日本国召喚 ~新世界の新秩序~ 作:バナナ
ロデニウス連邦 −ジン・ハーク−
中央歴1669年7月26日 午前8時
「確か、もうそろそろ日本国の使節団が来訪する頃か?」
「あぁ、予定ではあと数分で着く。」
「日本国って確かあの爆撃機を飛ばしてきた国家だろ?そんな国の船をこの首都と目前の港に招いていいのか?」
「確かにそれは同感だ。各国の技術は向上する一方、モラルは下がり続けている。現に第一文明圏でも未だに前近代的な砲艦外交が続いている。」
「やはり少佐、そのような国家をこの港に招くというのは少し愚策のようにも...」
「心配になる気持ちもわかる。だが、そんな心を乱していたら職務を全うすることなんか出来っこないぞ。我々の仕事は国防だ。」
「事が発生した時にそれを考えればいいさ。」
「...たしかにそれもそうだな。私は私の職務をまっとうする。」
...
「しかし少佐。やはり心はそう簡単に落ち着くものではないな。」
「無理やり沈めろ。先程も行った通り心が...」
「ルーク少佐、突然申し訳ございません。国王陛下から直々にジン・ハーク守備隊から伝令が...」
「内容は?」
「.......ジン・ハーク港に日本国の使節団が到着次第、捕縛しろと...」
「陛下は頭でも打ったのか?」
「残念ながら陛下は正気です。」
「日本国は非常に進んだ文明を持つ国だと聞いたが、それを陛下は理解しているのか?」
「陛下には直接前線兵の報告は届きません。上に報告されるにつれて原型はどんどん崩れていき、陛下の耳に入るのは曲解と都合の良い解釈だらけの報告だけです。」
「...」
「して、どうするんだ少佐?
「それも視野に入れるべきだろう。」
「...少佐、あんた軍規だけは何があっても守っていたじゃないか。それこそ10年前の防衛軍副参謀総長がクーデターを企てた際も[ロウリア軍人は裏切らない]って一蹴してたじゃないか。」
「内容が内容だ。私のキャリアを守るために国と生涯を終わらせてしまったら意味がない。」
「...そうだな。...少佐、どうやら来たらしいぞ、日本国が」
「噂にも聞いていたがやはり大きいな...一番小さい船でもシ・ノメノ級駆逐艦を超えるぞ。」
「あいつらを敵に回すのは気が引けるな。彼らの常識だと白旗は降伏だったな、念のため準備しておこうか」
中央歴1669年7月26日午前8時17分 日本国使節団
「見えてきたな、あれがジン・ハーク港か」
「あれが...周りの建物を見るに技術力は...1920年代初頭か?」
「いや、もう少し劣っているんじゃないか?あの
「あれは19世紀...いや、20世紀初頭?のイギリス艦艇に見えますね。しかし、大きさは東雲型に良く似ています。少なくとも我々の脅威にはなり得ないかと。」
「ありがとう、佐藤。港にも丁度ついた、下船するぞ」
「遠くからはるばる、このジン・ハークまでようこそ。私はエストと申します。お疲れでしょう、速やかにご案内をいたします。」
「感謝申し上げます、エストさん。」
「ではこちらに。私について来てください。」
「わかりました。」
(なぁ、この国どう思う?)
(対応は丁寧だ。しかし、何か胸騒ぎがする。あの軍人なんかすごい形相でこっちを睨んでるぞ。)
(...本当にすごい形相だな...)
