アナキンの親友になって色々あって旅に出た英雄の話   作:紅乃 晴@小説アカ

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優秀な賞金稼ぎはいくら積んでも必要ですから

 

 

 

タトゥイーン。

 

アウター・リム・テリトリーのアーカニス宙域、タトゥ星系に属する砂漠の惑星。そこは、ギャラクティック・コアから遠く離れた辺境の星だ。

 

空には二つの太陽が輝き、灼熱の光を容赦なく地表へ降り注いでいる。地平線の果てまで続く砂丘は熱で揺らめき、風が吹くたび、細かな砂粒が生き物のように波打っていた。

 

地上にはデューン・シーと呼ばれる広大な砂漠が広がり、水分農夫たちは水分凝結機を使って大気中のわずかな水分を収集して生活している。

 

しかし、そんな慎ましい営みとは裏腹に、この星は決して平穏な場所ではない。

 

タトゥイーンには銀河共和国や銀河帝国といった銀河系政府の法の支配が届かず、ハットの犯罪王が宇宙港を取り仕切っていた。モス・アイズリーやモス・エスパといった数少ない港町は、犯罪者や賞金稼ぎ、ギャングたちの温床となり、毎日のようにどこかで銃声や怒号が響いている。

 

善人ほど長生きできない。

それが、この砂の惑星の流儀だった。

 

ノーザン・デューン・シーは、デューン・シーの北部に広がる領域である。果てしない砂丘と風化した岩山が続く不毛の地だが、そのどこかには犯罪王ジャバ・ザ・ハットの宮殿も存在していた。

 

そして、そのノーザン・デューン・シーにあるハットの私的な停泊地に、一隻の船が静かに降り立っている。

 

ボバ・フェットの愛機、スレーヴⅠである。独特の縦長の機体は赤茶けた岩場を背にして静かに佇み、その装甲には幾多の戦いをくぐり抜けてきた傷跡が刻まれていた。

 

ボバはハットから依頼を受け、ハン・ソロを捕らえて連れてくる契約を結んでいた。スレーヴⅠの傍らで装備の最終確認をしている最中、不意に彼の動きが止まる。

 

風の音。砂の擦れる音。

 

そして……誰かの気配。

 

「そこにいるのは誰だ」

 

反射的に岩陰へ視線を向け、EE-3カービン・ライフルを構える。動きに一切の無駄はない。幼い頃から戦場を生き抜き、幾度となく死線を潜り抜けてきた男の反応だった。

 

その声に応えるように、一人の男がゆっくりと姿を現した。

 

「お前は誰だ?」

 

その姿はタトゥイーンの現地民が身につけているチュニックと砂よけのローブを羽織っていた。しかし、何かがおかしい。

 

肌だ。タトゥイーンの太陽に焼けていない。ここに少しでも住んでいればわかる。子供を除き、大半の大人は強烈な日差しによって肌が焼け、硬くなっている。風と砂に削られ、誰もが独特の荒々しさを帯びていく。

 

だが、現れた男は違った。まるで昨日この星へ降り立ったかのような肌をしている。それは、この男がタトゥイーンではない別の場所からやって来たという何よりの証明だった。

 

「俺の名は、オールドマスター。お前に用があってきたんだ、ボバ・フェット」

 

男は穏やかな表情でそう語りかけてくる。

 

だが、ボバは油断を一切しない。幼い頃、クローン戦争を生き抜いた彼は、その苛烈な経験から得た直感めいたものをこの男から感じていた。

 

危険だ。明確な理由はない。

しかし、本能がそう告げている。

 

「そうだろうな。だが俺はお前に用はない」

 

「仕事を受けたそうだな? ハン・ソロを捕まえてこいとか、そういったところか?」

 

その言葉にボバは沈黙する。

 

確かに依頼は受けた。だが、それはつい数時間前のことだ。今まさに準備へ取りかかったばかりであり、情報が漏れるにしても速すぎる。

 

何より、不気味だった。まるで最初から知っていたかのような口ぶり。砂漠の熱気とは別の冷たいものが、背筋をゆっくりと這い上がってくる。

 

「沈黙は肯定と同じだぞ、フェット」

 

そう言う男に、ボバはブラスターの出力を高め、引き金へ指を置く。

 

臨戦態勢……いや、違う。

 

