アナキンの親友になって色々あって旅に出た英雄の話 作:紅乃 晴@小説アカ
「ひとまず、ここからの作戦をみんなと共有しようと思う」
無事にボバとの密約を終え、タトゥイーンのモス・エスパに来ていた。
ここは銀河共和国後期にはタトゥイーンの事実上の首都として栄えたが、ハットのビジネス拠点がモス・アイズリーに移され、この地はしだいにさびれていった。
今では風に削られた土色の建物がまばらに並び、砂埃を巻き上げながら吹く乾いた風だけが、かつての繁栄の名残を運んでいる。遠くから聞こえるのは古びた発電機の唸りと、どこかの家畜の鳴き声くらいなものだった。
船を隠したり、厄介ごとを避けるにはちょうどいい場所である。
人の少ないバーに集まりつつ、俺、パルパル、アナキン、クワイ=ガンで作戦会議となった。
店内は薄暗く、天井で回る換気扇がギシギシと嫌な音を立てている。カウンターでは店主らしき老人がグラスを磨いているが、こちらに興味を示す様子はない。こういう「余計なことは聞かない」という空気は、裏の仕事をする人間には実にありがたい。
ちなみにダザンは船の守り手として留守番である。あの船には秘密が多すぎるので、誰か一人は残しておく必要があった。
「ボバを雇ったのは作戦のためってことかい?」
「
アナキンの言葉にそう返すと、パルパルは微妙そうな顔で言う。
「余はそんなに彼が有能とは思えんがのぅ」
帝国は割と賞金稼ぎとかアングラな商売をする者たちを軽視しがちであるが、そこにこそ帝国の弱点があると俺は思ってる。正規軍や官僚機構というのは、巨大であるがゆえに視界が狭くなる。表の道路ばかりを監視し、裏路地の存在を忘れてしまうのだ。
「何言ってんすか。ジャンゴを雇ったから俺はノーバディとかジェダイにもシスにもバレずに情報をかき集めたり組織化したんですからね」
実際、共和国時代でもその弱点は機能していた。
巨大な組織になればなるほど、すり抜けられる裏道というのは多くあるものだ。
実際、クローン戦争時代も、帝国時代でもジャンゴとの契約は効果的に機能していた。それは俺との契約からノーバディとの契約に移行した後でもだ。
表舞台では共和国と分離主義勢力が銀河を二分して争っていたが、その足元では賞金稼ぎや密輸業者、情報屋たちが無数の糸を張り巡らせていた。そしてジャンゴ・フェットは、その蜘蛛の巣を自在に渡り歩ける数少ない男だった。
「グリーヴァスの船に乗り込む裏工作! クローン戦争時にアナキンの負担を減らすためのあれこれの裏工作! アナキンを闇堕ちさせようとしてるパルパルの工作妨害のアレコレ! その他諸々!」
そういうと、パルパルの眉がぴくりと動き、視線がわずかに泳いだ。心当たりがありすぎる反応だった。
「あれ全部ログの指示ってマ?」
「戦況とかアナキンの様子とかを見て、おおよその情報共有はジャンゴとしてました。その上でジャンゴは賞金稼ぎネットワークで水面下で動いてもらってましたし、未開領域にもいくつか拠点も持ってましたよ」
俺がそう説明すると、アナキンはなんとも言えない顔になる。自分が知らないところで、自分を中心とした陰謀と、それを妨害する陰謀が同時進行していたのだから無理もない。
それはそれとして、ジャンゴの乗っていたスレーヴⅠの隠密性はダンチだ。
しかも共和国も分離主義者も知らない航路もジャンゴの手元にはあったので、警戒網をすり抜けて情報を持ち帰るなんてお茶の子さいさいである。
アステロイド帯の狭い航路、海賊ですら知らない重力井戸、廃棄されたハイパースペース・レーン。普通の船乗りなら命がいくつあっても足りない道を、ジャンゴは渡り歩いていた。
その分、バカ高い運送料を毎回支払ってたけど。銀行の秘密口座で資産運用してなければ俺は百回は破産してる。いや、本当に。
一回の依頼金だけで中型宇宙船が買えるんじゃないかと思ったことが何度もある。ジャンゴ本人は平然と請求書を送ってくるが、あれを見るたびに俺の胃はフォースでも治せない痛みに襲われていた。
「どうりで……アナキンの闇具合は深まらなかったし、帝国設立後の掃討作戦でノーバディや賞金稼ぎギルドがまっったく見つからんかったわけじゃ」
パルパルはどこか納得したように何度も頷く。
帝国設立後、帝国側は当然のようにジェダイやノーバディの残党を探させていた。ノーバディと賞金稼ぎに関わる主要人物はどうあっても見つからなかった。いや、見つけられなかったと言うべきだろう。
賞金稼ぎという連中は根無し草。定住地もなければ、所属も曖昧。金で繋がっているからこそ、金で静かに散ることもできる。
