アナキンの親友になって色々あって旅に出た英雄の話 作:紅乃 晴@小説アカ
「死ぬ゛がどお゛も゛っ゛だ……!!」
宇宙空間へと離脱し、背後を振り返っても、もうあの漆黒のスター・デストロイヤーが追ってくる気配はない。
完全に安全圏へ入ったことを確認した瞬間だった。ダザンはその場に崩れ落ちるように四つん這いになり、両手を床について肩を震わせ始めた。
「うっ……うぅぅ……」
そして次の瞬間、堰を切ったようにさめざめと泣き始めた。
「死ぬ゛がどお゛も゛っ゛だ……!!」
ごめんて。いや、本当にごめんて。
横を見ると、クワイ=ガンがものすごく冷めた目でこちらを見ていた。やめて、その目。「お前が原因だろう」と無言で語ってくるその視線、めちゃくちゃ刺さるから。
そりゃ確かに、「どれだけ強くなったか確認するから、ヴェイダー卿をキャンと言わせてこい」と、ダザンを放り込んだのは俺だけどさ!
でも普通、遺跡の探索とトレーニングをしている最中に、銀河帝国最強の暗黒卿が単独で凸してくるなんて予想できるか!?できるわけないだろ!
「おぉ、よくやったな、ダザンよ」
さめざめと泣いているダザンの頭を、パルパルがよしよしと撫でながら慰める。
ぽん、ぽん、と優しく背中まで叩いている。その構図はどう見ても父と息子ではない。
孫が学校で嫌なことがあって泣いて帰ってきて、それを縁側で慰めるお爺ちゃんである。しかも孫の方が身長高い。
「まさかヴェイダーがここにくるとは予想外すぎた……」
「絶対アレですよ!
ダザンが涙目のまま、ガバッと顔を上げて叫んだ。
いや、本当にそれ。あの星は星系図にも載っていない名もなき星だったが、古代シスの寺院や文献が保管されている遺跡が存在していた。
せっかくだからと、全員で探索に入ったのだ。
ここまでは良かった。本当にここまでは。
だが、パルパルがうっかり床のスイッチを踏んでしまった。遺跡の壁が開き、暗闇の向こうから無数の赤い光点が浮かび上がった。
目だった。しかも一つや二つではない。何十、何百という目が、こちらを見ていた。
次の瞬間、人肉を好む蜘蛛型の怪物が洪水のように解き放たれた。
阿鼻叫喚である。
ダザンは糸を吐きかけられ、「うわああぁぁぁっ!?僕、繭にされる!絶対食料用の保存形態だこれぇ!!」と半泣きになって逃げ回り。
アナキンは天井から降ってきた巨大蜘蛛に押し倒され、「待って!なんで僕だけこんなにモテるの!?」と意味不明なことを叫びながら巣へ引きずられかけ。
クワイ=ガンに至っては、「あ、これは嫌な予感が――」と言った直後に、古代シスの罠である感覚遮断の穴に落ちた。
「クワイ=ガン!?」
下から返事がなく、全員で必死に引き上げたら顔面がドロドロの粘液にまみれになってた。めちゃくちゃ怖い。
そんな阿鼻叫喚の中、全員で必死に逃げ回り、なんとか一本道へと怪物どもを誘い込むことに成功し、パルパルが両手を広げた。
紫電が迸り、狭い通路を埋め尽くす、まさしく暴風雨のようなフォース・ライトニング。蜘蛛型怪物の群れは悲鳴を上げる間もなく黒焦げになり、遺跡の壁まで溶かしながら一掃された。
おかげで事なきを得た。……得たのだが。
「あれ、絶対銀河の反対側からでも見えましたよね?」
「うむ」
「絶対あの過剰出力で居場所バレましたよね?」
「うむ」
「で、ヴェイダー卿が来たと」
「余悪くないもん」
「この爺めが!」
全く悪びれもせず、パルパルはぷいっとそっぽを向いた。この人、いつもこうだ。自分は悪くないもん、みたいな顔をする。
文献を読んで、「あ、ここトラップあるね」と言った直後に、そのトラップスイッチを自分で踏んだんだぞ。一周回ってわざとでは?その場にいた全員が、完全に同じ結論へ辿り着いていた。
なので今もなお、俺とダザン、穴から救出されたクワイ=ガン、そして巣から解放されたアナキンの四人が、揃って白い目でパルパルを見ている。
当の本人だけが、
「……なぜ皆、余を見る?」
と、本気で不思議そうな顔をしていた。その顔には欠片ほどの悪意も、後ろめたさもない。本当に「何かおかしなことでも?」と思っている顔である。
