日本国召喚 ~新世界の新秩序~ 作:バナナ
中央歴1669年8月4日午前11時
北クワ・トイネ沖海戦から6日
「あの海戦からもう1週間経ったのか。」
「時間の流れは早いな...」
「あの...トラス中尉殿。」
「うん?なんだいチェル少尉。」
「どうやら上層部直々の命で私とトラス中尉が連邦防衛省に召集されており...」
「なんと.......何か問題行動を起こした記憶はないが...」
上層部からの直接の招集......基本的に反乱を行ったものと関係が深い人物や目に余る問題行動を行ったもの等がよく行われる。
問題行動を起こしたつもりはない.....昇進?まさかな....
とりあえず何か弁明を考えておこう...
「...うん?」
「おお、ケイレス大尉殿ではないか。」
「はい?...!久しぶりではないかトラス中尉!」
「戦争発生時のときにあったばっかだろう。」
「2週間も立ってるんだ、久しぶりだろう。」
「それもそうか...少佐殿とは一緒じゃないのか?」
「生憎少佐は用事があるようでな。」
ケイレス大尉。1550年代に発生した副参謀総長反乱時には迅速に守備隊を動かし、都市部の被害を最小限に抑えたロデニウス屈指の戦術家である。
「紹介しよう、この人がチェル少尉だ。」
「はじめまして、チェルと申します。階級は中尉殿が言った通り少尉です。以後お見知りおきを。」
「そんなかしこまる必要はない。んで、トラス。君は何しにここまで?」
「どうやら防衛省から召集されたようでな...」
ケイレス大尉は驚愕の表情を見せた。
「そうか、ついにトラス中尉の横領が発覚したかい?」
「してねぇよ。特に問題行動を起こしたつもりはないんだがな。」
「じゃあなぜ召集されたと思っている。」
「.....わからん。」
「ほらな。防衛省行きのやつなんか大抵横領だ。」
「そんなのした覚えはないがな.....さて、もうそろそろ防衛省か。」
「それじゃ私はここで失礼する。私も用事があるのでね。また会おう。:
「あぁ。」
トラスとチェルが防衛省内に入る。
何度見ても綺羅びやかだ。
まるで宮殿....いや、元々防衛省は宮殿を再利用して作られたんだったな。
装飾品などは粗方皇帝の私物となったそうだが...
「来てくれたか、トラス中尉とチェル少尉。」
「パタジン最高司令官、お久しぶりです。」
「最後にあったのは冬季メル・ハーク演習の時だったか。」
「えぇ。そのはずです。」
「まぁ立ち話も何だ、執務室まで来い。」
『.....はい』
憂鬱な気持ちで執務室に入る。当然であろう、先程発言した通り、ここにまで呼ばれるような人間は問題児しか居ない。
昇進の連絡も最近は最高司令官直々に行うことは少なくなり、そもそも昇進自体が珍しいものになっている。
「さて、トラス中尉とチェル少佐。別に君達を呼んだのは叱責のためじゃない。安心してくれ。」
「わかりました。...腰を掛けても?」
「許可する。さて、本題に入ろう。」
「君達は日本国についてどう思う?」
「報告によればまともなトップを持たない、我が国を知らない蛮族共...と聞いております。」
「えぇ、私も同じく身の程を弁えない蛮族と...」
(予想はしていたが...やはり尉官レベルの階級であっても日本を過小評価している人間は多いな。)
無理もない、軍内部はおろか連邦中で対日プロパガンダが日々流されている。
軍内でも荒唐無稽な戦果報告によりニホン軍の強さなどを理解できていない将軍も珍しくない。
「...そうか。」
パタジンはため息を付きながら話を切り出す。
「君達に見てもらいたいものがある。」
『見てもらいたいものとは?』
「これだ。」
そう言うと、パタジンは鞄からあるものを取り出した。
「それは...投影機ですか?」
「良く知っているな。その通り、これは魔導投影機だ。」
「そんな高等な技術、我が国は保有していましたか?」
「確かパーパルディア皇国から盗んできた技術と聞いた。」
パタジンは投影機を設置し、映像を映し出した。
投影機から映し出された映像には北クワ・トイネ沖海戦の様子が収録されている。
地平線の彼方から飛んでくる砲弾、そしてその命中率は非常に高い。
