アナキンの親友になって色々あって旅に出た英雄の話 作:紅乃 晴@小説アカ
パルパティーンの息子の捜索。
それが当面の俺たちの目的となったわけだが、その目的は思わぬ形で達することができた。
ジオノーシスを抜けて俺たちが向かったのはインターギャラクティック銀行グループの支店がある星であった。
漆黒の宇宙を切り裂くようにハイパースペースから飛び出したサウザンド・アドベンチャー号の正面には、白と青の光に彩られた巨大な都市惑星が広がっていた。無数の航路標識が空間上に投影され、貨物船や旅客船、金融機関の専用シャトルが絶え間なく行き交っている。その様子はまるで銀河全体の血流が、この星へと集まっているかのようだった。
インターギャラクティック銀行グループは銀河共和国衰退期に最も大きな影響力を有した商業ギルドのひとつであり、クローン戦争では独立星系連合に属し、頭取は首脳部である分離主義評議会にも属していたが、ムスタファーにシディアス卿に命じられてやってきたアナキンによって評議会メンバーは皆殺しにされ、頭取もその被害にあった。
共和国と分離主義勢力の戦いは、表向きこそ理念や政治体制の衝突であったが、その裏側では常に莫大な資金が動いていた。そして、その資金の流れを事実上掌握していたのが、この銀行グループである。惑星ひとつの経済を揺るがす融資すら容易に行い、時には国家すらも債務によって支配下に置く。銀河中の政治家や企業家、果ては犯罪組織まで、この巨大な金融網とは無縁ではいられなかった。
その後、銀河帝国創設後は膨大であった資金は帝国軍管轄下に置かれたものの、その広大な銀河に広がるネットワークは有効活用され、銀河帝国の通貨であるクレジットもインターギャラクティック銀行グループの有するネットワークで急速に普及した背景があった。
帝国は銀行そのものを完全に解体することはしなかった。いや、できなかったと言うべきだろう。あまりにもその網は広く、あまりにも深く銀河社会へと根を張っていたからだ。帝国が新たな通貨制度を築こうとするなら、結局のところ既存の金融網を利用するのが最も効率的だったのである。結果として、かつて分離主義勢力を支えた巨大銀行は、皮肉にも帝国経済を支える屋台骨の一つへと姿を変えていた。
さて、そんな銀行なのだが、その支店といえど規模は絶大。銀河中の資金の流れを探るには打ってつけの場所でもある。
窓の向こうに見える支店施設は、もはや一企業の建造物というより、一つの都市そのものだった。何百層にも積み重なったビル群が夜空へ向かって伸び、その周囲を警備艇や輸送船が絶え間なく飛び交っている。各階層には数え切れないほどの金融端末とデータ保管庫が存在し、銀河のどこかで今この瞬間に行われている商取引や送金記録が、光の奔流となって集まり続けている。
つまり、誰かが大金を動かせば、そこには必ず痕跡が残る。そして、皇帝の血を引く人物を密かに匿い、逃亡生活を送らせているとなれば、なおさらだ。
幸い、資金は古いクレジットから、こちらの世界で帝国から連邦に移り変わってから発行されたギャラッドも豊富に備わっているので、口座開設や資金運用で立ち寄れば何ら問題はない。
俺たちの船の貨物室には、長い旅路の中で自然と蓄積されていった各時代の通貨が保管されていた。
共和国時代の古いクレジットチップ、帝国時代の高額紙幣、そしてこちらの世界で発行されたギャラッドまで。
どの時代、どの世界に放り込まれても当面は生活に困らないだけの資産が揃っている。
流石に何度も時代や世界を跨いでいると、現地通貨の確保は最優先事項のひとつになるのだ。
それにインターギャラクティック銀行グループは闇金の運用もしている。
事実、俺がフォースの夜明けを目指すノーバディを立ち上げたり、賞金稼ぎであるジャンゴに莫大な資金を渡したのも、この銀行グループの闇金システムを利用したからである。
もちろん、表向きには存在しない口座であり、存在しない送金記録だ。
だが、裏社会の住人や身元を隠したい権力者たちにとって、それは何物にも代えがたい価値を持つ。
借りれば利息はえげつないものだが、巨大な資産を預ける目的で使えばさまざまな優待措置を受けられるし、なにより計上されない資金運用を行うことも可能だ。
言ってしまえば、銀河の表側では存在しない金を動かせるのである。
まともな為政者なら頭を抱え、税務官なら卒倒しかねない仕組みだが、情報を集める側からすれば、これほど便利なものもない。
