アナキンの親友なって色々あって旅に出た英雄の話   作:紅乃 晴@小説アカ

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化け物には化け物をぶつけんだよ理論


叩くなら折れるまで

 

 

 

かつての闘技場で、赤と黄の閃光が交差し、ぶつかり合う。

 

今は廃墟と化したジオノーシスの闘技場。その中央で、二つの光刃だけが往時の歓声を思い起こさせるように明滅していた。赤は怒りと執念を纏い、黄は静かな湖面のように揺らぎひとつ見せない。

 

ダークサイドの荒々しいパワーでヴェイダーは戦いのペースを握ろうと喘ぐが、その攻撃の悉くが羽を掴むように空虚で、受け逸らされ、力で押しても前のめりになって倒れそうになる。

 

大上段からの斬撃。横薙ぎの一閃。相手の防御をこじ開けようとする渾身の押し込み。その全てが僅かな角度の変化だけで受け流され、まるでそこに存在しない空気を相手にしているかのようだった。黄の刃は決して急がない。ただ、必要な場所に必要なだけ現れ、赤い光を自然と別の方向へ導いていく。

 

フォースの力を駆使して倒れず、猛攻を続けるが、得られる優越感も余裕もない。その全てが空を切っているような気がしてならなかった。

 

呼吸器が規則正しく空気を送り込む音だけが、ヴェイダーの焦燥を際立たせていた。

 

「バカな……私の力を何故こうも避けられる……!」

 

幾人のジェダイを。幾人の歯向かう相手を。幾人の邪魔な存在を。その全てを切り捨ててきた。フォースを支配し、ダークサイドの力を激らせ、強力なシスの暗黒卿として君臨し続けてきた。

 

共和国を終わらせた戦いの日々。反乱軍との終わりの見えない戦争。銀河に名を知られた剣士も、歴戦の将軍も、彼の前には膝を屈してきた。恐怖こそが支配の証であり、自分の力を疑ったことなど一度もない。

 

その絶対的な強者の感覚が、今は信用できなくなっている。

 

下から逆袈裟に切り上げた一撃が想像を絶する力で止められる。

 

相手は手をかざすこともせず、フォースの力でヴェイダーの身体を完璧に縛り上げていた。ヴェイダーもフォースで抵抗するが、機械の肉体が軋み、体内で火花が散っているのがわかるほどだった。

 

腕が上がったまま止まる。

指一本すら動かせない。

 

まるで目に見えない巨大な手に全身を掴まれたかのようだった。

 

サイボーグとなった四肢が悲鳴を上げ、胸部の生命維持装置に過剰な負荷がかかる。義手の関節部が震え、人工筋肉の束が限界まで張り詰める。

 

それでもヴェイダーは抗った。

 

ダークサイドを呼び起こす。怒りを、憎しみを、苦痛を力へと変える。

 

これまで何度も自らを窮地から引き上げてきた力だった。

 

だが、動かない。

 

フォースそのものが、自分の意志を拒絶している。

 

「あり得ない……なんだ、その力は……!」

 

「今のお前じゃ永遠に手にすることのできない力だよ、アナキン」

 

ギシギシと音を立てて身体をまるでひざまずかされる様に操られる。信じられないフォースの力だ。ライトサイドもダークサイドも、まるで目の前の相手に力を貸すようにフォースを巡らせているようだ。

 

それは支配ではなかった。無理やり従わせる暴力でも、強引に引き寄せる技でもない。

 

大河へ小石を投じれば自然と水が流れを変えるように、目の前の男が存在するだけでフォースそのものが穏やかに応えている。

 

光も闇も区別なく、その意志を受け入れ、世界そのものが彼を中心に静かに巡っていた。

 

そしてヴェイダーは、かつて一度だけ似た感覚を覚えたことがあると気づく。

 

まだアナキン・スカイウォーカーだった頃。

 

ジェダイ・テンプルの窓から見上げた夜空の下で、自分には銀河全てを変えられる何かが宿っているのではないかと、漠然と感じていたあの日の感覚。

 