この男は不気味だ。ここで逃がすには、不気味すぎる。ここで始末をつけろ。そんな直感が、頭の奥で警鐘のように鳴り響いていた。

 

「お前は何者だ。邪魔をするなら消す」

 

最後通告だ。

 

ボバは相手を殺すつもりだった。目の前の男が背を向ければブラスターを叩き込み、向かってくるなら戦うまで。

 

厄介なことになった、と胸中で毒づく。だが、この家業はこういった厄介ごとが尽きないのも事実だった。

 

「まずは一度、上下関係をはっきりさせよう。俺はクライアントで、お前はワーカーだ」

 

その言葉が決定打だった。

 

ボバは躊躇なく引き金を引く。

 

乾いた発射音と共に、赤い閃光が砂漠の空気を裂いた。その一撃は相手を確実に捉えていたはずだった。

 

だが男は難なく、その閃光をひらりと躱す。まるで最初から弾道が見えていたかのような動きだった。

 

ボバの目がわずかに細まる。相手に主導権を握らせない。さらにブラスターで追い討ちをかける。

 

二発、三発。赤い閃光が連続して砂漠を駆け抜け、岩肌を焼いた。

 

しかし、男はさらに前転で飛び込み、低い姿勢のまま砂を巻き上げながら距離を詰めてきた。

 

その動きは砂漠の旅人のものでも、素人のものでもない。

 

歴戦の戦士……あるいは、それ以上の何かだった。

 

(こいつ、ブラスターをものともしないのか)

 

そんな男を、ボバは見たことがない。

 

……いや、見たことはある。相当の馬鹿か、命知らずか……それとも……そこまで考えた瞬間、脳裏に幼い頃の記憶がよぎる。戦場で見た、光る剣を振るう異能の戦士たち。

 

近寄らせるのは得策ではない。そう判断したボバは、射程距離五メートルのクザーカ・アームズ社製ZX小型火炎放射器を放ちながら、ジェットパックを噴射した。

 

轟音とともに炎が吹き出す。赤橙色の火柱が砂漠の空気を歪め、一瞬で二人の間に灼熱の壁を作り上げた。

 

同時に、ボバの身体は砂を巻き上げながら空へと舞い上がる。

 

普通ならこれで十分だった。

 

どれほど腕の立つ相手であろうと、火炎の壁の向こうへ踏み込むことはできない。

 

だが、男は身につけていたローブを脱ぎ捨て、それを防壁にするように頭上へ掲げ、そのまま火炎の中へと突っ込んできた。

 

燃え盛る炎がローブを舐める。

 

しかし、男は一切怯まない。火炎を突き抜けた姿は、まるで砂嵐の向こうから現れる亡霊のようですらあった。

 

飛行しながら、ボバはすかさずブラスターを撃ち放つ。相手は随分と戦い慣れをしている。赤炎の壁を抜けた男のもとへブラスターの火が飛来するが、それは高いエネルギー音とともに屈折させられ、地面を抉るに終わった。

 

男の手からは、黄色い光の刃が立ち昇っていた。砂漠の陽光に負けない鮮やかな黄金色。唸りを上げるその刃が、まるで生き物のように揺らめく。

 

ボバはヘルメットの奥で目を見開いた。

 

だが、追撃の手を緩めることはない。矢継ぎ早にブラスターを連射する。赤い閃光が連続して空を駆け抜ける。

 

しかし、オールドマスターと名乗った男は、華麗なセイバースピンで五連射のブラスターを次々と弾き飛ばしていく。閃光が黄色の刃に触れるたび、火花が弾け、乾いた金属音にも似た高音が砂漠に響いた。

 

そこまでやって、ボバは悟る。

正面からのブラスター攻撃は無駄だ。

 

ジェットパックの恩恵を受けつつ高所から緩やかに着地し、左腕に備わるMM9小型震盪ロケット・ランチャーを構える。

 

そして、低い声で言葉を放つ。

 

「お前、ジェダイか?」

 

そう聞くと、男は何度かセイバーをスピンさせた。黄色の光が円を描き、砂粒が巻き上げ、ゆっくりと構えを取る。

 

フォームⅠ……別名シャイ=チョー。剣先を前方へ向けた、基本にして原初の構えだった。

 

「決めつけは良くないな?」

 

