おニュー・サクラ大戦   作:サンジュルマン

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第二話「灯火ともる。帝劇の窓」・後編

 午前課の終わった休憩時間。帝劇の二階に設置されている図書室へ向かった。ある程度予想はしていたが、やはりそこにはクラリスの姿が。

 

「…………」

 

 だが、俺に気づいた様子はなく、彼女は一心不乱に読書に励んでいた。

 

 ふむ。まあ邪魔するのも悪いか。そう思い、俺は俺で本を探すことにした。室内をぐるりと一周して数冊見繕うと、机越しにクラリスと向かい合う形で座った。机にはちょっとした本の山が出来上がる。その山から無造作に掴んだ一冊を斜め読みでザッと中身を検めながら、果たして自分はそもそも何を読むべきなのかを把握するべく、読書というより検索作業に勤しむ。そうしていると、クラリスがチラリと視線を向けてきた。

 

「あの……神山さん。何かお探しですか」

「ん。ああ、俺はあまりに演劇に疎いことに気づいてな。最低限の知識を仕入れておくべきかと漁っているんだが……」

「ああ、それでそんな読み方を。あの、差し出がましいかもしれませんが、少しお話を伺えれば最適な本を見繕えるかもしれません」

「それは有り難いな。是非頼む」

「えぇと、こほん。では──」

 

 そうしていくつかの問答の末に数冊の本をお勧めされた。その中で驚いたのが、帝劇史なる史書をどこからか引っ張り出してきてくれたことだ。ザッとではあるが一応は端から端まで回ったつもりだったが、そんなものは見当たらなかったはずだ……。やはり司書的な案内役は必要だな。

 

 この本は表向きの劇団としての帝国歌劇団にフォーカスを当てたもので、かなり詳細にその成り立ちや団員の紹介、公演の記録まで網羅している。先ほど史書と言ったが、読めば読むほど、どちらかと言えば帝劇ファン向けの公式ガイドブックのようなニュアンスを感じた。装丁は学術書のような雰囲気なのだが、実は大衆本の類いなのだろうか。

 

「ふむ……まさに俺が求めていたものだよ。ありがとうクラリス」

 

 本を捲りながら礼を述べる。クラリスも本を読みながらそれに応えた。

 

「気にしないでください。本を案内するの、好きなので」

 

 なるほど。確かに機嫌の良さそうな声色ではある。静かな空気が流れる。その弛緩した空気がクラリスの心を少しだけ開かせたらしく、彼女の口を滑らかにした。

 

「あの、一つ聞いても良いですか」

「ん? 一つと言わず何でも聞いてくれていいぞ」

「では……えっと、何故、霊子甲冑で訓練を行わないのですか?」

「あー、うん。言いたいことは分かる。どうせ霊子甲冑に搭乗することになるのに、生身で無駄に走り回る意味が分からないんだよな?」

「……正直なところ」

「ははは。いや、分かるぞ。俺の同期も船に乗るのにこんなに走り回る意味って何だよとよく愚痴ってたしな。まあ、船の場合は現場でも走り回ることになるんだが……それはそれとして、霊子甲冑だって結局のところ体力勝負になるものだ。特に走る感覚というのはかなり大事だ」

「ローラー走行なのにですか?」

「高速移動時はな。実戦はそれに頼らない歩行もよく使う。そして、ここが意外なんだが、走るリズムがかなり重要になる。これを完璧に掴めないと”異常に”疲れる」

「霊子甲冑の走行で疲れる……」

「ま、それ込みで実機でまず体験して貰うというのもアリなんだが……残念ながらそれは不可だ」

「え、でも格納庫に実機は」

「整備員がいないだろ」

「? えっと?」

「ああそうか……クラリスは軍人じゃないからこの辺りは分かりづらいよな。工場では作業員がやってくれていたから実感できなくても仕方ない、か。あのな、クラリス。霊子甲冑は整備員なしには動かない。正確には彼らのコントロールにない状態で動かせば、次の稼働を保証できなくなる。だから動かせないんだ」

