アナキンの親友になって色々あって旅に出た英雄の話   作:紅乃 晴@小説アカ

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ログ「オリチャーの責任はここで取ります」


ホスの戦い

 

 

 

「うおおおお馬鹿野郎!?」

 

案の定というか、何というか。

 

サウザンド・アドベンチャー号から積荷を下ろしている、まさにそのタイミングで帝国軍が襲来した。

 

氷の大地を震わせるような爆発音がエコー基地全体に響き渡り、警報がけたたましく鳴り響く。基地内を駆け回る兵士たちの怒号と、輸送ドロイドの警告音が入り混じり、ほんの数分前まで慌ただしくも平穏だった空気は、一瞬にして戦場へと変貌していた。

 

シールドは張られているものの、敵の降下部隊の侵入を許してしまった。

 

反乱軍はレイア・オーガナ指揮のもと、前哨基地であるエコー基地を放棄し、反乱軍の集結拠点への脱出計画を急ピッチで進めていた。

 

司令部直轄部隊はホスを脱出する準備を進め、その時間を稼ぐため、ホスの志願兵たちによって構成された殿部隊が帝国軍の降下部隊を足止めすることになった。

 

その殿部隊を援護するため、今や反乱軍の屋台骨となりつつあるルーク・スカイウォーカーが主体となった飛行部隊……通称「ローグ中隊」が出撃する。

 

格納庫の巨大な隔壁がゆっくりと開き、白銀の吹雪が機体へと叩きつける。パイロットたちは次々とコックピットへ飛び乗り、エンジンの唸り声が基地全体を震わせていった。

 

「スノースピーダー……趣がある外観だが……この機体……すごいっっ」

 

「言ってる場合か!!」

 

ダッシュの伝手でローグ中隊として飛ぶことになった俺たち。

 

ルークたちが防衛するAゾーンの反対側、歩兵部隊が少なく、固定砲台だけで持ち堪えることになったBゾーンを防衛する任務を任された。

 

格納庫を飛び出したスノースピーダーは、白い雪煙を巻き上げながら低空を疾走する。

 

アナキンとダザンが乗るスノースピーダー。その横にぴったりと付くように、俺が乗るスノースピーダーも驚異的な速度で雪原の上を滑るように飛んでいく。

 

眼下には氷原がどこまでも広がり、遠くでは巨大なAT-ATの黒い影が雪煙を巻き上げながらゆっくりと進軍していた。その姿はまるで、白銀の世界を踏み潰す鋼鉄の怪物だった。

 

T-47エアスピーダーは、インコム社が製造した低高度飛行用エアスピーダーだ。

 

造船所や工業施設での使用を目的に設計され、牽引機やヘビー・リフターとして活用された。

 

この機体、実は極めて頑丈で、重い貨物の牽引や、低速での衝突といった産業分野において発生しうる様々な作業や危険に耐えることができた。

 

何よりの特徴は、このスピーダーが二人乗りであることだ。狭いコックピットにパイロットとシステム・オペレーター兼荷役担当者が背中合わせに乗り込む独特の構造となっている。

 

特に後方には電磁ハープーンの発射装置が搭載されており、ハープーンを貨物そりや船体へ向けて発射し、トウ・ケーブルで重量物を運搬することができた。

 

反乱軍はこの機体を極寒の惑星ホスの環境に合わせて改造し、「スノースピーダー」と呼ばれる機体へと生まれ変わらせた。

 

重レーザー砲と追加装甲が施されたこの機体は、抜群の運動性能を誇る短距離攻撃クラフトとなっている。

 

しかし、もともと民間機であるため装甲は薄く、防御用シールドも搭載されていない。帝国軍との戦闘では、機体性能を信じ、スピードと敏捷性だけを武器に敵のレーザー攻撃を回避し続けなければならなかった。

 

言い換えれば、撃たれたら終わり。だからこそ、この機体はパイロットの腕がそのまま生存率へ直結する、実に反乱軍らしい機体でもあった。

 