しかも、その手綱を握っていたのがジャンゴ・フェットである。帝国の情報網ですら、彼が敷いた裏の流通網と潜伏ルートを完全には把握できなかった。
「ターキンの前髪を数センチは後退させましたからね!!」
俺は胸を張ってドヤ顔をする。
帝国情報部と治安維持局、それにターキン直属の部隊まで動員していたはずだが、その悉くを空振りさせてやったのだ。あの完璧主義者が、机に地図を広げて額を押さえている姿を想像すると、今でもちょっと愉快である。
感慨深く自分の裏工作を防がれたことにうんうんと唸るパルパルに、俺もドヤ顔をする。
アナキンが闇堕ちイベントに陥りそうになるたびに巣穴に放り込んだり、最前線に放り込んだり、過激な交渉に連れてったりとしたからね!
暇を与えると悩み始めるので遺跡探索をぶち込み、考え込むと危険なので救援任務をねじ込み、何か嫌な予感がしたら賞金稼ぎと一緒に未開領域へ放り込む。……うん、今思えば、だいぶ力技だった。
「これ僕怒っていいやつかな?」
アナキンは被害者である。ごめんて。引きつった笑みを浮かべながらこちらを見ているが、その目が全然笑っていない。そんなアナキンをクワイ=ガンが肩を叩いて慰めてくれていた。
まぁ、結果的に暗黒面に堕ちなかったのだから……とでも言いたげな、なんとも言えない顔である。
「まぁ、ジャンゴに天文学的な金銭を支払ってた理由もわかったけど、総額いくら突っ込んだの?」
「億を超えてから数えてない!!」
「えぐいのぅ」
パルパルが素直に引いていた。銀河皇帝が他人の金遣いに引いているというのも妙な話だが、実際えぐいので反論できない。
金策といえ! 金策と!
俺だって好きで払ってたわけじゃない。ただ、あの男は払った分だけ確実な仕事を提供してくれる。むしろ期待以上の成果を持って帰ってくることもある。なので俺もその面に関しては頼り切っていた。いやー、便利すぎる人材というのは、麻薬に近いっすね!
「ただ、この世界で俺たちがツーカーで使える組織は存在していません」
そう言うと、場の空気が少しだけ引き締まった。くそ、モールが居てくれたらすげぇ助かるけど、この世界のモール……モールなぁ……。
自然と遠い目になる。
ナブーの戦いの後、生きて戻ってきたのにはびっくりして、そっからどっちが下につくかを決めるためにもう一回バトルして、俺がなぜかマスター枠になったけど、モールは本当に色々助けてくれた。
出会った時は互いに敵意しかなかった。斬り合い、死闘を繰り広げる。
だが、彼は俺の元にきてくれて、ノーバディ設立時から支えてくれて、ノーバディに加わったメンバーを率いていたのだ。
俺がなりきりヴェイダーデラックスセットでやらかしてる時もノーバディを率いてくれたし。
俺が表に出られない間も、文句を言いながら全部回してくれた。
報告書を叩きつけてきたり、「貴様のせいで仕事が増えた」と愚痴をこぼしたりしていたが、それでも最後まで見捨てなかった。義理堅い男だったのだ。
この世界でも居てくれたらすごーく助かるんだけどなぁ。
「ん? どうした? ログ?」
アナキンの声に、俺は思考を現実へ引き戻される。
「いや、どうせなら見つけてやりたかったなと思っただけ」
タトゥイーンでオビ=ワンとの因縁の戦いを経て命を落としたかつての相棒を思い返す。
最後まで憎悪を捨てられなかった男。その男が背負った怒りと痛みを取り除いて、モールを見つけてやりたかった。
……ないものをねだってもしょうがない。
俺は小さく息を吐く。
胸の奥にわずかに残った感傷を押し込み、意識を現実へと引き戻す。
不思議そうに首を傾げる全員を一度置いておいて、改めて作戦を説明する。
「というわけで、俺たち自身が第三勢力になります」
バーの薄暗い照明の下でそう宣言すると、三人の視線が自然と俺に集まった。
「この世界における
アナキンの言葉に頷く。
「明確な着地点はエンドアの戦いでアナキンがライトサイドに復帰してパルパルを倒すチャートを完遂させます」
銀河の未来を変えるための最低条件。
それだけは絶対にブレさせてはいけない。
ルークとヴェイダーの対話。父と息子の和解。そしてシディアスがヴェイダーに討たれる。あの結末があったからこそ、銀河には次の時代が訪れたのだ。
「ホスの戦いあたりでヴェイダーに反乱軍にかかりきりになるよう導けば良いのでは?」
事情を把握しているクワイ=ガンがそう言ってくるが、ここも結構な落とし穴がある。
ホスの秘密基地が完璧になれば帝国は確実に攻めあぐねる。反乱同盟軍はただのテロ組織ではない。優秀な指揮官もいれば、優れた技術者もいる。時間さえ与えれば、基地は要塞へと変貌する。
下手をしたら第二のデス・スター完成まで粘るんじゃないかな?