「そう──なんですか?」

「そういうものなんだ。だからまあ、諦めてしばらくは新兵の教練課程で我慢してくれ。鬼軍曹は辞めにするからさ」

「まあ嘘は言っていないようなので信じます」

「……嘘を言う可能性を考慮されているのが腑に落ちないが、納得してくれたようで嬉しいよ」

 

 はははと乾いた笑いが図書室に響いた。

 

 

   ***

 

 

 どうせなら外食にでも出てみようかとクラリスを昼食に誘ったのだが、サンドイッチがあるので大丈夫ですと断られてしまった。カードゲームをしながらの喫食を手軽にするために生まれたと言われるサンドイッチだが、その逸話をなぞるように、本を読むために用意するという人を初めて見た。ここまで来ると由緒正しい本の虫と言えよう。

 

 仕方ないので帝劇内を一通り回ってみることにした。今はなるべく隊員と接触しておきたい。そうして中庭に来ると、さくらと初穂がベンチに二人して仲良く座ってお喋りしていた。

 

「あ、神山さん。見回りですか。お疲れ様です」

「昼食の前に軽くな」

「隊長は昼はどうするんだ?」

「今日も売店に行くか、一度は食べに街に出てみるか、実は迷っていてな」

「え、神山さんって隊長用の食事が出たりはしないんですか」

 

 さくらが意外そうな目を向けた。

 

「いや、隊長用って……知っての通り食堂は閉まってるし、出前なんかも特にないよ」

「言ってくれれば作ってくるのに……もうっ、誠兄さんったら!」

 

 そう言って、さくらは脇に置かれているバスケットを握りしめた。

 

「ああ、さくらはいつも自分で作っているのか」

「アタシとあざみの分もな。本当はクラリスの分も作りたいらしいけど」

「えぇ……クラリスはもう用意していると言って受け取ってくれないんですよね。ってそうじゃなくて誠兄さん! じゃあ今日はあてはないんですね」

「あ、ああ」

 

 さくらの妙な迫力に気圧された。

 

「すぐに出せるもの作ってきますからちょっと待っていてください。初穂、後をお願いね」

「ん、おう。分かった」

 

 慣れたように初穂が頷いた。さくらが足早に去って行く様を見届けると、こちらを見やってきた。

 

「ま、諦めて駄弁って待ってようぜ、隊長」

「……そうだな」

 

 考えてみれば、俺と初穂に接点はないが、さくらを通じた幼なじみ同士という共通点がある。彼女の世話焼きな一面を嫌というほど知っている同志として、何となく分かり合えたような雰囲気になった。

 

「あいつさ、普段はああだけど結構無茶するんだよな」

 

 初穂が零すように言った。

 

「ああ、俺も気をつけるから初穂も気に掛けてくれ」

「監視が二重になるってことか。あいつも災難だな」

 

 そう言って、にやりと笑った。まるで悪巧みするかのように俺も笑みを浮かべた。そうして互いに視線を交わすと、初穂は話題を変えるように視線を切った。

 

「そういや隊長」

「ん?」

「隊長から見て、アタシってどうなんだ?」

 

 ベンチに深く腰掛け、背もたれに肩を回しながら青空を見上げつつ、初穂が呟くように言った。

 

「……単純な力ならお前が最強だな」

「はっ、力だけかよ」

「答えたくないなら聞かなかったことにしてくれていいが……なあ初穂。お前、さくらに勝ちたいのか?」

 

 訓練中、どうにもさくらへ張り合おうとする傾向が見て取れた。それ自体は良い意味でも悪い意味でもモチベーションにはなりえるので、俺は様子見を決め込んでいた。なので別に今は聞く気はなかったのだが、初穂自身から切り込んでくるようなら別だ。こういう風に自然に吐き出せるようならむしろ僥倖と言える。

 

「いや、別に?」

「ありゃそうなのか」

 

