次の日の朝、とても肌が寒くて目が覚める。
なんだか背中がひんやりとしている。くしゃみが出る。
気が付くと、目の前に狛犬がいた。
「願いをかなえてやろう」
「……お前は一体何なんだよ」
「我の名前はパック。妖精というやつだ。貴様の願いを何でもかなえてやるためだけの存在だ」
「急に願いを叶えられるなんて言ってもそんなものないよ」
でもこんな世界だし、生きるためなら得体の知れなくても何か願った方が
いいのかもしれない。
「引き換えにお前の一番大切なもの……命を代償にもらおう」
「死にたくないし、無理だよ」
死ぬなら何の意味もない。死にたくはないから願おうとしてるのに。
「お前がなんと言おうが、十日後にお前の命をもらって願いを叶えよう。絶対にな」
そう言って狛犬は消えた。寒気がする。
多分風邪だろう。
まぁ十日後までに何かしら対策を考えておけばいいか。
それよりも明日の寝床を探すことの方が重要だ。魔法の寝床は気が付いてら朝起きたら消えていたし、このまま魔法の寝床とかいう不確かな
もので寝続けるわけにはいかない。ちゃんとした住処が必要だ。食料もないし、彼女を起こして一緒に探しに行くか。
彼女は幸せそうに寝ていた。
「おーいそこの野良猫~それは電柱鮫じゃないよ~」
どんな夢を見ているんだろうか。起こすのに罪悪感が湧く。
でも、このまま何もしてないと死ぬし、かといってこんな所で一人で食料を探しに行っても迷子になってしまいそうだ。
少し揺さぶるとようやく彼女は起きた。
しばらく彼女はぼーっとしていたけど、気づいて言う
「どうかしたんですか?」
「いやこのまま野宿し続けたら死んじゃうし、明日以降の寝床と食料を探そうと思って」
「確かに明日以降の事を考えたら食料とかはあった方がいいですね」
彼女は今初めて明日以降の事を考えたかのような表情をした。
そして少し話し合って、手分けして探すことが決まった。彼女は食料を探す魔術が使えるとのことなので、それを使って食料を探すことに決まった。
僕は住む場所を探すことになったが、見渡す限り瓦礫ばかりで住めそうな所は見当たらないので、少し遠出をすることにした。
それから歩き回って三十分くらい経った時の事だった。
筋肉隆々の両手に斧を持っていてでかい腕時計をしたマッチョが急に目の前に現れた。
「よう、愛馬」
合間って誰だよ。
「元気にやってるか?大変だよなこんな世界で」
やけに親しげにねっとりとした声で話しかけてくる。正直気持ち悪い。
「誰だよ。お前」
「なんだよ。忘れたのかよ。俺の名前はa.youだぜ」
なんだその名前は。ふざけてるのか。
凶器を持ったマッチョが少しずつ近づいてくるのが怖くて、後ずさってしまう。
「おいおい逃げるなよ」
そりゃあ逃げるでしょ。そんな明らかな危険人物からは。
つい怖くて走って逃げだしてしまう。
「追いかけっこか?」
マッチョが追いかけてくる。
マッチョと少女では少女がスピードで勝てるはずもなく追い付かれてしまった。
「なんの用なんだよ」
正直心の中では恐怖でいっぱいだった。
世紀末世界の凶器を持ったマッチョなんて超危険人物に捕まったら何されるか
分からない。
「いや、こんな世の中だろ。ちょっと情報交換でもしようかなと思ってな」
「な、え?何?」
今なんて言った?
「いやちょっと情報交換しないか?」
聞き間違いじゃないらしい。意外と見た目によらずいいやつなんだろうか。
こんな状況だ。情報は喉から手が出るほどにほしい。
こんな見るからに怪しいやつの言う事でも聞いてみる価値はある。
「じゃあ相馬。お前はどこまでこの世界の情報を集められたんだ?」
そう改めて聞かれてみると、この世界においては常識だと言われている情報以外は何も集められていない。
でもだからこそ、情報を集める必要がある。
でも、情報交換だと言っている以上何かしらの情報を提供する必要性がある。いや、それなら
常識を疑うことを情報として提供すればいいんじゃないか?当たっているかどうかは分からない推測の話だけど
「この世界は常識が歪んでいる。多分お前の常識も歪んでいる」
「そう言われてもよく分からないな。何がどう歪んでいるというんだ?証拠でもあるのか」
「例えば元々海水に触れたら消失するなんて法則はない。とゆうか元からそんな物があったなら魚など食べることができないはずだ」
「いや、俺は生まれてから一度も魚なんて食べたことはないが」
生まれてから一度も魚を食べたことがない人間なんているのだろうか。普通アレルギーとかでもない限り子供の頃に給食等で食べてる
はずだ。また常識でも変わったんだろうか。昨日は彼女をそれで説得することができたんだけど。
「なるほど。今回の相馬の収穫はまだまだ少ないようだな」
マッチョは何か一人で納得したような顔をして、そのままどこかに歩いて行った。
何だったんだろう。
そう思っていると、マッチョが戻ってきた。
「一応情報はもらったわけだし、お返しだ」
そう言って紙を手渡してきて、そのままどこかに歩いて行った。
紙にはこう書いてあった。
女になったことは他人にはばれるな。そうされたことには意図がある。意図に下手に逆らってはいけない。
なんであいつは、僕が女になっていることが知っている?意図とは何なんだろうか。僕が女になっていることには
誰かの意図が介在しているという事なのか?誰がなんのために?僕は大した人間じゃない。凡人だ。そんな僕をわざわざ女にする意味なんて到底思いつかない。
手紙には最後に時計の印と一緒にまたな親友と書いてあった。
僕の親友はあんなマッチョでもないし、もうちょっと気が使える。なんで誰だかよく分からないやつが親友面してるんだろう。
あいつは一体何者なんだろうか。やけに馴れ馴れしいし、前にどこかで会ったことでもあったかな?
