アナキンの親友になって色々あって旅に出た英雄の話 作:紅乃 晴@小説アカ
ギャリック・ヴェルシオにとって、それはまさに青天の霹靂であった。
情報局によってもたらされた反乱軍秘密基地の情報。
その情報は、絶対兵器デス・スターと共に消え去ったグランド・モフ・ターキン亡き後、帝国内で新たな権力を求める高官たちにとって、まさしく千載一遇の機会だった。
反乱軍の本拠地を陥落させる。
その武勲を立てた者こそが、ターキン亡き後の帝国軍における新たな発言力を手にする。
誰もがそう考えていた。実際、ダース・ヴェイダーが編成した戦力配分を見れば、その意図は明白だった。前線へ送られたのは、武勲を欲し、権力を渇望する提督や将官ばかり。
一方で、星の統治や行政能力を重視し、帝国そのものの安定を第一と考える者たちは、後方任務あるいは別任務へと回されていた。
まるで、「手柄が欲しければ、この死地へ来い」
そう無言で告げられているかのような人員配置だった。
そして、その予感は現実となる。
惑星ホスで繰り広げられた激戦。そこで命を落とした帝国軍高官の数は、戦後の報告書に長々と名を連ねるほど膨大なものとなった。
ギャリック・ヴェルシオにとって、その戦いは遠い出来事だった。
彼へ与えられた任務は、ホスではない。
情報局から同時にもたらされた、もう一つの極秘案件……惑星タナローの調査である。
ホスに関する情報は異様なほど詳細だった。
基地の構造、防衛戦力、配備部隊、補給経路と、まるで反乱軍司令部の内部資料をそのまま写し取ったかのような精度であり、逆に罠を疑うほど完成された情報だった。
だがタナローだけは違った。
存在したという証言、存在しないという記録。
神話に伝承、失われた星。
どの情報も輪郭が曖昧で、真実と虚偽が入り混じっている。軍人として判断するなら、誤情報として切り捨てても不思議ではない内容だった。
しかし、ホスの情報があまりにも正確だった。
だからこそ、その出所が同じである以上、タナローだけを無視するという選択肢は取れなかった。
ヴェルシオは少数精鋭で構成されたインフェルノ隊を率い、その調査へ赴くこととなる。
権力争いには興味がなく、武勲を誇示するつもりもなく、必要ならば帝国を揺るがす脅威すら密かに排除する。
そんな影の任務を淡々と遂行し続けてきた男だからこそ、ホスではなく別任務を任されたのは、ある意味で必然だった。
そしてタナロー探索中に遭遇した、名も知れぬジェダイ。その男から伝えられたのは、皇帝陛下直々による極秘命令だった。
常識では考えられない出来事。
だが、そのジェダイは皇帝しか知り得ない情報を知り、帝国中枢の機密にまで精通していた。
疑う余地など残されていなかった。ヴェルシオは命令通りインフェルノ隊へ銀河外縁部の継続調査を命じ、自身は生まれ故郷である惑星ヴァードスへ帰還する。
そこで待っていたのが……。
「まさか皇帝直属の特使が来られるとは……。やはり、例のタナローでの件でしょうか?」
特務回線で皇帝陛下から事前に通達されていた通り、一隻のスター・デストロイヤーがヴァードスへ入港する。タラップを降りてきたのは、皇帝直属を名乗る特使と、その若き補佐官だった。
特使の姿を見た瞬間、ヴェルシオの胸に一つの記憶がよみがえる。
若き日の共和国、惑星ヴァードスを訪れた共和国最高議長。パレードの遥か彼方から見上げた、一人の政治家。その面影が、目の前の男と不思議なほど重なって見えた。
もちろん、そんなはずはない。あの人物は、今や銀河帝国皇帝その人である。
では、この男は何者なのか。皇帝直属の特使は、時に皇帝の影武者を務める、とそんな噂を耳にしたことがあった。
もし、その役目を担うために、かつての議長の姿へ整形しているのだとしたら……。そこまで考えたところで、ヴェルシオは思考を止めた。
それ以上は踏み込んではならない。帝国中枢の闇へ、自ら手を伸ばす行為に等しい。知るべきではないことは、知らないままでいい。
そう胸中で自らを戒め、静かに疑念を押し込めた。
「皇帝は其方を高く評価しておるぞ、ヴェルシオ提督」
