おニュー・サクラ大戦   作:サンジュルマン

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第一話「桜舞い散る帝都。再び咲いた花」後編

 翌朝。自室から司令室へ向かおうとドアノブに手を掛けた瞬間、扉の前に誰かの気配を感じた。殺気はない。ただひたすら待機しているような雰囲気を感じ取ったので努めて平静を装って扉を静かに開ける。

 

「おはようございます。神山さん」

 

 そこで待っていたのは、黒いスーツに身を包んだ落ち着いた雰囲気の眼鏡女子だった。

 

「司令付の副官、竜胆カオルです。表向きの立場はすみれ様の秘書ですので、以後よろしくお願いいたします」

「神山誠十郎です。こちらこそ。よろしくお願いいたします」

 

 そこで、俺を待っていた仕事は隊長としてのものではなく、もぎりとしてのものだとカオルさんから知らされる。表ではもぎり、裏では隊長として働くのがここのスタイルらしい。早速、案内された通りに指南役の大葉こまちさんに指導を請う。帝劇の売店を仕切っているホール要員だ。

 

「いやぁ、悪いなあ。大助かりやわ」

「これぐらい何てことないですよ」

 

 ホール内の売店へ荷物を大量に搬入する必要があったのだが、どう見ても量が一人で捌くようなものではない。本人からは元気はつらつで、小柄な体格にも関わらず何でもこなしてしまえそうなパワフルさを感じるが、さすがにこれを一人でやるのは無理がある。本当にカツカツの人員でやっているんだなとしみじみ実感する。

 

「しかしこの量。やっぱり劇場ってこれから開業する感じなんですか。俺、芸能には疎くて。帝劇がこれまで稼働していたのかどうかもよく分かっていないんですよ」

「ぴんぽーん。正解。そこまで事前知識がないのにようわかったな。清掃足らんかったかなあ。ピッカピカにしたつもりなんやけど」

「ああ、いえ。逆に綺麗すぎる気がしただけです」

「ほへぇ──さすがは艦長さんやってただけあって、施設管理の眼力は鋭いんやね」

「ははは、恐縮です。偶々気づいただけですよ」

「あ、華撃団での、あてのポジション説明しとらんかったな。そんじゃまあ、あらためて──帝国華撃団・風組、大葉こまち。資材調達を担当しています」

 

 びしりと音が聞こえてくるような敬礼に、軍人としての習性が即座に返礼で応える。

 

「帝国華撃団・隊長。神山誠十郎少尉です。お世話になります」

「──ま、実際は何でもやる雑務係なんで、何かあったらなんでも言ってや」

「了解。何でもは言いませんのでよろしくお願いいたします。こまちさん」

「ふふん。神山さん。あんさん本当に有能な艦長さんやったみたいやな」

 

 にやりとするこまちさん。そりゃこのポジションの人間を顎で使うなんて俺には怖くて出来ない。船にいた頃、部下が主計科の要員をやたらと居丈高に使い潰している現場を目撃したことがあったが、アレはちょっとしたホラーだったな……。もちろん俺は速やかにその部下を厳罰に処した。

 

   ***

 

 一段落したとのことで、帝劇内の巡回を任された。こまちさんが言っていただけあって、あらためて見ても清掃は本当に行き届いている。戦闘部隊としての側面ばかり頭にあったので意識から抜けていたが、実は劇団としての活動再開も相当に熱量の高い、一大事業なのではと思い直す。

 

 途中、二階のテラスで日向ぼっこをしているあざみに出くわす。ウトウトとしているようだが、よりによって手すりの上に座り込んでこっくりこっくりしている。

 

「マジか!」

 

 慌てて駆け寄って引き寄せようとしたところ、ヒラリと身を躱すあざみ。

 

「マジか!」

 

 空を切った自身の手が、勢い余った慣性の法則で俺の体を宙に投げだす。が、ギリギリのところで持ち直し、上半身を手すりから射出するだけに留めることに成功。精神的に疲労困憊の状態で、そのまま尻餅をつく。

 

「……面白い?」

 

 頭上から降り注ぐあざみの声。

 