「それにしても、この町並みは素晴らしいですね。函館を思い出しますよ。」
「確かに似ているが...赤レンガ倉庫なんか横浜にもあるだろ?」
「それもそうですね。...そうだ、エストさん。あの船は何という名前で?」
「あれはシ・ノメノ級駆逐艦です。一番艦は6ヶ月前に就役し、二番艦は2ヶ月前にちょうどここで進水式を行いました。」
「なるほど...美しい船体ですね...」
「何を仰られますか。あなた達が乗ってきた船の護衛のほうが美しいと想いますよ。」
「お褒めいただきありがたい限りです。」
「そういえばエストさん、一つ質問なのですが」
「なんでしょう?国家機密に触れることは発言できませんが出来る限り質問に答えますよ。」
「ありがたい限りです。最近、我々はこの海域に転移したばっかでこの...」
「...転移?ですか...?」
「えぇ、二週間ほど前、空間移動によりこの世界に我々が転移しました。」
「...」
「...確かに、それを聞いただけじゃオカルティズムだのなんだの思いますよね。」
「いえいえそんな...すいません、話をずらしてしまって。それで、質問とは?」
「先ほど発言した通り、我々は空間移動が発生してから二週間ほどしか経過していません。
現時点では、ロデニウス連邦以外の国家について我々は存じ上げず、周辺国家についての情報が欲しいのです。
特にここから北にある大陸について詳しくお聞き願いたいのですが...」
「なるほど、わかりました。まずここから北にある大陸を我々はフィルアデス大陸と呼称しています。中央世界や第三文明圏などの枠組みはご存知ですか?」
「えぇ。この前の訪問でそのことについては耳に。」
「わかりました。フィルアデス大陸には第三文明圏が存在し、南部には世界屈指の大国であるパーパルディア皇国が存在します。」
「なるほど。彼らの政治体系はどのようなもので?」
「皇国は絶対君主制を掲げており、皇帝が議会の実権を握っている。...はずでした。」
「はずとは?」
「近年、皇国首相にカイオスという人物が就任しました。」
「それからはカイオスによる独裁が始まり、皇帝ルディアス等の発言力は日々日々減っています。カイオスは1639年以降、急速な近代化と周辺諸国の関係改善を行い、幾度となく皇国を守ってきました。彼は民衆から熱狂的な支持を得ています。」
「なるほど...貴国にとって皇国は話が通じる相手ですか?」
「数年前は偵察機を毎日のように送っていましたが、カイオスが首相に就任してからは少しずつ数を減らし、最近では半年に一回ほどの頻度になりました。現在、ロデニウス連邦は1640年代に踏み倒した借金の支払いを再度開始する代わりに技術支援を行うなどの協議を行っている最中です。」
カイオス、という人間は穏健派なのだろうか。十分、話し合えばわかる相手であろう。
「理解しました。これから我が国は忙しくなりそうです...?」
(おい、取り囲まれてないか?)
「ロデニウス連邦防衛軍だ。手を上げろ。」
「...貴国ではこれが常識なのですね。エストさん。」
「...本当に申し訳ございません。」
「して、その連邦防衛軍は我々をどうするつもりで?」
「聡明なる国王陛下は我々に貴様ら
「...異世界に来てすぐにこれか。」
「そんなの受け入れることが出来るわけ...!」
「佐藤、落ち着け。ここで死んでどうするつもりだ?大人しく従ったほうがいい。」
「くっ...」
日本国 −東京都−
中央歴1669年7月26日午前8時57分
「まさかこんな事態になるなんてな...」
朝田はため息を付いた。無理もない、使節団が捕縛されるなんて前代未聞のことだ。
旧世界でもどれだけ汚職まみれだろうと弾圧が酷かろうとも外交の場では対等に接することが常識だった。
新世界でも相手国を尊重するというのは常識だと認識していたが、間違いであったようだ。
「75年ぶりの戦争を行うことになるのは勘弁だぞ。」
「しかし、彼らはもう我々に最後通牒を送ってきている。戦争は回避できないぞ。」
「確か初訪問時は友好的に接してくれていたはずでは?」
転移からちょうど12時間後、南方に国家が存在することを把握した日本国は秘密裏にロデニウス連邦と接触していた。
接触時は随分と温厚で、媚びへつらう目をしていたと聞いている。
...噂の”皇国”の人間と間違えたのだろうか?
