試験が終わったのでこれからは投稿ペースを戻していきます。
時系列がいつなのかと感想で言われたので言及しておくと今は原作開始5年前です。
つまりロイドは今5歳ということになります。
「部下?」
「あぁ!そうだ!」
目の前の少年はいったい何を言っているのだろう。
部下だって?勘弁してくれ。
ただでさえ、国王と話すという後にも先にも経験することがないだろうビックイベントを終えたばかりで疲れているのに、これ以上の面倒事はごめんだ。
ていうかこの子は先ほどの話を聞いてなかったのか。
言いたいことは山ほどあるが、とりあえず落ち着いて声をかけることにした。
「えっと…どちらさまですか」
「あぁ、自己紹介がまだだったな。サルーム王国第七王子、ロイド=ディ=サルームだ」
まさかの王子だった。
それを知った途端に治ったはずの胃痛が戻ってきた。
王子との会話。なるべく面倒ごとを起こさないように話さなければ。
「あのー……大変申し訳ございませんが私には信念がありまして……」
「それはさっき聞いたよ。それを承知の上で誘ってるんだ」
ならやめてくれよ。
思わずその言葉が出そうになるが、なんとか抑える。
さすがに王子に向かってため口で話すのはまずいだろう。
「えっと…じゃあなんで誘ったんですか」
「俺は魔術が大好きなんだ。お前のような魔術師と一緒に魔術の研究をやってみたいんだ。なぁ、良いだろ?それに部下になったら、お前も魔術の研究し放題だぞ」
そう言って、目をキラキラと輝かせながらこちらを見てくる。
年相応の純粋な眼差しを見て、ノヴァの良心が少しだけ揺らぐ。
魔術の研究ができるというのは、重力系統魔術の完成を目指すノヴァにとって魅力的なものだ。しかも、サルームには貴重な魔術書が多くあるので、ノヴァの知らない魔術をたくさん学ぶことができるだろう。
しかし答えは変わらない。
確かに魔術の研究はしやすくなるだろうが、ノヴァにとって一番の幸せは人生を自由に生きること。その信念は揺らがない。
王子には少し可哀想だが断らなければ。
そう決意を固めて、ノヴァは目の前にいる王子に声をかける
「すいません。魅力的なお誘いですが、自分にとって幸せなのは旅をすることなので」
「ええ~~いいだろ俺の部下になってくれよ~」
そう言って一向に引き下がろうとしないロイド。
いったいどうしよかと頭を悩ませていると見かねたチャールズが声をかけた。
「ロイド、客人を困らせてはいけんぞ」
「すいません父上。ですが、俺はどうしてもノヴァを部下にしたいんです」
なんでそこまでして自分にこだわるのかわからない。
疑問に思っていると、チャールズがある提案をした。
「ではお試し期間を設けるのはどうじゃ」
「お試し期間?」
「一週間の間、ノヴァ殿がロイドの護衛をしてみるんじゃ」
「え"」
「それで一週間経ち、ノヴァ殿が満足すれば部下になり、満足せねば旅を続ける」
「もちろん一週間分の給料も出し、城の部屋を一室貸そう。物は試しじゃ、案外気がかわるかもしれんぞ」
「なるほど、素晴らしい提案です父上‼」
「ノヴァ殿それでよいか?」
どうやらロイドはめちゃくちゃ乗り気らしい。
反対にノヴァはあまり乗り気ではない。
一週間の間とはいえ自由にできないのはノヴァにとって辛いことだった。
しかし王の提案を断るのはさすがに無礼だろう。
まぁ報酬も出るし一週間我慢すればまた旅人に戻れるからいいだろう。
それに重力系統魔術の研究も進むかもしれない。
「わかりました。その提案を受けましょう」
「本当か!!」
「はい、短い間ですがよろしくお願いしますロイド様」
「ああ、よろしく」
そう言ってロイドと握手をする。
自分よりもずっと小さいその手を握った瞬間、ぞくっと恐怖が走った。
「ッ⁉」
その時ノヴァは確かに感じた。目の前の少年の中に尋常じゃないほどの魔力があるのを。
その魔力は量も質も自分を遥かに超える規格外のもの。
気のせいだと思いたかった。しかし、こんな近くにいて間違えるわけがない。
恐怖によって何も喋ることができずに冷や汗を流していると、ロイドが手を引いて歩き出す。
「それじゃ、俺の部屋に来てくれ。魔術の話をしよう」
「えっ、いやあの……」
そう言ってノヴァの手を引っ張って走り始めるロイド。
放心状態でされるがままに連れていかれるノヴァ。
そのまま2人は王座の間から出ていった。
そんな姿を見てチャールズは安堵の息を吐いた。