「安堵はしているよ。いろいろな意味で。今後は手すりの上で眠らないように里の掟に付け加えておいてくれ」

「それは駄目。里の掟は不変。……隊長がそう言っていたということは、一応覚えておく」

「まあそれでもいいよ」

「多分忘れない」

「隊長命令、忘れるな」

「努力はする」

 

 そう言って去って行くあざみ。やれやれ。気ままな猫のような奴だ。

 

   ***

 

「残りの隊員──初穂とクラリスですか。もうそろそろ帰ってくる頃だとは思いますよ。今日明日ぐらいでもおかしくないはずです」

 

 舞台で発声練習をしているさくらを見つけて声をかけ、気になっていた残りの隊員に尋ねると、そう答えが返ってきた。

 

「そうか、安心した。これからの方針を組み立てるにも、まずは隊員の把握から始めないとままならないからな」

「ふふっ、本当に立派な軍人さんになったんですねえ、誠兄さんは」

「まだまだだと思ってるけど……確かにこの妙な据わりの悪さは職業病かもな」

「これは私も負けていられませんね」

 

 そう言って握りこぶしをつくるさくら。口調と雰囲気はおちゃらけで砕けているが、その目に宿る情念は本物だ。

 

「そう言えば当時はガキだったのもあって、あまりハッキリと確認したわけではないが……やっぱり動機はあの人か?」

「はい、私の命の恩人。私の憧れ──真宮寺さくらさん。あの人を追ってここまで来ました」

「そうか……じゃあやっぱりこれはさくらのか?」

 

 そう言って、胸ポケットからブロマイドを取り出す。昔、劇場で売られていたであろう公式ブロマイドと思しきものだ。古いものだとは思うのだが、状態はやたらと綺麗で大切に扱われてきたのが見て取れる逸品である。

 

「あああっ! 嘘っ! 私いつの間に落としてっ! ごめんなさいさくら様ぁっ」

「いや、ついさっきそこで拾ったから、落としてからそう時間は経っていないと思うぞ」

「ありがとうございます、誠兄さん! 二度とこのような失態は犯しませんっ」

「お、おう……」

 

 予想以上の迫力にたじろぐ。ブロマイドを天に掲げているさくらの姿に何も言えない。

 

『花組集合。花組集合せよ』

 

 そこへ館内放送が響き渡る。さくらと顔を見合わせる。

 

「行こう」

 

   ***

 

 さくらと共に作戦司令室へ行くと、そこにはあざみとすみれさんが既に待ち構えていた。さすがは忍者、早い。

 

「良いニュースと悪いニュースがありますわ。良いニュースはついにこの帝国華撃団にも霊子甲冑が届くということ。悪いニュースはその輸送トラックがロストしたということ。ですわ」

「なるほど。それは朗報ですね。ロスト地点の絞り込みは出来ていますか」

「えぇっと朗報なんですかね……?」

 

 微妙に得心のいっていない顔のさくら。ないものはない。よりは、問題を解決すれば得られるのであればそれは遙かにマシな朗報なのだが、この辺りを納得出来るまで説明するには時間を要する。申し訳ないがそれは後回しにさせて貰うこととして話を進める。

 

 司令室の壁面に据えられたモニターにどこかの山をモニターしたものが映し出される。

 

「山中で足取りが消えていますの。とは言っても車両が通れる山道は限られていますから、直接現場で捜索すればそこまで難しい任務ではないはずですわ。わたくしもこの山に精通しているわけではないですけれど──いくつか分かれ道や行き止まりポイントがあるらしいので、迷っているとすればそこではという推測ね」

 

 モニターに映っている情報から、輸送トラックが二台であること。それぞれのトラックに乗っている乗員が、”東雲初穂”と”クラリス”であることを確認。

 

「残りの花組隊員が乗っているのですね」

「ええ。工場での調整があるので、その出向ついでに機体もそのまま受領しちゃって運転手として帰投するように伝えておりますの」

 

 ……Oh。なんたる手弁当。輸送トラックの運転手すら隊員自らがやるとは、経費削減にも程があると口をついて出そうになるのを、鋼の海軍魂でグッと堪える俺。

 

