アナキンの親友になって色々あって旅に出た英雄の話   作:紅乃 晴@小説アカ

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今回はアナキンサイド


かもしれなかった未来の自分へ

 

 

 

クラウド・シティ。

 

その都市の下部、ガス採掘施設が複雑に入り組む保守区画の果てで、ルーク・スカイウォーカーはダース・ヴェイダーに追い詰められていた。

 

オビ=ワンとの訓練を積んだ経験や、惑星ホスでの戦い、そしてマスター・ヨーダのもとでの厳しい修行を経て、ルークは確かに以前とは比べものにならないほど力をつけていた。

 

しかし、それでもなお、銀河最強と恐れられる暗黒卿との実力差はあまりにも大きかった。

 

幾度もライトセーバーを打ち合わせ、そのたびにフォースの激流がぶつかり合う。懸命に食らいついたルークだったが、ヴェイダーは終始余裕を崩さず、獲物を追い詰めるように一歩、また一歩と間合いを詰め続けていた。

 

本来の歴史では片腕を切断されるはずだったルーク。しかし、この世界ではその未来は僅かに変化していた。

 

ヴェイダーはルークを殺す気などなかった。

 

その執拗な猛攻によって体勢を崩されたルークは、衝撃で、かつてアナキン・スカイウォーカーが愛用し、オビ=ワンから託された青いライトセーバーを手からこぼれ落としてしまう。

 

青い光は空中を舞い、そのまま奈落の底へと吸い込まれていった。

 

「もはや逃げられない。お前を殺したくはない……!」

 

片腕は切断されていないとはいえ、その肩や脚にはヴェイダーのライトセーバーによる浅くない傷が刻まれていた。服は焼け焦げ、痛みが全身を駆け巡る。

 

体力もフォースも限界まで消耗したルークは、震える身体を懸命に動かし、送受信アンテナへとしがみついた。

 

眼下には底の見えない巨大な縦穴。そして、そのさらに向こうには、ガス惑星ベスピンを覆う果てしない黄土色の雲海がどこまでも広がっていた。

 

一歩踏み外せば、生還など到底望めない高さだった。

 

「ルーク!お前は自らの価値に気づいていない!お前は自分の力に目覚めたばかりだ!」

 

アンテナに必死にしがみつく息子へ向け、ヴェイダーは切迫した声で呼びかける。その声には、戦場で敵へ向ける威圧でも、暗黒卿としての冷酷さでもない。

 

父親として、どうにか息子を救いたいという焦燥だけが滲んでいた。

 

「私の元に来るのだ、ルーク!私がお前を訓練してやる!我らの力がひとつになれば、無益な戦いに終止符を打ち、銀河に秩序をもたらせることができる!」

 

その言葉を、配管や機械設備の影に身を潜めながら、アナキンとダザンは静かに見守っていた。

 

ヴェイダーの必死な声色。

 

その一言一句。そして、自分自身が辿るかもしれなかった未来の可能性である。心当たりがありすぎ、すべてが胸に突き刺さり、アナキンは胸元を強く押さえたまま苦しげに呻く。

 

「ぅ……ぐは……」

 

その顔色は見る見る青ざめていく。

 

「マスター・オーウェン?」

 

正体を隠すため、オーウェンと名乗っていたことがここにきて完全に裏目へと出ていた。

 

よりにもよって、自分自身が最大級のやらかしを現在進行形で突き進んでる場面を目の当たりにしているのである。精神的ダメージは計り知れなかった。事情を知らないダザンは、胸を押さえて悶絶するアナキンを理解できない表情で見つめる。

 

なかなかひどい絵面である。

 

「……っ……誰が行くものか……!」

 

アンテナへ必死にしがみつくルークは、震える声で拒絶を突きつける。

 

「お前に暗黒のパワーの素晴らしさを教えてやる! オビ=ワンから父親のことは聞いていないのだろう?ルーク!」

 

「話は……聞いているさ……!お前が父を殺したと!」

 

「違う!お前の父はこの私だ!」

 

その言葉に、ルークの顔は驚愕に染まり、そして徐々に絶望へと塗り替えられていった。

 

世界が音を失ったようだった。耳鳴りだけが響き、目の前の暗黒卿の言葉だけが頭の中で何度も反響する。

 

父は、この私だ。

 

あり得るはずがない。そんなことを認めれば、自分が信じてきたものすべてが崩れてしまう。

 

