男女比100対1で男が多いとかマジ終わってる   作:ののじん

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18話 カツレツ

 恋愛話で長引いた休憩を終え、俺たちは再び勉強へ戻った。

 

 それから一時間ほど問題を解き進めたところで、時計の針が正午を回る。

 

「そろそろ昼にするか」

 

「待ってました!」

 

 俺が声をかけると、大輔が勢いよく立ち上がった。

 

「今日一番の反応だな」

 

「うまいって噂の叶多の料理が食べられるんだぞ。今日の本番はここからだろ」

 

「勉強会だよ」

 

「俺にとっては、勉強と昼飯が同じくらい大事なんだ」

 

「勉強もそのくらい真剣にやってくれ」

 

 大輔は聞こえなかったふりをして、期待するような目をこちらへ向けている。

 

「それで、二人は何が食べたい?」

 

「選んでいいのか?」

 

「家にある食材で作れるものならな」

 

 俺が答えると、大輔は腕を組み、真剣な顔で考え始めた。

 

 先ほどまで勉強を嫌がっていたときとは、まるで集中力が違う。

 

「肉だな」

 

「随分と大雑把だな」

 

「細かいことは叶多に任せる。とにかく肉が食べたい」

 

「直樹は?」

 

「僕は任せるよ。ただ、午後も勉強するなら、あまり重すぎないものがいいかな」

 

「肉が食べたい」と「あまり重くないもの」。

 

 二人の希望を聞きながら、冷蔵庫の中身を思い浮かべる。

 

 鶏むね肉に、トマト、葉物野菜。卵とチーズも残っていた。

 

 それなら問題ない。

 

「分かった。鶏肉のミラノ風カツレツにしよう」

 

「カツ?」

 

「カツレツ。薄く伸ばした鶏肉に衣をつけて焼く料理だよ」

 

「揚げ物なら、重くないかい?」

 

 直樹が尋ねる。

 

「油の中に沈めるわけじゃない。少量の油で焼くから、普通のカツよりは軽いよ。付け合わせも野菜中心にする」

 

「それなら楽しみだね」

 

「俺は肉なら何でもいいぞ」

 

「大輔君は本当に注文が大雑把だね」

 

 俺は立ち上がり、キッチンへ向かった。

 

 冷蔵庫から鶏むね肉と野菜を取り出す。

 

 鶏肉の皮を外し、厚みのある部分へ包丁を入れて開く。ラップで挟み、肉叩きで全体の厚さを揃えていった。

 

「何してるんだ?」

 

 いつの間にか、大輔がキッチンの近くまで来ていた。

 

「肉を薄くしてる」

 

「薄くしたら、食べ応えがなくならないか?」

 

「厚さを揃えれば火が均一に入るし、衣の香ばしさも楽しめる。三枚分あるから、量は十分だよ」

 

「ならいいか」

 

 大輔はあっさり納得した。

 

「見ていても構わないけど、邪魔はするなよ」

 

「分かってるって」

 

 塩と胡椒を振った鶏肉へ、薄く小麦粉をまぶす。

 

 次に溶き卵へくぐらせ、細かくしたパン粉を押しつけた。パン粉には、あらかじめ粉チーズと乾燥ハーブを混ぜてある。

 

 フライパンへ少し多めのオリーブオイルを入れ、火にかける。

 

 温度が上がったところで、衣をつけた鶏肉を静かに置いた。

 

 油の弾ける音とともに、香ばしい匂いが広がっていく。

 

「もううまそうだな」

 

「まだ焼き始めただけだよ」

 

 焼き色を確認してから裏返す。

 

 薄く伸ばしているため、火が入るのも早い。表面がきつね色になったところで取り出し、網の上へ置いて余分な油を落とした。

 

 肉を休ませている間に、角切りにしたトマトへオリーブオイルと塩、少量のレモン汁を加える。

 

 付け合わせの葉物野菜も手早く和えた。

 

 三枚の皿へカツレツを盛り、その上へトマトを添える。

 

 仕上げにチーズを削り、レモンを置けば完成だ。

 

「できたよ」

 

 料理をローテーブルへ運び、皿の横へナイフとフォークを並べる。

 

 それを見た大輔が、わずかに目を見開いた。

 

「ナイフとフォークで食べるのか?」

 

「カツレツなんだから、その方が食べやすいだろ」

 

「いや、そうなんだけどさ。友達の家で昼飯を食べるのに、ナイフとフォークが出てくるとは思わなかった」

 

「箸もあるけど、使う?」

 

「ここまでされたら、ナイフとフォークで食うよ」

 

 大輔は慣れない手つきで持ち上げた。

 

「……これ、昼飯というより店のランチだよな」

 

「確かに、盛りつけまで綺麗だね」

 

 直樹も感心したように皿を眺めている。

 

「冷める前に食べよう」

 

 俺が腰を下ろすと、二人も手を合わせた。

 

「いただきます」

 

 大輔はすぐにナイフを入れ、大きめに切ったカツレツを口へ運ぶ。

 

 噛んだ瞬間、衣から軽い音がした。

 

「うまっ!」

 

「口に入れたまま話すなよ」

 

 注意したものの、大輔は口元を押さえながら何度も頷いている。

 

 直樹も一口食べ、驚いたように目を細めた。

 

「衣は香ばしいけれど、思っていたより重くないね。鶏肉も柔らかい」

 

「薄くしてあるから、長時間火を入れなくて済むんだ。トマトとレモンを一緒に食べれば、さらに軽くなるよ」

 

「見事だよ」

 

「ありがとう」

 

「せっかく料理が得意なんだから、天ヶ瀬先輩の胃袋を弁当で掴めよ」

 

「まだ一度も話したことがない相手に、いきなり弁当を渡すのか?」

 

「じゃあ、生徒会に入って仲良くなってからだな」

 

「……まあ、ある程度親しくなってからなら、悪くないかもな」

 

「だろ? 使える武器は使わないともったいないぞ」

 

「最初から弁当は重いだろうけど、差し入れくらいならありか」

 

 料理には自信がある。

 

 直樹が小さく笑い、付け合わせの野菜を口へ運ぶ。

 

「まぁ、まずは普通に話せるようになるところからだね」

 

「ああ。そのためにも、まずは生徒会に採用されないとな」

 

 俺もカツレツへナイフを入れる。

 

 衣の焼き色も、肉の火入れも悪くない。

 

 午後の勉強を再開するには、少し時間がかかりそうだった。

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