気が付けばそこは瓦礫の上だった。
僕はあの時彼女を守ろうとしてその後、天井が崩れて瓦礫に埋もれて死んだはずだ。
なのにどうして僕はまだ生きていられているんだろう。
法則 魔術
とにかく何が何だか分からないけど彼女を探さないと。
分からないことを考えるより彼女を探すことが最優先だ。
「こんにちは。お嬢さん」
気が付くと、目の前に軍服を着た大人のお姉さんがいた。
「……誰ですか?」
「私は自衛隊魔術防衛課の愛隆っていう者だ。君はこんな所で何をしているんだい?」
魔術防衛課って何だろうか。
初めて聞いたけど元からそういった部署が存在していたのだろうか。
でもとりあえずは彼女を探すことが優先だ。
「……探している人がいるんです。姫守裕合っていう人なんですけど、剣が雨みたいになって降ってきてしまって、どうなったか分からなくて。手伝ってもらっていいですか」
「剣雨に巻き込まれた人が他にもいるのか。早く助けないといけないね」
「剣雨って何ですか?」
初めて聞く言葉だ。一度も聞いたこともない言葉だが、さっきの現象の事なのか。
「剣雨は剣雨だろう? 忘れたのかい?」
聞いたことがない。そんなものがあったのだろうか。
僕が忘れてしまっているだけかもしれない。
でも、あれだけのものを忘れてしまっているとかありえるのだろうか。
「どの辺りにその人がいるのかわかるかい?」
「それが全然分からなくて……
この病院の廃墟にいるのは確かだと思うのですが」
「そうか」
そう彼女は言って、何か呟くと、指先に火が点いた。
「……何なんですか? それは」
正直もう驚くことが多すぎて新しい要素が増えても何も驚かなくなってしまった。
「魔術だよ。小学校で習わなかったのかな? まぁそういう子もいるか」
知らない間に異世界にでも来てしまったのだろうか。
それともこの世界には元から魔術が存在していて僕が気づいていなかっただけなのだろうか。
それにしても魔術なんてものが実在しているだなんて、現実は本当にファンタジーにでもなってしまったみたいだ。
彼女がもう一つ何か呟く。
すると、火が大きくなり瓦礫や剣が吸い込まれて燃えて消失していく。
そうやって少しずつ瓦礫が消えていき、何もなくなった。
「この辺にはいないみたいだね」
じゃあはどこにいるんだろうか。そう悩んでいると、鈴の鳴るような声がした。
「どうかしたんですか?」
振り向くと、姫守さんがいた。
「大丈夫だった? 怪我してない?」
「はい。何とか。助けてくれた人がいたので」
「よかった~」
本当に安心した。なんで無事だったのか分からなかったけど、とにかく無事でよかった。
心の底からそう思った。
「見つかったのかい?」
「はい!」
「それは良かった。もう死んでしまっているのかと思ったよ。
見つかったのならこんな危険地帯からは出よう。ここの外に安全な場所があるんだ」
「……誰ですか?」
「彼女は藍流さん。自衛隊の魔術防衛課?の人で探すのを手伝ってくれていたんだ」
「どうも。藍流柳だ。よろしく頼む」
「付いてって大丈夫な人なんですか?」
彼女が声を潜めて言う。
「正直大丈夫かどうかは分からないけど、他に信用できる人もいないし、寝られる場所もなくなっちゃったし、取り合えず信じてみることにしようかなって」
「自分はここから離れられない事情があるんですけど、一応気を付けておいた方がいいと思います」
その言葉の言う通りにすると、彼女をここに一人で残しておくことになるため、不安ではあった。
かと言って藍流さんの言う安全な場所というのが、本当に安全な場所なのかというのは分からない。とりあえず一度彼女について行って安全性を確かめてからもう一度戻って来ればいいか。
「じゃあまた後で戻ってくるんだけどとりあえず藍流さんについて行ってみるよ」
「じゃあ一応連絡できるように連絡先を渡しておきますね」
こんな世界だというのにまだ電波は通っていたし、電池もまだ残っていた。
本当にどうなっているんだろう。この世界は。
そうして出発し、彼女について行って歩くこと五時間。
歩いているのに周りの景色が変わらず、本当に進んでいるのか疑問に思っていた時
彼女は突然立ち止まり言った。
「ここだ」
正直言って、周りの景色がこれまでと比べて何か変わっているようには見えなかった。
だけど、彼女が何かを開けるような素振りをして、もう一度歩き出すと彼女の体がそこから消えていった。
「何かあるのか?」
そう思い、彼女の後を追おうとすると、何かにはじかれたような感じがした。
もう一度手を伸ばして見る。はじかれた。何回入ろうとしてもはじかれる。
何がどうなっているんだろうか。なんで彼女が消えたのか分からないし、何ではじかれたんだろうか。
もう何が起きているのか分からな過ぎて自分一人では限界だったので、彼女に電話をすることにした。