「……嘘だ……そんなの嘘だ……そんなことあるものか!」

 

「心を読んでみろ。本当だとわかるはずだ!」

 

「嘘ダァァァア!!」

 

ルークの心の底からの悲鳴がクラウド・シティの巨大な空洞へ響き渡り、何重もの反響となって消えていく。

 

その影に潜んでいたアナキンは、その瞬間、力尽きたようにその場へ仰向けに倒れ込んだ。泡まで吹いている。

 

「マスター・オーウェン!?き、気をしっかり!」

 

「アバババババ」

 

全身が痙攣し、目は完全に虚ろである。

 

これまでそんな異常事態に遭遇したことがないダザンは、完全にパニックになってオロオロするばかりだった。

 

そして、ヴェイダーの次の言葉が決定的な一撃となる。

 

「私とお前、親子二人で銀河を支配しようではないか!」

 

「いや明かし方下手くそすぎかぁあああ!!!」

 

バフン!とフォースの力で仰向けのまま浮き上がったアナキンは、その勢いのまま宙返りを打つ。

 

着地と同時に床を蹴り砕く勢いで飛び出し、ルークへ手を伸ばすヴェイダーへ、問答無用と言わんばかりにライトセーバーを振り下ろした。

 

「何……!?」

 

背後から迫ったもう一人の自分への察知が、一瞬だけ遅れた。ヴェイダーは反射的にライトセーバーを起動し、ギリギリのところでその一撃を受け止める。

 

轟ッと赤と青の光刃が激突し、火花が周囲へ飛び散った。フォースの衝撃波が通路を駆け抜け、周囲の配管を震わせる。

 

互いの剣圧がぶつかり合い、金属製の足場が悲鳴を上げた。

 

その隙を逃さず、呆気に取られていたルークのもとへ、ダザンが駆け寄り手を差し伸べる。

 

「しっかり!さぁ手を握って!」

 

そう言ってボロボロのルークをなし崩し的に助けるダザンを横目に、アナキンの鋭く走るシエンはヴェイダーを完全に防戦一方へと追い込んでいく。

 

攻撃は止まらない。一撃、一撃に迷いがなく、怒涛の連撃がヴェイダーへ降り注ぐ。

 

「貴様は……!」

 

「お前がなるかもしれなかった僕の姿だというのは受け入れるさ!抵抗するルークを追い詰めてる時に感情ダダ漏れだったからな!疑う余地なく僕自身だよお前は殺すぞぉ!(豹変)」

 

いきなり現れた自分自身に戸惑うヴェイダー。そして、そのヴェイダーへ阿修羅すら凌駕する勢いで剣戟を叩き込み続けるアナキン。

 

暗黒卿ですら防御に専念せざるを得ないほどの猛攻だった。二人の激突を横目に、ダザンはアンテナからルークを助け出していた。

 

「あ、あの人は……」

 

「説明は後で!あぁもう!マスター・オーウェンは行っちゃうし……とにかく僕らの船に!」

 

「き、きみは……」

 

「僕の名はダザン。ダザン・プレイガスだ。さぁ、肩を貸して!」

 

そう言って消耗しきったルークへ肩を貸し、一歩ずつその場を離れていくダザン。半ば引きずられるように連れられながらも、ルークは何度も振り返った。

 

自分の父、ダース・ヴェイダー。

 

そして、その父と互角以上に斬り結ぶ、もう一人の謎の剣士。赤と青の閃光が交差する戦場を、ルークは肩越しに、いつまでも目を離すことができなかった。

 

 

 

 

「私の邪魔をするな、アナキン・スカイウォーカー!」

 

「邪魔するつもりなかったけど!なかったけど!やり方があんまりすぎて見てられなかったんだよ!バカか!」

 

ヴェイダーの振り下ろしたライトセーバーを受け流し、その勢いを利用してセイバースピンをかけ、一瞬で倍返しの斬撃を叩き込むアナキン。

 

青と赤の光刃が激しく交錯し、クラウド・シティの保守区画へ火花が雨のように降り注ぐ。互いにフォースをまとった剣撃は配管を震わせ、金属製の足場に鈍い衝撃を走らせた。

 

ルークとの戦いでヴェイダーも決して万全ではない。体力もフォースも確実に消耗していた。

 

しかし、それ以上に目の前へ現れたもう一人の自分というあり得ない存在が、暗黒卿の心を大きく揺さぶっていた。

 

