うつ住さん   作:非キヴォトス人のアコード

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うつ住さん その2

****

 

だれにもいえない

たすけてっていえない

どうして?

わたしがわるいの?

ぜんぶ、わたしがわるいの?

どんなことでも?

きっと、そうなんですよね?

 

****

 

「あ、あの。サクラコ様…体調が優れないのでは…」

「だいじょうぶです」

「えっ…」

「だいじょうぶですよ、マリー」

 

ある日を境に取り繕えていない。

あの微笑みが消えて、歪な能面の様である。

それでいて、本人にとっては取り繕えていると思っているのだから惨い話だ。

それでも「大丈夫」と言うのだから、マリーはそれ以上何も追及できない。

 

…おかしい、視界が歪む…。

まさかの事態に驚愕するマリーの顔が、倒れる前に見た最後の顔だった。

 

 

 

 

 

「っは…!」

 

気付いた時には知らないベッドの上。

トリニティの学園内であることは、治療に必要なものが揃う部屋の装飾でわかる。

 

「気付かれましたか…?」

 

傍には救護騎士団の鷲見セリナがいる。

安堵と心配の顔が、サクラコが起きてから最初に見た人だった。

 

「と、いう…ことは…」

「はい、救護騎士団の救護室です。聖堂で倒れられたと聞き、急行してお運び致しました」

「そう、でしたか」

 

また、迷惑をかけてしまった。

私のような存在が。

無理矢理起きて事もなさげな態度を取り始める。

 

「ありがとうございました。もうだいじょうぶなので、それでは」

「え…ですが…」

「だいじょうぶ、ですから」

「!?」

 

早くひとりになりたくて、セリナに対し圧迫するような空気を出してしまった。

その行動ひとつも、とっくに削り切られた精神を必要以上に抉っていく。

一種の自傷行為のようなものか。

 

****

 

聖堂の裏手の影で蹲っている。

膝を抱え込んで、顔はうずめて、小さくなって時間が過ぎ去るのを待っていた。

私のような存在がシスターフッドの長などあってはならない。

こんな私などいる意味があると思えない。

負の連鎖が止められない。

それでも打開しようという気力も湧かない。

 

(神は言葉ばかりなのですか?)

 

信心さえも歪む。

 

****

 

もうむりです

 

****

 

あれから幾日と経ってしまいました。私はシスターフッドどころか、どこへさえ顔を出していません。

寮の自室で何もせずにいます。

そうしていたくなったから、です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に、ノックの音がしました。

 

「サクラコさん、いますか」

 

おそらくこの声は、ウイさんでしょうか。

わざわざ古書館から出向いてくださったのでしょう。

…でも、お迎えするにはお部屋がよろしくない状態です。

私の顔も見せられないものになっているでしょう。

それでも…。

救いのように感じられて。

ふらつきながら扉へ向かい…久しぶりに外界を見ることになりました。

 

「…! サクラコさん…その…暫く顔を見ていないと、ヒナタさんから伺った、ので…」

「…」

「うん…?話が間違っていなければですが…シスターフッドの方々のお見舞いも、居留守したということですか…!?……………その、無理にとは言いません、から。少しだけお話、しませんか…」

「……入られ、ますか…」

 

****

 

酷い顔だ。

能面の如き様は、色々と噂の絶えないアヤシイ人と言えど同情を禁じ得ない。

部屋は比較的綺麗だが、机の周りだけ酷く荒れたままになっている。

暴れてしまったが、そこで正気に戻った結果なのだろう。

 

「…私はいつになればお友達を作れるんでしょう………」

「……はい?」

 

沈黙を破って出てきた言葉は、一人の学生としての切々な思いだけ。

自身の言動に問題があるならと改善に努めても逆効果になり、さらなる噂話や誤解に繋がることばかりが起きてしまう現状に疲れ切ってしまったようである。

…それもそうか…あの一件も、ただ親睦を深めようと流行りの漫画を読んで、それを話題にしようとしていただけと聞く。

これまで噂ばかり─特にシスターフッドの─に気を取られていたが、色々と合点がいった。

 

「…救護騎士団に、精神医学に強い人はいるんでしょうか…?」

「ええ…?」

「きっと、今の私は…まともじゃないのかもしれません。いえ…絶対におかしいのだと、確信しています…」

 

…そういった手合いには詳しくないズブの素人だが、その素人から見ても明らかに異常だ。知らぬ間に彼女の頬には一雫が伝っている。

ただ一人の人間が切々に救いを求める様を見せられて、どうすればいいのか分からない…。

何か、私のような存在でも出来ることはないか。

 

そう思って行動に出る。

 

「!…………ぅぇ?」

「わ、私には、これくらいしか、出来なさそうなので」

 

オキシトシンハグだとか頭を撫でてあげると心が落ち着くだとか、本当に聞き齧りも聞き齧りな知識を振り絞った。

平時の彼女ならもっと髪の手入れもされていただろう。

私ほど酷いものでないにしろ、目元の隈もなかったはずだ。

 

「…多分、これは…気休めにしかならないと思います。救護騎士団に尋ねるか、それとも先生を頼るか…いずれにせよ、必ずしてください」

「…………」

 

涙は止まる様子がないが、穏やかな表情になっている。

私の問いかけにも頷いてくれた。

 

****

 

そのままサクラコさんは眠りについてしまった。

あの隈からの推測だが、しばらく眠れていなかったのだろう。ようやく心が落ち着いてといった具合か。

 

…ベッドへどうにか運んだ後、何気なく荒れた机周りをもう一度見た時に、一冊のノートが目に付く。

そのノートは開かれていた。

 

もうむりです

 

凄まじい筆圧で書き殴られたその六文字は、サクラコさんの抱く大きな悲しみと苦しみの奔流を叩き込んでくるようだった。

 

(そこまで、思い詰めていたということですか。私にも…責任の一端がありますよね…)

 

穏やかな寝息をたてるサクラコさんの心中を知れればと、よくないと分かりつつノートをめくっていく。

ノートの最初の方は、その日の言動でダメだった部分を反省している健気な文言が、可愛らしい少女的な丸文字で書かれている。

それが徐々に歪になり、それが恐らく涙の雫で滲むものが増えていき。

そして最後があの自らの怨嗟もこもった六文字。

それ以降は書き殴りの筆跡が付いた未記入のページが続く。

 

「…サクラコさん……」

 

きっとこれは私のエゴだ。そしてサクラコさんの望む友達の作り方ではないだろう。

それでもせめてと思い…サクラコさんの友達になれれば、ならせてくれればという思いを抱いた。

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