「最後通牒には1行目から「聡明なる国王陛下は」と書いていたからな。きっと国王の強権で行われたのだろう。」
「これから忙しくなるな...」
「そうだな...しかし、逆にチャンスとも捉えられる。」
「...クワ・トイネ地域の穀物とクイラ地域の原油か。」
「あぁ、そうだ。これで我が国の食料事情は恒久的に解決する。」
朝田は苦虫を噛み潰したような顔で言う。
「...人類が侵略戦争を行わなくなってからもう1世紀は立ちます。それに平和主義を唱える我々が...侵略など...」
「それはこの1世紀で侵略戦争の費用対効果が合わなくなったからだろう?もしこの世界がロデニウス程度の文明の国家ばっかだったら...」
「...」
「それに我が国は2016年に
2016年5月12日、台湾海峡にて人民解放軍海軍が出港。台湾島を包囲し、基隆沖海域にミサイルを撃ち込むなどの威嚇行為を行った。米国は台湾海峡に第7艦隊を派遣。
人民解放軍海軍が5月29日に撤退し、
米国では中華脅威論が唱えられ、日本は反撃能力の保有や兵器の輸出を許可するなどの憲法改正が行われた。
これにより、日本は長距離弾道ミサイルや原子爆弾の研究を再開したのだ。
...もっとも、PKOの活動に意欲的に協力するためという苦しい言い訳で憲法改正を行ったことにより、当時の政権は崩壊してしまったが。
中央歴1669年7月28日、日本国東京都にて総理が記者会見を開いた。
この頃、日本国内閣府は隠匿していた空間移動に関する情報の公開を行っており、メディアや国民はこの記者会見の内容に興味を引いている。
...日本各地のテレビに総理の姿が映る。
総理は口を開いた。
「皆様方、そして列島に住む1億2000万人の国民の皆様。現在、我が国は窮地に立たされています。我が国の
会場はざわめく。
スクープだと必死にフラッシュを炊く者。
自国の置かれた状況を理解できない者。
さらなる説明を求める者。
そして、戦争を憂う者。
「日本は平和を愛する国...
そのような誓いを蔑ろにする私を許してほしい。」
会場がさらにざわめく。しかし、総理はそれでも口を動かす。
「あの時、誓った国是は確実に我々に繁栄をもたらしました。」
「私は国防を米国に委託することで、軍事費の大幅削減に成功し、投資や資金援助にその分の資金を回すことが可能であったからこそ、今の日本があると考えています。」
「しかし、こんな状況になってしまっては自衛力を持たないということは国の滅亡を容認することになる。」
「私はここに宣言します。」
「日本国使節団救出のため、ロデニウス連邦に対し自衛隊派遣を行うことを決定したと!」
「我が国は非常に危機的な状況に置かれています!この新世界で唯一接触を行ったロデニウス連邦に敵対行動を取られ!食料備蓄は1年に満たない!」
「我々は日本を日本たらしめるため、歩んでいくしかないのです!」
「決してこの1億2000万人の国民の皆様に罪の十字架を背負わせるつもりはありません。この私1人がすべての罪を背負い、そして死んでいこうではありませんか!」
総理は礼を行い、壇上を降りる。
会場は静まり返った。
しかしすぐ散発的に拍手が鳴り響き、その拍手は共鳴する。
感動で涙を流す人間もいれば、無念、雪辱、悲観、憎悪で涙を流す人間もいた。
頭に血管が浮き出ている人間もいれば、平静を装う人間もいた。
やがて会場全体が拍手に満ちた時、その場に居た人間、テレビを閲覧していた国民は理解した。
この瞬間から、新世界で日本が主権を勝ち取るまで、周辺諸国との奮闘は決して終わらないと。
食料備蓄 残り249日
やはり、小説というのは難しいものですね....
出来る限りこれから見やすくなるよう努力いたします。