その怒りは暗黒面によってさらに増幅され、赤い光刃は先ほどまで以上に重く、鋭く振るわれる。

 

「貴様に馬鹿呼ばわりされる筋合いはない!」

 

ホスの戦いでオールドマスターによって徹底的に叩きのめされた身体。その損傷をバクタ・タンクと医療ドロイドで修復し、戻った先では「へぇ、負けたんだ」と、よりにもよって皇帝に煽られるという精神的追撃まで受けた。

 

さらに、ホスの秘密基地で感じ取ったパドメのフォースの残香。あまりにも懐かしく、決して忘れられるはずのないその気配を辿り続けた結果、ヴェイダーはようやくルーク・スカイウォーカーこそ、自らの息子なのだと確信した。

 

だからこそ、このベスピンで罠を張った。

 

ハン・ソロとレイア・オーガナを捕らえれば、必ずルークは助けに来る。

 

ヴェイダーはそう読んでいた。

 

その予想は的中したのである。

 

そして、レイアも自分の娘であることはヴェイダーはすでに理解していた。だが、彼女の顔を見るたびに、どうしても最愛の妻だったパドメの面影が重なる。

 

何を話せばいいのか。どう接すればいいのか。その答えを、ダース・ヴェイダーは持っていなかった。

 

だからこそ、拷問を受けたのはハン・ソロだけだった。

 

レイアに対しては必要以上に手荒な扱いを禁じ、帝国軍にも丁重に扱うよう命じていた。もちろん当のレイアからすれば、そんな配慮など知る由もない。

 

デス・スターでオルデランを滅ぼした帝国の象徴。さらにホスでは反乱軍を壊滅寸前まで追い込んだ男。

 

レイアからの好感度は、もはやベスピンの裏側を突き抜け、大気圏どころか宇宙空間まで飛び出している勢いで最低値を更新していた。

 

今さら「実は父親だ」と告げたところで、話が成立する未来など存在しない。

 

結果として、まだ暗黒面へ導く余地があると判断したルークへ、すべてを賭けたのである。

 

「オールドマスターにコテンパンにされてるくせによく言うな!?」

 

「奴の名は今関係ないだろう!?」

 

その一言だった。ヴェイダーの感情が僅かに揺れ、フォースが乱れる。

 

その一瞬の隙を、アナキンは見逃さない。

 

下段から鋭く振り上げた一撃がヴェイダーのライトセーバーを大きく跳ね上げ、赤い光刃が天井近くまで弧を描いた。

 

「くっ……!」

 

ログとは、この点について事前に話をしていた。

 

たぶん、あんだけコテンパンにしたら、存在を感知しただけで会わないよう全力を尽くすと思うし、会った時はグダグダになると思う、とログは苦笑混じりに言っていた。

 

その予想は、悲しいほど的中している。

 

否定などできなかった。

 

実際、アナキン自身もパダワン時代、オールドマスターにぐうの音も出ないほど論破された挙げ句、腹いせに挑んだライトセーバーの模擬戦で徹底的に叩きのめされた経験がある。

 

行き当たりばったりでオビ=ワンやみんなに迷惑をかけまくった結果、散々説教された末に地面へ転がされ、悔しさで歯ぎしりした記憶は今でも鮮明だった。

 

だからこそ、ログと遭遇した今のヴェイダーが、平常心を保てなくなる理由も痛いほど理解できる。

 

過去の自分を見ているようで、何とも言えない気分になるのだった。

 

今回のベスピン潜入は、アナキンとダザンが現地へ入り、クワイ=ガンはサウザンド・アドベンチャー号で待機する布陣となっていた。

 

ログ本人を連れてきたら、ヴェイダーどころか全員の話が脱線すると全会一致で判断されたからである。

 

「暗黒面に結びつけないと何にもできないのかお前は!パドメとお前の子供だろ!もっとこう!あるだろう!?」

 

それにしても、である。

 

アナキンとしては、どれほど不器用でも、もっと穏やかな父と子の対話になるものだと思っていた。

 

久しぶりに再会した息子へ、少しずつ真実を打ち明ける。互いの想いを語り合い、時間をかけて距離を縮める。そんな展開を、ほんの少しだけ期待していたのだ。

 

蓋を開けてみればどうだ。フォースで力尽くに追い詰め、逃げ場を失わせた挙げ句、「実は私がお前の父だ!」である。

 

しかもその直後に、「私とお前、親子二人で銀河を支配しようではないか!」と来た。

 

