アナキンの親友になって色々あって旅に出た英雄の話 作:紅乃 晴@小説アカ
幻の星、タナロー。
コーボー深淵……あるいは単に深淵と呼ばれるその領域は、アウター・リム・テリトリーのコーボー星系に存在する天体異常領域であり、危険に満ちた謎多き星雲だった。
コーボー物質の起源とされ、惑星コーボーや砕かれた月の近くに位置するその深淵は、通常の航行技術では決して通り抜けることができない。
幾多の船が飲み込まれ、帰還することなく姿を消したことから、いつしか銀河では「宇宙船の墓場」とまで呼ばれるようになっていた。
しかし、その死の領域のさらに奥地には、タナローと呼ばれる居住可能な楽園の惑星が存在する。
その存在を知る者は極めて少なく、知っていたとしても、そこへ至る術を持つ者はさらに限られていた。
コーボーに降り立った帝国の特殊部隊、インフェルノ隊のアイデン・ヴェルシオは、父であるギャリック・ヴェルシオ提督から与えられた極秘任務として、このコーボーでタナローへ繋がる手がかりを探していた。
かつて栄えた寺院の探索。コーボーに点在するわずかな住人への聞き込み。そして、古い記録や遺跡の調査。
地道な探索を積み重ねる中で、アイデン率いるインフェルノ隊は、ついに森のアンテナへと辿り着いていた。
森のアンテナは、惑星コーボーの玄武岩の森に存在した巨大施設だ。
ハイ・リパブリック時代。
銀河共和国とジェダイ・オーダーによって築かれた研究および実験施設であり、コーボーに秘められた数々の謎や周辺宙域の研究、そして不可思議な性質を持つコーボー物質を操る装置の実験が行われていた場所でもある。
長い年月を経た今では各所が朽ち果て、植物が施設を覆い尽くしていたが、その巨大な構造物はなお往時の威容を保っていた。
施設の中心に高くそびえるリハビリテーション・ウイングには、コーボー星系の“深淵”へ航路を切り拓くために用いられた巨大アンテナが設置されている。
同種のアンテナは月面研究所とコーボー観測所にも設置されていたことは、すでにインフェルノ隊の調査で確認済みだった。
しかし、それらを調べ尽くしてもなお、惑星タナローへ辿り着くための決定的な手がかりは掴めずにいた。吹き抜ける風が、錆び付いたアンテナの骨組みを軋ませる。その乾いた音だけが、静まり返った遺跡に虚しく響いていた。
「コマンダー・ヴェルシオ。やはりこのアンテナにも手がかりはないようです」
報告するデル・ミーコは、携帯端末の解析結果を確認しながら肩を落とした。
インフェルノ隊は、銀河帝国の帝国宇宙軍に所属するエリートTIEファイター・パイロット部隊である。
スカリフの戦い、そしてヤヴィンの戦いでの帝国の衝撃的な敗北を受けて創設された特殊部隊であり、銀河内戦中は過激反乱分子パルチザンへの潜入や破壊工作など、高度な特務任務を数多く遂行してきた。
少数精鋭であるがゆえの高い機動力と柔軟性を持ち、通常部隊では対応できない極秘任務を請け負うことも少なくない。
その指揮官であるコマンダー、アイデン・ヴェルシオは、デル・ミーコの報告に静かに耳を傾けると、小さく息を吐いた。
ここ数か月に及ぶ調査で蓄積した疲労は、さすがの彼女にも隠しきれなくなっていた。
「探索は続行する。タナローに不穏分子がいるという情報がある」
簡潔で迷いのない命令。それがどれほど現実味に欠ける内容であっても、任務である以上、彼女は遂行するだけだった。
「幻の星と呼ばれる場所にいる不穏分子ですか。なかなかファンタジーな任務ですな」
そう肩をすくめるギデオン・ハスク。冗談めかした口調ではあったが、その表情には隠しきれない疲労が滲んでいた。
彼らはこの数か月、コーボー周辺で与えられた任務を忠実にこなし続けてきた。しかし、どれだけ遺跡を調べ、住民から情報を集めても、得られる手がかりは断片的な伝承や噂話ばかりだった。
コーボーの住人たちからは、いつしか「タナローという幻を追い続けるトレジャーハンター集団」と認識される始末である。
もちろん、帝国の極秘任務であることを知る者など誰一人いない。成果の見えない調査は隊員たちの精神を少しずつ削り続けており、その疲労はすでに限界へと近づいていた。
それでも、アイデンは歩みを止めない。
幻と笑われようとも、帝国が命じた任務である以上、その先にある真実へ辿り着くまで、インフェルノ隊が探索を終えることはなかった。
「秘密基地から反乱軍は散り散りに逃げたという情報もあります」
デル・ミーコが携帯端末を操作しながら最新の報告を口にする。