...彼ら二人の認識を変えるには十分すぎた。
「...ここまで日本国が恐ろしいとは思いませんでした。」
「すいません、私はそこまで恐ろしさがわからなかったのですが...どういうことですか?」
「映像内では敵艦隊との距離は20kmほどと言われているだろう。
我が国の保有する...いや、パーパルディア皇国が保有する火砲のなかで一番射程が長い砲でも、10kmを超えるか超えないかだ。」
「なるほど...私が聞いていた噂とは全然違いますね...」
「そうだな。」
「もう一つ映像がある。それも見てくれ。」
パタジンがそう発言した。投影機から再度映像が流れる。
「...この字はなんと読むのですか?」
「ええと...これは.....[8月3日の天気]...だな。」
パタジンが漢和辞典と日本語教科書を両手持ちしながら言う。
「天気...?それがどうしたのですか...?」
天気予報というのは基本的にどの国家でも行われており、ロデニウスでも当然天気予報は行われていた。
ロデニウスの新聞社の中には新聞に気象情報を載せる企業も存在する。
当然、命中率はお世辞にも高いとは言えない。
「君ならわかるだろう。」
「これは8月2日の日本で流れた映像だが、この映像では「晴れのち曇り」と書かれている。翌日の3日の天気は覚えているか?」
「朝から正午にかけて晴れ、夕方からはくもりでしたが...この程度の予報なら我が国でも行われているでしょう。」
「私も最初そう思った。」
「しかし、彼の国が特異的なのはそこではない。」
「調べた限り、基本的に報道された予報が外れることはなかった。」
「今週中だけでも全ての予報を当てていた。」
「8月1日は雨、2日は晴れ、3日は晴れからくもり、4日はくもり、5日は雨とな。」
「こんなに正確に天気を当てる。列強諸国でも難しいさ。」
正確な天気を当てる...それは軍事行動をする上で欠かせない。
もし敵国に侵攻するとして、その直後に台風が来てしまうなんてことが起きてしまったら、部隊は壊滅的被害を追う危険性がある。
実際にクワ・トイネ侵攻時に台風が南下し、ロウリア軍に襲ったこともあった。
「それと、この映像はまだ終わらん。」
「これを見よ。」
パタジンが映像を一時停止する。
日本人ならば誰もがただのグルメ紹介とでも思うであろう。しかし彼らが注目したのはその後ろである。
「...この都市...どれだけ発展しているのでしょう....過去見たムーのオハタイト以上の高層ビルが.....」
「...これは私でもわかります。この高さのビルは多少の風が発生するだけで大きく揺れますが...特に崩れそうな様子もありませんね。」
「...」
「....パタジン最高司令官。正直に申しますと、私は司令官が何を私たちに伝えたいかがわかりません。」
「簡単な話だ。私はもうそろそろクーデターを起こす。マオスもついてくるぞ。」
『は!?』
パタジンは死罪に値する事を堂々と発言した。
それに宰相であるマオスもクーデター側で介入するという発言は一層彼らを混乱させた。
「パタジン最高司令官!反乱を行うという発言でさえ反逆罪として死罪にされかねませんよ!?」
「それを覚悟の上で私は発言した。どうせ君達はこの発言を上に密告はしないだろう?」
「...確かに、私は余計なことに首を突っ込むような性格ではないですが...」
「それでも他者に聞かれていたらどうするんですか?」
「安心しろ。現在防衛省内に盗聴器は一切仕掛けられていない。それに今防衛省内には我々とクーデター賛成派しかいない。」
「反対派は数時間前まで数人居たが....彼らはもうここには居ないな。」
「そう...ですか。」
ロデニウス史において軍内にて粛清が行われた、というのはさほど珍しいほどではない。
しかし、異質だったのは反乱の疑いがある者を罰するのではなく反乱を否定する者を罰する、という物であったからだ。
「しかし、クーデターを行えば数多くの臣民の命が失われますが...」
「そこは私も割り切った。当然、私は1人だって殺したくない。」
「だが、この絶望的な戦況をひっくり返すにはその程度の犠牲は許容せねばならない。」
