気が付くと、目の前に白い天井が見える。
「知らない天井だ」
昨日あの化け物に対して許さない、そう思った時から記憶がない。
あの後どうなったのだろうか。
あいつをどうにかできたのだろうか。
「あ、起きたんですね。怪我は大丈夫ですか?」
姫守さんの声がする。そう言えば彼女の怪我は大丈夫なのだろうか。
「姫守さんの怪我は大丈夫?」
「……はい。比較的軽傷だったので全然問題ないです」
昨日口から血を吐いてたような気がするけど本当に大丈夫だろうか。……まあ本人が大丈夫って言うなら大丈夫か。
「それは良かった。でも、あの化け物はどうしたんだろう」
「凄くかっこいい人が現れて颯爽と倒してくれました」
彼女はうっとりとしたような表情で言った。
「そんなに都合のいいやつがいるならもっと早く来てほしかったけどな」
「彼を見たらそんなこと言えなくなると思いますよ。すごく格好良かったんですから」
彼女は少しむっとしたような表情で否定してくる。
少しもやっとしたけど何も言えなくて、誤魔化す様に喋る。
「そ、それよりも少しお腹が空いたんだけど食料って残ってるのかな」
「はい、確か賞味期限がギリギリの鯖の缶詰くらいしかないですけど一応は残ってたと思います」
そして、最上階の屋上に向かい食事の準備を終わらせ、食べようとしていた時だった。
独りでにTVが映る。
こんなに世界が崩壊しているっていうのにTVはやっているんだろうか。
そのTVでは昨日の化け物についてのニュースが流れていた。専門家達がこんな形の生物は存在しないだとか、捕まえて保護するべきだとかいやいやその前に殺すべきだとか言っていた。
あまりにも日常的で、当たり前のようにTVが放送されていたからやっぱり夢かと思ってしまった。
でも、外を見るとやっぱり世界は崩壊していた。
その後にTVでは人型で血塗れの何かを懸賞金一億の何かだと言って、目撃情報を募集しているだとか罪状は願望権の悪用だとか言っていた。曰く、彼の力は特別だから絶対に捕まえるべき存在らしい。今まで意見がバラバラだったのに、指名手配犯に関する意見だけは一致していて少し不気味に感じる。
「百さんは見てなかったかもしれないですけど、彼が昨日助けてくれた人ですよ。すごく格好良く
てイケメンなんですよ」
「いやでも指名手配なんてされてるやつは危ないやつなんじゃないかな。助けてくれたのだってたまたまかもしれない」
「それでも私は彼にお礼を言いたいです」
その言い方があまりにも情緒的だったもんだからなんだか少し気に食わなくて思わず言い返してしまった。
「危険すぎると思う。懸賞金一億なんて普通じゃないし、あんなに血塗れだなんておかしい。願望権とか意味わかんないし、何か危ないことに巻き込まれてるに決まってるよ」
すよ」
「その会ってみるっていうのが危険じゃないかって言ってるんだよ」
「彼は危険じゃないと思います。そもそもの指名手配なんていうのがおかしいです。今までの日本で
こんな一億もの指名手配なんて存在してなかったですよね?」
「それだって推測じゃないか」
「……助けてくれた人にお礼を言いたいっていうのはそんなにだめなことですか?」
そう言われてしまうと何も言い返せなくなってしまった。
そうして、そのまま気まずい雰囲気のまま食事を終えることになった。
そのご飯はおいしくは感じなかった。
別に間違ったことは何も言っていない……はずだ。
彼がそもそも人間なのかも怪しいし、何かに巻き込まれているのは確かで、でも少しだけ、彼について語る時の彼女が少しだけ気に入らなかっただけだ。
……何やってんだろ。住む場所も用意してもらってる分際で、昨日あったばかりのやつと喧嘩して。そうやって自己嫌悪に陥っていた時のことだった。
法則追加
「法則57 雨が剣になる」
ドサドサッと何かが刺さる音がした。思わず外を見る。剣が地面に突き刺さっていた。
見上げると、剣が降ってきていた。剣がまるで雨のように降ってきていた。昨日から非現実的なことが起きてきていると思っていたが、この現実は完全にファンタジーになってしまったらしい。
「何が、何が起きているんですか?」
彼女の戸惑ったような声が聞こえる。窓が割れて剣が床に刺さる。驚いて後退すると、さっきまでいた場所に次々と、剣が刺さって積もっていく。
何なのかとか考えている余裕はないらしい。
「逃げよう」
「でも、どこに逃げればいいんですか?」
「僕にも何が何だか分かんない。わかんないけどこれがこのまま続くなら、この病院も重さでつぶされてしまうと思う。だから早くここから逃げないと死んじゃうよ」