ホスから脱出した反乱軍は銀河各地へ散開し、帝国軍はその追跡に全力を挙げている。今この瞬間も各宙域では追撃戦が続いているはずだった。
「反乱軍のクズどもを捉えるチャンスだというのに、我々はなんでこんな任務に就いてるんだ」
ギデオン・ハスクは不満を隠そうともせず吐き捨てるように言った。
エリート部隊であるインフェルノ隊が、何か月もの間、遺跡を巡り、伝承を集め、幻の惑星を探し続ける。彼からすれば到底納得できる任務ではない。
「提督の命令だ。みなまで言うな」
アイデンは短くそう返した。その声音はいつも通り冷静だったが、心身ともに疲労が蓄積していることは二人にも伝わっていた。
進捗報告を父であるギャリック・ヴェルシオ提督へ何度送っても、返ってくるのは決まって一言だけ。
『継続して任務にあたれ』
その命令に従い続けてきたものの、探索を始め、各地から手がかりを集めるにつれ、アイデン自身も薄々感じ始めていた。
タナローへの航路など、本当に存在するのか。存在したとしても、それを見つけることなどできるのか。まるで雲を掴むような話だった。
「とにかく、この森のアンテナをくまなく調べて……」
「何度も繰り返し調べてどうするつもりだ?」
突然、静寂を裂くように第三者の声が響いた。
その瞬間だった。
訓練された動きで三人は一斉にブラスターを抜き、声のした方向へ銃口を向ける。
ここにいるのは自分たちインフェルノ隊だけ。
周囲には探知センサーを展開しており、誰かが近づけば即座に検知されるはずだった。
それなのに。
いつの間に現れたのか。
三人がブラスターを向けた先、腰ほどの高さの岩に、一人の老齢の男性が静かに腰掛けていた。
まるで最初からそこにいたかのような自然さで、老人は穏やかな微笑みを浮かべたまま、三人を見渡していた。
「ここにはもうタナローへの手がかりはないさ。このコーボー星系をひっくり返しても見つかりはしないだろう」
落ち着いた口調でそう言いながら、老人はブラスターを向けられていることなど意にも介さず、ゆっくりと立ち上がる。その堂々とした立ち振る舞いには、奇妙な威圧感と不思議な安心感が同居していた。
アイデンは狙いを外さぬまま、鋭く低い声で問いかける。
「貴様は何者だ」
「君から見て、ワシは何者に見えるかな」
質問に対して返ってきたのは、質問だった。はぐらかされたことにアイデンは眉をひそめる。だが、その老人の纏う外套や立ち姿には見覚えがあった。
訓練学校で何度も資料映像として見せられた、帝国最大の敵。
共和国時代に存在した守護者たちの姿。
「……ジェダイか」
その一言に、デル・ミーコとギデオン・ハスクの表情も一気に引き締まる。
ジェダイ。
その名は帝国軍人であれば誰もが知っていた。
コルサントにいた頃から数々の噂を耳にし、訓練学校では危険人物として徹底的に教育されてきた存在。
ブラスター程度では容易く防がれ、フォースという得体の知れない力を操る超常の戦士。
そんな恐ろしい相手が目の前にいるというのに、老人はまるで旧友と再会したかのような気軽さで話しかけてくる。
「君たちの任務はタナローの捜索ではない。ワシと会うためにここへ来たのだ」
「何を言ってるんだ?」
ハスクが思わず口を挟む。
老人は微笑みを崩さない。
「ワシはメッセンジャーだ。君たち、そして君の父君に対するものだ」
そう言うと老人は懐から一つのコムリンクを取り出し、静かに差し出した。古びてはいるが、丁寧に整備されている通信機だった。
アイデンは警戒を解くことなく、一歩だけ前へ出る。相手の視線から一瞬たりとも目を離さず、そのコムリンクを奪うように手に取った。
「信じられるわけがないだろう」
「どうかな?その通信相手を見れば考えが変わるかもしれんぞ?」
試すような笑みを浮かべる老人。その余裕ある態度が、アイデンの神経を逆撫でした。
癪に障る。だが、この男が何を企んでいるのか知るためには、通信を繋ぐしかない。売り言葉に買い言葉。アイデンは警戒を解かぬままコムリンクを起動した。
「コマンダー・ヴェルシオ」
映し出されたのは……皇帝陛下だった。
その姿を目にした瞬間、アイデンは思わずコムリンクを取り落としそうになる。
「……っ!」
息が止まる。
普段はどんな任務でも冷静沈着さを崩さない彼女の思考が、一瞬で混乱の極みに達した。
皇帝陛下。帝国そのものとも言うべき絶対的支配者が、目の前の小さな通信機に映っている。
偽装か。
いや、それはあり得ない。
この通信は皇帝陛下専用の秘匿回線だ。帝国軍最高クラスの暗号化とシステム管理が施され、その回線の存在を知る者すら限られている。
