アナキンの親友なって色々あって旅に出た英雄の話 作:紅乃 晴@小説アカ
できればエピソード6までやって、7とかもやりたい
デス・スターの艦艇が入港できる発艦ベイに降り立ったその船は、まさに異様の一言であった。
製造は間違いなくスター・デストロイヤーなどを建造するクワット・ドライブ・ヤードで建造された艦艇であり、しかも皇帝が特注した仕様……インペリアルマークの銘板まで打たれている代物だった。
だが、クワット・ドライブ・ヤードから提供された製造艦艇リストにその船の名前は存在しない。それどころか、登録されている製造年は未来だ。入力ミスかと思えば、あらゆる記録媒体で同じ数字が表示される。
船を調べた帝国のスタッフたちは、あまりにもチグハグな情報に肩をすくめるしかなかった。
「ヴェイダー卿、船の中には誰も乗っておらず、脱出ポッドも見当たりませんでした」
「……再度、くまなく船を調査せよ」
「はっ」
士官は敬礼すると足早に去っていった。その背中を見送りながらも、ヴェイダーは言いようのない違和感を覚えていた。
怖気にも似た感覚。それはまるで皇帝を前にした時のような圧迫感と、フォースの揺らぎ。
しかし、それだけではない。
どこか陽だまりのような暖かさ。母親に抱かれた幼子が感じるような安心感とでも言うべきものが、その気配の奥底に微かに存在していた。
暗黒面の匂いではないが……かといってジェダイのものとも違う。得体の知れない何か。
(何者だ……)
フォースを通じて感じる気配はある。だが、その正体だけがまるで霞でも掴むかのように判然としなかった。
一方、着陸した船の内部を調べていた士官やストームトルーパーたちは、別の意味で困惑していた。
「やはり無人だな」
「艦艇の製造データも無茶苦茶だ。反乱軍が作った偽造船かもしれないな」
皇帝仕様の船だというのに、中身は想像していたものとまるで違っていた。保管スペースに並んでいるのは価値ある美術品でもなければ軍事機密でもない。
古びた工具箱、何に使うのか分からない部品の山、使い込まれたマグカップ、補修跡だらけのバックパック……そしてなぜか大量の保存食料。
「……なんだこれは」
トルーパーの一人が棚から箱を取り出す。中には色とりどりの石ころがぎっしり詰まっていた。
「宝石か?」
「いや、ただの石だな」
「なぜ持ち歩く?」
「持ち主に聞け」
「その持ち主がいないんだが」
「それもそうだ」
さらに別の区画では、士官が壁に飾られた装飾を見ていた。
「おい、ここを見ろ」
「なんだ?」
「写真だ」
そこには見知らぬ星々を背景にした記念写真が大量に残されていた。どれも撮影者本人が写っていないが、代わりに現地で出会ったらしい異星人や動物ばかりが写っている。
髪の毛がカラフルな少女たちの集合写真や、上裸で刀を肩にかける伊達男の写真、妙に赤い色に染まった風景写真などなど……。
「皇帝専用艦で銀河観光?」
「そう考えると逆に怖いな」
帝国軍人たちは不思議そうに顔を見合わせた。
船のデータだけ見れば極秘工作船。中身だけ見れば銀河を放浪する変人のキャンピングカー。
あまりにも方向性が定まっていないため逆に不気味だった。
「反乱軍の工作船なら、もう少し工作船らしくすると思うんだが……」
「この石ころコレクションは高度な暗号かもしれん」
「その可能性は否定できんな」
「技術部に丸投げしよう」
「賛成だ」
結局、誰も結論を出せなかった。やがて高級士官が船内へ姿を現す。
「技師たちが調査に来る。一度全員外に出ろ」
「はっ」
命令を受けた兵士たちは名残惜しそうに船内を後にした。中には「石ころの意味が気になる」とぼやく者までいた。そしてハッチが閉じられ、船内は再び静寂に包まれる。
機械音だけが微かに響く無人の船。
誰もいなくなったことを確認すると、俺とパルパティーンはフォースによる霊体化を解除した。
「ふむ」
パルパティーンは去っていったストームトルーパーたちを見ながら口元を歪める。
「余は元銀河皇帝だというのに、余の専用艦をキャンピングカー扱いとはな」
「いや実際、半分くらいキャンピングカーじゃないですか」
