アナキンの親友なって色々あって旅に出た英雄の話 作:紅乃 晴@小説アカ
ストームトルーパーの装甲を奪った俺たち三人は、ひとまずデス・スターにきたルークやレイアたちに出会わないように巡回するふりをしつつ、ストームトルーパーに出会ったらフォースでちょいちょい意識改変しつつデス・スター内部を進んでいく。
「お、巡回ご苦労」
『了解しました』
「そっちは異常なしか?」
『異常なしです』
……などと、それっぽく返事をしながら進んでいるが、全員中身は偽物である。
しかも、一人は元銀河皇帝で、一人は銀河にバランスをもたらした英雄、そしてもう一人は元なんちゃってダース・ヴェイダーだ。
冷静に考えると、デス・スター始まって以来最悪の不法侵入者である。
過去の流れではオビ=ワンがトラクター・ビームの主電源を落とす手筈だ。
「アナキン?わかってると思うが無茶はするなよ?俺たちの行動が歴史に悪影響を及ぼす可能性は高いんだからな」
そうストームトルーパーのヘルメット越しに改めて注意をする。
俺とパルパルは平常時からトンチキをやらかす部類の人間だが、アナキンは一度糸が切れると行くとこまで行くヤンチャな性質だからな。
普段のアナキンは終始穏やかだし、面倒見もいい。それに人の話も聞く。
だが、一度「守るべきものが危ない」と認識すると、リミッターが吹き飛ぶ。しかもタチが悪いことに本人にその自覚がまるでない。
過去の探究で俺とパルパルが敵に捕まっちゃった時は、一人で現地の戦闘機を拉致して敵要塞に突入して、敵の親玉を単騎で撃破して俺とパルパルを救いに来たほどだ。
しかも、その時の彼は終始無言で、静かな怒りを纏いながら敵をなぎ倒し、気が付けば要塞の指揮系統は壊滅。俺たちが牢屋から出された頃には、敵はほぼ降伏状態になっていた。
あの時のアナキンはまさに鬼神の如くで、パルパルも心底ビビってたのは印象深い。
後で聞けば、「二人が捕まったって聞いて少し焦っちゃって」などと苦笑していた。少しで敵要塞が陥落するなら、全力を出したら星一つ消し飛ぶんじゃないかと思ったものである。
「わかってるよ、ログ。無茶な真似はしない」
「お前のそういうところ、オビ=ワンにそっくりだから全然信用できねぇ」
アナキンの師、オビ=ワンも冷静沈着という印象が強いが、思い切りはめちゃくちゃいい。
パドメが暗殺されそうになったとき、高層階だというのに外にいる暗殺ドロイドにガラスを突き破って飛びついたくらいだ。
普通のジェダイなら『暗殺ドロイドがいる!』→『追跡のために応援を呼ぼう!』となるが、アナキンの師、オビ=ワンは違う。
『暗殺ドロイドがいる!』→『よし、飛びつこう』である。
そんな師を持つアナキンなので、俺から見てもその信用度は良い意味でも悪い意味でも底値に達している。
「敵要塞を落とした後、崩壊した敵船で大気圏突破したことを思い出すのぅ」
「ちなみにグリーヴァスの船と、探索中に三回はありましたからね。アナキン、お前、疫病神か何か?」
「とんでもなく失礼だけど言い返す言葉がないのが辛いな」
アナキンが困ったように苦笑する。だが実際、遭難率と乗り物の喪失率が妙に高いのだ。
船は爆発するし、基地は崩れるし、何故か乗っている敵艦が墜落する。そしてその度に本人たちだけはピンピンしている。それはもはや才能である。
「そういえば、探索中に遺跡が崩れたことも二回ありましたね」
「三回だ」
「……三回でしたっけ?」
「三回だ」
そんな軽口を叩きつつも、とにかく俺たちの目的はトラクター・ビームの電源が落ちたらさっさとトンズラすることにある。
まずひとつ、余計なことはしない。
そして歴史に干渉しない。
この時代のルークたちとも接触しない。
今回は本当にそれだけだ。
……なのだが。
俺はふと、前を歩くアナキンの背中を見つめる。自分の息子が、この巨大な要塞のどこかにいる。師であるオビ=ワンもいる。
