男女比100対1で男が多いとかマジ終わってる   作:ののじん

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11話 席替え

 入学してから、一週間が経った。

 

 俺も千夏とはすっかり気軽に話せるようになり、昼食も何度か一緒に取っていた。

 

 そんな日の朝。

 

 花城先生は教室へ入ってくると、出席簿を教卓へ置いた。

 

「おはようございます」

 

「おはようございます」

 

 挨拶を交わしたあと、花城先生は教室を見回すと、満足そうに一度頷いた。

 

「皆さんの名前と顔も、だいたい覚えました」

 

 その言葉を聞いた瞬間、教室のあちこちがざわついた。

 

 何の話が始まるのか、すぐに察したらしい。

 

「なので、予告していたとおり、今日は席替えをします」

 

 男子たちの表情が一斉に変わった。

 

 誰の隣になるか。

 

 このクラスでは、それが単なる席の移動以上の意味を持っている。

 

 女子の隣になる可能性があるのだから、無理もない。

 

「女子の席はこちらで決めています」

 

 花城先生がそう告げると、教室のあちこちから小さな声が上がった。

 

「教室の中で偏らないように配置しました。男子は残っている席をくじで決めてください」

 

 完全なくじ引きではないらしい。

 

 女子が8人しかいない以上、固まらないようにするためだろう。

 

「やっぱり男子だけくじだったね」

 

 千夏が小声で言った。

 

「女子同士が固まったら、席替えの意味が薄いからな」

 

「私は別に誰の隣でもいいけどね」

 

「そういうもの?」

 

「隣になった人と普通に話せばいいじゃん」

 

「俺も同じ意見だよ」

 

「叶多は本当にそうしそう」

 

 千夏は軽く笑うと、黒板へ視線を戻した。

 

 花城先生は教卓の上へ、小さく折り畳まれた紙の入った箱を置く。

 

「前から順番に引いてください。引いた番号は座席表と照らし合わせて、すぐに移動するように」

 

 男子たちが一斉に箱を見つめた。

 

 女子の隣を引ける席は限られている。

 

 中には、祈るように両手を合わせている男子までいた。

 

 さすがに大げさだと思う。

 

 だが、一般的な学校なら、女子と隣の席になる機会そのものがほとんどない。

 

 聖凰学園だからこそ期待できる幸運なのだろう。

 

 前の席から順に、男子たちがくじを引いていく。

 

「うわ、廊下側の一番前かよ」

 

「俺、女子の隣だ!」

 

「誰だよ?」

 

「神崎さん!」

 

「マジか、当たりじゃん!」

 

 結果が出るたびに、喜びや落胆の声が上がった。

 

 花城先生は特に注意することもなく、淡々と次の男子を呼んでいる。

 

 やがて俺の番が来た。

 

 箱の中へ手を入れ、指先に触れた紙を一枚取る。

 

 席に戻ってから折り目を開いた。

 

 書かれていた番号を、黒板に張られた新しい座席表と見比べる。

 

 左から二列目の後ろから2番目。

 

 周囲の名前を確認する。

 

 左隣は、雛森瑞葉(ひなもりみずは)

 

 右隣は、イケメン君こと水瀬直樹。

 

 そして俺の前には、チャラそうな梅原大輔の名前があった。

 

 ずいぶん賑やかな席になりそうだ。

 

「叶多、どこだった?」

 

 隣から千夏が尋ねてくる。

 

「あそこ。後ろから2番目」

 

 新しい席を指で示す。

 

「雛森さんの隣じゃん。よかったね」

 

「何が?」

 

「女子の隣を引けたんだから、男子的には当たりでしょ」

 

「まあ、そうなるのかな」

 

「私は結構遠くなったなあ」

 

 千夏は自分の席を確認しながら言った。

 

「でも、同じ教室なんだから別に話せるだろ」

 

「それはそうだね」

 

 特に残念がる様子もなく、千夏は立ち上がった。

 

「じゃあ、移動しよっか」

 

「うん」

 

 机の中から教科書を取り出し、鞄と一緒に抱える。

 

 こうして、一週間だけ続いた千夏との隣席は終わった。

 

 新しい席へ移動し、机の中へ教科書をしまう。

 

 大輔は荷物を置くなり、すぐにこちらを振り返った。

 

「ちょっと待て。この席、嫌がらせだろ」

 

「何が?」

 

「後ろにお前、その隣に水瀬だぞ。イケメンが近すぎる」

 

 大輔は俺と直樹を交互に見ながら、わざとらしく顔をしかめた。

 

「俺の存在が薄くなるじゃねえか」

 

「自分で言うほど薄くないと思うけど」

 

「そういう問題じゃねえんだよ。比較対象が悪すぎる」

 

 直樹が困ったように笑う。

 

「俺まで巻き込まないでくれ」

 

「巻き込むに決まってるだろ。お前ら二人が近くにいたら、女子の視線が全部そっちに流れるじゃねえか」

 

「席だけでそんなに変わるかな」

 

「変わる。少なくとも俺の気分は大きく変わった」

 

 大輔は深いため息をついたあと、急に表情を明るくした。

 

「まあいいや。どうせ近くなったんだし、仲良くしようぜ」

 

「切り替えが早いな」

 

「いつまでも落ち込んでても仕方ないだろ」

 

 そう言って、大輔は右手を差し出してきた。

 

「改めてよろしくな、叶多」

 

「よろしく、大輔」

 

 手を握り返す。

 

「俺もよろしく」

 

 直樹も会話へ加わった。

 

「おう。水瀬もな」

 

「直樹でいいよ」

 

「じゃあ俺も大輔でいいからな」

 

「分かった」

 

 新しい席になって、まだ数分。

 

 それなのに、すでに前と右から賑やかな声が飛んできている。

 

 これから退屈することはなさそうだった。

 

 そのまま左へ顔を向けると、瑞葉と目が合った。

 

「これからよろしくね、槻山くん」

 

「こちらこそ。雛森さん」

 

 瑞葉は穏やかに笑った。

 

「隣の席になったし、分からないことがあったらお互いに聞けるといいね」

 

「そうだな。俺で分かることなら、いつでも聞いてよ」

 

「ありがとう。私も、何かあったら言ってね」

 

 短いやり取りだったが、不思議と話しやすかった。

 

 千夏とは明るくテンポよく会話が続く。

 

 それに対して瑞葉とは、落ち着いた空気の中で言葉を交わせそうだ。

 

 同じ隣の席でも、ずいぶん雰囲気が違う。

 

「瑞葉でいいよ」

 

「いいの?」

 

「うん。同じクラスだし、これから隣の席なんだから」

 

「分かった。じゃあ、瑞葉。俺も叶多でいいよ」

 

「うん。よろしく、叶多くん」

 

 名前で呼ばれる。

 

 それだけのことなのに、少しだけ距離が近づいたような気がした。

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