しかし、その構えなどボバは知らない。

 

知っているのは、父の首を切り落とし、目の前で命を奪ったのがジェダイだという事実だけだ。

 

あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。

 

ジオノーシスの赤い土。

 

無数の銃声。

 

そして、転がるヘルメット。

 

自分もいい大人になった。ジャンゴ・フェットという賞金稼ぎが、仕事の都合でジェダイと敵対し、その結果として殺されたことくらい理解している。

 

だが、それと個人的な感情は別問題だった。理屈と感情は、必ずしも同じ場所には存在しない。

 

「悪いが、ジェダイの仕事はお断りだ」

 

そして、生かして帰すつもりもないと、MM9小型震盪ロケット・ランチャーを放つ。小型ロケットは白煙を引きながら飛翔し、男の足元へと着弾した。

 

轟音。爆炎。爆風によって砂が噴き上がり、周囲の視界が一瞬で黄色く染まる。

 

だが、それで敵を葬ることは叶わなかった。男は爆風に身を任せるように宙返りを打ち、そのまま何事もなかったかのように着地しただけだ。

 

身につける服の裾がふわりと揺れ、黄色い光刃だけが静かに唸りを上げている。

 

攻撃が全て搦め手に取られているような気がした。

 

だが、逃げるという選択肢はボバにはない。そして、その思いは次の言葉で確固たるものになった。

 

「そう言ったところ、お前の親父さんにそっくりだ」

 

男の一言が、ボバの殺意を決定づけた。

 

ヘルメットの奥で目が細まる。ここでこの男を始末しなければならない。そう確信させるには十分すぎる言葉だった。

 

「面倒ごとになりそうだ。消させてもらう」

 

そう言って屈んだボバの膝から、ニーパッド・ロケット・ダーツ・ランチャーが炸裂する。

 

鋭い音とともに小型弾頭が飛来する。

 

だが男は、なんと手から稲妻を発した。青白い電光が蛇のように空を這い、飛来するランチャーへと食らいつくと、弾頭が到達する前に空中で次々と暴発した。小規模な爆発が連続し、火花と黒煙が降り注ぐ。

 

まったく、こうまで武装が通じないとは。頭をよぎる嫌な予感を振り払うように、ボバは再びブラスターを放って攻勢を仕掛ける。

 

しかし、それもセイバースピンによってことごとく弾き飛ばされた。

 

距離を詰められると厄介だ。再びジェットパックで飛翔しようとした……その瞬間。

 

「後ろには御用心」

 

突如として、背後に衝撃が走った。ヘルメットほどの大きさの岩が、ボバの背負うジェットパックへ激突したのだ。

 

ガンッという鈍い衝撃音の直後、ジェットパックが誤作動を起こす。推進ノズルが制御を失い、火を噴いた。

 

「……っ!」

 

ボバの身体は明後日の方向へと弾き飛ばされる。視界が激しく回転し、空と砂丘と岩山が、目まぐるしく入れ替わる。体勢を整える前に近くの岩山へ身体を打ちつけ、ジェットパックも完全に停止。

 

そして叩きつけられるように、地面へ落下した。

 

砂煙が舞い上がる。鈍い衝撃が全身を貫き、ヘルメットの内側で警告音が鳴り響いた。肺から強制的に空気が押し出され、思わず低いうめき声が漏れる。

 

そんなボバへ、男は心配そうに声をかけた。

 

「うちに腕のいいメカニックがいる。一度見てもらったらどうだ?」

 

「……」

 

ボバは返事をしなかった。

 

この状況で何を言っている。本気で心配しているのか。それとも余裕からくる挑発なのか。……どちらにせよ、神経を逆撫でするには十分な言葉だった。

 

体をしたたかに打ちはしたが、まだ動ける。ボバは片膝をつきながらゆっくりと立ち上がり、腰に装着していた予備のブラスター・ピストルを抜き、男へと向ける。

 

ジェットパックは沈黙したままだ。

 

照準表示にはエラーが点滅している。

 

「お前の知ってるメカニック以外に頼むとするさ……!」

 

一発。二発。三発。乾いた発射音とともに赤い閃光が男へ襲いかかる。だが、そのことごとくが黄色い光刃によって弾き飛ばされた。

 

火花が散る。そして男は、まるで風そのものになったかのような速度でこちらへ駆けてくる。

 

砂を蹴り上げ、一直線に。

 

その光景に、ボバの脳裏で遠い記憶が鮮明によみがえる。

 

赤茶けたジオノーシスの大地。

 

立ち込める砂塵。

 

そして……紫色の光刃を持ったジェダイが、父に向かっていく。横一文字の一撃。その直後に転がった、見慣れたヘルメット。

 

(……親父)

 

胸の奥が、ずきりと痛む。

 

ジェットパックは誤作動で動かない。距離は詰められている。このブラスター・ピストルで仕留められなければ……こちらは……!