ふいに特使が口を開く。ゆったりとした伝統衣装をまとい、ヴァードスの美しく整備された都市を共に歩くその姿からは、威圧感よりも不思議な落ち着きが感じられた。
その声もまた穏やかで、耳に心地よく響く。それでいて、一言一句に、相手を自然と従わせるだけの重みがあった。ヴェルシオは無意識に背筋を伸ばし、その言葉へ静かに耳を傾ける。
「この星の統治は帝国領内におけるモデルケースの一つである」
特使は穏やかな口調のまま続けた。
「各地の帝国軍高官が自治する領域の中で、これほどまで発展し、なおかつ帝国へ忠誠を誓い続ける惑星はあるまい」
その評価に、ヴェルシオはわずかに目を伏せる。
「私は、ただ帝国の栄光のために力を尽くしているだけです」
謙遜でも虚勢でもなく、それが彼の本心だった。
すると特使は歩みを止めた。ヴェルシオの進路を静かに塞ぐように立ち、真っ直ぐその瞳を見つめる。
責めるような視線ではなく、値踏みするような視線でもない。まるで、一人の人間を見極めるような穏やかな眼差しだった。
「そこだよ、提督」
静かに、しかし力強く言う。
「其方は、自らの思想がどれほど稀有なものかを理解してほしい」
ヴェルシオは思わず言葉を失う。
特使は再び歩き始めると、夜のヴァードスをゆっくりと見渡した。整然と並ぶ街並みに、青白い光に照らされた高層建築。遠方には、ヴァードス評議会のホールが静かに輝いている。
市民は笑い、店には明かりが灯り、帝国領とは思えないほど穏やかな空気が街を包んでいた。
「帝国が発足し、各主要惑星の自治を帝国内の高官へ委ねて久しい。だが、各地では貧富の差が広がっている」
統治能力にも差が生まれ、治安も、税収も、経済も……星ごとに大きな開きができてしまった。
ヴェルシオは静かに頷く。
「……おっしゃる通りです」
特使はヴェルシオ提督へそのまま問いかけた。
「その独善的な帝国の在り方を、其方は弱さだと気付いておるな?」
その一言は、不思議なほど自然にヴェルシオの胸へ入り込んだ。まるで、自分でも言葉にできなかった考えを、そのまま代弁されたようだった。
帝国の弱さ。
それはヴェルシオ自身も、以前から漠然と感じていた。その危機感が確信へ変わったのは、デス・スター喪失以降である。
絶対的な権威、誰も逆らえぬ象徴。その存在が失われた瞬間、帝国という巨大な組織は、一枚岩ではなかったことを露呈した。
ターキン亡き後の権力で空席となった発言権、武勲、昇進、派閥。高官たちは帝国の未来ではなく、自らがその椅子へ座ることばかりを考え始めた。
そのために税は重くなり、市民は搾取され、地方の統治は後回しにされる。本来、銀河の果てまで統治するべき帝国、それを支えるためにあるべき権力が、権力そのものを維持するためだけに消費されていく。
その歪みは、日に日に大きくなっていた。
ヴェルシオは何度も進言した。
統治を優先すべきだと。民心を軽視してはならないと。だが、その声は権力争いの喧騒に埋もれ、誰の耳にも届かなかった。
(……この方は)
ヴェルシオは隣を歩く特使を見つめる。
(そこまで見通しておられたのか)
帝国の強さだけではない。その土台に生じた小さな亀裂まで、この人物は見抜いている。
だからこそ、ヴァードスへ来て、自分へ会いに来たのだ。ヴェルシオは、胸の内に芽生えた小さな驚きを静かに噛み締めていた。
「私に隠し立てはできんぞ、提督」
特使は穏やかな口調のまま続ける。
「だが、それを罰するために私はここへ来たわけではない」
その言葉に、ヴェルシオは思わず息を呑んだ。
内心では覚悟していた。帝国の弱点を見抜き、それを危惧していたこと自体が、皇帝への不敬と受け取られても不思議ではない。
だが、特使の表情に責める色は微塵もない。
むしろ、その思想を肯定しているようにすら見えた。特使は懐から小型のデータ端末を取り出し、静かにヴェルシオへ差し出す。
「これは……?」
「皇帝陛下より賜った極秘作戦だ。このヴァードスは、その計画の中核を担うことになる」
ヴェルシオは端末を受け取り、慎重に起動する。
