アナキンの親友になって色々あって旅に出た英雄の話 作:紅乃 晴@小説アカ
アウターリム・テリトリー。
崩壊したシス寺院を後にした俺は、ハイパースペース航行中の帝国製シャトルからクラウド・シティへ向かわせていたアナキンへ連絡を取っていた。
コムリンクのホログラムが青白く揺らぎ、その向こうには見慣れたサウザンド・アドベンチャー号の船内ではなく、反乱軍艦隊の医療船らしき一室が映し出されている。
「それで?ルークを助け出して、そっちは今、反乱軍の集結地点にいるのか?」
通信越しに映るアナキンは、別世界とはいえ、久々に息子と娘の元気な姿を見ることができたからだろう。その表情には、どこか肩の力が抜けたような安堵が浮かんでいた。
『あぁ、レイアとチューバッカとも合流してな。ランドは罪の清算も兼ねて、チューバッカと一緒にソロを助けに行くようだ』
その声は穏やかであったが、ハン・ソロは炭素冷凍にかけられ、ボバ・フェットによって連れ去られていた。
クラウド・シティの指導者であるランド・カルリジアンは街を守るためにハンとレイアを帝国に引き渡す取引に応じたものの、その条件は帝国側の都合が良いようによく捻じ曲げられ、約束は次々と反故にされていった。
帝国は約束を守らない。
その現実を突きつけられたランドは、ついに帝国の横暴を許すことができなくなり、街の住民へ帝国軍による占領を警告し、自らの責任を果たすため、レイアとチューバッカを解放。そして、自らもハン・ソロ救出へ動き出したのである。
その後、ルークを救出したアナキンとダザン、クワイ=ガンの乗るサウザンド・アドベンチャー号と合流し、反乱軍の集結宙域まで同行したとのことだった。
「アナキンはどうするんだ?」
『ひとまず、オード・マンテルだな。ダッシュもレイアから依頼を受けている様子だ。とりあえず同行してボバを追うことにするよ』
オード・マンテル。
犯罪組織や賞金稼ぎたちが頻繁に出入りする、アウターリム有数の無法地帯であり、多くの賞金稼ぎが情報交換を行う場所として知られ、銀河中の裏社会と繋がる重要な中継点でもある。
そこには、炭素冷凍されたハン・ソロを連れ去ったボバ・フェットの居場所を知るドロイド賞金稼ぎ、IG-88がいる。
レイアは、そのIG-88の行方を追うようダッシュ・レンダーへ依頼したらしい。そのダッシュへ同行する形で、アナキンたちもオード・マンテルへ向かうとのことだった。
……ただ、正直に言えば、ボバからの定期連絡はすでに受けている。
炭素冷凍されたハン・ソロは無事にジャバ・ザ・ハットの元へ送り届けられ、ボバ自身も現在はガウの宇宙港へ滞在しているという報告も受けていた。
その情報を頼りに直接ボバの元へ向かうこともできる。
だが、それとこれとは話が別だ。この世界の歴史を大きく歪めないためにも、別情報を元に行動するわけにはいかない。
「ボバとの関係は、あくまでそれはこちら側の話だからな。悪いが付き合ってくれ」
『了解だ。オビ=ワンは?』
「一度合流したあと、外縁部へ向かってもらった。老体には申し訳ないが、交渉役ならあの人ほど相応しい人はいない」
そう答えながら、星図へ表示された外縁部の航路へ視線を落とす。
幻の星、タナロー。
その手がかりを追うインフェルノ隊が向かう外縁部では、すでにオビ=ワンが待機しているはずだった。
そこで待ち受けるのは、パルパル考案……あまりにも内容がえげつなかったため、俺が必死に添削を加え、ようやく形になった試練である。
フォースによる幻覚や精神世界を用い、彼ら自身の過去、人間性、善悪の価値観、そしてフォースとの向き合い方を半ば強制的に体験させる試練。
単なる試練ではなく、己の在り方を問われる試験だ。それを乗り越えた者だけが、タナローへ続く道を知ることになる。
そして、その試練を終えた時。インフェルノ隊、アイデン・ヴェルシオをはじめとする彼ら一人ひとりへ、大きな選択が突き付けられる。
帝国へ忠誠を誓い続けるのか。己の信じる正義を貫くのか。あるいは、まったく新しい道を歩むのか。
その先の人生をどう歩むかは、彼ら自身が選ぶしかない。
『過激な交渉にならなきゃいいけど』
そう肩をすくめるアナキンに、俺も思わず苦笑しながら頷いた。
「それは俺も祈ってる」
どうなるかは、正直まったく予想ができない。