「ホスの基地が完璧に完成する前になんとかしないとエンドアの戦いフラグが立たない可能性があるから」
ホスの敗北があったからこそ、反乱軍は流浪の戦いを続け、エンドアへと繋がっていく。
逆に言えば、そこで歴史が止まると、その先が読めなくなる。俺は原作知識という唯一のアドバンテージを、自分から捨てるような真似はしたくなかった。
「そのへん、なりきりヴェイダーセットでやらかしてた時のログはどうしてたの?」
「その時はターキンたち帝国の主要人物がデス・スターと共にポップコーンの刑に処されたあとで、名声が欲しい武官たちが我先にと手柄を立てようと帝国内が戦国状態になってたから……」
思い返しても酷い有様だった。
派閥同士で足を引っ張り合い、戦功を奪い合い、時には同じ帝国軍同士で小競り合いすら起こしていた。
帝国なのに戦国時代。字面だけ見ると何を言ってるのかわからない。
「今聞いてもあの頃の帝国の迷走ぶりは酷かった気がする」
アナキンがなんとも言えない顔で呟く。そりゃそうだ。俺だって当事者でなければ信じない。
「こっちのヴェイダーはそこらへんの武官たちを物理的に締め上げることで統制を取ってるみたいだけどね」
そういうと、なぜかアナキンは胃の辺りを手で押さえた。
「なんだろう、胃がキリキリする……」
妙に青い顔をしている。
うん、強く生きろ。
「で? 具体的にどうするつもりじゃ?」
「まずはこの組織は二面性を持ちます。最終目的地は変わりませんが、帝国にも反乱軍にも属しません」
どちらかの組織に肩入れすると碌なことにならないのがこの世界ですからね。
帝国につけば独裁国家の片棒を担ぐことになるし、反乱軍につけば常に追われる立場になる。
そして何より、どちらにも正義と悪が入り混じっている。
バランスが大事なのよバランスが!
「なので、一年後にやってきたボバに反乱軍の基地の情報を渡して帝国軍をホスにご招待します」
さらっと告げると、場が静まり返った。
「……余、こういう感じでハラスメントゲリラ戦をクローン戦争中にずっと受けてたんじゃが???」
パルパルが俺のことを指差しながらそういうけど、それもそれで面白がってたでしょうが。
共和国の重要拠点を襲おうとしたら先回りされていたり、秘密工作を仕掛けようとしたらいつの間にか潰されていたり。……思い返せば、だいぶ嫌がらせじみてたな。
「まぁブチギレ役は大抵グリーヴァスだったからのぅ」
「『またあのジェダイかぁぁぁ!!』って毎回叫んでましたよね」
「叫んでおったのぅ」
二人してしみじみ頷く。
大体、俺が変な工作を仕込むと、気づいたシディアスが「ほう」と面白がる。そして実際に現場で被害を受けるのがグリーヴァス将軍であった。
見事な役割分担である。
「で? 僕たちはどうするの?」
アナキンが話を本筋に戻す。
俺は指を一本立てた。
「まずは運び屋になります」
数秒。全員が無言になった。
「え?」
見事なくらい綺麗に、三人の声が重なった。