 

そして、四発目を撃とうとした瞬間だった。

 

閃いた黄色い光は、ピストルの銃身を音もなく切り落とした。焼けた金属片が砂の上へ転がる。そして返す刀のように、黄色い光刃の閃光がボバの首を……

 

「チェックメイトだ」

 

……刎ね飛ばさなかった。

 

低く、静かな声。光刃はヘルメットの手前でぴたりと止まっていた。あと数センチ。ほんのわずか前へ進めば、自分の首は胴体から切り離されていた。

 

ボバは呼吸を止める。ヘルメットの内部に、自分の荒い息遣いだけが響いていた。

 

左腕に備えたリスト・レーザーのガントレットを構えてはいたが、引き金を引くことはできなかった。

 

理解していた。

 

自分の死は、目の前の男の情けによって繋ぎ止められている。

 

勝負はついていた。それも完全に。

 

「殺せよ。俺の親父をやったように」

 

静かに言う。

 

怒りも、叫びもなかった。ただ事実を口にするような声音だった。

 

その言葉に、男はしばらく何も答えなかった。

 

やがて黄色い光刃が消える。

 

ブゥン……という残響だけを残し、ライトセーバーを腰へと戻した。

 

その姿からは、すでに敵意はなく、戦う意思すら感じられなかった。

 

「お前の親父さんとは友好があった」

 

「ハッタリを言うな。親父が死んだのはクローン戦争の前だ」

 

にべもなく男の言葉を否定する。

 

そんな話は聞いたことがない。

 

父は賞金稼ぎだった。ジェダイと友人になるような人間ではない。だが、男は気を悪くした様子もなく、どこか懐かしそうに、まるで遠い昔を思い出すように言った。

 

「凄腕の賞金稼ぎだった。まぁ、実力を認めない相手からの仕事は受けない主義だったがな」

 

その声色には、不思議な実感があった。

 

まるで本当に、ジャンゴ・フェットという男を知っているかのように。

 

……ボクデンの月で人知れず繰り広げられた、ログ・ドゥーランというジェダイの騎士と、ジャンゴ・フェットという賞金稼ぎとの死闘。

 

タイラナス……ドゥークー伯爵の依頼を引き受けていたジャンゴは、その直後に戦ったログに敗れたものの、ログはドゥークーの出した報酬にさらなる褒賞を提示し、それを受ける形でジャンゴは雇われた。

 

しかし、それは支配でも服従でもない。

互いの腕を認めた者同士の、奇妙な縁だった。

 

それにジャンゴは仕事を選んでいた。権力に酔い、堕落を貪るような相手からの依頼は断った。それで敵対した相手がいれば、自分で始末をつけていた。

 

金のためなら何でもする賞金稼ぎではない。

 

己の流儀と矜持を持った男だった。

 

故に彼は、銀河最高の賞金稼ぎと呼ばれていたのだ。

 

だが、ボバはそうではない。金さえあればどんな仕事でも受ける。そうしなければ、生きてこられなかったからだ。

 

銀河帝国の影で生きる賞金稼ぎに、安定など存在しない。

 

依頼がなければ食えない。金がなければ装備を整えられない。装備がなければ死ぬ。

 

ただ、それだけの世界だ。

 

もちろん、矜持がないわけではない。

 

賞金稼ぎとしての流儀もある。

 

だが、それ以上に必要なのは、生きるための金だった。

 

「金がいるんだよ。この荒れた世界ではな」

 

そう言ってガントレットを構えるボバに、男はあっけらかんと言った。

 

「そうか。なら俺が雇おう」

 

その言葉に、ボバは男の本心……いや、正気を疑った。ライトセーバーを振り回す輩は、大抵ろくでもない相手だ。独善的な理想家か、何かを悟った狂人か、その両方か。

 