なにせパルパル考案の試練だ。最初に見せられた案なんて、「仲違いさせて最後まで生き残った奴が勝ち!」みたいな、完全にバトルロワイヤルじみた内容。
さすがに「それはやりすぎです」と全力でストップをかけ、何度も修正させたくらいである。
添削したとはいえ、土台はシス要素過多な試練だ。しかも、本人は「かなり丸くしたぞ」と胸を張っていた。元がどれだけ酷かったのか、考えたくもない。
「ルークの様子はどうだ?」
そう聞くと、アナキンは少し複雑そうな表情を浮かべた。
『驚いてはいたけど、落ち着いているよ。ただ混乱はしている。ひと段落すれば俺の正体がバレる可能性があるから、ひとまず出るつもりだ』
そう言って苦笑する。
ルークはまだ若い。だが、オビ=ワンとヨーダから直接教えを受け、フォースへの感覚も急速に磨かれている。
冷静になれば、アナキンがダース・ヴェイダーと同一人物であることへ気付くのも時間の問題だろう。
父親だからこそ持つ独特の気配。親子である以上、無意識のうちに感じ取るものは少なくない。
アナキン自身は、仮に気付かれても構わないという様子だったが、この問題は本来、この世界のルークとダース・ヴェイダーが向き合うべき問題である。
別世界から来た自分がその答えを与えるべきではない。それがアナキンの考えだった。
「わかった。ダザンのことも頼む。いろいろなものを見せてやってくれ」
ベスピン脱出の際、Xウイングで帝国軍の追撃部隊を次々と撃墜していたダザン。初めて出会った頃とは比べものにならないほど腕を上げている。
戦闘機動も判断力も格段に成長しており、その操縦技術は若き日のクローン戦争時代のアナキンに迫るほどではないかとさえ思える。
アナキンもまた、その成長を素直に喜んでいるようだった。
……もっとも、オード・マンテルへ行けば、また何かしら面倒事へ巻き込まれる未来しか見えないのだが。
『もう見せすぎて胃もたれになってるに違いないさ』
そうにこやかに言って、アナキンは通信を切った。青白いホログラムが静かに消え、シャトル内には静けさが戻ってくる。
俺は小さくため息をつきながら、ひとまず全てが予定通り進んでいることへ安堵した。
「マスター、予定通り事は進んでますね」
「とりあえず一区切りは着いたわけだな。……で、この状況をどうする?」
そう聞いてくるパルパティーンと一緒に、俺は皇帝直轄シャトルの客室へ視線を向けた。
そこでは、シディアスが初めて食べる和食へすっかり舌鼓を打っていた。
湯気の立つ味噌汁を一口すすり、白米を口へ運び、焼き魚を丁寧に箸でほぐしている。
「……ほぅ」
感心したように頷くシディアス。
「魚の旨味をここまで引き出すとは……実に奥深い。それに、この味噌なるものも面白い。発酵という概念は知っておったが、このような風味になるとはな」
すでに二杯目の白米へ手を伸ばしていた。
この人、完全にくつろいでいる。さっきまで別世界の自分と寺院を半壊させる勢いで殴り合っていた人物と同一人物とは、とても思えない。
しかも、食べながら作った俺にも当然のように質問まで飛ばしている。
「この漬物は何という?」
「それはたくあんです」
「ほう。歯応えも良い」
「この緑色のものは?」
「わさびです」
「……なるほど」
そう言って少し付けすぎた結果、鼻へ抜ける刺激に一瞬だけ顔をしかめる。しかし、それすら興味深そうに分析しながら、再び刺身へ箸を伸ばしていた。
……何やってんだ、この爺様は。
思わず額へ手を当てる俺をよそに、二人のパルパティーンは「この醤油という調味料は実に面白い」「いや、刺身ならこちらの方が合うぞ」と、すでに食文化談義を始めていた。
やっぱり、この二人。根っこの部分は、びっくりするくらい同じだった。
「余としては白黒はっきりと決着をつけたいところであるが」
そう言いながら、シディアスは湯呑みに入ったお茶を一口啜る。
「シスの寺院を吹き飛ばして、空中戦までやってもまだ足りんと言いますか」
思わず呆れながら返す。
名もなき星にあるシス寺院で始まった、二人のシス・マスターによる決闘。寺院を粉砕し、山頂を吹き飛ばし、そのまま上空まで飛び出して繰り広げられた戦い。
フォース・ライトニングが空を裂き、ライトセーバーの赤い閃光が雲を切り裂き、周囲の山々にまで被害が及ぶほどの激戦だった。