「彼女たちのトラックが物理的に立ち往生している可能性もあるので、貴方たちも輸送トラック二台で向かって頂戴。要するに捜索というよりお迎えですわね」

「了解しました。花組。出発します」

 

   ***

 

『こちら司令部。こちら司令部。応答せよ』

 

『こちら隊長機。感度良好』

 

 トラックを運転しながら聞こえてくるその声の正体は、出発前、すみれさんの指示に従って格納庫を漁り回収した”隊長専用の通信機”である。現在はトラックの助手席に鎮座しており、移動しながらの長距離無線通話を可能にしている優れものだ。通信越しなので少し分かりづらいが、声の主はおそらくカオルさんだろう。

 

 意外に金を掛けるべき部分にはキッチリ掛けているらしい。さすがだと内心では感心しきりである。

 

 その都合上、当然のように助手席に座ろうとしていたあざみには、もう一台のトラックの方へ行ってもらった。ちなみに、あざみは運転できないので必然的にそちらの運転手はさくらだ。

 

『以降、動力を節約するので頻度は低めでよろし。都度、報告送れ』

 

『了解。通信終わり』

 

 しばらく山中を走り続けていると、早速分かれ道に出くわす。さて、どうしたものか。しばらく止まっていると後続のさくらトラックが追いつく。そのまま黙考を続けていると、あざみが通信機を器用に避けながら助手席に座り込んできた。小柄な体躯ありきではあるが、何と言う小器用な真似を。

 

「さくらが二手に分かれるか、一緒に探すかどっちにする? って言ってる」

「ああ、それは一緒に探す一択だ。二次遭難しては話にならない。単純にどっちに行くべきか悩んでいてな」

 

 地図を見比べる。分岐点の轍。木々の折れ方。傾斜。どれも決め手に欠ける。

 

「あざみだったら右と左、どっちに行く?」

「あざみだったらこっち」

 

 そう言って飛び出すあざみ。

 

「ちょ、待て。あざみ!」

 

 山道を全力で駆けていくあざみを追うように、アクセルをべた踏みする。こちらの正確なやり取りは見えていないであろうさくらトラックが、急発進したトラックの後を追従しようと慌てている様子を視界の端で確かめながらあざみを追い続ける。あざみは木々を縫うように一直線に走るので、曲がりくねっていて舗装されていない山道を走るトラックでは全くといっていいほど追いつけない。

 

 どうやら想像していたより本格的に忍者だったらしい。まさか資料にシレッと書かれていたあの一文が完全に正しいとは。しかし忍者なら指揮官を無視して勝手に行動するなと言いたい。

 

「巫山戯るなよあざみぃ。──帰ったら説教だからなっ」

 

 見失わないように全力で走っているので、ドリフト走行を披露する羽目になったトラックから「そういう車じゃないから、これ」という悲鳴が聞こえてくるかのようだ。ミシリと嫌な音が鳴ったような気がするが気づかないふりをする。

 

 そうして、山中での即席鬼ごっこはしばらく続くこととなる。

 

   ***

 

 とある工場の一角で輸送トラックを前にちょっとした人だかりが出来ている。工員達が集まってトラックの見送りをしていた。

 

「世話になったな、おっちゃん!」

「オーバーホールでならいつでも帰してきて良いが、”病院送り”で返して来やがったらタダじゃおかねえからな」

「わかってるって。そうカッカすると益々血圧上がるぜ」

「ちょ、初穂さん。工場長にそんな言い方」

「じゃかましい! さっさと行かんか」

「ほら、怒られちゃったじゃないですか……本当にもう、地獄に落ちてください」

「お前も十分過ぎるほど口悪いだろ」

「いえ、良い意味でですよ」

「良い意味で地獄に落ちろってどういうことだよっ!」

 

 基本的には敬語口調なのに言っている内容は辛辣なことの多いこの同僚を、初穂はわりと正確に見抜いていた。すなわち、こいつは習った日本語の口調が丁寧語なだけで、母語だともっとぶっきらぼうで雑な言い回しをするタイプなのではないかと。そして、それはあながち間違いではない。少なくとも、日本語を丁寧語として覚えたのは疑いようのない事実である。

 