少なくとも、今まで出会ってきた連中はそうだった。

 

「……正気か?」

 

「腕のいい賞金稼ぎは喉から手が出るほどほしい」

 

男は何でもないことのように答える。その様子に、むしろ芝居の気配がない。だからこそ余計に不気味だった。ボバはガントレットを下ろさないまま、慎重に言葉を選ぶ。

 

「……依頼内容による」

 

「きっかり一年後、指定した時間にこの場所へ来い。その間は自由にしてもらって構わない」

 

「……一年後?」

 

あまりにも曖昧な条件だった。

 

何をさせるのか。

 

誰を狙うのか。

 

どこの星へ行くのか。

 

それすら言わない。

 

こんな契約は聞いたことがない。

 

そう言ってから男は少し振り返り、近くの岩陰へと歩いていく。そして、そこに隠してあったケースを持って戻ってきた。

 

さっきまで殺し合いをしていた相手に、こうも安易に背中を見せるとは。

 

頭がおかしいのか。それとも、自分では勝てないと確信しているのか。ボバが半ば呆れていると、男はケースを開き、その中身を見せた。

 

そこには、インターギャラクティック銀行グループが発行する通貨手形が収められていた。

 

透明な高純度クリスタル。その内部に情報端末が封入されている。

 

偽装は不可能。解除できるのはインターギャラクティック銀行グループの人間だけであり、彼らへ提示しなければ何の意味もなさない代物だ。

 

内部にはデータが保管されており、それを参照することで現金や情報を得られる仕組みになっている。銀河でもっとも信用されている、いわば絶対に裏切らない金庫だった。

 

「報酬は前金で五千万クレジットだ」

 

「……正気か?」

 

今度は、本気で口にした。

 

五千万……五千万クレジット?あまりにも現実感のない数字だった。簡単に例えるなら、スター・デストロイヤー級の艦艇が買える金額。ボバが受けている仕事の年間収入を軽く数十倍は上回る。

 

いや、数十倍どころではない。賞金稼ぎが一生かけても手にできるか怪しいほどの大金だった。

 

砂漠の熱気が急に遠のいた気がした。ヘルメットの表示がおかしくなったのかと思うほど、頭の中が真っ白になる。まさに、馬鹿げた大金だった。

 

「お前の親父さんを雇った時も同じ価格を提示した」

 

静かな声。だが、その目には一切の嘘がない。試すような色もなければ、冗談を言っている気配もない。

 

本気だ。この男は本当に、五千万クレジットを前金として支払うつもりでいる。

 

ボバは差し出された手形を受け取った。

 

ずしりと重い。

 

物理的な重さではない。その数字が持つ意味が、手の中へ圧し掛かってくるようだった。

 

思わず何度も見つめる。

 

本物だ。少なくとも、自分の知識では偽物には見えない。

 

「……」

 

無言のまま答えないボバへ、男は微笑んで言う。

 

「受けるか受けないかはお前次第だな」

 

沈黙が流れる。

 

二つの太陽が、ゆっくりと砂漠を照らしている。

 

熱風が吹き抜け、砂粒が二人の足元を転がっていった。

 

こんな話は怪しい。

 

怪しすぎる。

 

一年後に来い。

 

仕事内容は不明。

 

依頼主は正体不明。

 

そのうえ、前金で五千万クレジット。

 

まともな人間なら断る。

 

だが……ボバ・フェットは、まともな人生を歩いてこなかった。

 

何より。

 

この男には、自分を殺せる機会があった。

 

それをしなかった。

 

そして、五千万クレジットを差し出している。

 

少なくとも、今この瞬間に限っては、裏切る理由がない。

 

ボバはゆっくりと顔を上げた。

 

「受けてやろう、ジェダイ」

 

男は苦笑する。

 

「残念だが、俺はジェダイではないが……その呼び方でいいぞ、賞金稼ぎ」

 

そう言って差し出された手。

 

数秒だけ見つめた後、ボバはその手を握った。

 

固く、温かい手だった。

 

こうしてボバ・フェット。銀河最高の賞金稼ぎの名を継いだ男と、ジェダイではないと名乗る奇妙な男との、歪な契約関係は締結されたのであった。

 

 

 

 

 

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