ロイドは魔術にばかり興味があって、風呂や食事をせずに魔術書を読むなんてことも少なくない。
そんなロイドが魔術以外に興味を持ってくれたのは、親として嬉しかった。
あの旅人の少年、ノヴァには少し申し訳ないが、このままロイドの部下になってくれたらとてもありがたい。
そこにはサルームの王としてのチャールズ=ディ=サルームではなく、息子のことを心配する親の顔が浮かんでいた。
◆◆◆◆
ロイドにされるがままに連れていかれたノヴァが着いたのは、一つの大きな部屋だった。
そこには立派な机や大きなベットが置かれており、床には様々な魔術書が散らかっていた。
この部屋を見た時、ノヴァはどこか既視感を感じた。
いったいなぜだろうと少し考えると、すぐにわかった。
(あぁ、じいちゃんの部屋に似てんのか)
ノヴァの祖父、レヌウスも片付けが苦手で、この部屋のように家を散らかしていたのを思い出す。
遊びに行く度にノヴァが片付けていたが、3日もすればまた散らかしていたので、よく説教していた。
懐かしいなと思い出に浸っていると、ロイドが話しかけてくる。
「なぁなぁ、早く見せてくれ」ワクワク
「あ、えっと……何をですか?」
「重力系統魔術だよ。もっと見たいんだ」
「あぁ……」
そういえば、まだ二つしか見せていなかった。
どうやらロイドはあれだけでは満足できなかったらしい。
「別にいいですけど……そんなに見たいんですか?」
「見たい‼」
即答だった。
食い気味に答えるロイドを見て、ノヴァは不思議に思う。
(そんなにすごいか?そうでもないだろ)
確かに重力系統魔術はノヴァが一から創り上げたもので、この世界で扱える者はノヴァしかいない。
しかし、先ほど握手をしたときに感じた魔力。
あれほどの魔力を持っているロイドからすれば、自分の魔術なんて比べものにならないほどにレベルが低いはずだ。
「あんまり派手なのはできませんよ。この部屋壊したらまずいですからね」
「そんなのいいから早く‼」
自分の部屋が壊されることも気に留めず、ノヴァを急かすロイド。
しかたない、見せればすぐに飽きるだろう。
そう思いながらノヴァは机に手を伸ばしに詠唱を始める。
その詠唱さえも、ロイドは楽しそうに聞いていた。
《重力系統魔術 天穹・昇》
詠唱が終わると何も起きない。
失敗したのかと思ったのかロイドが不思議そうな顔で見てくるが、そのまま机に近づく。
目の前まで行くと、机を片手で掴んでそのままヒョイっと軽々と持ち上げる。
それを見てロイドの顔がさらに笑顔になる
「コレが重力を軽くする天穹・昇です。どのくらい軽くするかは込めた魔力の量によって変わります」
「すごいな‼︎天穹とは何が違うんだ?」
「天穹は無重力にするので浮いてしまいますが、天穹・昇は浮かばせずに軽くすることができ、魔力消費も天穹より少ないので、普段使いにはこっちのほうがいいです」
「なるほど。俺もそれ持ってみたい」
「どうぞ」
ノヴァは持っていた机をロイドに渡すと嬉しそうに片手でもって、「ほんとだ‼︎軽いぞ」と上げたり下げたりして遊んでいた。
だが、しばらくすると飽きてしまったのか、机を元の位置に戻した。
そしてぐりんっと首を捻ってノヴァを見る。
「なぁ、次はこの魔術を俺に掛けてくれないか?」
「それは可能ですけど……危ないですよ、重力が変わるというのは」
「大丈夫だ、その時はお前が何とかしてくれるだろ?」
「それは……まぁ…はい」
「それじゃ、掛けてくれ」
そう言ってロイドはニマニマと笑いながら、ノヴァが重力魔術を掛けるのを待つ。
この時、ノヴァは不安だった。
確かに自分に掛けたことで《天穹・昇》の対生物の安全性は確かめた。
だが、今まで自分以外の人に掛けたことはなかった。
もし失敗してしまったら……
しかしロイドは今か今かと待っている。掛けないわけにはいかない。
「では、いきますよ」
「あぁ」
意を決して天穹・昇をロイドに掛ける。
するとロイドの顔が驚愕の表情に満ちる。
自分の両手を確認した後に足に力を込めて軽くジャンプする。
瞬間、天井すれすれまで飛び上がってゆっくりと着地した。
「~~~~すごい!!重力が軽くなった。羽がついたようにふわふわするぞ!!」
興奮しなが目をキラキラさせて楽しそうに跳ねるロイド。
その様子を見て安堵の息を吐くのと同時に、思わず口角が上がってしまうノヴァ。