「君ならわかるだろう?」
トラスは痛いほど理解していた。
以前、副参謀総長が蜂起を行った時、元々は反乱勢力が優勢であった。
しかし、彼らは臣民の犠牲を拒み、その代償として都市部で敗北を喫した。
それ以降、反乱勢力は劣勢に立たされることとなった。
「.....それでも、私は決断することが出来ません。」
「...わかった。来たるべきが来るまでに決断を終わらせてくれ。」
「用はこれで以上だ。」
二人は防衛省を出る。
「私はまだ驚愕していますよ...」
「私もだ。まさかクーデターに参加しろと防衛省で言われるとは思わなかった。」
「...中尉殿はともかく、私のような新参者にまで言ったのはなぜでしょうか...」
「信頼を置けていたんだろう。それに君は入隊してからたった数年で少尉まで上がった天才だ、不思議なことなんか無いだろう。」
チェル少尉はまだ首を傾げている。
「だとしても...」
「答えはまた後で聞けばいい。今はそれより目の前のことを見つめよう。」
「えぇ...そうですね。」
中央歴1669年8月7日午後2時
「幕僚長、作戦説明を頼む。」
現在の日本国首脳部や幕僚長は非常に淡白で無機質だ。
彼らは1億2000万の国民を守るため、敵国民に対する一切の感情を捨てた。
「それではこれよりロデニウス大陸への上陸作戦「大陸の夜明け作戦」についての説明を開始します。」
「今作戦では海自からは第5護衛隊を、陸自からは第8師団及びその隷下にある西部方面戦車隊を派遣します」
「現在、ロデニウス大陸北東部にはロデニウス連邦が対列強戦に備えて建設していた軍事基地や沿岸砲や多数存在しています。」
「その為、実行日の正午にビラを撒き、周辺の民間人を撤退させてからミサイル攻撃を行います。」
しかし本能か、掟を破る事自体か、それとも此れからの国際的な外交の為かは知り得ないが、非戦闘民に対しての慈悲はまだ残っていた。
「敵基地の壊滅が確認され次第、補給港として使用できるマイ・ハークに上陸します。」
「その後、西部方面戦車隊を使用し戦線を突破。クワ・トイネの農業地帯やクイラの油田確保のため動きます。」
「なるほど。しかし、現在の我が国に本土からロデニウス大陸まで飛べるミサイルはないだろう。航空機も航続距離が足りない
ならば必然的に艦対地ミサイルを使用することになるが...現在の艦対地ミサイルの保有数は?」
「我が国は2017年にアメリカからの兵器供与を受け、トマホーク巡航ミサイルを520発保有しています。」
「敵軍事基地を焼け野原にするには十分な数です。」
「そうか、わかった。作戦を承認する。」
「...そういえば幕僚長、我々は今国産艦対地ミサイルの開発に向けて動いているんだが...」
中央歴1669年8月9日午前11時
現在、ロデニウス大陸東部には6つほどの軍事拠点があり、全て合計すれば12万人以上が待機している。
その中にはロデニウス連邦最新兵器である「
「何度嗅いでもこの潮の匂いには飽きないな。」
「そうか?最近はこの匂いを嗅ぎすぎて鼻が痛くなってきたぞ。」
今のロデニウス大陸東部では異変は発生しておらず、現時点では特に敵からの爆撃も受けていない状況であった。
「潮の匂いで鼻を痛めるとは、そんな人間がいるとは思わなかった。」
「こっちも潮の匂いを一日中、しかもそれを3週間ほど続けて吸っているのに...お前こそよく鼻の痛みを感じないな」
また、ニホン海軍も度々発見される程度であり、哨戒行動以外の軍事行動は見られていなかった。
しかし5日前、突然空からビラが降ってきた。
「お前の鼻が軟弱すぎるだけだ。...しかし、なかなかニホンの攻撃が来ないな」
「相手も平和を望んでいるんじゃないか?」
「それはどの国だってそうだろう。ニホンだけの話じゃない。」
「たしかにそうだが...この前ニホンのビラ撒きがあっただろう?」
二人は首を傾げる。
「それじゃあなんでニホンは攻撃して来ないと思...」
突然空からブザー音が鳴る。
『東部地区 警戒警報!11時9分、敵航空団はクワ・トイネ海を経て東部地区に進んでおります!11時32分ごろ、東部地区へ来るものと思われ...」
「なんだあの光の矢は!?」