 微妙に納得いかない気持ちを誤魔化せずに悶々としながら、初穂はトラックで山道に入っていく。しばらく進むと分かれ道に突き当たり、どちらからともなくトラックを降りて相談し出す。

 

「これどっちだ?」

「行きに散々迷いましたからね。工場の方から、司令から貰った地図よりもっと正確な地図を貰っているので任せてください」

 

 そう言って地図を広げるとクラリスはまずは現在地点を指し示した。しかし、実際の所それは大幅にずれていた。というのも、この娘。土地勘も方向感覚もないので、地図を読めないのだ。本の虫なので自分では読めると思い込んでおり、また実際に机上であれば読めるのだが、実地で読もうとするとご覧の有様である。

 

 初穂も何となくこいつなら読めるだろうと思っているので、間違っているということに二人は疑いを持たない。かくして、最強の迷子コンビが結成されていた。

 

「地図によると、ここから南西に道が延びているはずです」

「南西と言っても……それって、こっちじゃね?」

 

 真横を指さす初穂。完全に森林地帯だ。

 

「……碌に整備されていない山道ですから埋もれてしまったのかもしれませんね。待ってください。迂回ルートを模索しますので」

「いや、ギリギリ通れるな。言葉通り、埋もれてるだけなんじゃね。っしゃ、行くぞ」

「え」

 

 颯爽とトラックに乗り込む初穂。間を置かずに即発進するトラックの後を、慌ててクラリスがついて行く。

 

 そうして──。

 

「あっれぇ。完全に迷ったな」

「そりゃ迷いますよ……途中で地図からも外れてしまいましたからね。もう──地獄に落ちてください」

「クラリス、お前マジで口悪いな」

「誤解しないでください。悪い意味でです」

「じゃあ極悪じゃねえか!」

 

   ***

 

 というような顛末を、あっさりと発見できた初穂とクラリスから説明を受ける俺。結果としてはすんなりいったので勝手をしたあざみを怒るに怒れずどうしたものかと思案する。

 

「しかしまあよくもこんなところまで迷い込んだな……。なんでここまでトラックで入り込めたのか理解しがたい」

「おう。まあ山道なら任せておけ。こういうのは得意だ」

 

 この体たらくでよくも言えたものだとある意味で感心する。

 

「まあいい。報告するのでしばらく待機」

 

 トラックに戻りながら、隊員として預かる以上、本当は自己紹介から始めたいんだがなあと愚痴る。

 

『司令室。応答せよ。こちら隊長機』

 

『こちら司令室。状況送れ』

 

『目標発見。自力走行は可能。これより帰投する』

 

『状況把握した。指令。山中脱出後、初穂機、クラリス機のみ帰投せよ。神山機、さくら機はクラリスから地図を受け取り、あざみを同伴してそのまま工場へ向かえ』

 

『……こちら隊長機。工場へ向かう意図を確認したい』

 

『現状の積み荷は霊子甲冑二機。残りの二機をついでに受領してくること。以上、説明終了』

 

 ……なるほど。人員を極限まで減らされると、こうやって効率重視で回さないといけないのか。勉強になるなあ……。遠い目になりかけるもすぐに気を取り直して返答する。

 

『了解。山中脱出をサポートし、以後は機体受領へ向かう』

 

『了承。通信終わり』

 

「……ふう」

 

 どっと疲れて運転席で黄昏れているとさくらが寄ってきた。

 

「なんだかお疲れですね。神山さん」

「ああ、ちょっとな……それよりそっちのトラックは無事だったか? 無理をさせてすまないな」

「ええ、大丈夫です。こう見えて私、運転得意なんですよ」

「あざみも運転したい」

 

 そこへ、あざみがまた助手席に座ってきた。

 

「あざみちゃんにはまだ早いよ」

「……なのに霊子甲冑は動かしていい?」

「それはそうだけど……アレ、ちょっと分からなくなってきたかも。えっと、良いんでしたっけ?」

「もちろん駄目だ。法律上、公道で車両を運転するには免許が必要だ。霊子甲冑を動かしていいのは、公道を走行するわけではないし、仮に公道に差し掛かっても部隊の指揮下で行う任務上の緊急手段だからだな。ちなみに、面白いことに単に公道を走行するのが前提なら霊子甲冑でも事前に許可がいる」