思わずツッコミを入れるが、パルパティーンは不服そうな顔をするどころか、むしろ誇らしげに胸を張って答えた。
「冒険とは浪漫なのだ」
「石ころ集めるのもですか?」
「やけに綺麗だったのでな」
「皇帝陛下が小学生みたいな理由で石を持ち帰らないでください」
船内の棚には銀河各地で拾ってきた謎の石ころやら、古代遺跡の破片やら、用途不明の金属片やらが並んでいる。
本人は「フォースの痕跡を感じる貴重な資料だ」と言い張っているが、正直なところ半分くらいは旅行先のお土産コーナーで買った置物と大差ない。
そう呟きつつ、俺はタラップの出口から慎重に外の様子を伺った。
船外には数名のストームトルーパーと帝国軍士官の姿が見える。
白い装甲服に身を包んだ兵士たちは規則正しく巡回を続け、頭上では無数の照明が巨大格納庫を昼のように照らしていた。
デス・スター特有の無機質な灰色の壁面。どこまでも続く巨大な空間。遠くから聞こえてくる機械音と通信音。
間違いない。ここは帝国軍の最新技術が凝縮された惑星サイズの要塞そのものだった。
「まずいことになりましたね、マスター」
「ああ、まさか過去にタイムスリップしている上に……デス・スターにくるとは……」
パルパルもさすがに苦笑している。銀河皇帝時代の自分がまだ現役で、ヴェイダーも健在……銀河帝国が最も勢いづいていた時代だ。
下手をすれば銀河規模のタイムパラドックスが発生しかねない。そんな危険地帯に俺たちは今いる。しかし当の本人はというと。
「まぁなんとかなる」
「その根拠のない自信やめてもらえます?」
「私の人生はだいたいそれでなんとかなっておる」
「共和国滅亡後の帝国運営がほぼライブ感でやってたの知ってるんですからね」
「痛いところを突く」
このパルパルめ。まったく反省した様子はない。数名のストームトルーパーと士官がこちらへ視線を向けるが、パルパルは気にする様子もなく外へ出ていった。
俺も慌てて後を追う。
パルパルが手をひらひらと振る。たったそれだけだったが、その瞬間、周囲にいた全員の意識から俺たちの存在がすっぽり抜け落ちる。
まるで最初からそこに誰もいなかったかのように。
士官は巡回表へ視線を戻し、トルーパーたちは何事もなかったように持ち場へ戻っていく。パルパルほどのマスターになれば意識改変なんてちょちょいのちょいなのである。……いや、ちょちょいで済ませていい能力じゃないんだけど。
「さて、私はこの内部を知らないが……ログは知ってるだろう?」
「当然のように聞いてきますけど、俺その時なりきりヴェイダーデラックスセットでやらかしてたので……というか、マスターもデス・スターは知ってるのでは?」
「あー、この頃の私もフォースの痕跡集めに必死になってたから、全てヴェイダーなりきりセットでやらかしていたお主に丸投げしてたのだよ」
「言語化すると酷い絵面すぎて笑えないっすねぇーーっ!」
思わず頭を抱える。銀河皇帝が遺跡探索に夢中で、その間、ヴェイダー卿の格好をした俺が実務を担当。冷静に考えると帝国運営が成り立っていたこと自体が奇跡である。
そう軽口を叩きつつ、ひとまずトルーパーや監視員の意識をフォースでちょいちょいしながら内部を進んでいく。
ぶっちゃけ黒歴史ゾーンだし、ヴェイダーなりきりセットでやらかしてる俺と鉢合わせるのは避けたい。
ほんとに避けたい。全力で避けたい。こればっかりはフォースの導きがあっても避けたい。
「余としては今のログとやらかしてるログをぶつけてみるのも一考だと思うのだが?」
「いやだぁーーっ!!」
何言ってんだこのシディアス卿め!今の俺が過去の俺に会ったらどうなるか分からんだろうが!この頃の俺はフォースの意思に頭のてっぺんか足のつま先までどっぷり浸かっていて、肉体はその導きに従う傀儡状態だったんだぞ!
ヴェイダーなりきりトランス状態の俺が今遭遇すると、本人が暴走する可能性が高い。
最悪だ……想像しただけで胃が痛い。
そう思うと、この時間軸のパルパルに会うのもかなりリスキーなんだよな。
ガチで。
未来の余だよ!ログは取り戻してフォースの探究に邁進してるから安心してログを取り戻してね!