表示されたのは作戦の概要のみ。詳細な項目には厳重な暗号化が施され、生体認証を行わなければ閲覧できない仕組みになっていた。
自身の認証コードを入力すると、次々とロックが解除されていく。そして、資料へざっと目を通した瞬間、提督の瞳が大きく見開かれた。
そこに記されていたのは、彼が長年抱き続けてきた危機感への、一つの明確な回答だった。
帝国軍の権限とは独立した監査機構に、各惑星の統治状況を客観的に評価する第三者組織。軍と行政双方を横断する情報網。そして、腐敗した高官すら監視対象とする権限。
どれも、彼自身が「帝国には必要だ」と考えていたものばかりだった。
思わず口から言葉が漏れる。
「……帝国内に、第三者機関を創設されるのですか」
特使は満足そうに微笑む。まるで、一を語れば十を理解する弟子を見つけた教師のように。
「理解が早い」
そう言ってヴェルシオの肩へ静かに手を置いた。
「其方を皇帝陛下へこの計画の責任者として推薦した私も、甲斐があったというものだ」
その一言だけで、ヴェルシオの胸には不思議な高揚感が満ちていく。
皇帝直属の特使。その人物が、自分を選んだ。自分の思想を認めた。
その事実だけで、この計画へ人生を賭ける理由として十分だった。
再び二人は歩き始める。夜風が穏やかに吹き抜け、ヴァードスの街明かりが石畳を照らしていた。
「ヴェルシオ提督。帝国の弱さを知りながらも、それでもなお忠義を尽くす其方だからこそ頼みたい」
特使は静かに言う。
「この作戦は帝国を否定するものではない。帝国の弱さを取り除き、より強固な組織へ改革するために必要な工程なのだ」
ヴェルシオは迷いなく頷いた。
「……承知いたしました」
その返答に、特使も満足そうに頷く。
「必要な予算、人員、資材があれば私の補佐官へ連絡するがよい」
そう言って隣を歩く特使の補佐官へ視線を向ける。
「この作戦は帝国の転換点となる。ノウハウを持つ人材も、必要な資材も、こちらで手配しよう」
ヴェルシオは胸へ手を当てる。
「必ずや、この作戦を完遂いたします」
力強い返答だった。
その決意を見届けるように、特使はさらに続ける。
「それと、これ以降、帝国上層部からもたらされる極秘命令については、今作戦を守るためのブラフと考えてくれて構わない」
ヴェルシオは一瞬だけ目を細めた。
「この作戦は反乱軍だけではない。帝国内の高官たちにも知られてはならぬ」
確かに、帝国内に自分たち組織の動きや不正を取り締まる第三者機関を設けるとなれば、それを良しとしない派閥は必ず現れる。
既得権益を守るために妨害工作を仕掛けてくるだろう。
あるいは任務と称し、責任者であるヴェルシオ提督を亡き者にしようとする可能性すらあった。
「今の帝国には、この脆弱な統治体制の上で甘い汁を啜り、その腐敗なしでは生きられぬ者があまりにも多いのでな」
その言葉には怒りではなく、深い失望が滲んでいた。ヴェルシオもまた、小さく息を吐く。
「……嘆かわしいことです」
特使は静かに頷く。
「だからこそ、その思想を忘れるでない。帝国という天秤は、片方を重くすることで保たれるものではない」
そう言って特使はヴェルシオ提督の肩を優しく撫でた。
「左右を支える支柱が強固であってこそ、初めて均衡は保たれる。その支柱が揺るがぬ限り、帝国は反乱軍にも、汚職に手を染める高官たちにも決して屈しない」
しばし沈黙が流れる。やがて特使は穏やかな笑みを浮かべ、ゆっくりとヴェルシオを見た。
「期待しておるぞ。ギャリック・ヴェルシオ提督」
その一言は命令ではなく、皇帝直属の特使から寄せられた絶対の信頼だった。
ヴェルシオは胸の内で静かに誓う。
この期待だけは、決して裏切らない、と。
パルパル「有能な帝国提督ゲットだぜ」
ログ「酷い人身掌握術を見た」
パルパル「余は皇帝ぞ?」
フォース「天秤を好き勝手してる人が天秤を語るとはこれいかに」
ちなみにログの世界のヴェルシオ提督は連邦政府に所属し、帝国の脆さと恐ろしさを知る賢人として語り継がれる提督となっています。晩年は故郷のヴァードスで過ごし、アイデンとミーコの間に生まれた孫娘を可愛がってます。
その有能さからパルパルからの好感度は高め