しかし今、目の前にいる男は、その遥か先へと辿り着いていた。

 

「その名で……私を……呼ぶな……」

 

メキメキと呼吸器の機構も軋む。絶対的な強者という経験も過去も、今は何の役にも立たない。抵抗も反抗も全てが強大なフォースによって押し付けられていた。

 

マスクの奥で、ヴェイダーは歯を食いしばった。

 

アナキン。

 

その名前だけは許せなかった。

 

遠い昔に捨てた名だ。ムスタファーの溶岩と共に燃え尽き、妻を失い、師を失い、自らの肉体さえ失った日に死んだ男の名だ。そのはずだった。

 

だが、目の前の男はまるで当然のようにその名を口にする。

 

まるでヴェイダーなど最初から存在していないとでも言うように。

 

ヴェイダーという悪の権化。

 

絶対的な力を持つ存在を恐れるという現実がダース・ヴェイダーという存在に圧倒的な力を与えていたが、目の前にいる男はその恐れを持たない。フォースの流れを見て、語りかけてくるものを聞き、そして力を委ねる。もうヴェイダーにはできないフォースへの対話。

 

それはあまりにも自然だった。

 

フォースを捻じ伏せ、怒りと憎しみで引きずり出し、武器として振るうのではない。

 

風が吹くように、水が流れるように、フォースの流れに身を任せ、その声に耳を傾けている。

 

かつての自分も、それに近い感覚を知っていた。

 

ポッドレーサーを操っていた幼い頃。オビ=ワンと背中を預けて戦場を駆けた頃。ライトセーバーを手に、ただ無心で刃を振るえた頃。

 

だが今の自分には、もう何も聞こえない。

 

あるのは生命維持装置の機械的な駆動音と、胸の内で燃え続ける怒りだけだった。

 

ふと、ヴェイダーの全身にかかっていた重みが消える。すぐさまダークサイドの力で切り掛かるが、斬って返すように放たれたフォース・ライトニングに身体を焼かれた。

 

「……っ!!」

 

青白い稲妻が空間を走り、黒い装甲へと突き刺さる。

 

電流が機械の神経を逆流し、人工筋肉を強制的に痙攣させた。装甲の隙間から火花が弾け、生命維持装置が異常を知らせる警告を次々と発する。

 

悲鳴は何とか堪えた。全身を迸ったその力に今度は自らの意思で膝をつく。

 

片膝が赤い大地へ落ちる。

 

その瞬間、ヴェイダーは理解してしまった。

 

押さえつけられて膝をついたのではない。

 

自分から膝をついたのだ。

 

身体が、この力には抗えないと判断してしまった。

 

「ダークサイドの力の理解がまだ浅いな。それでシスの暗黒卿を語るとは笑わせる」

 

さらに追い討ちを打つようにフォース・ライトニングがヴェイダーを襲った。

 

赤い大地にあるアリーナが青白い光に包まれる。稲妻が轟く音が幾度も響き渡り、ヴェイダーのくぐもった声がアリーナに溶けていく。

 

二度、三度と稲妻が降り注ぐ。

 

電撃が鎧を伝い、黒いマントの裾を揺らし、仮面のレンズに青白い光を映し出す。

 

機械の身体は、電撃に対してあまりにも脆い。

 

そのことをヴェイダー自身が誰よりも知っていた。

 

かつて、皇帝の前で同じ力を浴びたことがある。あの時は怒りで立ち上がった。苦痛すら憎悪へと変え、なお前へ進めた。

 

だが今は違う。

 

目の前の男から感じるのは怒りではない。

 

憎しみでも、優越感でもない。

 

ただ、絶対的な力量の差だけだった。

 

呼吸が荒れ、力無く膝をつくヴェイダーに容赦なく稲妻を浴びせる男の目は、まるで作業をするように無機質で、暗黒卿に勝つという勝利や、欲といったものは微塵もない。

 

