アナキンの親友になって色々あって旅に出た英雄の話 作:紅乃 晴@小説アカ
「シス・アーミィ構想?」
「えー、お手持ちの資料の43ページをご覧ください」
オビ=ワンの言葉を受け、事前に資料を配布していたパルパティーンは電子デバイスをスクロールさせ、該当ページを表示する。
ホロスクリーンには「シス・アーミィ構想」と大きく記された見出しと、その下に組織図や運用計画、予算案までもが整然と並んでいた。
初代オーダー……俺、パルパティーン、アナキン、クワイ=ガン、そして新たに加わったオビ=ワンによる話し合いは、もはや秘密結社というよりも、銀河政府の政策会議そのものだった。
将来的に加わることが確定しているダザンは、まだこの場に参加させるには早いという判断から外れている。現在は、一緒に脱出したダッシュ・レンダーと共に、周辺宙域で食糧や生活物資の買い出しに出払っていた。
銀河帝国の目を避けて活動する以上、物資の確保もまた重要な任務であり、補給線の維持は組織の生命線でもある。
「要するに帝国、反乱軍の管轄にとらわれない戦力を作ると?」
議長時代に数え切れないほどの法案や予算案をまとめ上げてきたパルパティーンらしく、忙しい合間を縫って作成された協議書と、今回の議題を整理した資料へ目を通しながらオビ=ワンが尋ねる。
その問いに、パルパティーンは静かに頷いた。
「交渉だけではやっていけないのが今の世の中だからのぅ」
その一言には、共和国の栄華も、クローン戦争も、銀河帝国の成立も見届けてきた男だからこその重みがあった。
交渉とは、お互いの戦力が拮抗している、あるいは相手を容易には無視できないだけの力を持っているからこそ成立する。
どれほど正論を掲げようと、武力を背景に持つ相手の前では理想だけでは通用しない。明確な戦力を持たずに交渉へ赴けば足元を見られ、最悪の場合、交渉人そのものが帰って来られない。
銀河では、それが現実だった。
だからこそ、「この交渉に応じなければ、こちらにも手段がある」と言外に示せるだけの抑止力が必要になる。
そのための独立戦力。
帝国にも反乱軍にも属さず、それでいて両者から容易には手出しできない軍事組織。それこそが、この「シス・アーミィ構想」の本質だった。
「オーダー構想の概略はおおよそ理解したが……できるのか?」
クワイ=ガンは資料から顔を上げる。
構想そのものは理にかなっている。
だが、兵士の確保、装備、艦艇、補給、訓練施設、そして何より組織を維持する莫大な資金。それらを考えれば、一朝一夕で実現できる計画ではない。
「まぁ、余たちは一度やっとるからなぁ」
クワイ=ガンの言葉に、パルパティーンはどこか懐かしそうに頷いた。
ぶっちゃけ、それはエンドアの戦いの後に発足した銀河連邦政府で、すでに一度証明されている。
帝国でも反乱軍でもない第三の勢力として銀河の秩序を再編し、多種族、多惑星をまとめ上げた実績が、俺たちにはあった。
こちらの世界では、エンドアの戦いの後、反乱軍はクーデターを成功させた帝国政府との交渉に臨み、帝国統治法を基盤としながら、段階的に連邦制へと体制を移行させた。
もちろん、当初から順風満帆だったわけではない。
帝国という巨大国家を解体するべきだという意見もあれば、共和国へ戻るべきだという声もあった。反対に、帝国の統治機構をそのまま維持すべきだと主張する者も少なくなかった。
しかし、武官派閥による占領地域で略奪や圧政、権力の私物化が横行していた事実が次々と明るみに出たことで、「中央集権だけでは同じことを繰り返す」という認識が銀河全体へ広まっていく。
帝国という国家は、皇帝という絶対的存在によって成立していた政治体制だ。
その頂点が失われた瞬間、各地で権力闘争や政治的混乱が発生する危険性を常に抱えていた。
