アナキンの親友になって色々あって旅に出た英雄の話   作:紅乃 晴@小説アカ

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やっぱりこう言う時は暴力で訴えるのが一番よ

 

 

 

シディアスとログを分つ稲妻は、玉座に座っていたプレイガスから放たれたものだった。

 

紫電は二人の間を正確に走り抜け、床の赤い水晶を焼き焦がしながら一本の境界線を刻みつける。

 

その一撃には殺意はない。

 

だが、「ここから先へは進ませぬ」という、明確な意思だけが込められていた。

 

玉座から立ち上がったプレイガスは、その手に紫電を纏わせたまま悠然とこちらへ歩いてくる。

 

一歩。また一歩。

 

足音は静かであるにもかかわらず、その場の空気は彼が近づくたびに重く沈んでいく。

 

先ほどまで穏やかだったフォースは姿を変え、今度は濃密な暗黒面が寺院全体を満たし始めた。

 

「シディアスよ。其奴は我が弟子だ。迂闊なことは考えないほうが良いぞ?」

 

その言葉には明確な暗黒面が含まれていた。

 

独占欲……というべきか。

 

ただ一人、自らが鍛え上げると決めた弟子を守ろうとする、マスターとしての強烈な執着。

 

その静かな声音とは裏腹に、フォースははっきりと敵意を語っていた。

 

ただ、シディアスから見れば、その姿はどこか微笑ましく映った。

 

大切なおもちゃを奪われまいと癇癪を起こす子供。

 

……いや。

 

それを奪おうとしている自分もまた、同類なのだろう。

 

そう思うと、思わず口元が緩んだ。

 

「……よき。よき弟子を得たのだな? 別世界の余は」

 

そう言うと、プレイガス……いや、ログの世界における自分自身、シーヴ・パルパティーンは歩みを止め、小さく笑みを浮かべた。

 

共和国元老院最高議長として銀河中から尊敬を集めていた頃の姿。まだメイス・ウィンドゥとの戦いで顔が焼け爛れる以前の、端正な顔立ちのままのパルパティーンは、興味深そうに言う。

 

「なんだ。気づいておったのか」

 

その言葉に、シディアスは当然と言わんばかりに返す。

 

「彼と剣戟を交わせば、幾億の言葉を交わすなど造作もない」

 

その言葉は誇張ではなかった。

 

高みに至った者同士の戦い。それは言葉を尽くして語るよりも、遥かに深く互いを知る行為だった。

 

一太刀ごとに技量を知り、一歩ごとに思想を知る。全てが剣を通じて流れ込み、隠し立てなど何一つできない。一定の境地へ達した剣士にとって、剣戟とは会話そのものだった。

 

だからこそ、その心地よさは、どんな快楽や互いを曝け出す行為にも勝る。

 

「それはそうであろうな。で?どうするつもりだ?」

 

笑みを崩さない。だが、その言葉には先ほどとは比べ物にならないほど明確な敵意が込められていた。

 

弟子へ向けられる視線だけは、決して譲る気がないと物語っている。

 

その妙に幼い独占欲が、シディアスには可笑しく思えた。思わず笑みが漏れる。

 

その真ん中では、ログが本来の世界で仕えてきたパルパティーンと、先ほどまで剣戟を重ねていたシディアスを交互に見比べていた。

 

珍しく困ったような表情を浮かべている。

 

その様子がまた滑稽であり、同時に愛おしくもあった。

 

そして、その姿はシディアスの中に新たな欲望を芽生えさせる。

 

欲しい。この男を、自分の弟子にしたい。

 

そう思わせるだけの器が、確かにそこにはあった。

 

「ログ・ドゥーランは我が唯一の弟子。それを欲するとは……いささか欲が深すぎるぞ?シディアス卿」

 

その牽制じみた言葉に、シディアスは余裕を持って答えた。

 

「欲が深い?何を言う」

 

黄金の瞳が愉快そうに細められる。

 

「欲こそが、シスの源流ではないか」

 

その一言だけで、寺院の空気が再び震えた。

 

支配欲、探究欲、独占欲、知識欲。

 

その果てなき向上心と、あらゆる「欲」が人を突き動かし、その執念こそがダークサイドを生み出す。

 

欲するからこそ、人は限界を超える。

欲するからこそ、シスは強くなる。

 

「欲深さこそが、シスの本懐であろう!」

 

「ふ……ふふふ……かっかっかっ!違いない!」

 

二人は同時に笑った。それは敵同士とは思えぬほど楽しげで、それでいて危険極まりない笑いだった。

 

互いの手へ紫電が漲り、青白い稲妻は腕を這い、周囲の空気を焼き焦がす。

 

