男女比100対1で男が多いとかマジ終わってる   作:ののじん

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12話 新しい昼休み

 4時間目の終了を告げるチャイムが鳴った。

 

 教師が教室を出ていくと、張り詰めていた空気が一気に緩む。

 

 あちこちで椅子を引く音が響き、生徒たちはそれぞれ昼食の準備を始めた。

 

 俺も机の中から弁当箱を取り出す。

 

 すると、前の席に座る大輔が勢いよく振り返った。

 

「叶多、一緒に食おうぜ」

 

「いいよ」

 

「返事早いな」

 

「断る理由もないからね」

 

「よし、決まり」

 

 大輔は満足そうに頷くと、自分の机をこちらへ向けた。

 

 俺も机を少し前へ寄せる。

 

 その様子を見ていた直樹が、右隣から声をかけてきた。

 

「僕も混ぜてもらっていいかな?」

 

「もちろん」

 

「聞くまでもねえって。直樹も一緒に食おうぜ」

 

 大輔が手招きすると、直樹は小さく笑いながら机を寄せた。

 

 3人分の机が向かい合う。

 

 そこで大輔は、左隣に座る瑞葉へ視線を向けた。

 

「雛森さんも一緒に食おうぜ」

 

 瑞葉は弁当箱を取り出しかけた手を止め、少し驚いたように目を瞬かせた。

 

「私もいいの?」

 

「もちろん。せっかく席が近くなったんだし、人数が多い方が楽しいだろ」

 

 大輔らしい、遠慮のない誘い方だった。

 

 だが、押しつけがましさはない。

 

 瑞葉は俺たちの顔を順番に見てから、柔らかく笑った。

 

「じゃあ、ご一緒させてもらおうかな」

 

「どうぞ」

 

 俺が机を少しずらして場所を空けると、瑞葉も自分の机をこちらへ寄せた。

 

 これで4人。

 

 席替え後、初めての昼休みは、今までとは少し違う形で始まることになった。

 

「よし。じゃあ食おうぜ」

 

「いただきます」

 

 瑞葉の声に続き、俺たちも箸を手に取った。

 

 大輔の弁当は、唐揚げやソーセージが隙間なく詰められた、いかにも男子高校生らしい内容だった。

 

 直樹の弁当は、焼き魚を中心に副菜がバランスよく並んでいる。

 

 瑞葉の弁当は小ぶりだが、色鮮やかなおかずが丁寧に詰められていた。

 

 そして、大輔の視線が俺の弁当へ止まる。

 

「……なあ、叶多」

 

「何?」

 

「それも自分で作ったのか?」

 

「そうだよ」

 

 今日の主菜は豚肉の生姜焼き。

 

 副菜には出汁巻き卵、ひじきの煮物、ほうれん草の胡麻和えを入れている。

 

「毎日こんなの作ってんの?」

 

「毎日まったく同じじゃないけどね」

 

「いや、そういう意味じゃなくてさ」

 

 大輔は自分の弁当と俺の弁当を見比べた。

 

「なんか俺の弁当、急に茶色く見えてきたんだけど」

 

「唐揚げ、美味しそうだと思うよ」

 

「慰められてる気がする」

 

「本当にそう思ってるよ」

 

 俺が答えると、直樹が小さく笑った。

 

「叶多の弁当は、見た目も綺麗だな」

 

「彩りは意識してるからね。食欲にも関わるし」

 

「味だけじゃなくて、そこまで考えるんだ」

 

 瑞葉が興味深そうに弁当を眺める。

 

「毎朝作るの、大変じゃない?」

 

「前の日に準備しておけば、そこまででもないよ」

 

「それでもすごいと思う。私だったら、朝は時間がなくなりそう」

 

「慣れればそうでもないよ」

 

「それ、料理が得意な人の意見じゃねえか?」

 

 大輔が口を挟む。

 

「俺なんて朝は、あと5分寝るかどうかで毎日ぎりぎりだぞ」

 

「5分早く起きればいいんじゃないか?」

 

 直樹が当然のように言う。

 

「それができたら苦労しねえんだよ」

 

「夜に少し早く寝れば?」

 

「叶多まで正論を重ねるな」

 

 大輔は唐揚げを口へ放り込みながら、恨めしそうに俺たちを見る。

 

「お前ら二人、見た目だけじゃなく生活までまともなのかよ」

 

「大輔が少しだらしないだけじゃない?」

 

 瑞葉が柔らかな声で言った。

 

 大輔の動きが止まる。

 

「雛森さんまで……」

 

「ご、ごめん。言いすぎた?」

 

「いや」

 

 大輔は数秒黙ったあと、ゆっくりと首を横へ振った。

 

「優しい顔で言われると、余計に効くな」

 

 瑞葉が困ったように笑う。

 