だからこそ、各星系や加盟政府、所属派閥ごとに法制度や行政機構を精査し、それぞれの文化、種族、歴史、宗教的価値観を尊重した自治権を持たせる連邦制へ移行することとなった。
連邦へ加盟した各惑星は代表者を選出し、その代表者たちが復活した銀河議会へ参集する。
共和国時代の失敗を繰り返さないよう、議会には権限の分散と相互監視の仕組みが数多く盛り込まれ、単一の権力が暴走しない制度設計が徹底された。
クローン戦争以来、長年にわたり荒廃した銀河の再建。
ハイパースペース航路や交通網の復旧。
各地で破壊されたインフラの再建。
さらに未知領域の探索、新たな資源や市場の開拓など、連邦政府は戦争で疲弊した銀河を少しずつ平時へ戻すため、多方面から政策を進めていった。
当然、それは一朝一夕で終わるものではない。
何十年も戦争によって成り立っていた経済を、平和産業へ転換するには長い時間が必要だった。
もっとも、武官派の残党によって結成されたファースト・オーダーとの戦いが始まると、再び軍備拡張が必要となり、完全に戦争経済から脱却することは最後まで叶わなかったのだが。
「クローン戦争以来から戦争や弾圧、こと争いにどっぷり浸かった戦争経済圏が広がっておる。これを一度に正常化するのは事実上不可能じゃ。共和国時代でも汚職や談合、結論ありきの議会とか多発してたわけだしの」
しみじみとした口調で語るパルパティーン。
その言葉だけ聞けば、長年政治に携わってきた歴戦の政治家の分析そのものである。
「それをぶち壊して頭のてっぺんまで戦争経済に浸かるよう仕向けた元凶が何か言ってる」
思わず俺は間髪入れずに突っ込んだ。
「……」
部屋の空気が一瞬だけ静まり返る。
アナキンは「まぁ、その通りだな」とでも言いたげに肩をすくめ、オビ=ワンは額に手を当て、クワイ=ガンは苦笑いを浮かべている。
実際、その汚職と腐敗しきった共和国の政治機構を巧みに利用し、クローン戦争という史上最大規模の戦争を裏から演出した張本人が、目の前の元皇帝なのだから反論の余地がない。
もっとも、その土壌があったからこそ、シディアスという男は歴史を動かせたのも事実ではあるのだが。
「……こほん」
気まずそうに咳払いを一つすると、パルパティーンは何事もなかったかのように話を続けた。
「余の考案するオーダーはいわゆる第三者機関だ。治世と戦力と金融から切り離され、それぞれを監視し、監査する役目を持つ」
ホロスクリーンには三つの円……「行政」「軍事」「金融」が表示され、その外側に位置する「オーダー」の文字から、それぞれへ矢印が伸びている。
権力そのものではなく、権力を監督する存在。
それがパルパティーンの考えるオーダーだった。
これは連邦政府でも実際に運用していた制度である。
いわば司法の独立や行政監査機関に近い立場であり、連邦政府、財政機関、そして軍組織、それぞれへフォース・アカデミーで教育を受けた人材が派遣され、管理者、調停者、監査官として機能していた。
もちろん、各惑星には文化も歴史も価値観も違う。
共和国系世界もあれば、旧帝国系世界もあり、ハット・スペースのような特殊な文化圏も存在する。
締め付けが強すぎれば反発を招き、緩すぎれば腐敗が生まれる。
その微妙な均衡を保つため、オーダーの人員は現地政府との交渉や教育にも携わり、各地で軋轢が生まれないよう調整役として動いていた。
「ジェダイは戦士ではなく、シスはもっとそれに向かない。なので戦力は戦力として別枠でカウントします」
俺の言葉に、オビ=ワンはわずかに眉を上げる。
ジェダイは本来、平和と正義を守る調停者であり、共和国軍の将軍となること自体が本来の在り方ではなかった。
一方でシスは、個人の力を極限まで追い求める思想であり、組織だった軍隊の統率や公共の奉仕には決定的に向いていない。
だからこそ、フォースの使い手と軍隊は分ける。
軍は軍として育成し、ジェダイやシスの役割とは切り離す。