だが、その決着は案外と呆気なかった。
「いや、あのままやると無限レベルアップ編に突入して収拾がつかんくなるから、其方の『ご飯ですよー!』の掛け声がよきストッパーにはなったな」
パルパティーンは心底愉快そうに笑う。
あの後。
瞑想していた俺が、フォースを通じてシス寺院の崩壊を察知。
慌ててシャトルへ戻ったが……ついでに夕食の準備を済ませ、「ご飯できましたよー!」と二人を呼びに行ったところ、空中で殴り合っていた二人が、「あ、飯か」と言わんばかりに、あっさり戦いを中断して戻ってきたのである。
戦いの止め方がおかしい。いや、止まっただけでも奇跡なのかもしれないけども。
シディアスが焼き魚を綺麗にほぐしながら、小さく頷いている。
「腹が減っては戦はできぬからの」
「そこだけ妙に常識的なんですよね……」
思わず肩を落とす。この二人、フォースについて語り始めれば銀河の真理を論じるというのに、こういうところだけ妙に庶民的である。
「で、シディアス卿はこの後はどうなさるので?」
そう尋ねると、食事の手を止めたシディアスは湯呑みから一口茶を飲んでから、ゆっくりと俺たちへ視線を向ける。
その黄金の瞳には、先ほどまでの闘争心ではなく、何かを深く思案するような静かな光が宿っていた。シスの始祖とまで謳われた存在とは思えぬほど穏やかな眼差しだったが、その瞳の奥では、なお底知れぬ知性と探究心が揺らめいている。
「其方を弟子にして銀河探究の旅に出かけるが?」
「さも当然のように言ってますけど……全部ほっぽり出すには時期尚早かと思うんですが」
訂正しよう。この人もうこの後のことしか考えてねぇわ。
思わず額を押さえる。
今の銀河帝国とか、反乱軍とかどうするつもりだよ。たぶん第二のデス・スターも建造が始まっている頃だし、各地では帝国軍と反乱同盟軍の戦いがさらに激化していく時期でもある。
「そんなもの他のものに任せておけば良いだろう? 適当に死んだことにでもして」
「それやったら貴方の信奉者たちが勝手にクローン作ってシディアス復活大作戦やり始めるからダメって言いましたよね?」
「さぁ、ログ!ともに銀河の最果てまで見て回ろうではないか!」
「とりあえず落ち着いてください。話ができないです」
食事前にした会話でも、それはしっかり伝えましたよね!?
たぶん今、シディアス卿が突然トンズラすると、ヴェイダーは間違いなく右往左往する。皇帝という絶対的支柱を失った帝国軍は、各方面軍やモフ、グランド・モフ、情報機関、軍需産業まで巻き込んだ壮絶な権力闘争へ突入するだろう。
そうなれば、いかにヴェイダーでも帝国内部のすべてを押さえ込むことはできない。大規模な帝国内乱待ったなしでは?
第二のデス・スター建造計画と、スーパー・スター・デストロイヤーを押さえている勢力が最終的には有利になるとは思うけど、それまでに銀河全土が血で染まる未来しか見えない。
その混乱に乗じて反乱軍も攻勢を強め、辺境宙域では犯罪組織や地方軍閥まで勢力を拡大する。
そして、その裏でエクセゴルに潜むシスの永遠派が、皇帝の遺志を勝手に解釈してシディアス卿のクローン計画を始めるところまで、もはや容易に想像できてしまう。
そこまで考えてしまうと、俺の頭の中には「銀河崩壊フルコース」という最悪の未来図しか浮かばなかった。
「客観的に見て改めて思うが、余は割とダメ男な気がするのぅ」
そう呑気に言うのは、俺のマスターであり、俺と同じ世界から来たパルパティーンである。まるで他人事のように肩をすくめていて、そのあまりの気楽さに思わずため息が漏れる。
……いや、自覚があるだけまだマシなのかもしれない。
そんなことを考えながらも、俺はシディアスへと視線を向け、静かに口を開いた。
「とにかく今のままどっか行くのはダメです。銀河を混沌の渦に叩き込むつもりですか」
俺が真面目な口調で釘を刺すと、隣で腕を組んでいたパルパティーンも、我がことのようにシディアスへ物申す。
「そもそもログは余の弟子だし?そんなに羨ましいなら其方も野生のログを見つけてくればいいではないか」
「そんな素養の塊が野生におったら苦労せんわ」
「ぐう正論」
「お二人とも!」
なんで息ぴったりなんだよ!
……あ、同じ存在だからか!?
やかましいわ!