「とにかくBゾーンから来てる奴らを食い止めるのが俺たちの役目だ!」

 

ダッシュと反乱軍パイロットが乗るスノースピーダーがAT-STや偵察ドロイドを次々と撃墜していく中、アナキンが駆るスノースピーダーは抜群の操縦技術でAT-ATの股下をすり抜け、その巨体を翻弄するような驚異的な旋回で重レーザー砲をかわしていく。

 

まるで重力という概念そのものを無視しているかのような機動だった。

 

「準備はどうですか!」

 

「いつでもどこでもロックンロール!」

 

ちなみに俺の後ろの席に座るのは、毎度お馴染みパルパティーンである。

 

元銀河皇帝だけど、そんな人物が反乱軍の特徴的なオレンジ色のパイロットスーツに袖を通し、ヘルメットまで被っている光景は、もはやカオスにもほどがあった。

 

本人は妙にノリノリで、「なかなか動きやすいではないか」などと言いながらヘルメットの通信機を調整している始末である。銀河中の誰もがこの光景を見たら卒倒するだろう。

 

そんなパルパティーンは、俺がAT-ATの死角へ滑り込んだのと同時にハープーンを発射した。発射音とともに鋼鉄製の銛が巨大な脚部へ突き刺さり、勢いよく伸びたトウ・ケーブルがAT-ATの脚へ絡みついていく。

 

「そのまま回れ!」

 

パルパティーンの指示と同時、俺は操縦桿を大きく切り、巨大な四脚歩行兵器の周囲を高速で旋回する。

 

スノースピーダーは雪煙を巻き上げながら氷原をかすめ、トウ・ケーブルは巨大な脚をぐるぐると縛り上げるように巻き付いていった。

 

巨大な鋼鉄の怪物を相手に、小さなスピーダーが蜘蛛の糸を張るように翻弄していく光景は、まさに反乱軍らしい奇策そのものだった。

 

「やれやれ、アナキンの息子が考えた作戦だとは聞いたが、貨物ケーブルで足を引っ掛けるとはぶっ飛んだ作戦だのぅ!」

 

どこか楽しげに笑うパルパティーンの声がヘッドセット越しに響く。元銀河皇帝とは思えないほどノリノリである。

 

「感心してる暇があったら、しっかり巻いてください!」

 

充分な回数だけ脚部へ巻き付けたタイミングで、パルパティーンは迷いなくトウ・ケーブルを切断した。

 

勢いよく引っ張られていたAT-ATの巨体が、そのまま前方へと傾いていく。鋼鉄の四本脚がもつれ、数十メートルはあろうかという巨体が雪原へゆっくりと倒れ始めた。その衝撃だけで周囲の雪が津波のように巻き上がり、轟音とともに白銀の世界を震わせる。

 

そして、その瞬間を待っていたかのようにダッシュのスノースピーダーが低空から一直線に突っ込み、頭部へ向けて重レーザー砲を連続で叩き込んだ。

 

赤い閃光が装甲を焼き切り、AT-ATの頭部は爆炎を上げながら吹き飛び、制御を失った巨体はそのまま完全に沈黙し、氷原へと崩れ落ちた。

 

「Bゾーンは歩兵が少ない!こちらは俺たちで食い止めるしかないぞ!」

 

ダッシュの怒号が通信回線に響く。しかし、その言葉を裏付けるように戦況は悪化の一途を辿っていた。

 

隣を飛んでいた、名も知らない反乱軍のスノースピーダーがAT-ATの重レーザー砲をまともに受ける。一瞬で右翼が吹き飛び、機体は火を噴きながら錐揉み回転を始めた。

 

「うわあああああ!」

 

短い悲鳴だけが通信機から流れ、次の瞬間には雪煙の中へと消えていく。

 

助けに向かう余裕など誰にもない。俺たちは目の前の敵を止めるだけで精一杯だった。

 

すでにAT-ATは三体撃破している。

 

だが、その代償は決して小さくない。俺も、アナキンも、ダッシュの機体も、切り札だったハープーンはすでに底を尽きていた。

 