暗黒面(ダークサイド)か。

 

あまりにも力任せで、あまりにも段階をすっ飛ばしたコミュニケーションである。

 

息子の精神的ケアという概念をアウター・リムの彼方までハイパースペースで吹き飛ばしたような対話に、アナキンの我慢はついに限界を超えていた。

 

「今更何を言えばいい!最初にハグをしろとでも言うのか!? 私はもう立ち戻れない場所まで来てしまったんだ!」

 

激情と共にヴェイダーの赤い光刃が唸る。

 

怒りに後悔、諦め。そのすべてが剣に乗っていた。

 

「このヘタレが!ルークを馬鹿にするんじゃない! 怒るぞ!?あの子はそんなことで諦めるほど柔じゃない!」

 

そう言ってアナキンは踏み込み、ヴェイダーのライトセーバーを再び大きく弾き飛ばす。甲高い金属音が保守区画へ響き、赤い光刃が大きく逸れた。

 

「きっとあの子は!父と知ったお前を取り戻そうとする!なのにお前は何だ!過去のことをズルズル引きずって!……いやそれ僕も人のこと言えないし今にもうずくまりたくはなるけども!」

 

思わず途中で自分に刺さる。

 

痛い。ものすごく痛い。

 

アナキンだって、フォースの意思に飲まれたログという親友を、自らの手で討ったし、ジェダイという在り方に絶望し、タトゥイーンで半ば隠居生活のような日々を送っていたこともある。

 

親友がフォースの意思の器となり、よりにもよってデラックスヴェイダーなりきりセットで銀河中をやらかし回った時は、それを止めるために命懸けで戦った。

 

何度も心が折れかけたし、何度も逃げ出したくなった。それでも、前へ進んできた。

 

だからこそ、この言葉だけは譲れなかった。

 

「子供の前なら歯を食いしばってそれくらい耐えて見せろ!あの子の親だろう!?」

 

その叫びは、戦士としてではない。父親としてのアナキン・スカイウォーカーの叫びだった。

 

「貴様に何がわかる!!」

 

その瞬間だった。

 

ヴェイダーを中心に凄まじいフォースが爆発する。

 

周囲の配管が軋み、床に固定されていた工具やコンテナが吹き飛び、鉄骨までもが悲鳴を上げた。

 

暗黒面の奔流。

 

しかし、それは相手を押し潰そうとする殺意ではなかった。何十年もの間、胸の奥底へ押し込め続けてきた本心が、堰を切ったように溢れ出していた。

 

「何も失っていない貴様が、私の何をわかるというのだ!!」

 

血を吐き出すような叫びだった。怒号であり、悲鳴であり、助けを求める声でもあった。

 

アナキンは何も言わない。

 

ただ静かに、そのもう一人の自分を見つめていた。

 

「私にはもう何もない!何もだ!手は血に染まり!この身は暗黒面に染まっている!」

 

ヴェイダーの呼吸器が荒々しく鳴る。

機械音の向こうで、一人の男が泣いていた。

 

「愛する人を傷つけ!師を裏切り!かつての仲間を殺して回った!ジェダイ・テンプルでは幼い子供たちにまで刃を向けた!」

 

その言葉の一つ一つが、自らの胸へ刃を突き立てる告白だった。

 

「もうこの身にはアナキン・スカイウォーカーという英雄はいない!それを覆い隠すほどのことをしてきた!そんな自分に何をしろというのだ……! 一体何を!何を!」

 

クラウド・シティの保守区画には、もはや剣戟の音は響いていなかった。残っているのは、壊れた呼吸器のように荒く響く機械音だけ。

 

アナキンは静かにライトセーバーを構えたまま、その言葉を受け止める。

 

否定もせず、慰めもしない。その苦しみを、自分が誰よりも理解しているからだ。

 

「なにを……どうすればいいのだ……」

 

その一言は、銀河帝国の暗黒卿ではなく。

 

すべてを失った、一人のアナキン・スカイウォーカーの心から漏れた声だった。そう言ってヴェイダーは膝をつき、ゆっくりと床へ片手をつく。

 

握っていたライトセーバーは力なく垂れ下がり、やがて低い駆動音とともに赤い光刃を失った。

 

そこに立っていたのは、恐怖の象徴でも、皇帝の右腕でもない。罪と後悔の重さに押し潰され、自分という存在すら見失ってしまった、ダース・ヴェイダーだけだった。

 

