する』
「じゃあ帰りましょうか」
まるで一緒にお花摘みに行き、一緒に戻ろうみたいなノリだった。
帰還後、エミリーは除隊願いを提出し、無事却下された。
流石にあの魔物の大群に突っ込んで生きていられる人間は祖国でもそうはいない。自分の優秀さを恨むが良い。