残る武装は重レーザー砲のみ。あの巨体を真正面から相手にするには、あまりにも心許ない。

 

そして、その瞬間だった。

 

俺たちの背後で、エコー基地を守っていた巨大なシールド・ジェネレーターが眩い閃光を放つ。

 

まるで太陽が地上へ落ちたかのような白い光がホスの雪原を照らし出し、数秒遅れて耳をつんざく爆発音が轟いた。巨大な火柱が空高く立ち上り、無数の残骸が雪原へと降り注ぐ。

 

反乱軍最大の防御設備は、ついに帝国軍の砲撃によって破壊された。

 

「時間切れだ!全機撤退!」

 

ダッシュの声に迷いはなかった。守るべきシールド・ジェネレーターが吹き飛ばされた以上、軌道上に待機していた帝国軍本隊が本格的に上陸してくる。

 

ここから先は持久戦ではなく、生き残るための撤退戦だ。殿部隊も、ローグ中隊も、残された兵士たちも、一斉に機首をエコー基地へ向ける。

 

基地各所では輸送船が次々と離陸し、雪煙を巻き上げながら大気圏へ向かっていく。

 

その上空では、TIEファイターと反乱軍機が入り乱れ、なおも激しい空中戦を繰り広げていた。

 

「オーウェン!ログ!お前らも撤退だ!第三ベイに飛び込め!」

 

そう言って格納庫へ撤退していくダッシュに続き、俺たちも機体を反転させる。背後では、なおもAT-ATの砲撃が雪原を抉り、赤いレーザーが冷たい空気を切り裂いていた。

 

基地が落ちる。

 

その現実を肌で感じながら、俺とアナキンは最後まで機体を低空で滑らせ、吹雪に紛れるようにエコー基地第三ベイへと撤退するのだった。

 

 

 

 

第三ベイでは問題が発生していた。

 

撤退してきた兵士たちが右往左往し、格納庫には怒号と警報が絶え間なく響いている。天井の警告灯が赤く点滅を繰り返し、遠くからは爆発音と振動が何度も伝わってきた。

 

ダッシュの船、アウトライダーに乗船しているプロトコル・ドロイド、リーボいわく、ジェネレーター爆破時に基地全体の電源も落ち、第三ベイの巨大な隔壁が開かなくなっているようだった。

 

壁際では整備兵たちが非常電源へ接続しようと必死に作業を続けているが、帝国軍の侵攻速度の方が明らかに速い。

 

このままではアウトライダーは離陸できない。

 

アウトライダーとは別のエリアへ移動させていたサウザンド・アドベンチャー号は、幸いにも独立電源のおかげで何とか出発できるようだ。

 

だが、ここまで付き合ったのだ。ダッシュを見捨てるわけにはいかない。俺は迷うことなく二人へ振り返った。

 

「ダザン。アナキンと共にダッシュについて第三ベイの扉を開けるために非常電源を立ち上げてきてくれ」

 

「おいおい、いいのか?」

 

ダッシュが意外そうな表情で聞いてくる。その問いに答えたのは俺ではなく、隣に立つアナキンだった。

 

「ここまできて見捨てるほど薄情じゃない。ただ脱出時はアウトライダーに乗せてくれないか?」

 

どこか冗談めかした口調だったが、その瞳は真剣そのものだった。ダッシュは一瞬だけ笑みを浮かべる。

 

「一匹狼の船だが、いいだろう。ログ、お前はどうする?」

 

ダッシュの問いに、俺は肩をすくめながら答える。

 

「アウトライダーが見つかるのはまずい。基地内に入った帝国軍の足止めをしてくるさ」

 

帝国軍が第三ベイへ到達すれば、非常電源を復旧させる前に全て終わる。時間を稼ぐ者が必要だった。

 

「気をつけろよ。ここを出る時は二隻一緒だ」

 

「あぁ、そっちも気をつけて」

 

短い言葉だったが、それだけで十分だった。戦場では長々と別れの言葉を交わす余裕などない。互いに軽く頷き合い、それぞれが自分の役目へ向かって走り出す。

 