失敗しなくてよかったという安心と自分の開発した魔術を褒められるのは嬉しかったし、ロイドの年相応の反応が面白くてつい笑ってしまった。
「この魔術はどれくらい掛けていられるんだ?」
「えっと…大体5時間はいけますね」
「そんなにできるのか⁉」
「まぁ、鍛えていたので」
「すごいな。なぁなぁ、これはどういう術式を使っているんだ?」
「それはですね……」
「あと、これ以外にどんな魔術があるんだ?」
「どいう効果をしているんだ?」
「いやだから……」
「あ、そうだ‼普通の魔術についても聞かせてくれよ」
「ちょ、落ち着いて」
「じゃあ早速火系統について話そう」
床に散らばった本を一つ持ち上げ、そのまま開いて魔術の話を始めるロイド。
そこから約4時間の間、ノヴァはロイドの魔術の話を聞き続けた。
◆◆◆◆
気が付くと日が沈んで空がオレンジ色になり始めていた。
ずっと魔術の話を聞かされて頭がどうにかなりそうだった。
魔術は好きだが、さすがにここまでの長時間トークは疲れる。
いつまで続くのかと考えていると、扉が3回ノックされた。
ロイドが”どうぞ”というと”失礼します”とメイドが入ってきた
「ロイド様、夕食のお時間です」
「え、もうそんな時間なのか」
「はい、レイヴン様の分も用意しております」
「え?俺の分も?」
「もちろんです。あなたは仮とはいえ今日からこの城で働くものですから」
「ありがとうございます」
そうなればさっさとご飯を食べてしまおうと立ち上がるが、ロイドが一向に立ち上がろうとしない。
不思議に思い声をかけてみる。
「あのロイド様?夕食食べに行きましょうよ」
「やだ。それより魔術の話をしようよ」
「魔術の話は食事が終わった後でもできますよ」
「やだ!今したいんだ」
ロイドはかたくなにどこうとしない。
しばらく言い合いをした結果、ノヴァの重力魔術をたくさん見せるという約束を結んで、ロイドにご飯を食べさせることができた。
そしてご飯を食べ終えるとそのままお風呂に入ろうと思いロイドを誘う。
しかし、ロイドはこれも拒否する。
「ロイド様、さすがにお風呂は入りましょうよ」
「やだ!それならノヴァと魔術書読むほうが面白い」
「そう言わずに、お風呂も気持ちいいですよ」
「魔術書読む時間が減っちゃうでしょ」
「終わったら読みましょう」
「今読みたいんだ」
そう言って入ろうとしないロイドに頭を抱えるノヴァ。
仮にもロイドの部下になったのだから、身の回りのお世話は自分がしなければならない。
これも何とかしなければ。
そうやって考えていると、一つのアイデアが浮かんだ
「ロイド様、もしお風呂に入ったら重力魔術を使った水の遊びを見せますが——」
「早く行くぞ‼︎」
なんて現金なやつだろう。
先ほどまで絶対に動かないという意思を見せていたのに、手のひらを変えてお風呂に入ろうとする。
まぁ楽でいいかと考え直して風呂に入る準備を始める。
お風呂に入るとロイドの髪を洗ったり、湯船に使って重力魔術を使いまずを浮かせて遊んだり、魔術の話をして長風呂をしてしまい、2人してのぼせてしまった。
そのあとはロイドの部屋に戻って魔術の話をした。
夜遅くに二人で魔術書を見ながら自分たちの考えを話し、いつのまにかノヴァも夢中になっていた。
だが、城の消灯時間になり、自分の部屋に戻る時間になる。
「ロイド様、今日はもう寝ましょう」
「えーーーもっと話そうよ」
「そうは言っても今日はもう遅いですし、また明日話ましょう。それに睡眠を取ることはとても大切なことなんですよ」
「……わかったよ」
今回は早めに引き下がってくれた。
さすがのロイドも眠いのだろう。
ほっとして部屋から出て、最後に挨拶をする。
「おやすみなさいロイド様」
「おやすみ」
部屋の扉を閉じると、ノヴァはその場にどかっと座り込む。
ものすごく疲れた。
王子相手で常に気を張って生活するし、魔術の話をぶっとうしで4時間もするのはいくら魔術が好きとはいえ、さすがに疲れた。
「これがあと一週間?」
たった一日でこれだと先が思いやられる。
考えただけで胃がキリキリと痛む。
しかし、今更''やっぱりやめます''なんて言えるわけがない。
とりあえず今は寝ようと思い、自分の部屋へ帰ろうとするが、そこで気づく。
「……俺の部屋ってどこだ?」
その後、ノヴァはたまたま通りかかったメイドに案内されるまで、城の中を彷徨い続けるのだった。