シス・マスター。ダース・シディアスによる渾身のフォース・ライトニング。

 

そして、それに呼応するように立ち上る、別世界のシーヴ・パルパティーンの暗黒面。

 

二つの膨大なエネルギーは寺院全体を震わせ、赤い水晶は悲鳴を上げるように共鳴し、その一撃一撃は、スター・デストロイヤー級の艦艇すら一瞬で灰燼へ帰すほどの破壊力を秘めている。

 

そして、その二人のシス・マスターが放とうとしている破滅的な力の、まさに爆心地となる場所には……渦中のログ本人が、ただ一人、立っていた。

 

「え、ちょっ」

 

制止の言葉を最後まで口にする暇すらなかった。

 

鏡合わせをするように、二人のシス・マスターは同時に両手を突き出す。

 

轟っ、と二筋のフォース・ライトニングが咆哮を上げ、真正面から激突した。青白い稲妻は赤い水晶で築かれた床を抉り、精巧に装飾された壁面を砕き、天井へ向かって一直線に駆け上がる。

 

古代シスの彫刻は一瞬で吹き飛び、数千年の歴史を刻んできた柱には無数の亀裂が走った。

 

「やっべ……!?」

 

霊体化していても消し飛びかねない威力を前に、ログは思わずフォースへ身を委ねる。

 

次の瞬間、その姿は目にも止まらぬ速さで爆心地から離脱していた。

 

彼が飛び退いた直後。互いのフォース・ライトニングは真正面から衝突し、その余波は激突した一点を起点に天へと駆け上がる。

 

轟音と共に赤い水晶の天井が裂け、寺院そのものを縦に引き裂く巨大な亀裂が走った。

 

稲妻は山頂まで貫き、暗雲を切り裂きながら天へ昇っていく。

 

「やるではないか!ログとの戦いで一段階進みおったか!」

 

パルパティーンはフォース・ライトニングの威力を一切落とさない。

 

それに応じるシディアスの出力もまた、驚くほど互角だった。青白い稲妻同士は一歩も譲らず、激突点では空間そのものが軋むような轟音を響かせている。

 

ここへ来た頃のシディアスでは考えられない威力だ。

 

ログとの剣戟と、対話。その短い時間だけで、自らの境地をさらに一段引き上げるとは。

 

異世界の存在とはいえ、さすがは自分自身。パルパティーンは心の底から感心していた。

 

「だが、場数は余が上である」

 

その一言とともに、紫電がさらに激しさを増す。

 

パルパティーンのフォース・ライトニングは渦を巻くように形を変え、激突する中央部で巨大な爆発を引き起こした。

 

赤い水晶が一斉に弾け飛び、粉砕された結晶は赤い霧となって周囲へ舞い散る。

 

視界を覆い尽くす赤い爆煙。古代シスの祭壇はその衝撃だけで半ば崩壊していた。

 

「ここらで真に仕えるべき主は誰か、決着でもつけるとするか!!」

 

再び稲妻が轟く。赤い爆煙の中から放たれたフォース・ライトニングが一直線にシディアスへ襲い掛かる。

 

シディアスは迎撃のため、両手へフォースを集中させる。

 

だが、その一瞬の判断の遅れが決定的だった。

 

赤い爆煙を切り裂いて現れたのは、つい先ほどまでフォース・ライトニングを放っていたはずのパルパティーン本人。

 

ライトセーバーを抜き放ち、すでに間合いへ踏み込んでいた。

 

シディアスは即座に周辺へフォースを広げる。周囲へ意識を巡らせ、ライトニングの発生源を探る。

 

(幻影……いや、実体を持った分身……そんな芸当もできるか。だが……!)

 

一瞬で見抜く。爆煙の向こうから放たれているフォース・ライトニングは、本体ではない。

 

シディアスは迫る稲妻へ、自らのライトニングをぶつけようとして……やめた。

 

咄嗟に右手へフォースを集中させ、そのまま掌で稲妻を横へ弾き飛ばすと、轟音と共に電撃は壁面へ逸れ、巨大な穴を穿ちながら消滅した。

 

手を焼き切らんとするほどの勢いこそあるものの、その威力は先ほどまでとは比較にならない。

 

シディアスは難なく受け流していた。

 

(幻影ゆえに、威力は低く、精度も悪い。おそらく設置型の迎撃ユニットのような役割だろう)

 

その結論へ至るまで、一秒とかからない。同時に、目の前では本物のパルパティーンが真紅のライトセーバーを振り下ろしていた。

 

シディアスも瞬時に赤い光刃を展開し、その一撃を受け止める。真紅のライトセーバー同士が激突し、文字通り無数の火花を散らした。

 