 内心、ずっこける俺。

 

「だってあいつやたらとつえー剣術の師匠に師事してから強くなりすぎだし」

「ほう。俺と幼馴染みやっていた頃より後の話だな。そうか、立ち居振る舞いから”使える”と見込んでいたが、さくらはそこまで強くなっているのか」

「あ、でも喧嘩なら負けないけどな」

「そこだな。初穂は力の使い方が雑だが思い切りがいい。だから真剣に殴り合いをすると強い。そこが強みだが弱みでもある。俺もガキ同士の喧嘩には多少嗜みがあるが、ああいうのって何だかんだでインターバルが多いだろう?」

「ああ……まあぶっちゃけそうだな」

「待ったが効かない相手にそれは致命的だ。戦場では細く長く集中力を切らさないコツを掴むのが大事だと思っている」

「なるほどねえ。何だよすげーよく見てるんだな、隊長って」

「当たり前だろ、隊長職を何だと思っているんだ」

 

 そう言って苦笑する俺を、面白そうに見やる初穂。

 

「……お腹すいた」

 

 そこへあざみがやってきた。どうやら体内時計は正確らしい。俺の腕時計は丁度正午を指していた。

 

「あざみ、お前もさくらの弁当組か」

「うん」

「毎日?」

「毎日」

「しっかり餌付けされてるなぁ」

「アタシもな」

「……ちょっとだけ……毎回は悪いかなと思って一回断ったことがある。けど、その時にはさくらが怒った」

「ああ──それは遠慮が透けて見えたからだろうな。その点、クラリスはマジで断っているからさくらも引くんだよ」

 

 初穂がそう言いながら自分で自分の言葉にうんうんと頷く。

 

「そう。食べない方が怒る」

「確かに。さくらは昔からそういうところあるよな」

 

 俺も深く頷いた。

 

 

   ***

 

 

 程なくして、さくらが盆に食事を載せて戻ってきた。サンドイッチに似ているが表面がこんがりと焼かれている。聞くとホットサンドというものらしい。何ともハイカラな料理だ。過去の記憶の中ではレパートリーは完全に和食中心だったはずだが、さくらもあれから格段に進化しているようだった。

 

「中庭で温かい物が食べられるとは思ってもみなかったよ」

 

 頬張りながらそう言うと、さくらが嬉しそうにはにかんだ。

 

「ところでさっき初穂から聞いたんだが、さくらは本格的に剣術を修めているんだよな」

 

 一応資料でも把握済みではあるが。

 

「ええ。と言っても師匠が創始者で門下生も私しかいないような流派なので、ほぼ我流といって良いかもしれませんが。師匠はあくまで護身術だと言っていて、名前すらありませんしね」

「そりゃ我流だわなぁ。あの流派、全然お行儀良くないし」

 

 初穂がケケケと笑った。

 

「独立系の流派か。興味があるな。そういうことならさくら。腹ごなしに剣を交えてみないか」

「えぇっと、ここでですか?」

「ああ、中庭ならちょっと体を動かすのにうってつけだろ?」

 

 さくらの今の腕を確かめておきたいというのと、食べた直後だから動けませんでは話にならないので、あえてこのタイミングで抜き打ちに仕掛けてみることにした。

 

「……そうですね。私からもお願いしたいです。実はちょっと手合わせしてみたいと思っていました」

「あ、しまったな。木剣って帝劇に置いてあるか?」

「ええ、それなら私がいつも型稽古で使っているので何本か──」

「取ってきた」

「うおぉっ」

 

 俺の背後に、木剣を二本携えたあざみが立っていた。

 

「……偉い?」

「ありがとう、あざみちゃんっ」

 

 さくらが抱きつく。

 

「いつもの場所に置いてあるなら早いと思って」

 

 自分が取りに行った方がってことか。なるほど。確かに心臓が止まるかと思ったぐらいには速い。

 

「よし、じゃあやろうかさくら」

「はい、よろしくお願いします。神山さん」

 

 そうして、互いに木剣を構えあうと、中庭はいっぱしの道場に様変わりした。

 

 ──やはり、隙がない。普段から剣士としての常在戦場感を薄く纏っていたが、剣を構えるとそれが剥き出しになる。それも、かなり高いレベルでまとまっている。これは油断するとこちらが足下をすくわれるな。

 

「はあっ」

 

 真正面から素直な打ちおろし。小細工を弄しない一撃で見極める!