ダッシュはアナキンとダザンを連れ、非常電源を復旧させるためエコー基地の奥へと駆けていく。足音はすぐに基地内の喧騒へ溶け込み、姿も角を曲がった先へ消えていった。

 

残されたのは、パルパルと俺の二人だけ。

 

そして、サウザンド・アドベンチャー号にはクワイ=ガンが残り、いつでも離陸できるよう待機してくれている。

 

基地の中へ響くブラスターの発砲音にストームトルーパーたちの号令。徐々に近付いてくる重い足音。帝国軍は、もうすぐそこまで来ていた。

 

「で?どうするつもりじゃ?ログ」

 

そう聞いてくるパルパティーンに、俺は不敵な笑みを浮かべて答えた。

 

「ちょっとヴェイダー卿にメッセージを託そうと思って」

 

その一言だけで、パルパティーンは全てを察したらしく、口元がゆっくりと吊り上がる。

 

「さて……シスの帰還じゃ。やる時はドラマティックにやるのが余のポリシーじゃからな」

 

その笑みは何一つ変わっていなかった。むしろ今は皇帝という立場から解放されている分、余計に楽しそうですらある。

 

「そういうと思いましたよ」

 

思わず苦笑すると、パルパティーンは満足そうに頷いた。次の瞬間、俺たちの身体は静かに輪郭を失っていく。フォースが肉体を包み込み、存在そのものが淡い光となって現実世界から薄れていく。

 

周囲を慌ただしく走り回る反乱軍兵士たちは、その変化に誰一人として気付かない。

 

俺たちはそのまま壁も機材もすり抜け、少し離れた格納エリアに待機しているサウザンド・アドベンチャー号へ向かうのだった。

 

 

 

 

ラムダ級T-4aシャトル……通称、インペリアル・シャトルに乗ったダース・ヴェイダーがエコー基地へ入ってきたのは、ログたちが霊体となってから少し後のことだった。

 

帝国軍が占拠した第一ベイ。白い氷壁に囲まれた巨大格納庫へ、翼を大きく広げたインペリアル・シャトルがゆっくりと降下する。

 

着陸脚が氷の床へ触れ、蒸気が噴き上がる。

 

タラップが静かに降りると、漆黒の装甲に身を包んだダース・ヴェイダーが姿を現した。

 

その背後には数名の尋問官。さらにストームトルーパーたちが周囲を固め、完全武装のまま基地内部へ展開していく。

 

ヴェイダーが一歩踏み出すたび、規則正しい機械呼吸だけが静まり返った格納庫へ響いた。

 

「状況はどうなっている」

 

低く重い声に、待機していた士官たちの背筋が伸びる。

 

「はっ。現在は基地内の残党勢力の排除と、脱出を図っている反乱軍たちを捕らえているところです」

 

報告したのはマクシミリアン・ヴィアーズ将軍だった。冷静な報告を受けながらも、ヴェイダーの意識は別の方向へ向いた。

 

フォースが、不穏な揺らぎを伝えてくる。

 

何かが来る。そう確信した次の瞬間だった。

 

轟音。格納庫の入口から、一隻の船が猛スピードで侵入してきた。

 

トルーパーたちが思わず身構える。

 

それは帝国軍御用達、クワット・ドライブ・ヤード社製の船体をベースにしながらも、あらゆる箇所が独自改造された異様な船だった。

 

美しくも禍々しいその機体は、一切減速することなく突っ込み、ヴェイダーが乗ってきたインペリアル・シャトルの右翼へ容赦なく激突する。

 

金属がひしゃげる轟音。巨大な翼は根元から吹き飛び、インペリアル・シャトルは大きく傾いた。

 

そのまま船は強引に着底する。着陸の衝撃と爆風が格納庫全体を揺らし、猛烈な風圧が吹き荒れた。

 

数人のストームトルーパーが足を取られて転倒し、氷の床を転がる。

 