ただ圧倒的な差を理解させるだけ。

 

その瞳には、ただ事実だけがあった。

 

お前は弱い。

 

お前が縋った力は完成には程遠い。

 

そして、お前が神格化しているダース・ヴェイダーという存在など、この銀河では決して絶対ではない。

 

ヴェイダーという悪を神格化させないよう、その先があると理解させるように、徹底的に力の差を見せつける。

 

ついにヴェイダーは痛みに屈した。意地で堪えていた身体は大地に横たわり、か細い呼吸が聞こえるだけだった。

 

黒いマントが赤い砂塵の上に広がる。

 

闘技場を震わせていた暗黒卿の威圧感は、今は見る影もない。

 

あるのは、ただ横たわる一人の敗者だけだった。

 

「どうした。ムスタファーで戦っていた頃のアナキンならこれくらい耐え忍んだぞ。お前はアナキンを屠ったダークサイドの暗黒卿なのだろう?なら立てるはずだ」

 

そう静かにいう男にヴェイダーはうめき声を上げるだけだ。

 

すでに抵抗の意思すら見せないヴェイダーの身体を無理やりフォースで起き上がらせて立たせる。

 

まるで壊れた人形を操るようだった。

 

足が震える。

 

肺が焼けるように痛む。

 

視界の端では警告表示が赤く明滅し続けている。

 

それでもフォースによって立たされたヴェイダーは、かろうじて前を向かされる。

 

そして、その黄色の光刃を持つ男と、真正面から向き合わされるのだった。

 

黒い仮面の奥にある瞳と、フードの奥にある青白い瞳。

 

互いに数歩の距離しか離れていない。

 

だが、その間には銀河一つにも等しい隔たりがあった。

 

「お前の中のアナキン・スカイウォーカーを目覚めさせるのは私の役目ではない」

 

空中で固定されるように立つヴェイダーに、フードの奥で青白い瞳を揺らめかせながら男はいう。ヴェイダーは息を絶え絶えにさせながら言葉を吐いた。

 

「貴様は……なんだ……」

 

かすれた声だった。

 

そこに先ほどまでの威圧感はない。

 

銀河を震え上がらせる暗黒卿の声ではなく、理解できない何かを前にした一人の男の声だった。

 

目の前の存在を理解したい。

 

何者なのか知りたい。

 

それは恐怖だったのか、それとも別の何かなのか、ヴェイダー自身にもわからない。

 

そう言葉を吐くヴェイダーをほんのわずかなフォース・ライトニングで吹き飛ばす。仰向けでアリーナに倒れたヴェイダーの体からは火花が散っていた。

 

放たれたのは先ほどまでのような凄まじい雷撃ではない。

 

指先から零れ落ちた火花のような、ごく小さな稲妻だった。

 

それだけでヴェイダーの身体は容易く吹き飛ぶ。

 

黒い身体が赤い大地を滑り、鎧の各部から白い煙が立ち上る。

 

機械音声に異常を知らせる警告が混じり、胸部にある制御装置の動きが乱れる。

 

「衰えたな、アナキン。全盛期よりも力が落ちてる」

 

そう興味なさげにいう相手は、用は済んだと言わんばかりに踵を返す。

 

その言葉には侮蔑も憐憫もない。

 

ただ事実を述べているだけだった。

 

その何気ない一言が、ヴェイダーの胸を深く抉った。

 

衰えた。

 

その事実を、彼自身が誰よりも知っている。

 

失われた肉体。

 

鈍重な機械の四肢。

 

常に付きまとう激痛。

 

ムスタファーで焼かれたあの日から、かつてのアナキン・スカイウォーカーには二度と戻れない。

 

ダークサイドの力で無理やりその差を埋め、怒りと憎しみで全てを塗り潰してきただけだ。

 

だが今、目の前の男はそれを一目で見抜いていた。

 

「貴様は誰だ……!」

 

ヴェイダーは立ち上がっていた。呼吸を浅く、短く繰り返しながら、全身から焼き焦げた匂いを立ち上らせながらも、真紅のライトセーバーを構え立っていた。

 