 

 その軌跡をさくらは刃筋を滑らすようにしていなした。

 

 まずい。胴ががら空きだ。さくらは、その滑らせる動作をまるで自身の抜刀術であるかのように鞘走りに変換させ、流れるような動きで胴を薙いできた。

 

 俺はあえて勢いそのまま走り抜けた。さくらの木剣が空を切る。

 

「──っ。さすがですね神山さん。今、斬られていましたよね? 私」

「ああ、腕を上げたなさくら。そこまで分かっているのであれば、俺との力量差はほぼないと言えるだろう」

 

 韜晦ではない。その証拠に、俺の頬を冷や汗が伝った。

 

「そういう搦め手を使ってくるとはな……確かに初穂が言うようにお行儀の良い道場剣術とは一味違うようだ」

「ふふっ。師匠が喜びそうな言葉です」

 

 互いに面白くなってきたとばかりに木剣を構え直す。木剣をぶつけ合う音が幾度も響き渡る。

 

 そうして、この日の昼の休憩時間は、中庭に費やされた。

 

 

   ***

 

 

 帝都域洋上。艦隊を率いている旗艦空母の一角を間借りしている部隊がいた。彼らの名前は上海華撃団。世界華撃団連盟の働きかけによって成立した各国間の対降魔同盟によって、帝都へと出向している精鋭部隊である。機上待機状態の霊子戦闘機・王龍が甲板上で静かに燃えるように佇む。まるで、その火照りを潮風で冷ましているかのようだった。

 

「シャオロン。そろそろだよ」

 

 搭乗員のホワン・ユイが、もう一人の搭乗員ヤン・シャオロンへ無線通信で声を掛けた。

 

「ああ。今度こそケリをつけないとな」

 

 そう言うと、シャオロンは瞑目しながら機体に気を巡らせた。コンディションは完璧だ。そう確信した。

 

「この前は最悪だったよね。慣れない海戦で機体のセッティングめちゃくちゃだったし」

「そこに文句を言っても仕方ないだろ。海戦のノウハウなんて俺たちにはなかったんだから」

「それはまあそうだけど」

「……正直、あの時は助けられたな」

「ん?」

「摩利支天の艦長だよ」

「ああ、あのサムライ?」

「俺たちを下げるために自分から敵中に突っ込んでいった船だ。あれの何が凄まじいかって、特攻じゃなくて敵中突破することで降魔を引き付けながら、自分も脱出してみせるという神業をやってのけてしまったところだな」

「確かに。あれはちょっと格好良すぎたかも」

「だからこそ今日、それを倍にして返してやらないとな」

「それには賛成。恩も怨もそれぞれ倍返ししてやらないとね」

「それだ。帝国海軍のサムライに借りを返して、降魔にはツケを払わせる」

 

 好戦的な笑みを浮かべるシャオロンとユイ。その瞳に映るは、洋上を低空飛行する降魔の群れ。

 

『ガガッ──。作戦発動六十秒前…………五十秒前…………三十秒前』

 

『第二次ガ号作戦──開始!』

 

 

   ***

 

 

 次の日。午前課が終わったので、軽く書類仕事を済ませてから見回りをしていると調理室に人の気配があることに気づいた。さくらが使っているのだろうかと思って覗いてみると、そこには知らない中年女性がいた。彼女が声を掛けてきた。

 

「おや、ここの人ですか?」

 

 割烹着を着ているので調理員なのだろうが、夕方に来るスタッフとはまた違う人だった。

 