まして皇帝の素顔を知る者など、帝国中でもごく一握りしか存在しない。
幾重もの認証、偽装防止措置、生体照合。
そのすべてを突破して通信を成立させることなど、不可能に等しい。
この老人がそんな回線を知っているはずがない。
……あり得ない。
あり得ないが、現実に通信は繋がっている。
「この通信は、ヴェルシオ提督にも同チャンネルで通達されておる。そのつもりで聞きたまえ」
低く、威厳に満ちた声が静かに響く。
それだけで場の空気が張り詰めた。
「は、拝聴いたします」
かろうじて絞り出せた返答はそれだけだった。背筋は自然と伸び、敬礼こそしていないものの、身体は無意識のうちに最敬礼に近い姿勢を取っている。
隣ではデル・ミーコとギデオン・ハスクも完全に硬直していた。
突然の皇帝直々の通信。二人とも顔面から血の気が引き、今にも気絶しそうなほど青ざめている。
「其方たちに特殊な任務を言い渡す」
皇帝は静かに言葉を続ける。
「これは、帝国の未来と、帝国の弱さ、そして偉大なるシスの帰還を意味する作戦だ」
その一言に、アイデンは眉をわずかに動かした。
「シス……それは一体何なのですか」
気づけば、その問いは自然と口をついて出ていた。本来なら皇帝へ質問など許される立場ではない。軍人として染み付いた常識が、それを禁じている。
それなのに。まるで誰かに導かれるように、ほとんど無意識のまま問いを口にしていた。
問いを発した直後、アイデンの顔から血の気が引く。
しまった。
「も、申し訳ござ……」
「コマンダー・ヴェルシオ。其方の疑問は当然であろう」
謝罪の言葉は、皇帝の穏やかな声によって遮られた。画面の向こうで、皇帝は微かに笑みを浮かべる。その笑みは慈悲深くも見え、同時に底知れない闇を秘めているようにも感じられた。
「シスは帝国であり、帝国とはシスそのものだ」
その言葉を聞いても、三人の胸に浮かぶのは疑問だけだった。
シス。
そんな言葉は聞いたことがない。
ジェダイという恐るべき戦士の存在と、その思想に染まった危険なカルト集団については訓練学校で嫌というほど教え込まれてきた。
だが、その対となる存在であるはずの「シス」という名は、一度たりとも耳にしたことがない。
まして、それが帝国そのものだなど。
理解できるはずもなかった。
「焦らなくとも良い」
皇帝は穏やかに続ける。
その声音は、夕暮れの地平からゆっくりと闇が世界を覆っていくような、不思議な静けさを帯びていた。
「其方たちは知っていくことになる。この世界の理を。単純に二分できない、混じり合った色の世界をな」
しばしの沈黙。
その一言一言が、三人の胸に重く沈んでいく。
やがて皇帝は本題へ移った。
「本題に入ろう。其方らに、これよりタナローへの鍵の在処を伝える」
アイデンたちは息を呑む。
数か月もの探索で掴めなかった答えが、今まさに語られようとしていた。
「タナローの鍵は銀河の外縁部にある。そこへ行くがいい、インフェルノ隊よ。そこで鍵を見つけ……そして、自身と向き合うがよい」
その言葉を最後に、通信は静かに途絶えた。
画面は暗転し、残されたコムリンクには新たな航路データだけが表示されている。
銀河外縁部。未踏の宙域を指し示す座標。おそらく、そこにタナローへ繋がる鍵が眠っているのだろう。
アイデンは無言で座標を見つめる。
誰も言葉を発しない。
先ほどまで遺跡を吹き抜けていた風の音だけが、静寂の中に響いていた。
「メッセージは確かに託したぞ」
いつの間にか老人は踵を返し、その場を去ろうとしていた。
アイデンは思わずその背中へ声をかける。
「貴方は何者ですか」
老人は立ち止まる。
振り返ることなく、小さく笑ったような気配だけを残して答えた。
「バランスを見つめる……均衡の番人、とでも言っておこう」
その言葉だけを残し、老人はゆっくりと森の奥へ歩み去っていく。霧の向こうへ溶け込むように、その姿は木々の間へと消えていった。
誰一人、追いかけようとはしなかった。
いや、追いかけることすらできなかった。
三人の胸には、皇帝から託された任務と、「シス」、そして「自分と向き合うがよい」という言葉だけが、重く刻み込まれていた。
そのころのパルパル
パルパル「えーとえーと、オーダーの構想をこちら側にきてくれたマスター陣営に共有、帝国内へもシス・アーミィの土壌作りに、この時間軸でしか手に入れれないアーティファクトの収集と、この世界のパルパルへの嫌がらせ工作と隠蔽工作と、反乱軍の一員としてのパフォーマンスと……」
ログ「やることが……やることが多い!(全部付き合わされてる)」