別々の世界を歩んできたとはいえ、根本の思考回路は同じらしい。互いに相手の言葉を最後まで聞かなくても会話が成立してしまうあたり、本当に厄介である。
そうすると、シディアス卿は顎先へ指を添え、しばらく思案するように目を細めてから言った。
「其方らがやろうとしていることは理解できた。余としては帝国皇帝という立場である以上、止めねばなるまい……が、その妨害はある条件で無くすことができるぞ?」
「俺と一緒に旅に出るという話以外なら聞きましょう」
「交渉は難しくなったのぅ」
「ぜんぜん懲りてないな。まぁ気持ちはわかる」
肩をすくめるシディアス卿に、少しイラッとする。
オビ=ワンを勧誘していた頃のドゥークー伯爵みたいなムーブしやがってからに。
フォースの深淵や未知なる銀河を探究したいという気持ちは理解できる。理解できるが、それで銀河帝国を放置するな。
「あのですね?俺たちは別の世界から来たわけであって、いつこの世界からいなくなるかもわからないんですよ?そんな相手と一緒に旅とかリスクしかないですよ」
この世界に永住できる保証なんてどこにもない。
明日には元の世界へ引き戻されるかもしれないし、フォースの導き一つで運命が変わる可能性だってある。そんな不確定要素の塊についていこうという発想自体が、普通ならありえない。
「ならば、其方らの見せた可能性に縋って生きていけと? それならばその可能性を見せた責任というものを取ってもらう必要があるのではないか? ん?」
「この爺、すげぇ厚顔無恥なことを平然と」
「余であるからな!」
「皇帝じゃしな!」
「やかましいわ!!」
ついに口に出てしまった。
……なんなんだ、この皇帝コンビ。
片方だけでも十分すぎるほど厄介なのに、それが二人並んで同じ理屈を振りかざしてくるのだから、まともな話し合いになるはずがなかった。
「でもどうするのだ?余とログ、そしてアナキンを除いて、この銀河最強の探究大好き皇帝を満足させる人材をリクルートするのは至難の業ぞ」
パルパティーンは腕を組み、いかにも難題を提示する学者のような顔で言う。
その内容だけ聞けばもっともらしいが、自分で「銀河最強の探究大好き皇帝」と言い切るあたり、やっぱりこの人はブレない。
「それこそクローン戦争レベルのことを起こさないと無理な気がする……」
銀河規模の激動があったからこそ、アナキンやオビ=ワン、ドゥークー伯爵のような数々の規格外が生まれた。
今は帝国の圧政下。フォースへの飽くなき探究心を持ち、しかもシディアス卿を満足させるだけの器量を持つ人材など、そう簡単に転がっているはずがない。
「いっそこの世界に残って余と共に……」
「ダブルパルパルと一緒に行くのはやぶさかではないですが、こちらのパルパルは許すかな」
俺が横目で隣を見る。
「同担拒否!絶許!」
「と、こんな有様でして」
即答だった。一切の迷いも葛藤もなく、食い気味に拒否する元銀河皇帝。まるでお気に入りのおもちゃを取られそうになった子供である。
「まぁログのような男が隣にいたらこうもなるか」
シディアス卿は苦笑しながら、小さく肩をすくめた。それはどこか納得したような声音だった。
フォースの流れを理解した今となれば、俺とパルパティーンの奇妙な師弟関係も、それなりに理解できるものなのだろう……たぶん。
「あー、どこかに可能性の塊で、師匠の無茶にも文句を言いつつ付き合ってくれて、ご飯も作ってくれて、ジェダイにもシスにも傾いてなくて超絶優秀な素養を持った弟子候補はいないものか……」
シディアス卿はわざとらしく天井を見上げ、大げさにため息をつく。
注文が多すぎる。
いや、それもうほぼ俺じゃねぇか。
心の中でそうツッコミを入れながら苦笑していると、不意に一人の人物の顔が頭をよぎった。
「あ、あの……一人心当たりが」
俺が恐る恐る口を開くと、二人の黄金の瞳が同時にこちらへ向く。
圧がすごい。
「なんじゃ。程度の低い相手なら話は聞かんぞ」
さすがシスの始祖というべきか、人材に妥協する気はまったくないらしい。
「その子、虹色に光るゲーミングライトセーバーを使う子でして」
その一言だけで、シディアス卿の表情がぴくりと動いた。
未知。常識外れ。フォースの可能性。
その三つの単語が頭の中で結び付いたのだろう。探究者としての好奇心が、わかりやすいほど刺激されているのが見て取れた。
「詳しく話を聞こうか」
さっきまで銀河探究旅行へ俺を勧誘していた男とは思えないほど、見事な食いつきだった。