「そのような小手先の技が通じると思ったか!」

 

シディアスは叫ぶ。その声音には、先ほどまでログへ向けていた穏やかさはない。

 

目の前にいるのは、自分自身。

 

最も厄介で、最も読みづらい相手だった。

 

まったく同じ形で、まったく同じ速度で、まったく同じ戦術理論から繰り出される剣戟。

 

互いの癖も、狙いも、思考も理解している。

 

だからこそ、その斬撃は一寸の狂いもなく噛み合っていた。

 

ログとの戦いが互いを理解し合う剣ならば。この戦いは、自分自身という鏡と斬り結ぶ剣。まるで鏡合わせをしたような剣戟の応酬に、ログの世界から来たパルパティーンは笑みを浮かべたまま叫ぶ。

 

「はははっ!これはいいな!自分自身との戦いはこうも沸るとは!」

 

その笑いには狂気ではなく、純粋な歓喜があった。

 

未知との遭遇。それはシスにとってもまた、何よりの愉悦だった。

 

自分自身との戦い。

 

それはある意味、ライトセーバーを握り、戦いを志す者であれば真っ先に思い浮かべる、超えるべき相手である。

 

何千、何万、何億と瞑想の中で自分自身と剣を交え、己の未熟さを知り、完成形を追い求めてきた。

 

だが、それは所詮、自分が思い描く「理想の自分」に過ぎない。

 

本当に別世界の自分自身と剣を交えるとなれば、話はまるで違っていた。

 

思考理論に判断速度。戦術に癖。

 

その全てが酷似しているからこそ、互いに何を「驚愕の一手」とするのか、その読み合いが勝敗を左右する。赤い光刃を噛み合わせながら、パルパティーンは思案する。

 

(個人のフォースの絶対量は変わらない。それはあらゆる世界で証明されてきた)

 

かつて、いつぞやの世界で出会った一人の道化師。

 

奇妙な理論を語るその男は、それを「メモリ」と呼んでいた。生命体一人ひとりには扱える容量の上限が存在し、それ自体は増えも減りもしない。

 

重要なのは、その限られた容量をどう使い、どう最適化するか。

 

そんな考え方だった。当時は半信半疑だった。だが、様々な世界を旅し、数え切れないフォースの使い手たちと出会う中で、その理論は不思議なほど腑に落ちていった。

 

(余の見識はログとの戦いで広がりはしたが、フォースの絶対量は今目の前にいる別世界の余も同じ)

 

それは今、目の前にいるシディアス自身が証明している。剣戟を交わす中で、扱えるフォースの総量に決定的な差はない。

 

出力も、反応速度も、技量も、ほぼ同等。

 

ならば。その勝敗を分けるものは、別にある。

 

(余の武器は、別世界で得た……知識……!)

 

下から抉るように放たれたシディアスの斬撃を、パルパティーンは上へ受け流す。

 

その反動を利用し、フォースと一体になるように軽やかに宙へ舞い上がる。漆黒の外套が翼のように広がり、その姿はまるで闇夜を飛ぶ大鴉だった。

 

その手には、すでにライトセーバーはない。

 

赤い光刃はフォースだけで自在に操られ、独立した意思を持つかのようにシディアスへ襲い掛かる。

 

そして、空いた両手は静かに胸元で組まれていた。

 

独特な印。銀河広といえど、シディアスが一度も見たこともない手の形。

 

巳、未、申、亥、午、寅。

 

一定の順序で結ばれていく手印は、まるで儀式のように流れるような動きを見せる。

 

その一つひとつに合わせ、パルパティーンの内にあるフォースが静かに性質を変えていく。

 

ダークサイドでもなく、ライトサイドでもない。

 

ただ、「フォース」という根源そのものを別の形へ変換していくような、不思議な感覚だった。

 

「む……」

 

その異変へ真っ先に気付いたのはシディアスだった。

 

未知の力と理解できない現象だからこそ、本能が警鐘を鳴らす。シディアスは瓦礫となった巨大な赤い水晶をフォースで手繰り寄せ、自らの前へ巨大な盾のように展開した。

 

その瞬間だった。

 

パルパティーンが息を吸い込むと、その口から、とてつもない豪炎が放たれた。灼熱の火流は龍の咆哮のように一直線に駆け抜け、寺院の空気そのものを焼き焦がす。

 

赤い水晶でできた巨大な盾は一瞬で赤熱し、次の瞬間には溶解を始める。耐えきれなくなった水晶は轟音と共に砕け散り、溶岩のような飛沫を撒き散らした。

 

「面白い!そんなフォースの解釈があるか!!」

 

目の前の火球を目にし、シディアスは笑った。

 

未知への恐怖ではない。

 