ヴェイダーの黒いマントも激しく翻り、周囲には雪と氷の粉塵が舞い上がった。

 

その船を見た瞬間、ヴェイダーは理解していた。

 

忘れるはずがない。

 

かつてデス・スターで。

 

ジオノーシスで。

 

そして銀河各地で、自分を幾度となく翻弄してきた忌まわしい船。

 

船体名だけは、今なお鮮明に記憶している。

 

サウザンド・アドベンチャー号。

 

着陸と同時にタラップがゆっくりと降りる。静まり返った格納庫を前に、真っ黒な外套を身に纏った二つの影がゆっくりと姿を現した。

 

雪を踏み締めたその瞬間、二人の手に握られていたライトセーバーが起動し、真紅の光刃が暗い格納庫を照らした。血のような赤い輝きが雪へ反射し、不気味な光景を作り出す。

 

「まさか……」

 

尋問官の一人が驚いたように目を見開く。

 

青や緑の光刃なら、この銀河でも何度となく目にしてきた。

 

だが、真紅の光刃は違う。それはシスの暗黒卿だけに許された色。帝国でも、皇帝直属の存在だけが持つ象徴だった。

 

「ようやく会えたな、オールドマスター」

 

ヴェイダーが低く言う。その声には怒りと執念が滲んでいた。それに応えるように、オールドマスターと呼ばれた男はゆっくりとフードを脱ぐ。

 

「久しいな、ヴェイダー卿。名もなき星で会って以来だ」

 

その落ち着いた声音を聞いた瞬間、ヴェイダーの内側で暗黒面が大きく渦巻く。

 

今度こそ逃がさない。切り落とされた腕に傷ついた肉体。そして苦々しい敗北の記憶。その全ては帝国が誇る最新技術によって補われ、かつて以上の戦闘能力を手に入れている。

 

さらに今回は違う。尋問官も連れてきているし、無数のストームトルーパーもいる。

 

完全包囲。二人だけでノコノコ姿を現した相手など、恐るるに足りない。

 

「あの息子はどうした」

 

「彼は今回は外れだ。その代わり、偉大なるマスターが来てくれている」

 

「マスターだと?」

 

オールドマスターの隣いるフードをかぶった男がその口元に笑みを浮かべた。

 

「余のことを覚えているか? 強く、か弱い、機械に頼る者よ」

 

そう言うフードを深く被った男に、ヴェイダーは怒りを漲らせる。

 

その声にその口調。胸の奥底に眠る記憶を、無理やり引きずり起こそうとするようだった。

 

だが、相手が誰であろうと関係はない。ここで全て葬る。

 

「余の名は、ダース・プレイガス。覚えておくがいい」

 

その名が告げられた瞬間、格納庫全体が凍り付いた。尋問官たちは互いの顔を見合わせ、トルーパーたちもざわめきを隠せない。

 

皇帝シディアスの師。とうの昔に死んだはずの伝説のシス。その名が、今この場で名乗られたのだ。

 

「ハッタリを。貴様のような存在は私が消し去ってくれる」

 

そう言うヴェイダーの隣から、一人の尋問官が前へ出る。ダブルブレード・ライトセーバーを回転させながら、傲慢な笑みを浮かべて堂々と歩み寄っていく。

 

プレイガスと名乗った男へ斬りかかろうとしたが、オールドマスターが静かにその間へ割って入った。真っ赤な光刃が唸りを上げ、尋問官の光刃と交差する。凍てつくホスの風が二人の外套を揺らし、格納庫の照明が刀身を鈍く照らした。

 

「シスを語る不埒な者め。お前たちなどこの俺が……」

 

そう叫びながら、尋問官は高速回転するダブルブレード・ライトセーバーを振るう。

 

彼は、帝国の尋問官として数え切れないほどのジェダイ残党を狩ってきた自負があった。相手が何者であろうと、自分が負ける未来など微塵も想像していない。

 

だが、二人の剣が交わったのは、わずか二度。

 

たった二度だった。

 