「はあぁ~。なるほど。さすがは誠兄さん……あ、いや神山さん」

 

 心なしかしょんぼりするあざみ。うぅむ。益々単独行動に釘を刺すタイミングを失ってしまった。

 

「取りあえず二人を出口まで送っていく。あざみはもうそこでいいから座っていること。いいな」

「……了解」

「すまん、さくら。初穂とクラリスを先導するから着いてくるよう伝えてくれるか」

「はい。行ってきますね」

 

 タタッと走っていくさくらを見送りながら、しっかり目の端にあざみを捉える。これ以上、勝手をされるわけにはいかないのだ。

 

   ***

 

 初穂、クラリスをしっかりと送り出すと、また山中へとって返す。山を反対側に抜け、そのまま走り続けることしばし。工場に着くと、既に話は通っているようですんなりと出迎えてくれた。ただし、どうも状況は筒抜けのようで、妙に労をねぎらわれた。

 

「隊長さんも大変だねえ」

「いえ、まあ職務ですから」

 

 工場長が同情の眼差しを送ってくる。

 

「ところであの二人はどうでしたか。調整した特性なんかも窺えればと」

「ああ、じゃあ説明しようかね」

 

 そうして話を聞いたところ、初穂は大槌を使うパワータイプ。クラリスは遠距離射撃の強化に仕上げたとのこと。さくらは剣術主体の近接戦闘に特化するために動作の初速を上げる方針らしい。あざみは機動力重視でどこまで攻めたセッティングにするのか部隊の管理者と相談したかったので、俺がついてきたのは丁度良かったとのこと。

 

「今テストして貰ってるが特にさくらちゃんは凄いなあ。こうまで刀に霊力が乗るとは……完全に推定値から外れているので調整のしがいがあるわい」

「よろしくお願いいたします」

「おう。任せときな」

 

 工場長がにやりと笑う。俺はただひたすら頭を下げる。

 

「動きが重い。ここが邪魔」

 

 そこへ、霊子甲冑に搭乗してテストパターンを取っているあざみが不満の声を上げた。霊子甲冑を器用に操り、その指で該当箇所を指し示す。

 

「いや、そこを削ったら駄目だろ」

 

 すかさず指摘する俺。

 

「だなあ。ここを削るぐらいが限界だろう」

 

 工場長が図面を指し示しながら眉間にしわを寄せる。

 

「あざみちゃん。あんまり過激な調整は危ないよ」

 

 さくらが心配そうに声を掛けた。

 

 そうして、工場内での調整作業は夜遅くまで続いていった。

 

   ***

 

 一方その頃、帝劇へ帰還した初穂、クラリスは格納庫でぐったりしていた。クラリスは元より体力が低めだが、体力に溢れている初穂も精神的疲労までは拭えない。元気満々で遭難しました、では司令にも言い訳が立たないからだ。

 

 覚悟を決めて司令室へ重い足取りを運ぶ二人。

 

「お帰りなさい。二人ともお疲れだったわね」

 

 にこりと笑うすみれの笑顔には、意外に他意は見て取れない。少しホッとしつつ初穂が応える。

 

「ただいま、すみれさん。受領任務、完了したぜ」

「首尾はどう? 調整は上手くいきましたかしら」

 

 クラリスが恐る恐るといった様子で応える。

 

「えっと、自分では良い感じに仕上がったのではないかと……」

「そう。怪我もないのね?」

「怪我はねえよ。な、クラリス」

「はい」

「それなら良いのよ。よくやったわね。今日はよく休みなさい」

「あ、おう。じゃあお疲れさん。すみれさん」

「失礼します」

 

 初穂とクラリスが退出していく。脇で控えていたカオルが声を掛けた。

 

「良いのですか、すみれ様。何も言わなくて」

 

 咎めているのではなく、確認している。そういった口調であった。

 

「良いのよ。今は一歩一歩を大事に歩けばね。それよりも帝国華撃団の復活を祝いましょう」

「すみれ様……」

 

 万感の思いがあるのだろうか。想像しか出来ないすみれの胸中にカオルは思いを馳せ、静かにいつものようにただそこに居続けた。




第一話・了
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