純粋な探究心。その胸を満たしたのは、これまで見たこともないフォースの運用法への興味だった。

 

砕け散る赤い水晶の破片を突き抜けるように、シディアスは一気に踏み込む。

 

真紅のライトセーバーを抜き放ち、そのままパルパティーンへ斬りかかる。

 

しかし、その斬撃はパルパティーンがフォースだけで操るライトセーバーによって阻まれた。

 

主の手を離れた赤い光刃は、まるで生き物のように宙を舞い、主を守る忠実な番人となってシディアスの前へ立ちはだかる。

 

すると、シディアスもライトセーバーをフォースで操り始める。赤い光刃が手元を離れ、意志を持ったように宙を駆ける。

 

空中では、主不在のまま二本のライトセーバーが乱舞し、目にも止まらぬ速度で剣戟を交わしていた。上下左右、あらゆる角度から襲い掛かり、互いを牽制し合う。

 

フォースだけで制御されているとは思えないほど精密で、まるで熟練の剣士同士が空中で決闘しているかのようだった。

 

その光景を背に、シディアスは一気に肉薄する。

 

踏み込みと同時に右拳を繰り出した。

 

フォースで強化された拳は、スター・デストロイヤーの装甲すら砕きかねない威力を秘めている。

 

だが、パルパティーンは平然とその拳を受け止めた。

 

鈍い衝撃音が響く。次にはそのまま拳を握り返し、寸分違わぬ軌道で殴り返す。

 

互いに避けない。

 

受け止め、打ち返し、また受け止める。

 

「世界は広いからな!楽しいぞ!余と弟子による探究の旅は!」

 

パルパティーンは豪快に笑う。

 

その表情は、銀河皇帝ではない。未知を前に目を輝かせる、一人の探究者そのものだった。

 

拳の殴打。

 

それは伝統的なシス同士の戦いではない。

 

フォースも、ライトセーバーも、知識も、その全てをぶつけ合う、自分自身との熾烈な戦いだった。

 

「なら、その弟子を我が物として、余も銀河の果てまで巡る旅をしようとしよう!」

 

「ははは!寝言は寝て言うが良い!我が弟子のマスターは余ただ一人よ!」

 

互いの拳が激突するたび、衝撃波が周囲へ広がる。その背後では宙を舞う二本のライトセーバーがなおも激しく斬り結び、赤い火花を散らしていた。

 

もはや何が本戦場なのかわからない。

 

剣も戦い、拳も戦い、フォースまでもが互いに競い合っている。

 

その様子は、もはやシス同士の決闘というより、子どものように意地を張り合う二人の天才だった。

 

そんな二人を前に、一人取り残されたログは深く、深くため息をつき、頭を抱えた。

 

「あーもう、こうなるから俺が戦うって言ったのに……」

 

呆れたように肩を落とす。

 

だが、その声にはどこか慣れた響きも混じっていた。

 

パルパティーンが戦えば収拾がつかなくなることくらい、最初から分かっていた。

 

未知のものを見つければ全力で試したくなる。自分自身という最高のおもちゃを前にして、大人しく終わるはずがない。

 

だからこそ、自分が戦うと言ったのである。

 

「止めたら怒るだろうな……うん、怒るな、二人とも」

 

ログは空を見上げながら小さく頷いた。

 

その予想は百パーセント当たる自信があった。

 

その頃には、戦いはさらに混沌としていた。

 

フォースによる幻影が幾重にも生まれ、寺院の中には数人ものパルパティーンとシディアスが現れる。

 

本物と見分けがつかない幻影同士がフォース・ライトニングを撃ち合い、殴り合い、ライトセーバーを交えている。

 

「あー……」

 

ログはその光景を眺めながら、再びため息をつく。

 

「こうなったら……!瞑想でもして落ち着くのを待つか」

 

そう言ってログはその場へ腰を下ろし、静かに座禅を組んだ。

 

目を閉じ、呼吸を整え、フォースへ意識を委ねていく。

 

周囲では寺院が崩れ、稲妻が飛び交い、ライトセーバーが乱舞しているというのに、本人だけはまるで静かな湖畔で瞑想でもしているかのようだった。

 

こうなった師は手がつけられない。

 

止めようとすれば余計に盛り上がるだけ。

 

ならば、二人が満足するまで放っておく。

 

それが一番早く終わる。

 

長い年月をパルパティーンと共に歩み、その性格を誰よりも知り尽くしているログだからこそ辿り着いた、極めて現実的な結論だった。

 

そしてその姿は、互いに「ログは余の弟子だ」と言い争いながら殴り合いを続ける二人のシス・マスターから見事に放置されていた。

 

 

 

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