甲高い金属音が響いた直後、オールドマスターの手首がわずかに返る。その一瞬の動きだけで、光刃は回転するダブルブレード・ライトセーバーの特徴的な円盤状ガードの僅かな隙間へと滑り込んだ。

 

まるで最初からそこへ導かれていたかのような、寸分の狂いもない一撃。

 

「な……」

 

何、と尋問官が理解した時には遅かった。

 

ライトセーバーごと腕が両断される。高速回転していた円盤状の武器は火花を散らしながら雪原へ転がり落ちた。

 

悲鳴を上げる暇すら与えない。オールドマスターはそのまま身体を半歩踏み込み、無駄のない横一閃を放つ。

 

真っ赤な軌跡が一筋走り、自信に満ち溢れていた尋問官の首が宙を舞い、ゆっくりとヴェイダーの足元へ転がってきた。

 

胴体だけが数歩ふらつき、そのまま雪の上へ崩れ落ちる。

 

「これが隠し玉のつもりか?こんな相手……我がマスターには不釣り合いだ」

 

そう言うと、オールドマスターはライトセーバーを握っていない反対の腕をゆっくりと持ち上げる。

 

そして指先を軽く折り曲げ、まるで遊び相手を誘うように「来い」と手招きした。

 

その挑発に、ほかの尋問官たちの表情が怒りで歪む。ヴェイダーは一瞬だけ様子を見極めた後、すぐさま残る尋問官たちを前へ出した。

 

四人が同時に飛び出す。間髪入れずの四方向から繰り出される斬撃。ダブルブレードとシングルブレードが複雑な軌跡を描き、オールドマスターの首を切り裂かんと襲いかかる。

 

尋問官の力を帝国兵で知らぬ者はいない。ジェダイ狩りの専門家であり、それが四人がかりなら勝敗など考えるまでもない。

 

誰もがそう思っていた。

 

だが、その余裕は長くは続かなかった。

 

甲高い剣戟が数度響き、次の瞬間、一人目の尋問官の身体が静かに止まる。遅れて胴体が上下へずれ、そのまま上半身と下半身へ真っ二つに分断された。焼けた肉の匂いと空気が抜ける音があたりに響く。

 

それを囮に、二人目の尋問官が死角から斬り込む。仲間の死体を盾にした、実戦で磨き上げられた奇襲だった。

 

しかしオールドマスターの手首が滑らかに回る。真っ赤な光が円を描き、美しいセイバー・スピンが完成した。その回転の中へ飛び込んだ尋問官の腕が、まるで吸い込まれるように切断される。続く返しの一閃で、今度は首が飛んだ。

 

三人目は背後へ回り込み、一撃必殺を狙う。だが、オールドマスターは振り返ることすらしない。紙一重で斬撃をかわし、そのまま身体を沈めながら斜め上へ切り上げた。尋問官の身体は真っ二つに裂け、そのまま雪原へ崩れ落ちる。

 

最後の一人。恐怖を押し殺しながら飛び込んできた尋問官へ、オールドマスターは独特の構えを取った。

 

身体を大きく捻り、まるで嵐の中心に立つような構え。次の瞬間には姿が霞み、真っ赤な光だけが円を描いた。

 

そのフォーム。かつてジェダイ・オーダーに存在した剣技。メイス・ウィンドウだけが極めた第七の型……ヴァーパッド。

 

尋問官の身体は一瞬で切り飛ばされ、雪煙を巻き上げながらホスの大地へ沈んだ。

 

瞬く間の出来事だった。

 

わずか数十秒。帝国が誇る四人の尋問官は、誰一人として傷一つ負わせることすら叶わず、ホスの雪原へ骸を晒していた。

 

オールドマスターは静かにライトセーバーを回転させる。真っ赤な光が円を描き、自然な動作で構えへ戻る。それはまるで呼吸を整える程度の所作だった。

 

「撃て」

 

ヴェイダーは即座に周囲のストームトルーパーたちへ射撃命令を下した。数十丁のブラスターが一斉に構えられ、引き金が引かれた。

 