思い返しても全く記憶にない。あんなねっとりとした声でああいう距離感の人間なんて会ったことはない気がする。
情報を交換したのにも関わらず逆に謎が増えてしまった。
……そういえば新しい住処を探しに出かけてたんだっけ。さっさと見つけて帰ろう。
そう思ったんだけど、いくら探しても住めそうな建物なんて残ってなかった。どの建物も剣が刺さってたり崩れてたりでまともに立っている建物が一軒もなかった。
他の人にはもう誰にも会わなかったし、本当に人類は滅んでいってるんだってのを今更ながらに実感した。数時間歩いた成果はよく分からないマッチョの話だけだった。
帰ると姫守さんは大量のインスタントラーメンに囲まれていた。
「食べます?これ」
そう言って彼女がインスタントラーメンを差し出してきた。
「水って結構貴重だし、こんだけあるならあんまり使いたくない気がするな」
「はい!だから生で食べるんですよ。生で」
そう言われて食べてみると意外と美味しかった。まぁ水が欲しくなる気はするけど。
「ごめん。住む場所探したんだけど住めそうな所どこにもなかったよ」
お互いにインスタントラーメンをパリパリ食べながら喋る。
「住む場所が見つからなかったのなら、これからどうしましょうか」
「どこにもないなら、作るしかないかもしれない。姫守さんはどういった魔術が使えるの?」
「学校に通ってなかったのでたくさん使えるわけじゃないんですが、大量の綿を出す魔術と水を作る魔術、探し物をする魔術、後は穴を開ける魔術と遠くを見る魔術ですね」
「結構たくさん使えるじゃん。すごいよ」
「普通はこの程度誰でも使えますよ」
彼女は少しうれしそうに答える。でも五つも魔術を使えるのはすごいと思うし、これだけあれば頑張れば住む場所も作れるんじゃないか
と思う。後水を作る魔術なんてのがあれば風呂にも入れる。ここ数日風呂に入った記憶がないし、少し気持ち悪くなってきた所だ。
寝られる程度の場所が作れたら早く風呂に入りたい。
「とりあえず雨がしのげて風がふいてこない程度の場所を作れたらいいんだよね?」
「はい。それさえあれば少なくとも風邪をひくことはなくなりますし、なにより寒い思いをしないで済みます」
「それだったら穴を開ける魔術を使って切削すれば作れるんじゃないかな。この倒壊した病院をどうにか掘り進めれば、人二人分程度のスペースなら作れるはず。これで寝る部屋はどうにかなると思うし、魔術で布団もなんとかなるはず」
「昨日作って気づいたんですけど、私の魔術で作ったものは時間が経ったら消えるみたいです。昨日は寒い思いをさせてしまってごめんなさい」
やっぱり昨日の布団が消えたのは時間制限があったかららしい。
「じゃあ布団を魔術で代用することはできなさそうか」
となると、どうにかして暖を取れるやわらかい物を用意する必要性があるな。魔術に頼れないし、 かと言ってこの荒廃した世界に毛布やらがあったとしても潰れてしまって使い物にならなさそうだ。でも何かしら用意しなければ風邪をひいてしまうし、まあ最悪やわらかい物じゃなくても体を包める物を用意できればいいか。
インスタントラーメンを食べ終わった所で住む場所を作るための役割分担をすることにする。
「とりあえず姫守さんは病院に穴を開けて住めそうなスペースを確保しておいてもらえるかな?」
「病院に穴を開けても粉塵とか落ちてきたりしないですか?」
「まあ最初だけだと思うし大丈夫だと思うけど、一応対策を考えとくよ」
「わかりました。じゃあ病院に穴開けるのをやっておきます」
「その間に僕は布団かその代わりになるものを探すことにするよ」
そう決まったので、戻ってきたばかりだけどもう一度出かけることになった。