そして、この先で彼は死ぬ。
その未来を俺たちは知っている。
だからこそ、前を歩く「晩年のアナキン」が、本当に何もしないでいられるのか。俺はそれだけが、とてつもなく不安だった。
しばらく巡回していると、トラクター・ビームの電源が遮断されたことを感じる。
まるで巨大な機械の心臓が一つ止まったように、デス・スター内部を流れるエネルギーの流れがわずかに変化する。
俺とアナキンは顔を見合わせた。
オビ=ワンがやった。
過去は、予定通りに進んでいる。
アナキンのゴーサインも出たので、ストームトルーパー三人組で元の船があるデッキに向かっていると、一人のトルーパーに声をかけられた。
「おい、そこの三人。面白いものが見れるぞ」
そう言われて、ついてこいとジェスチャーされる。
俺とアナキンは無視をしようとした。
今の俺たちの目的は撤収。
余計なイベントフラグは踏まない。
それが鉄則だ。
「あれ? マスターは?」
目を離した途端に、パルパティーンは呼びに来たあのストームトルーパーについていってしまったようだ。
「……」
「……」
俺とアナキンは無言で顔を見合わせる。
そして同時にため息をついた。
「あの好奇心の擬人化め!」
「状況をわかってるのか!?」
あの人! ほんとにあの人!
巣穴とか面白そうなの見つけたら後先考えずに突っ込む人だったわ!
ミミックとわかっている宝箱でも、ほんの数%の可能性があったら開けるタイプの探究者だったわ!
フォースの遺跡を見つけたら、「罠かもしれんのぅ」と言いながら真っ先に扉を開けるし、古代兵器を見つけたら「ちょっと触るだけ」とか言いながら起動させる。
そして大体、後で酷い目に遭う。
なのに懲りない。
何百年生きようが、その好奇心だけは全く衰えないのである。
二人揃って元銀河帝国皇帝に向かっての言葉とは思えない悪態をつきながら、先にひょいひょいと行ってしまったパルパティーンの跡を追う。
すると、少し先の通路の角から、例のストームトルーパーの声が聞こえてきた。
「おお、始まるぞ!」
「皇帝陛下の右腕と、あの老ジェダイの決着だ!」
「ヴェイダー卿がどう戦うか見ものだな!」
……。
…………。
俺とアナキンの足が止まった。
嫌な予感がする。とてつもなく嫌な予感がする。
通路をいくつか抜けた先は、ミレニアム・ファルコンが止まっているデッキだった。
巨大な格納庫に、白い装甲板、そして無数の整備機材。その中心に鎮座する、銀河で最も有名なオンボロ貨物船。
多くのストームトルーパーが見つめる中、真っ赤な光剣を構え、漆黒の骸のようなマスクと機械化された四肢で戦う存在。
ダース・ヴェイダー。
その呼吸音が、静かな格納庫に規則正しく響いていた。全身を生命維持装置に繋がれ、それでもなお立ち続ける暗黒卿。
そして、その彼と向かい合うように青白い光剣を構えた、歴戦のジェダイ・マスターがいた。
オビ=ワン・ケノービ。
老いてなお背筋は真っ直ぐで、その立ち姿には一切の迷いがない。
二人は動かず、ただ互いを見つめている。まるで十数年という歳月が、一瞬で埋まったかのように。
歴史的な戦いが今、目の前で繰り広げられていて、パルパティーンの扮するストームトルーパーも、その達人の域に達している戦いを眺めていた。
赤と青。二つの光刃が交差するたび、白い格納庫に閃光が走る。
派手な動きではない。むしろ静かだ。互いに一歩も譲らず、一手一手を積み重ねていくような剣戟。
だからこそ分かる。
両者とも、どれほどの高みにいるのか。
それは一つの決闘ではない。
一つの時代の終わりだった。
これは、とてもまずい。内心で思考回路はショート寸前だ。なりきりヴェイダーデラックスセットでやらかしてる俺と、オビ=ワンの戦いを第三者で見るなんてどんな拷問だ!?
しかもここ、歴史の転換点!
