ふと、目が覚める。
目がかゆくて目をこする。
起きて顔を洗う。それと目が合う。
とても可愛い黒髪の美少女がそこにはいた。
周囲を見渡す。でも周りには誰もいない。
彼女がきょろきょろしている。
鏡をつついてみる。すると、鏡の中の彼女もつつき返してくる。
どうやら僕は少女になっちゃったらしい。
まあ、朝起きたら少女になってるなんて普通に考えてありえない。
だから、多分これは夢なんだろう。
そう結論づけて水を飲み、もう一度布団に入ることにした。
そして寝て起きても僕の姿は少女のままだった。
どうやら夢じゃなく本当に僕は少女になっているらしい。
どうしよう。
女になったという衝撃よりもこれからどうしようかという事ばかりが頭を駆け巡る。
家族になんて説明したらいいんだろうか。
そもそも不登校だから、学校には行かなくて済む。
かと言って、こんな姿だったら戸籍なんてないし、今後身分証明なんて何もできない。
しかも、信じてもらえたとしても今度は逆に悪の組織とかに実験とかされたりするかもしれない。とゆうかそもそもなんで女になっているんだろうか。
そんな心配事ばかりが頭を埋め尽くす。
考えても考えても答えは出なくて、考え疲れてふらふらと外に出た。
玄関を出て外に出ると、その先の世界は崩壊していた。
ビルは倒れ家は潰れ木は折れている。
愕然とした。知らない間に世界が滅んでいる。
正直女になってたこととかどうでもよくなってしまうような景色だった。
そうやってどれくらい突っ立っていただろうか。
「大丈夫ですかー?」
気が付くと目の前で知らない中学生くらいの少女が手を振っていた。
綺麗な白衣に包まれたほっそりとした体躯。
雪のような真っ白な髪に黄色がかった燃えるような瞳。
どこか儚げな天使のような美少女。
世界が滅んでいて、さっきまで愕然としていたはずなのにふと状況を忘れて見惚れてしまっていた。
「本当に大丈夫ですか?」
心配そうにこちらを覗き込んできた彼女に思わずどきりとした。
「い、いや久しぶりに外に出たら世界が滅んでたから、です」
「滅んでたって、……まあそう言われても否定はできないですね」
「どうしてこの世界は滅んだん、ですか?」
「私もよくは分かってないんですよね。今まで通りに過ごしていたらいつの間にか誰もいなくなってて、それで外に出てみたらこんなんなってました」
この世界がなんで滅んだのか彼女なら知ってるんじゃないかって思って聞いてみたけれど、彼女も何も知らないみたいだった。
「そんなことより貴方の名前は何ですか?」
世界が滅びたことなんてどうでもいいかのように彼女は言う。
「僕の名前は……」
答えようとして思いとどまる。前の名前をそのまま言ってもいいんだろうか。姫守隆吾なんて名前は少し男らしすぎるし、元男なんて言って信じてもらえる気がしない。あんまり変なことを言って変人扱いされたくないしなぁ。
「僕の名前は百です」
だから、偽名を名乗ることにした。
「……私の名前は姫咲祐合です。よろしくお願いします」
少しだけ怪訝そうな顔をして彼女はそう言った。
「言いづらいなら敬語はいらないですよ。ところで、どこに住んでるんですか?」
「どこってここ……」
そう言われて家を見ようと振り返るとそこに家はなかった。
……あれ?
確かにそこから出てきたはずだ。そのはずだ。でもそこにはまるで最初から何もなかったかのように全て消えていた。
本当に夢でも見ているんだろうか。
いや、初めから全部夢だったんだろう。
家族はいないし、幻覚は見るし、そもそも女になっているなんてありえないだろう。
……そもそも家族なんて最初からいなかったのかも。そして元々女だったのかもしれない。
そうぶつぶつと呟いていると何を思ったのか彼女は言った。
「……住む場所がないんですね。
こんな状況じゃあ仕方ないです。私の住んでいる所に来てください」
彼女の力はとても弱く振りほどこうと思えば簡単に振りほどけた。
でも、なぜだか振りほどくことができなかった。
そうして彼女に連れられて十分ほど歩いた頃だろうか。
とても大きな大病院に着いた。こんな場所、家の近くにあっただろうか。
「ここが私の住んでいる場所です。人はもういないですし、広いし清潔ですので、住みやすいんじゃないかなって思います」
そう言った後に彼女は続けて心配そうに言った。
「きっと色々あって疲れてしまったんじゃないかと思います。ここでしばらく休みましょう」
法則追加
法則56一日が一時間短くなる
純粋に心配してくれたであろうその言葉がとても心に沁みた。
後ろで何かが吹き飛んだような大きな音がした。
振り向くとそこには赤黒い熊のような怪物がいた。そしてその足元にはとても苦しそうに倒れている彼女が見える。
あの怪物のようなやつが何かしたのだろうか。怪物がこっちを見る。
少し怖気づいてしまう。よく見ると、彼女の周囲にはクレーターが出来ている。
一人であれを作ったのだろうか。
彼女は大丈夫なんだろうか。そう思っていると、怪物がこっちに近づいてくる。思わず後ずさってしまう。
じりじりと近づいてくる。クレーターを作れる怪物の攻撃なんかまともに食らったら死んでしまう。こんな怪物がいるから世界は滅んだのだろうか。もしそうだとしたらほかの人もこういう風に殺されたのだろうか。だとしたら僕はこれから死ぬのだろうか。死にたくない。
じりじりと近づいてくる。一歩一歩怪物が歩くたびに音が響く。本当に僕はここで死ぬんだろうか。死にたくない。そう思った時声が聞こえた。
「こっち見ろ!! 化け物」
見ると彼女が口から血を出しながら叫んでいた。
僕は何にも攻撃されてないっていうのにどうして死にそうな方が庇おうとしているのか。
理解が出来なかった。
怪物が彼女の方を向いて近づいていく。彼女にとどめを刺す気だろうか。
彼女が死ぬ。自分を庇って。それは嫌だった。死にたくはない。
でも、止めたかった。例え、どんな代償を払っても。
そう思った瞬間、何か別のものに自分が変わっていくようなそんな感覚がした。
怪物を殴る。自分で思っていたよりも力が出た。怪物が怯む。
もう一度殴る。怯む。蹴る。怪物の動きが止まる。
殴る。蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る
殴る蹴る
気が付くと、怪物は動かなくなっていた。
彼女は大丈夫だろうか。まだ生きているだろうか。何か治療とかした方がいいだろうか。
急いで彼女に駆け寄る。
彼女は気絶しているみたいだったけど、血は止まっていたし、今の所は無事そうだった。少し、ほんの少しだけ安心した。
好きだななんて気の迷いのような考えがほんの一瞬だけ脳裏によぎった。
……会って初日で好きになるとか普通に考えてありえないし、気のせいだろ。多分。
なんて油断していたからだろうか。意識が遠くなっていく。
これは僕が彼女に告白されるまでの物語。