「バカな!警報だと32分に...」
「...まるでロケットだな...」
「ロケットなんて命中率も射程もお粗末な...」
「大陸の夜明け作戦」第一段階が開始された。
大陸東部の軍事基地は同時に破壊され、まさに魑魅魍魎と入れる光景が広がっていた。
声は入り乱れ、誰が何を発言しているのかさえわかりはしなかった。
「救護班を速くこちらに!クソッやることが多すぎる!」
「こちら西部マイ・ハーク基地!突然空からロケット攻撃を...」
「クソックソックソ!左足がもう無ぇ!」
「担架もってこい!あるもの全部だ!」
「大丈夫か!?早うガーゼもって来い!」
「クソ!包帯が足りねぇ!」
「救護は俺がやる!司令部にさっさとクナイラ基地は消滅したと伝えろ!」
「俺が電信を行って...」
「お前の電信は遅すぎる!どけ!俺がやるからお前はさっさと消毒液でもガーゼでも持ってこい!」
「...わかりました!倉庫は...!」
「ニホンめ...ゲレル基地も壊滅したぞ!」
「死ぬんじゃねぇ!このあたりに輸血できる病院はあったか!?」
「こっから西2kmにある!さっさと車飛ばすから乗れ!」
「クソ...見張りが居たとこには肉片しかねぇ...」
「こちらタール基地!敵航空団の攻撃により壊滅!」
「誰か!人工呼吸器もって来い!」
「クソが...報告する暇すら無い!」
「俺に貴重な包帯を使うな。下半身はもう無いのに包帯使って治るとでも思ってるのか?」
「だが...!」
「みっ右...みぎう...右腕が...!?」
「しっかりしろ!包帯は腐るほどあるから待て!」
「クワ・トイネ基地すら破壊されるとは...」
「死者11名!負傷者39名を確認!そのうち15名が重症者だ!さっさと運ぶぞ!」
ロデニウス各地の軍事基地では火の粉が舞い、砂埃が立ち上がり、地面は朱色に広がって行った。
地獄という言葉ですら生ぬるい。現地将校は阿鼻叫喚を見ることになるとは思わなかっただろう。
一部の都市では不足した医療品を賄うため軍が守るべき国土を荒らし、薬屋や民間人の家から包帯やタオルを奪い取った。
「大陸の夜明け作戦」第一フェーズは大成功で終わった。
「まさか...ここまでとは...」
「急にあらゆる基地から報告が来て急に止まったと思えば..........まさか...ニホン軍がそこまで...」
パタジンは後悔していた。彼は自分では連邦内で唯一日本の脅威度を正確に認知している人間だと思っていた。
そのような慢心と誤算によりこのような事態を招いた。
...当然、彼は本土攻撃程度は許容していた。
反乱を成功させるためには多少の悲劇が伴うことは彼が一番理解していた。
しかし、まさかニホンがこれほどの化物とは考えていなかった。
「幾らなんでも技術格差が広すぎる...」
「最初から敗北は想定していたが........これじゃ数百万の臣民が死んでしまうぞ...
「作戦の見直しは急務だ...」
食料備蓄 残り230日
石油備蓄 残り61日
そういえばしてなかったので人物紹介
ロデニウス連邦軍
ルーク少佐
ルーク少佐。第二話から登場。ロデニウス軍所属でクーデター賛成派。基本的にケイレス大尉と行動をともにしている。43歳男性。時空遅延式魔法は使用していない。
ケイレス大尉
ケイレス大尉。第二話から登場。ロデニウス軍所属でクーデター賛成派。基本的にルーク少佐と行動をともにしている。43歳男性。時空遅延式魔法は使用していない。
トラス中尉
トラス中尉。第四話から登場。ロデニウス軍所属でクーデター懐疑派。基本的に1人で行動している。39歳男性。時空遅延式魔法は使用していない。
チェル少尉
チェル少尉。第四話から登場。ロデニウス軍所属でクーデター懐疑派。基本的に1人で行動するが、トラス中尉と行動をともにすることが多い。24歳女性。時空遅延式魔法は使用していない。
元々構造設計士志望だった。
日本国使節団
佐藤
佐藤。日本の外交官。軍事知識は豊富だが少々気が早い。
現在はロデニウスに捕縛されている。
...思ったんですが、基本的に会話ばっかりですね。
しかも民間人の会話とかほぼほぼ無いという。
文豪目指して頑張っていきます