というわけで手始めに銀行に立ち寄った俺たちは保管していた希少金属を売却。
パルパルとフォースの痕跡を辿っていた時に手にした宝石や貴金属類で、パルパルも「フォースの痕跡にもならないガラクタ」と倉庫へ無造作に放り込んでいたので何ら問題はない。
アナキンはそれをみて目を丸くしていた。
なんならフォース・アカデミーの年間運用費用を向こう50年は賄えるとかいうえげつない価値があるとも言っていた。怖っ。
売却の査定を担当した銀行員など、最初は事務的な笑顔を浮かべていたのだが、鑑定ドロイドが次々と「希少金属を確認」「極めて高純度の貴金属を確認」「鑑定不能な古代宝石を確認」などと報告し始めるにつれ、その顔がどんどん引きつっていった。途中からは上司らしき人物まで呼ばれ、さらにその上司も無言になっていた。
そんな希少品目を一部売却し、スター・デストロイヤーなら軽く10隻くらいは買えるクレジットの札束で銀行員をぶん殴ることにした。
「本日はどのようなご用件で?」
「裏口座をひとつ」
最初は胡散臭い三人組がきたなーみたいな対応をしていた銀行員が、資産を見た途端にVIP対応に即座に切り替えたのは流石だと思った。
数分前まで警備員を呼ぶべきか悩んでいた顔が、今や極上の笑顔である。高級な飲み物まで運ばれてきた。資本主義、恐るべし。
そして裏口座に入り込めれば、こちらのもの。
帝国軍管轄下の資金口座を洗えばある程度の金の動きはわかる。
無数の送金履歴、暗号化された決済記録、匿名化された資金移動。その一つひとつを追い、時にはフォースによる感覚も交えながら整理していく。
金は嘘をつかない。
誰かが何かを計画すれば、必ず資材が動き、人が動き、そして金が動く。
そのやり方、ジェダイの時もやったけど結構盲点らしく、アナキンも俺の手際の良さと、金銭面から得られる情報というものには驚くばかりであった。
「……諜報部員か何かか?」
「いや、その時の俺、ジェダイだよ?」
「ジェダイってそんなことするんだ……」
しみじみと呟くアナキンに、横でパルパルが何故か得意げに頷いていた。
ちなみに帝国本社バンクの資金の動きをフォースでちょいちょいして確認すると、案の定この世界のシディアスも隙を見てフォースの遺跡を調べまくってることがわかった。
「さすが余〜」と言っていたパルパティーンの反応に俺とアナキンは顔を見合わせて肩をすくめた。
どこそこの辺境惑星への調査費用に?
考古学者の雇用記録に?
古代文字の解析機材の購入費?
明らかに軍事とは関係のない出費が、定期的かつ執拗に計上されている。
「ほんとブレねぇな、この人……」
「余を誰だと思っておる」
胸を張る元銀河皇帝に、俺とアナキンは同時にため息を吐いた。
実際、クローン戦争末期にノーバディの資金運用を仲間になったドゥークー伯爵に移譲した時、このやり方を見せて「さすがに私もここまではやってない」とドン引きされた。なんでや、資金繰りの部分はドゥークー伯爵のやり方を参考にしたのに……。
ちなみにその時の伯爵は数秒ほど沈黙した後、「君はジェダイよりも金融業に向いている」と真顔で言い切った。
褒められているのか貶されているのか、いまだによく分からない。
さて、そんなわけで帝国……そして反乱軍の資金運用も網羅できる情報源を得た俺たちは、帝国の資金ルートを洗い出した。
デス・スターの運用費用に?艦隊の建造費に?え、この時期ですでに第二のデス・スタープロジェクトも動き出してたの?という情報にあったり。
膨大な数字が並ぶホログラムの中に、帝国という怪物の実像が浮かび上がっていく。
超兵器一つを維持するだけで中小惑星国家が何十も運営できそうな額が消えていく様子に、流石の俺も軽く引いた。
そして見つけることができた。帝国の資金の一部が不審にある一人の男に流れているということに。
それは軍人でもなければ、高官でもない。名簿上では、どこにでもいる一人の一般人。
しかし、その男の口座には、定期的に、そして極めて慎重な手口で、帝国中枢から資金が流れ込んでいた。
俺たちは無言になった。
そして、ホログラムに表示されたその名前を見つめたまま、ゆっくりと顔を見合わせた。
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「というわけで見つけた場所がこちらでございます」
俺がホログラムを操作すると、青白い立体映像がテーブルの上へ投影される。小惑星帯の中心に浮かぶ巨大な人工構造物。