脚は震えている。

 

右腕も痙攣している。

 

それでも立ち上がった。

 

それだけは譲れなかった。

 

目の前の存在を知らぬまま終わることだけは、どうしても受け入れられなかった。

 

呼び止めた男は肩口に振り向きながら答える。

 

「私の名は、オールドマスター」

 

その声音は静かだった。

 

まるで名乗る必要すら本来はないと言わんばかりに。

 

オールドマスター。

 

シスでもない。

 

ジェダイでもない。

 

だが、その言葉だけが不思議とヴェイダーの胸に重く落ちた。

 

それだけ言って去ろうとするオールドマスターと名乗った相手にヴェイダーは微かに残ったフォースを叩きつけた。

 

「ま、待て……!決着をつけろ……!」

 

それは執念だった。敗北を認めない暗黒卿の意地だったのかもしれない。あるいは、自分を圧倒した存在がこのまま何事もなく去っていくことへの恐怖だったのかもしれない。

 

自身の内に残った全てを振り絞り、ダークサイドを叩きつける。

 

だが、その全力のフォースを赤子の手をひねるように弾き返した相手は、こちらに視線を向けることなく言葉を返す。

 

「ダース・ヴェイダー。貴方が本当の愛を取り戻した時、その決着をつけよう」

 

その言葉に、ヴェイダーの身体が固まった。

 

愛。

 

その言葉を、どれだけ久しく耳にしていなかっただろうか。

 

胸の奥に、とうに焼き捨てたはずの記憶が微かに揺れる。

 

穏やかな陽気に包まれたナブーにある湖。

 

優しく笑う女性。

 

小さな温もり。

 

そして、自らの手で全てを壊してしまったという、底の見えない後悔。

 

だが次の瞬間、ヴェイダーはそれらを振り払うように首を僅かに振った。

 

違う。そんなものはない。

アナキン・スカイウォーカーと共に死んだ。

 

そうでなければならない。

 

そうでなければ……!

 

歩み出したオールドマスター。やがてその背はジオノーシスに流れる荒野の風に混じるよう、まるで霞のように消え去った。

 

黄色の光も消える。

 

そこにはもう誰もいない。

 

吹き抜ける乾いた風だけが、赤い砂塵を巻き上げていた。

 

今のはなんだ。

 

フォースの見せた幻影か?

 

ヴェイダーにはもう理解できなかった。

 

自身や、パルパティーンよりも圧倒的で、まるで自分の中にいた黒い竜を現実に引き摺り出したような……逆らうことのできない力を前に、ヴェイダーはなす術もなく踏み躙られた。

 

その存在は、自分がこうなれたかもしれない可能性を見せつけてくる。

 

光と闇、そのどちらにも囚われず、ただフォースと共に在る在り方。

 

それは、ムスタファーの日に自ら切り捨てた未来の姿のようにも思えた。

 

悪の権化も、ダークサイドの暗黒卿も、これまで恐怖で銀河に名を轟かせていたダース・ヴェイダーという名も。

 

今はただ単に、圧倒的な力を前に成す術なく打ち負かされた……現実を見つめることのできない哀れで、仮面の中に閉じこもった男だけが残されていた。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……ああ゛ぁぁあーーーっ」

 

 

 

 

その叫びは怒りではなかった。

 

勝者への憎悪でもない。

 

敗北を受け入れられない悲鳴だった。

 

ムスタファーで焼かれたあの日以来、初めて自分より遥か高みにいる存在を目の当たりにした男の、行き場を失った叫びだった。

 

赤い荒野に、その声だけがいつまでも虚しく響いていた。

 

ヴェイダーはその現実を、否応なく自覚されることになったのだった。

 

 

 

 




アナキン「親友からの圧倒的な信頼が激重すぎる件について」

パルパル「余もライトニングで拷問はやったことあるけどなりきりヴェイダーはライトセーバーで防いでたわ」
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