「何がどうなってるんですかね? 昨日から意味の分からない事が多すぎてわけわかんなくなっちゃいそうです」
「姫咲さんもこの世界がどうなっているのか分からないの?この世界が壊れる前から住んでそうだし、何が起きてるか知っていると思ったんだけど」
「本当に何がどうなってるのかよく分からないです。まぁ自分は学校通ってないから、本当は普通知ってるような事ばっかりなのかもしれないですけど」
彼女も何も知らないのか。自分だけおかしくなってしまったのかもしれないと思ってしまっていたから、少し安心した。
「剣雨って何か知ってますか?」
「名前だけは一応知ってます。結構ややこしい話だったような気がするし、どういうものかはよくわかってないんですけど」
違ったみたいだ。ただ剣雨という言葉と現象が結びついていなかっただけらしい。でも彼女はこの世界が何なのか、俺の今までの知っている世界との違いを知っているかもしれない。
そうして彼女に色々聞いてみてこの世界で何が起きているのか、彼女の知っている範囲でしかなかったが教えてもらえた。
新しい法則の一覧
流星群の消滅 一日が一時間短くなる
全ての人間の免疫力低下 時間の経過がなくなる奇病
願望権 人の死亡時に周囲の人間も自動で死亡する
海に触れると存在が消える 物体に対する攻撃力の増加
大体こういう感じの法則が自分の知っている世界と比べて追加されていた。
ただ、自分の常識が間違っているなんて他人に言われても分からないものだ。
だから多分まだ分かっていない法則も多分にあると思う。
でも、こんな物が以前から存在しているなら人類の数は大量に減っているはずだ。
でも、以前までは人類の総数は83億人で僕の今までの知っている世界と変わっていなかったらしい。
何かしっかりとした対策をしていた可能性もあるが、こうまで殺意のある世界で人類の総数が全く変わらないというのはおかしい。
以前と同じ数ならそれ以降にこれらの法則が追加されて、それで世界が滅びたという方が自然だ。
それに海に触れると存在が消えるという事は漁業が成立しているはずがない。
だから、今朝鯖の缶詰を食べたというのも根拠になりえるはずだ。
自分だけこれらの法則を知らないっていうのに、理由をつけるならこれが一番筋が通っていると思う。
結局それでも、どうして自分以外の全員がこれらの法則を知っているのかは分からないし、自分の頭がおかしくなってしまったっていう可能性の方が高いけど。
でも、このままだと人類はそのうち絶滅してしまうかもしれない。
人類の免疫力が低下しているという法則が以前から存在していたものではなく、最近追加された法則であるというならば全ての人類は病気で死ぬかもしれない。
もちろん、この仮説通りだったらの話だけど。
もしこの仮説が正しいのなら、何か原因があるはずだ。
急に物事がこうまで変化するならば何か原因がないとおかしい。
だから、その原因を突き止めて、元にもどさなくちゃいけない。
まあなんにせよ情報が足りていなさすぎる。
願望権とは何なのか。どうして自分が少女になっているのか。どうして自分の家はなくなってしまったのか。どうしてここから先には行けないのか。どうして置き去りにされたのか。どうして自分はあの時死ななかったのか。
……藍流さんにももっと話を聞いておきたかったな。
「……だからこの世界は最近狂いだしたんだと思う」
そう推測をまとめて姫守さんに話した。
「正直今までの常識が間違っているなんて言われても納得はあんまりできないです」
「でも剣が雨になるなんて大災害はもう経験しただろ。あれだけの大災害が他にもたくさんあって
それで人類がなぜか生き残っているというより、新しい法則が急に追加されたから滅びかけている方が説得力があると思うんだ」
「だとしたらなぜ百さんだけがその異常の外側にいるんですか? どうして今日までそれに気づかなかったんですか?」
確かにそれはその通りだ。どうして僕だけがこれを知らないんだろうか。なんで僕だけ法則という常識がないんだろうか。
その後もそうこう法則について話していたが、藍流さんが戻ってくる気配はなく姫咲さんの所に戻ることにした。
戻ってきた時には夜になっていた。
「夜になってしまったんだけど寝る場所もないし、どうしよう」
「寝る場所なら作ればいいじゃないですか」
そう彼女は言って、何か呟く。
すると布団のようなふわふわしたやわらかいものが出現した。
「これって何したの?」
「魔術ですね。まぁやわらかいものを出現させるだけの普段は何の役にも立たない
ドマイナーなやつですけど」
そんな魔術もあるのか。今度魔術についても教えてもらってもいいかもしれない。
お礼を言ってその日はそのままその布団のようなものの上で寝ることにした。
色々あって疲れていたからか、初めての野宿だったのにも関わらずすぐに寝てしまった。