変に関わると後の歴史にめちゃ影響が出る!
思わず俺は、その戦いを見ているパルパルのストームトルーパーの肩を掴んだ。
(マスター!ここはやばいです!地雷原でタップダンスするつもりですか!)
そうフォースの念話で話しかけてみたが、パルパティーンの反応はいつもと違っていた。それは興味深い歴史的なフォースの痕跡を見つけた時と同じような反応のように思えた。
いや、違う。もっと真剣だ。何かを見極めようとしている。それはまさに探究者の目だった。
「ログ」
視線は二人を見つめたまま、パルパティーンはいう。
「あれ、お主じゃないぞ」
……は?一瞬、意味が……そこまで考えた瞬間だった。
一人の影が前に飛び出すのがわかった。
トルーパーの装甲の裏に隠していたライトセーバーを取り出したそれは、オビ=ワンに斬りかかろうとしていたヴェイダーの光刃の前に躍り出て、その一撃を払い除けた。
青と赤。
二本の光刃が激しく火花を散らす。
「貴様は……!?」
青白い光のライトセーバーを構え、オビ=ワンの前に立つストームトルーパー。その構えは奇しくも、オビ=ワンが愛用したソレスそのものだった。
完璧な防御の型。
師から受け継いだ、最も見慣れた剣の姿。
(アナキンーーーー!!!!)
俺がヘルメット越しに頭を抱え、隣にいたパルパルは爆笑していた。肩が震えている。なんなら「くっ……ふふ……!」とか聞こえている。
お前!お前!お前ぇぇえーー!
だからそういう信用度は底値だって俺言ったじゃん!
アナキンからすれば、このままでは尊敬し、兄のように慕っていたオビ=ワンを失う未来を知っている。
その光景を見たら自制できる自信はあった。だが、その理性を本能が否定したら何の意味もない。つまり、アナキンはライブ感で前に飛び出したということである。
あーもう無茶苦茶だよ!
歴史改変もへったくれもない!
「貴様は……何者だ……その不快なフォースは一体……なんだ……!」
まるで頭痛に苦しむように片手をマスクに添えるダース・ヴェイダー。
呼吸が乱れる。電子音がわずかに浅くなる。その様子に、俺の背筋を冷たいものが走った。
彼は、俺ではない。パルパルがいうのだから、それは真実だ。
ならば……俺じゃないダース・ヴェイダーだとすると……それは……まさか……最悪の……。
目の前のヴェイダーは、今、自分自身のフォースを感じている。
若き日の自分。闇に堕ちなかった自分。愛する人を守り抜き、全てを手にしたまま歳を重ねた自分。
そんなあり得ない存在が、目の前に立っているのだから。
「………アナキン………?」
ストームトルーパーの背中でライトセーバーを構えていたオビ=ワンは、信じられないという顔と震える声でそう問いかける。
彼もまた感じていた。
このフォースを。
何千回と隣で感じてきた。
弟子の気配を。
「……お久しぶりです。マスター。過去とはいえ、こうやってまた再会できたのは嬉しいです」
はい、やらかしました。
もう修正は無理です。
完全に手遅れです。
俺の脳内で「歴史保護計画」という看板が爆発四散した。そのやりとりに、目の前にいるダース・ヴェイダーは、目に見えるほどの動揺と浅い電子音の呼吸を繰り返している。
赤い光刃が、わずかに揺れている。
あり得ない。
あのダース・ヴェイダーが、銀河に恐怖を振りまく暗黒卿が、ただ一人の存在を前にして、狼狽している。
俺が全てを放り出したことを察したパルパルも、この状況を楽しむ方向にシフトし始めた。腕を組み、完全に観客席モードである。
ほんとそれやめろ。その「これは貴重なものが見れるぞ」みたいな顔をやめろ。
……ただ、これで確信した。
この世界は……アナキンが闇堕ちして、ダース・ヴェイダーとなった世界であると。
そして今。
このデス・スターの格納庫には、
オビ=ワン・ケノービ。
ダース・ヴェイダー。
そして、闇に堕ちなかったもう一人のアナキン・スカイウォーカー。
銀河でもっとも会わせてはいけない三人が、揃ってしまったのだった。