赤いレーザーが雨のように放たれるが、放たれたはずの真紅のレーザーが、空中で静止した。

 

それも一本ではない。何十本もの光線が、その場に固定される。まるで時間そのものが止まったかのようだった。

 

そして同時にオールドマスターやダース・プレイガスと名乗った男へ敵意を向けていた者たちの身体が、一斉に硬直する。

 

誰一人として指一本動かせない。

 

「バカな……これほどのフォースを……」

 

ヴェイダーの機械音声に、わずかな驚愕が滲む。

 

「言ったはずだ、ヴェイダー卿。暗黒面への理解が浅い……そしてなにより、お前はフォースがなんたるかを知らなすぎる」

 

オールドマスターが静かに手を翳す。その動きに呼応するように、空中で止まっていた無数の赤いレーザーがゆっくりと向きを変えた。

 

撃ち出された軌道を、逆再生するように、一斉に放たれる。放った本人たちへ向かって。

 

悲鳴が格納庫へ響く。ストームトルーパーたちは自らのブラスターに貫かれ、次々と倒れていった。

 

やがて最後の一人が崩れ落ちると、再び静寂がホスの大地を支配した。

 

残されたのは、ダース・ヴェイダーと、その二人に敵意を向けていなかった者たちだけだった。

 

先ほどまで銃声と爆発音に満ちていた第一ベイは、不気味なほど静まり返っている。

 

床には無数のストームトルーパーと尋問官たちの亡骸。舞い上がった雪がゆっくりと降り積もり、その死すら白く覆い隠そうとしていた。

 

「どうした、ヴェイダー……怖いか?」

 

真っ赤な光刃を地面へ向けたまま、オールドマスターがゆっくりと歩み寄ってくる。

 

一歩。また一歩。その歩みは決して速くない。だが、そのたびに空気そのものが重く沈み込んでいく。

 

底知れない暗黒面。その圧倒的な存在感は、まるで深淵そのものが人の姿を取って歩いているかのようだった。

 

その気配に当てられたマクシミリアン・ヴィアーズ将軍は、その場で膝をつき、顔面を蒼白にしたまま意識を失う。

 

ヴェイダーですら、無意識のうちに数歩後ろへ下がっていた。

 

「恐れる?この私が……暗黒卿であるこの私が恐れなど……」

 

そう言葉を吐いた、その瞬間だった。

 

オールドマスターが静かに片手をかざす。

 

何の予兆もない。ヴェイダーの巨体は、まるで重力という概念を失ったかのように宙へ持ち上がった。

 

「っ!」

 

オールドマスターが手を横へ払う。

 

それだけだった。ヴェイダーの身体は猛烈な勢いで氷岩の壁へ叩きつけられる。

 

轟音と共に分厚い氷壁が砕け散る。

 

続けざまに天井へ。床へ。反対側の壁へ。

 

まるでバスケットボールでも扱うかのように。

 

あるいは、不要になった玩具を乱暴に放り投げるように。ヴェイダーの身体はフォースによって自在に振り回され、幾度となく、容赦なく叩きつけられた。

 

鈍い衝撃音が格納庫へ何度も何度も響き渡り、生命維持装置から火花が散る。黒い装甲は砕け、人工関節が悲鳴を上げる。

 

それでも終わらない。

 

オールドマスターの表情は変わらない。ただ淡々と。圧倒的な力の差だけを見せつけるように。

 

「ここらでお前の立場を理解させようと思ってな」

 

数分間。本当に数分間。ヴェイダーは一方的に壁や天井、床へ叩きつけられ続けた。

 

抵抗も反撃もフォースによる防御すら許されない。

 

やがてオールドマスターは軽く手を振る。

 

するとヴェイダーの身体は力なく宙を舞い、そのままゴミでも捨てるかのように雪原へ投げ捨てられた。

 

鈍い音とともに転がる黒い巨体。その手足は異様な方向へ曲がり、生命維持装置は火花を散らし続け、呼吸器からは断続的な警告音が漏れている。

 