なお、全員の答えは一致していた。
お前が原因だ、と。
「まぁとにかく、ダザンの今の実力は把握できたな」
パルパルがうんうんと満足げに頷く。
その傍らで、先ほどまで暗黒卿相手に必死にライトセーバーを振るい、フォースを駆使して生き延びた勇敢なフォースの使い手はどこへやら。ダザンは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、イヤイヤをする子供のようにぶんぶんと首を横に振っていた。
「やだぁ……もうやだぁ……」
完全に泣きべそをかいている。
俺たちの世界のパルパルの息子とは全然違うな。
あっちは幼少期からトレーニングを積んでいたからか、ザ・正義の騎士!という感じで、困っている人がいれば真っ先に飛び出していくような性格をしていた。
だが、正史側のダザンは人格形成がほぼ終わってから修行を始めたせいか、根本的な性格はだいぶ繊細だ。
例えるなら、普段は気弱でなよなよしているのに、ハンドルを握った瞬間だけ妙に漢らしくなる某バイクメーカー名のキャラみたいなものである。
スイッチが入っている時は頼もしい。だが、スイッチが切れた途端にこれだ。
「ヴェイダー卿と戦うなんて無茶言わんでくださいよ……! 僕そんなに強くない!」
うわぁん!と、ついに声を上げて泣き出すダザンくんである。
うーん、教える側としてはかなり仕上がってるよ?
フォースとの向き合い方やジェダイとしての心構えはマスター・クワイ=ガンから。シスの教えやフォースの解釈はパルパルと俺から。セイバー・テクニックと対人戦、そしてフォースによるプレッシャーへの対策はアナキンとパルパルから。
……冷静に考えると、講師陣の面子が頭おかしい。
ここだけフォース・アカデミーの特別クラスどころか、銀河最高峰の英才教育機関なのだが?
レイアの息子であるベンや、パルパルの孫であるレイだって、歴代マスターから教えを受けていたからこそ馬鹿みたいに強くなっていた。
それと同じことを、今この泣き虫にやっているのである。そりゃ強くなる。本人の自覚がまるでないだけだ。
「自分の実力はしっかりと把握する必要はあるぞ、ダザン。自分の力を過大評価したら痛い目に見るからな」
「ぐは」
俺が真面目な顔で言うと、なぜか隣から断末魔が聞こえた。見ると、アナキンが胸を押さえて崩れ落ちている。
パダワン時代、自分の力を過大評価して痛い目に遭っていた筆頭である。
というか、ほぼ毎回それだった。
無茶をするし、突っ込むし、そのたびにオビ=ワンに怒られる。文句を言いつつも反省はするが、数日後、またやる。これを何度も繰り返していた。
自意識過剰にならないよう、俺が定期的に模擬ライトセーバー戦でボコっていたから、正史のアナキンよりはだいぶマシになったのだが。
「ログ、アナキンに精神攻撃をするのはやめなさい」
クワイ=ガンが苦笑しながら膝をつき、ダメージを受けているアナキンの肩をぽんぽんと叩いて慰める。
「マスター・クワイ=ガン……」
「大丈夫だ。お前は昔より成長している」
「マスター……」
ちょっと泣きそうになっている。見えるかヴェイダー卿、これが愛を知ったアナキンの姿だ。死後換算であるが齢100はとっくに過ぎた男である。
「マスター・クワイ=ガンもすっかりこのパーティに染まったのぅ」
その様子を見ながら、パルパルがうんうんと感慨深げに頷いた。
俺も思わず同意する。最初に会った頃のクワイ=ガンなら、こんな騒がしいやり取りを一歩引いた場所から静観していただろう。
それが今では、自然とアナキンを慰め、ダザンを気遣い、俺たちの馬鹿話に苦笑するようになっている。本人に自覚はないだろうが、すっかり馴染んでしまった。
「そりゃそうでしょ、禁足惑星の海底遺跡に迷い込んで一ヶ月くらいダンジョン飯してたんですから」
クワイ=ガンが遠い目をした。
あれはなかなかに酷い事件だった。
禁足惑星の海辺に存在したシスの遺跡。
潮風に削られた白い断崖と、黒い石で造られた古代神殿。その調査のために上陸したのだが、探索を始めて間もなく海岸で待ち受けていたシス・リバイアサンと遭遇した。