「あ、はい。もぎりの神山誠十郎と申します」

 

 一瞬敬礼をしそうになってしまうが、裏の顔を見せて良いのか迷った末に無難な方で名乗りを済ませてしまうことにした。

 

「まあ、あなたが支配人さんの言っていた──。今日からお世話になりますのでよろしくお願いしますね」

「今日から──ということは、食堂が昼から開くようになるんですか」

「ええ、今日から提供させて頂きます。是非もぎりさんもお越しください」

「それは楽しみですね。……あ、いや。さくらの弁当があったか……。すみません、今日は都合が合わないかと思います」

「そうなんですか。残念ですけど、いつでも待ってますね」

「はい」

 

 そこでふと気づいた。よく考えると今日開いてもここに昼食を食べに来る人はいるのか? と。隊員は弁当かサンドイッチだし……すみれさんとカオルさん、あとはこまちさんがいたか。ただ、すみれさんとカオルさんは午後課になるまで帝劇にいることがあまりないようだし、微妙なところだな。ある程度可能性が高いのはこまちさん一人だけか……。

 

「すみません。もしかしたら今日はあまり人が来ないかも知れません」

「あれ、そうなのですか? 支配人さんからは忙しくなるので頑張ってねと言われていたのですが」

「忙しく、ですか?」

 

 はて、そんな要素があっただろうか。帝劇の一般開放はまだのはずだしなあ。

 

「おばちゃ~ん。すぐ食べられる物ある? 完徹してるのに朝から何も食ってなくてさあ」

 

 そう言って調理室に入ってきた男を俺は知っている。司馬令士。兵学校時代に知り合い、機関学校へ行った俺の同期。メカニックの駿才がそこにいた。

 

「令士」

「ん? おお! 誠十郎じゃないか」

 

 俺に気づいた令士が片手を上げて笑いかけてきた。

 

「お前、今は帝劇勤務だろ? こんな昼間に油を売っていて良いのか」

 

 思わずため息が漏れた。

 

「これも仕事の一環だよ。お前こそ何でここにいる」

「整備だよ整備。あ、当然俺が班長な。何かあるんだったら俺に言えよ」

 

 そう言って肩をバンバン叩いてくる。

 

「ま、おかげで忙しくて死にそうなんだが」

「そんなにか?」

「そんなにだ」

 

 真顔で即答だった。

 

「旧世代の霊子甲冑は専門外だからなあ。そこが逆に燃える部分ではあるんだが、いかんせんストックパーツの寄せ集めで無理くり組み上げた機体だから、これがまあ~扱いづらい」

 

 そう言いながらも、その顔はもの凄く嬉しそうだった。

 

「……ああ」

 

 こういうところ、全然変わらないよな、こいつ。

 

 令士が席にどかりと座った。すると調理員の女性が納得したように手を叩く。

 

「ああ、なるほど。支配人さんが言っていたのは整備員さんたちのことだったんですね」

「今日からお世話になるね、おばちゃん。大食いで早食いの野郎共だらけだからちょーっとばかしキツイかもだけど……そこはごめんっ」

 

 パンッと手を合わせて拝むように頭を下げる令士。

 

「いいのよぉ。おばちゃんは量を捌くの慣れてるからねえ」

 

 調理員の女性がコロコロと笑った。

 

「なるほど。それなりに大所帯で来てくれたみたいだな」

「おう。整備に関しては俺に任せとけ。あって”当たり前”にしてやるぜ?」

「……ああ、信頼しているよ」

 

 性格はお調子者に見えるが仕事は手堅い男だ。信頼しているとも。

 

「あ。班長だけ抜け駆けしてる!」

「ゲッ」

 

 そこへ、若い整備員が乱入してきた。令士がしまったという顔をしたが、それでも席から動く気配はない。もはや昼食を食べる口になっているのだろう。

 

 ドタバタと俄に活気づく帝劇。火が灯ったような感覚に、俺はしばし身を委ねた。




第二話・了
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