仮面にも無数のひびが入り、その奥から荒く乱れた呼吸音が微かに聞こえていた。

 

立ち上がることすらできない。

 

完全な敗北だった。

 

オールドマスターはゆっくりとしゃがみ込み、ヴェイダーの顔を覗き込む。

 

「その立派な自尊心は誉めるが、相手を侮るのはお前の悪い癖だ、アナキン」

 

か細い機械の呼吸音だけが返ってくる。

 

返事はない。辛うじて意識を保っているだけだった。

 

今回、オールドマスターは徹底的にヴェイダーの心を折りにきていた。少しでも「勝てるかもしれない」という希望を残せば、この男は何度でも挑んでくる。

 

そのたびに怒りを糧にし、暗黒面へ沈み続ける。その学習のなさに、オールドマスターもいい加減うんざりしていたのだ。

 

だからこそ今回は違う。力の差を絶望として刻み込む。二度と挑もうなどと思えないほどに。

 

「さて、ゆっくりとお話しができるな。感じられるか?アナキン」

 

ヴェイダーの意識が薄れ始める。するとオールドマスターは指先からフォース・ライトニングを放つ。青白い稲妻がヴェイダーの生命維持装置を走り抜け、瀕死の肉体へ無理やり刺激を与える。

 

失われかけた意識が、強引に現実へ引き戻された。

 

その瀕死の中で、ヴェイダーは確かに感じた。

 

暗黒面でも、憎しみでもない。忘れようとしても忘れられなかった、懐かしいフォースを。

 

「バド……メ……?」

 

「あぁ、そうだ。感じた通りだ」

 

「そんな……うそだ……」

 

震える声。その一言には、ダース・ヴェイダーではなく、かつてのアナキン・スカイウォーカーの面影が宿っていた。

 

「わかるだろう?ここにいたんだ。アナキンとパドメ……お前の愛する人が残した……息子と、娘が」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

ヴェイダーの瞳が大きく揺れる。

 

パドメは死んだ。

 

そう聞かされてきた。

 

自分自身も、子供を抱いたまま命を落としたと信じ込んでいた。

 

怒り。痛み。憎しみ。怨念。

 

その全てで心を塗り潰してきたからこそ、気付けなかった。

 

今、この場所には確かに残っている。

 

愛した女性のフォースが。

 

そして、その血を受け継ぐ二つの命の残り香が。

 

それは暗黒面では決して感じることのできない、温かな光だった。

 

「……ルーク……レイア……」

 

その名を口にした瞬間、ヴェイダーの胸に、忘れていた何かが静かに疼いた。

 

「二人を見つけ、そして知るんだ。お前が捨てたと言った愛をな」

 

そう言って、オールドマスターは静かに立ち上がる。

 

もう振り返ることはない。彼は、一部始終を黙って見守っていたマスターと共に、ゆっくりとサウザンド・アドベンチャー号へ歩いていく。

 

二人の背中は吹雪の向こうへ溶け込み、やがてタラップを上って船内へ消えた。

 

エンジン音が静かに唸り始める。

 

仰向けに倒れたヴェイダーは、ひび割れたマスク越しに、ぼやける視界でその船が第一ベイを飛び立つ姿を見つめていた。

 

やがてサウザンド・アドベンチャー号は雪煙を巻き上げながらホスの空へ舞い上がり、吹雪の彼方へと消えていく。

 

その姿が完全に見えなくなるまで見届けると、ヴェイダーは懐かしいフォースの温もりに身を委ねるように、静かに意識を手放すのだった。

 

 

 

 




フォース「いや……その……はい……いいですもう」

小話 一部始終を見てたパルパル

パルパル「え、うわ、うーわ。我が弟子のダークサイドが深淵すぎて滅っ!あんな容易くできるなんてえぐっ!え、余、あれを弟子に持ってるの?あれに殺されるなんて本望すぎる。え?殺すなんてとんでもない?一緒にフォースの深淵を見つけよう?我が弟子は神か?」こっちみてフォース見せてといううちわを持ってる
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