 その様子を見て、俺と直樹も笑いを堪えきれなかった。

 

「ひどくないか?」

 

「悪い。でも、大輔が悪いと思う」

 

「また俺だけ不利じゃねえか」

 

 口では不満を言いながらも、大輔自身も笑っている。

 

 瑞葉も最初こそ少し遠慮していたが、大輔の軽い調子に引っ張られたのか、すぐに会話へ馴染んでいた。

 

 席替えをして、まだ半日も経っていない。

 

 それでも、この4人で過ごす昼休みは思っていたより居心地がよかった。

 

「そういえばさ」

 

 大輔が唐揚げを飲み込んでから、こちらを見る。

 

「叶多、火野さんと早速仲良くなったんだって?」

 

「誰から聞いたんだ?」

 

「聞くまでもねえよ。ずっと隣で話してたし、昼も一緒に食ってただろ」

 

「席が隣だったから、自然に話すようになっただけだよ」

 

「それで名前を呼び捨てにするところまで行くか?」

 

「本人に千夏でいいって言われたからね」

 

「だからって、すぐ呼べるのがすげえんだよ」

 

 大輔は箸を持ったまま、呆れたように首を振った。

 

「しかも、雛森さんのことも下の名前で呼んでるだろ」

 

「瑞葉にも、そう呼んでいいって言われたからね」

 

「お前、女子を名前で呼ぶことに抵抗なさすぎない?」

 

「本人が嫌がってないなら、別にいいだろ」

 

「俺だったら、許可をもらっても一週間は練習が必要だぞ」

 

「何を練習するんだい?」

 

 直樹が尋ねる。

 

「頭の中で呼ぶ練習だよ。いざ本人を前にしたら、結局『火野さん』とか『雛森さん』って言いそうだけど」

 

「それだと練習の意味がないね」

 

「直樹は普通に呼べそうだから分かんねえんだよ」

 

 大輔はそう言ってから、今度は瑞葉へ顔を向けた。

 

「雛森さんも、叶多みたいにいきなり名前で呼ばれても平気?」

 

「本人がそう呼んでほしいって言ったなら、私は気にしないかな」

 

「ほら」

 

「雛森さんも、叶多みたいにいきなり名前で呼ばれても平気?」

 

「うん。私がそう呼んでいいって言ったから、気にしてないよ」

 

「じゃ、じゃあ、俺も下の名前で呼んでもいい?」

 

 大輔が食い気味に尋ねる。

 

 瑞葉は少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに柔らかく笑った。

 

「うん、いいよ」

 

「よし。じゃあ……」

 

 大輔は瑞葉へ顔を向けたまま、口を開く。

 

「み、みず……」

 

 そこで声が止まった。

 

 数秒の沈黙のあと、大輔はゆっくりと顔を伏せる。

 

「……やっぱり呼べねえ」

 

「自分から聞いたのに?」

 

 俺が言うと、大輔は悔しそうに顔を上げた。

 

「許可をもらうのと、実際に呼ぶのは別なんだよ!」

 

「何が違うんだ?」

 

 直樹が不思議そうに尋ねる。

 

「心の準備が違う!」

 

 瑞葉は困ったように笑いながらも、どこか楽しそうだった。

 

「無理しなくても、今までどおり雛森さんでいいよ」

 

「いや、いつか絶対呼んでみせるからな」

 

「そこまで大げさなことかな?」

 

「俺にとっては大きな一歩なんだよ」

 

 大輔は妙に真剣な表情で言い切った。

 

「そもそも俺だって聖凰に入ったら、女子と自然に話せるようになると思ってたんだけど」

 

「まだ入学して一週間だろ」

 

「叶多はその一週間で、もうクラス一番人気と仲良くなってるじゃねえか」

 

「叶多くん、話しやすいからじゃないかな」

 

 瑞葉がそう言うと、大輔は少し考えるように俺を見た。

 

「話しやすい、ねえ……」

 

「変に緊張させるような話し方をしないし、普通に接してくれるから」

 

「なるほどな。そこが俺との違いか」

 

「でも、大輔くんも話しやすいし、無理に焦らなくてもいいと思うよ」

 

「……今のはかなり嬉しい」

 

 大輔の表情が一気に明るくなる。

 

「雛森さん、やっぱり優しいな」

 

「単純だな」

 

「うるさい。女子から褒められる機会は大切にするんだよ」

 

 そう言いながらも、大輔はどこか満足そうだった。

 

 叶多と千夏の関係を羨ましがってはいる。

 

 それでも、陰で不満を溜め込むより、こうして本人へ直接聞いてくるあたりは大輔らしい。

 

 軽い調子で遠慮なく踏み込んでくるが、嫌な感じはしない。

 

 直樹も瑞葉も、すでにその性格を理解し始めているようだった。

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