その映像を前に、アナキンが「おお……」と小さく声を漏らした。
場所はカフリーンの環。
ここはサンド宙域のカフリーン小惑星帯に造られた深宇宙交易所および採鉱コロニーで、2つの大きな小惑星を大規模な建造物で接続しており、それぞれの地表に合法、違法を問わずさまざまな活動で賑わう交易地が広がっていた。
銀河でも有数の無法地帯であり、表向きは採鉱と交易を目的とした中継地だが、その実態はもっと混沌としている。
運び屋、傭兵、密輸業者、鉱夫、流れ者、そして何らかの理由で身分を隠したい者たちが、絶えずこの場所へ流れ着いては去っていく。
巨大なリング状の構造物には数え切れないほどのドッキングベイが存在し、大小さまざまな宇宙船が隙間なく停泊している。
その光景はまるで宇宙そのものが作り上げた巨大な蜂の巣のようであり、近づくだけで人と物と金の匂いが伝わってくるようだった。
カフリーンの環は銀河帝国の支配下にあり、街中ではストームトルーパーによる厳しい検問が行われていたが、降り立った俺たちはフォースでちょいちょいして検問を突破。
ドッキングベイのあちこちでは貨物の積み下ろしが行われ、怒鳴り声とエンジン音が絶え間なく響いている。その間を白い装甲のストームトルーパーたちが巡回し、身分証の提示を求めていた。
もっとも、俺たちにとっては大した問題ではない。
パルパティーンが何気なく手を振り、俺とアナキンもそれに合わせる。
「問題ありません」
「問題ありません」
「通ってよし」
見事なまでに流れるような連携だった。
目的の場所までやってきたのだが……。
そこは居住区の片隅にある、ごくありふれた集合住宅だった。壁面には補修の跡がいくつも残り、通路の照明も一部が明滅している。帝国の支配地では珍しくもない、どこにでもある庶民向けの住居である。
「どうやら留守のようですね」
アナキンが住居を調べたが、その部屋は閉ざされていてドアを叩いても反応はない。
フォースで内部を探ってみても、人の気配は感じられない。生活の痕跡はある。だが、今この場には誰もいないようだった。
住む場所と、資金が流れている場所も調べられたので間違いはないはずだがと考えていると、パルパティーンはまるで勝手知ったる地のような感覚で近くのダイナーへと歩いていく。
迷いがまるでない。
初めて訪れた場所のはずなのに、どこか懐かしい場所へ帰るかのような足取りだった。
「……マスター?」
「何となくだ」
「その何となくが怖いんですよ」
本人は平然としているが、フォース感応者の直感というのは時々意味が分からないくらい当たる。
行くあてもないし、アナキンと俺もそのパルパティーンの後に続いてダイナーに入る。
帝国支配地なので食文化は帝国風になっていて、ダイナーも汚いながらも最低限の衛生は保証されている様子だ。
油とスパイスの匂いが漂う店内では、鉱夫らしき男たちや貨物船の乗組員たちが食事をしていた。古びたホロテレビからは帝国のニュース番組が小さく流れ、カウンターの奥では年季の入った調理ドロイドが黙々とバーガーを焼いている。
三人揃ってカウンター席に座り、店主に頼んだバーガーのような食べ物をモリモリ食べる。
思った以上にうまかった。
少し硬めのバンズに肉汁たっぷりのパティ、そして濃いめのソース。ジャンクな味付けだが、無性に腹が減っている時には妙に染みる。
「……意外といけますね」
「うむ」
「これはうまいな」
元銀河皇帝と元銀河の英雄が、並んでバーガーを頬張っている。
何だこの絵面。
「……彼だな」
付け合わせのポテトをパクパク食べるパルパティーンがそういい、俺とアナキンも奥の席にいる人影を見る。
そこにはたった一人、ポツンと座りながらもどこか身なりが整った青年がスープを静かに飲む姿があった。
周囲が賑やかなだけに、その青年だけが妙に浮いて見えた。
粗末な服装ではある。しかし、仕立ては丁寧で、姿勢も良い。スプーンを持つ所作一つとっても育ちの良さが滲み出ている。
何より、その横顔には奇妙な既視感があった。
黒い髪。
整った顔立ち。
そして、どこか思索的な雰囲気。
俺は思わず隣を見る。
パルパティーンも無言で青年を見つめていた。
普段なら何を見ても余裕を崩さない男が、今だけはポテトを摘まんだまま動きを止めている。
「間違いない。彼だ。この世界の……シーヴ・パルパティーンの息子だ」
パルパルの息子の情報が無さすぎて草。
名前とか勝手に考えていいんかな!?