それが、この構想の根幹だった。
ジェダイは戦士ではない……かつてジェダイ・オーダーはそう教えていた。
なら、最初から戦士にしなければいい。
その答えとして俺たちがたどり着き、実際に運用したのが、この体制だったのである。
「それだとオーダーに入る条件はフォース感応者になるということか?」
オビ=ワンは資料へ視線を落としたまま尋ねる。
ジェダイ・オーダーでは、フォース感応者であることが大前提だった。だからこそ、その発想はごく自然な疑問でもあった。
「そんなせこい真似はせんよ。素養と素質があればフォースが使えんくてもオーダーに入ることは可能だ」
パルパティーンは即座に首を横へ振る。
その口調には迷いがない。
実際、フォース・アカデミーにはフォース感応者もいれば、そうでない者も数多く在籍していた。
割合で言えば、およそ三対七。むしろ、フォースを扱えない者のほうが圧倒的に多かった。
それでも彼らは同じ教室で学び、同じ理念を共有し、同じ責務を担っていた。
フォースを感じられなくとも、「フォースとは何か」「ジェダイとは何か」「シスとは何か」、そしてライトサイドやダークサイドという思想や歴史、その功罪まで体系的に学ぶ教育課程が整備されていた。
フォースは特別な力ではある。
だが、それを知ること自体は誰にでもできる。
知識を独占せず、多くの者へ開放したことで、フォースを神秘や迷信ではなく、一つの思想や哲学として理解する者が増えていった。
その教育方針は多くの星系で受け入れられ、連邦社会の共通認識として根付いていったのである。
もちろん、フォース感応者は卓越した能力を持つ。
危機管理、外交、調停、探索、あるいは特殊任務など、その才能ゆえに重要な役割を担うことも少なくなかった。
しかし、それは決して一人で成り立つものではない。
行政官、技術者、軍人、研究者、医療関係者、補給担当……数え切れないほど多くの人々の支えがあってこそ、その能力は最大限に発揮される。
だからこそ連邦政府では、フォース感応者か否かで優劣を決めることはなかった。
誰もが、それぞれに任された職務へ誇りを持ち、自らの責任を果たしていた。
そうした組織文化が根付いた背景には、能力主義や責任感を重視する帝国式教育の長所を取り入れつつ、共和国時代の自由な学問や自治の理念を融合させたことも大きく影響していた。
「絶対的な第三者……天秤の番人ということか」
静かに呟いたオビ=ワンへ、俺は頷く。
「まぁ、あとは絶対的な権力がオーダーの特定派閥に集中しないような仕組みづくりだったり、戦力と統治能力者をかき集めるのも急務という状況だ」
理念だけでは組織は維持できない。
人材も必要だ。
現場を指揮できる軍人。
行政を担える政治家。
司法や監査を担当する法務官。
経済を理解する金融関係者。
教育者、技術者、研究者。
それぞれが互いを監視し、補完し合う仕組みを最初から構築しなければ、結局は共和国や帝国と同じ轍を踏むことになる。
だからこそ、この組織設計だけは妥協できなかった。
「クローン戦争へ向かわせるため10年間かけたノウハウを注ぎ込んで半年にまで短縮しとるからな。やることが多い多い」
しみじみと語るパルパティーン。
本人としては効率化を褒めてほしいのだろうが、その発言には聞き捨てならない単語が含まれている。
「自虐ネタにしてはダメージがえぐいからやめてもらっていいですか?」
思わずツッコミを入れると、パルパティーンは「事実だから仕方あるまい」と悪びれる様子もなく肩をすくめた。
オビ=ワンは深くため息をつき、アナキンは苦笑しながら額を押さえ、クワイ=ガンは目を閉じて静かに首を振る。
この男は銀河史上最大の策士であり、同時に、自分の黒歴史すら「成功事例」として資料化してしまう、とんでもない人物なのだと改めて実感させられるのだった。