などというメッセージを伝えたらどうなるだろう。
たぶん喜ぶ。そして「未来の余がそこまで言うならもっと急がねば!」とか言い出してさらに暴走する。未来の自分からのお墨付きなど与えたら最後だ。銀河中の遺跡を三倍の速度で掘り返し始めるかもしれない。
やっぱり会わない方が賢明である。
銀河のためにも。
俺の精神衛生のためにも。
それよりもまずはトラクタービームの主電源をどうにかするのが先だ。
このままでは船を発進させることができない。幸い、構造自体はある程度覚えている。覚えているというか、黒歴史と一緒に脳みそへ焼き付いている。
できれば思い出したくなかった知識だが、こういう時だけは役に立つ。
帝国時代に破壊された遺跡がまだ残っているからそこにも行きたいと言い出しているパルパルの願いを叶えるためにも、このデス・スターからは脱出する必要がある。
というか放っておくと勝手に遺跡探しを始めそうなので、一刻も早く脱出した方がいい。
俺はため息をつきながら、巨大な帝国要塞の奥へと足を進めた。
どう考えてもろくなことにならない予感しかしなかった。
デス・スター内部はどこを見ても同じような灰色の通路が続いている。
左右対称で、さらに無機質、機能美と帝国らしい毅然とした佇まいを優先した結果、目印らしい目印もない……まるで巨大な迷路だった。
「マスター、絶対迷ってますよね?」
「迷ってない」
「いや迷ってますよね?」
「迷っておらん」
「今三回連続で同じ場所通りましたよね?」
さっき見た監視カメラに、さっき見た消火用ドロイド、さっき見た妙に傾いている配管。
完全に同じ場所である。
二人して右へ左へ全く知見がないデス・スター内部を探索する。
大抵のことはフォースで何とかなる。
扉を開けるのも、監視を誤魔化すのも、警備兵を誘導するのも。
だが何とかならないことも確かにあった。
我ら2人、現在進行形で迷子である。
「フォースに導かれればよいのでは?」
「導かれた結果がこの有様なのですが」
「不思議じゃのう」
「不思議じゃねぇんですよ」
そんな会話をしていた、その時だった。
「皇帝陛下……!?」
背筋が凍った。反射的に声の方向を見る。通路の向こうから歩いてきたのは帝国軍の制服に身を包んだ痩身の老人。
鋭い眼光に、冷徹な雰囲気。そして帝国軍最高幹部の証。
グランド・モフ……ウィルハフ・ターキンその人だった。
なんで通路でグランド・モフとかいう帝国の超大物にエンカウントすんだよ。レアエンカウントにも程があるだろ。普通こういうのって艦橋とか会議室とかで遭遇するもんじゃないのか。
よりによって通路だぞ。
しかもこちら2人とも迷子中。
最悪である。
ターキンは意識が常人よりもさらに上だったので、フォースのまやかしが通じず、通路を移動していたパルパルが見事に見つかったわけだ。
咄嗟に俺は霊体になった。それはもはや反射だった。だがパルパルは認知されているため霊体化できない。
結果、仰天しているターキンと、固まっている元皇帝という謎の構図が完成した。
「な、なぜ皇帝陛下がここに……」
ターキンの声がわずかに震えている。
うん、まぁ無理もない。
昨日までコルサントにいたはずの皇帝が、事前通達もなく、護衛もなく、突然デス・スターの通路に立っていたら誰だって驚く。むしろ気絶してないだけ立派である。
「……余の預かる場所で、お前たちが役目を果たしているかを確かめにきたのだ」
すっげ。たまたまフードを被っていたからだけど、声のトーンを落として完全にシディアス卿ムーブしてる。切り替え早っ!
さっきまで石ころ収集を肯定してた人と同一人物とは思えない。さすが何十年も皇帝をやっていただけはある。その威厳だけは本物だった。
といっても皇帝が何の事前連絡もなく、しかも護衛もつけずに一人でここに来るとか違和感しか仕事してない。さすがのグランド・モフ・ターキンも怪訝な表情は隠しきれていなかった。
視線が鋭い。
めちゃくちゃ鋭い。完全に疑ってる。
「恐れながら陛下」
「なんだ」
「護衛はどちらに?」
「必要ない」
「専用シャトルは?」
「必要ない」
「随行護衛のロイヤル・ガードは?」
「必要ない」
「…………」
「…………」
だ、駄目だ。説得力がまるでない!ターキンの眉間の皺がどんどん深くなっている。今にも「偽物では?」と言い出しそうだ!
「ひとまず、ヴェイダー卿と面会していただき、改めて視察の準備をいたします」
(ログ!我が弟子!助けて!)
途端に飛んできたフォース念話。さっきまでの威厳はどこへ行った。
(ターキンの息の根を止めていいなら)
(ここで彼を亡き者にしたら歴史に悪影響が!)
そうフォースの念で意思疎通をしていると。突然、ターキンが前触れもなく崩れ落ちた。
「え?」
ドサッとうつ伏せで倒れた。見事なまでの気絶である。二人して唖然としていると廊下の隅、照明の届かない場所から淡い青白い光が現れる。
ゆっくりと人影が浮かび上がった。
見慣れた顔、見慣れた金髪で、見慣れた呆れ顔。そして見慣れたフォースの気配。
「まったく、二人揃って何をやらかしてるんですか」
心底疲れ果てたような声だった。教師が問題児二人を発見した時の声である。
「アナキン!」
そこにいたのはアナキン・スカイウォーカー。
かつて銀河を救った英雄であり、俺が幸せにした唯一無二の親友である。アナキンは倒れているターキンを見下ろしながら肩をすくめた。
「この人、あと三十秒くらいでヴェイダーに連絡するつもりでしたよ」
「マジで?」
「マジです」
「危なかったのう」
「危ないのはあなた達です」
アナキンの視線が二人に突き刺さる。
親友を見る目ではない。補導された不良少年を見る教師の目だった。
「まず聞きますが、どうして過去のデス・スターにいるんです?」
俺とパルパルは顔を見合わせた。
そして。
「「それがですね……」」
完全に言い訳を考える子供みたいな顔になった。