「でもここから逃げたら多分死んじゃいますよこれ」
「どうしよう」
本当にどうしようか。このまま何もしないでいると本当に死んでしまうだろう。死にたくない。
ならどうするか。こうして考えている間にも剣が突き抜ける音と衝撃がする。どうやったら病院の倒壊を防げる。
雨みたいなもんだし、何か屋根を作って流したり方向を病院から避けるとか……だめだ。
そんな小細工をすることがかなり難しいし、そもそも剣が降る中で、外に出て何かをすることそのものが難しい。
考えていると天井に穴が開いて剣が降ってくる。
降ってきた剣をどうにかして横に並べて壁にする。これもだめだ。
結局重さによって潰れる。
結局降ってくる剣をどうにかしなきゃいけない。剣が降ってくる中生身で。
無理に決まっている。そんなの不可能だ。
完璧超人な僕の親友でもそんなことをしたら死ぬだろう。
考えている間にも剣は刺さり、病院にひびが入る。
「大丈夫です。いくら剣が大量に落ちてくるとしてもまだ病院が完全に壊れるまで余裕はあるはずです」
直後、天井に穴が開く。剣が彼女の頬をかすめる。
このまま死ぬしかないのか。死にたくない。何かないのか。
天井が崩れる音が聞こえる。
「地下に行きましょう」
そんな声が聞こえた。
「地下に行った所で地下も崩落するかもしれない」
「でも、何もしないよりマシです」
確かにそうだ。まだ生き残れる可能性はある。階段に向かって走る。
階段を駆け下りていると、後ろから崩落する音が聞こえる。
そして何とか地下にたどり着く。
「これで一応猶予はできたはずです。今のうちに生き残る準備をしましょう」
「何か作戦とか思いついたの?」
「そうですね。多分病院の崩壊はどうあっても止められないですし止まらないでしょう。
だからどうにかして生き残れるかもしれない場所を確保するべきです」
生き残れるかもしれない場所か。それなら剣を拾って来て天井との間に衝立にすれば生き残れるかもしれない。
どれくらいこの剣が降り続けるのかは分からない。でも、耐え抜けば生き残れるかもしれない。
「落ちてきた剣を刺して、衝立にすれば耐えれるかもしれない」
「そんなにうまくいくでしょうか。結局天井が落ちてきたら死ぬかもしれないんですよ」
「どの道地下が崩落したら天井は落ちてくると思う。
だから、机の下とかに隠れればいい。その机が壊れないようにすれば生き残れる、かもしれない。
そのために、机の下に剣を刺して衝立にするんだ」
「……どの道死ぬかもしれないですし、分かりました。それでやってみましょう」
一階に戻り、外を見る。まるで雪のように、剣が積もっていくのが見える。
手が降ってくる剣に当たらないように、窓を壊して入ってきていた剣をつかむ。
すぐそばに剣が降ってきて手が切れる。その剣もつかんで地下に急いで戻る。
彼女もどうにか剣をつかめた様子で少し安心する。
後ろで一階が崩壊する音が聞こえる。
急いで、走って、机のある部屋を見つける。
そうして、剣を机の下に突き刺す。そのまま机の下に隠れる。
どうにか耐え抜ける準備は整った。後は崩落を待つだけだ。
ふと、彼女と目が会った。
何とはなしに、彼女と二人しばらく見つめあっていると、
天井が崩れ始める音がした。
天井が落ちてくる。目の前に天井の欠片が落ちてきて、思わずせき込む。
地下が崩落していく。
机の上に衝撃が何度も落ちてくる。何度も何度も。
その度に視界が塞がれていく。
そうして何も見えなくなってしまった。
何も見えないと不安ばかりが募っていく。これで本当に大丈夫なのだろうか。
生き残れるのだろうか。大丈夫なんだろうか。
ボキりという嫌な音が聞こえた気がする。
ボキッボキッという音が連続して聞こえる。
死にたくないし、彼女も死なせたくない。とっさにそう思う。
何かに変わるような感覚があった。
そして机を受け止める。どれくらいの間そうしていただろうか。
気が付けば、彼女がこちらに体を寄せていた。
彼女が悲しそうに呟く
「ごめんね。多分このまま窒息死してしまうんだと思う。
そこまで頭が回んなかったよ」
「でもこれも仕方ないのかもね。どの道こんな世界だったら死んでしまうのは
仕方のないことだったのかも」
「でも、君だけでも生きてほしかったなぁ」
ダメだろ。それは。
このまま死んでほしくはなかった。
何を代償にしても助けないといけないそんな気がした。
足に力がこもる。手に力が入る。
机が壊れる音がする。
意識が遠のいていく。