全長数百メートルはあろうかという、巨大な海蛇めいた怪物である。赤黒い鱗を軋ませながら海中から姿を現したその怪物は、開幕早々に海水を巻き上げ、まるで津波のような一撃をぶちかましてきた。
「うおっ、でっか!?」
「余、ああいうの好き」
「今それ言ってる場合じゃないです!」
そんな感じで始まった戦闘だったが、戦いの最中に突然、足元が崩れた。どうやら長年の浸食で地下に巨大な空洞が形成されていたらしい。
俺たちは揃って、「あっ」と間抜けな声を上げながら地面と一緒に落下。
そのまま地下水脈へと投げ出され、激流に揉まれ、何度も壁に頭をぶつけながら流されていき、気がつけば沖合の海底に存在するシスの地下遺跡へと閉じ込められていた。
……なんで?本当に、なんで?しかも出口は完全に水没し、上には数百メートルの海。
救助など期待できるわけもなく、限られた酸素に限られた食料。そして、どこまで続くかも分からない迷宮。しかもフォース感応者しかクリアできないデストラップも数々あった。
あの時ばかりは全員、本気で死を覚悟した。
最初の数日はまだ余裕があった。
だが、一週間もすると状況は深刻になっていく。
携行食は底をつき、水も浄化して使い回す始末、そして、とうとう食料問題が限界を迎えた。
そこで目をつけたのが遺跡に生息していた巨大節足動物である。見た目はエビとムカデを足して二で割らなかったような代物だった。
正直、食欲が湧く外見ではない。
全員、無言だった。
しばらく誰も手を出さなかった。
だが腹は減る。
結局、最初に吹っ切れたのはパルパルだった。
「うむ」
とか言いながら、フォースで一匹捕まえ、躊躇なく壁に叩きつけて殺し、そして二つに割った。中から白くてぷりぷりした身が出てきた。
「……食べられそうですね」
誰ともなくそう呟いた。賞味期限は割ってから二秒。それを過ぎると急速に酸化して、信じられないくらい不味くなる。
だから全員で、
「今!」
「食え!」
「食べごろを逃すな!」
と叫びながら、割った端から口へ放り込む。そんな生活を一ヶ月したのでもう色々吹っ切れていた。
「あれは余ももうダメかと思ったぞ」
パルパルもしみじみと思い出している。
珍しく弱音に近い発言である。まあ、それだけ過酷だったのだ。
ちなみに、霊体化すれば大抵のダンジョンは攻略が容易になる。壁は抜けられるし、酸素も必要ない。ほぼ反則技だ。
だがパルパルがそれを許すと思うか?
答えは否。
「せっかくの冒険なのだからな!」
の一言で却下された。楽に攻略したら、この人は即行で飽きる。あと、ジェダイやシスの遺跡に対して「無作法である」とか、妙なところで律儀なのである。
その結果、一ヶ月の海底サバイバルを乗り越える羽目になった。
「さて、ヴェイダー卿にルークがいることを示唆したが、どうするのだ?」
パルパルがそう聞いてきて、俺も腕を組んで考える。今回の件は完全に予定外だった。ヴェイダーに接触した上、ルークの存在まで匂わせてしまった。
言ってしまえば、歴史に対して思い切り横からタックルしたようなものである。
「オリチャーした以上は最後まで面倒を見なきゃならないと思います」
「では、惑星ホスに向かうと?」
「いや、タトゥイーンに行こうと思います」
「?」
アナキンがきょとんと首を傾げた。
「なぜタトゥイーンに?」
俺はニヤリと笑う。
そして船内のホロマップを操作した。青白い立体星図が空中へと浮かび上がり、いくつもの航路が蜘蛛の巣のように広がる。
その中で、俺は一つのルートを指でなぞった。
とにかく現金が必要だ。動くにしても、情報を集めるにしても、人を雇うにしても、先立つものがいる。まずはタトゥイーンのモス・アイズリーへ寄り、預けてあるクレジットを回収する。
それから。
「たぶん、あそこにちょうどあの子がいると思うので」
俺はホロマップに映る、砂の惑星を見つめる。
双子の太陽。果てしなく続く砂漠。銀河中のはぐれ者や犯罪者、流れ者が行き着く辺境世界。
そして、その星には今。
一人の男がいるはずだ。
銀河で最高と呼び声が高い賞金稼ぎ。後に無数の伝説を残すことになる、彼に会うために。