そんなヴェイダーを静かに見つめ、アナキンはゆっくりとライトセーバーのスイッチを切る。

 

青い光刃が静かな駆動音とともに消え、辺りを照らしていた光が薄れていく。

 

クラウド・シティの保守区画には、配管から漏れる蒸気の音と、ヴェイダーの生命維持装置が刻む重々しい呼吸音だけが残っていた。

 

アナキンはもう剣を構えなかった。

 

敵として立つ必要は、もうない。

 

目の前にいるのは倒すべき暗黒卿ではなく、誰よりも救われるべき、一人の自分自身だった。

 

「話すんだ。アナキン」

 

その言葉に、骸のように俯いていたヴェイダーのマスクがゆっくりと上がる。赤いレンズ越しに映るのは、自分が失ったはずの未来だった。

 

「すべてを。隠さずに。過去の失敗も。楽しかったことも。ルークに」

 

アナキンは静かに続ける。

 

「タトゥイーンで奴隷だった頃のことも」

 

「ポッドレースで優勝した日のことも」

 

「ジェダイ・テンプルで笑い合った仲間たちのことも」

 

「オビ=ワンと旅をした日々も」

 

「パドメと出会い、恋をしたことも」

 

「母さんとの別れも」

 

「クローン戦争で守れなかった命も」

 

「ダークサイドへ堕ちたことも」

 

「ダース・ヴェイダーとして歩んできたことも」

 

一つも隠さなくていい。

 

一つも取り繕わなくていい。

 

それらすべてを背負ってきた男だからこそ、今の自分がいる。

 

「他人なら絶対にできない。それは僕も同じだ。だけど……ルークとお前は、家族だ」

 

その言葉を聞き、ヴェイダーは小さく笑った。

 

それは嘲笑ではない。自嘲だった。

 

「これまでの過ちを告白して、息子に赦しを乞えというのか……」

 

その否定的な言葉を聞き、アナキンは静かに首を横へ振る。

 

「違う」

 

短く、しかし力強く否定する。

 

「話をするんだ。親子として。愛するものへ。かつてはできていたはずだ……パドメに」

 

その名が告げられた瞬間、ヴェイダーの身体がわずかに震えた。

 

パドメ。

 

その名前だけは、何十年経とうと心の奥底へ沈めることなどできなかった。

 

共和国議員だった彼女へ、不安も、夢も、嫉妬も、弱さも。かつてのアナキン・スカイウォーカーは、何一つ隠さずに語っていた。

 

嬉しい時は笑い。

 

苦しい時は泣き。

 

未来を語り合い。

 

家族になろうと誓った。

 

確かに、自分にはそんな時代があった。

 

「暗黒面も、ジェダイも、フォースも関係なく。ただのアナキン・スカイウォーカーとして。ただの一人の男として、ルークと話をするんだ」

 

ジェダイでもない。

 

シスでもない。

 

選ばれし者でもない。

 

銀河帝国の暗黒卿でもない。

 

ただ、自分の息子を愛している、一人の父親として。

 

「貴様は……できたというのか」

 

ヴェイダーは静かに問いかける。その声には、先ほどまでの怒りも憎しみもなかった。

 

あるのは、わずかな希望だけだった。

 

「あぁ、馬鹿で無鉄砲で、そしてなにより大切な親友のおかげでな」

 

そう言ってアナキンは穏やかに微笑む。

 

その笑顔は、戦場で見せる英雄のものではない。

 

パドメと共に未来を夢見ていた、若き日のアナキン・スカイウォーカーそのものだった。

 

「……そうか」

 

ヴェイダーは小さく呟く。

 

その言葉には、ほんの僅かではあるが、長い闇の中で忘れかけていた温もりが宿っていた。

 

それを見届けたアナキンは目を細める。

 

自分がここへ来た役目は、もう終わった。

 

肉体を持たないフォースの存在である彼の身体は、淡い光の粒子となって輪郭を失い始める。

 

霧が風へ溶けるように。

 

夜明け前の靄が朝日に消えるように。

 

その姿は少しずつ薄れていった。

 

最後にアナキンはもう一度だけヴェイダーを見つめ、小さく笑う。

 

その笑みには、「今度こそ間違えるな」という願いと、「まだやり直せる」という祈りが込められていた。

 

そして何も言わぬまま、アナキン・スカイウォーカーはフォースの光へと溶けるように、その場から静かに消えていくのだった。

 

 

 

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