男女比100対1で男が多いとかマジ終わってる   作:ののじん

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19話 連休最終日

 ゴールデンウィーク最終日。

 

「槻山君、三番テーブルのオムライスをお願いできるかな」

 

「分かりました」

 

 宗一郎から注文票を受け取り、俺は冷蔵庫から必要な食材を取り出した。

 

 洋食喫茶トネリコで働き始めて、数日が経った。

 

 初日は店内の設備や食材の置き場所、料理を提供するまでの流れを覚えることが中心だったが、今では簡単な仕込みや一部の調理も任されている。

 

 もちろん、面接で作った料理をそのまま出しているわけではない。

 

 店には店の味がある。

 

 同じオムライスでも、使う材料や調味料の分量、チキンライスの仕上げ方まで、俺が普段作っているものとは違っていた。

 

 一度、宗一郎に作り方を見せてもらい、味を確認した。

 

 あとは手順を守り、同じものを作るだけだ。

 

 熱したフライパンへ油を引き、鶏肉と玉ねぎを炒める。

 

 ケチャップを加え、余分な水分を飛ばしてから米を入れた。

 

 トネリコのオムライスは、面接で作った切り開くタイプではない。

 

 薄く焼いた卵でチキンライスを包む、昔ながらの形だ。

 

 盛りつけたチキンライスへ卵を滑らせ、フライパンを傾けながら形を整える。

 

 皿へ返し、最後にケチャップをかけた。

 

「三番テーブル、オムライス上がりました」

 

「はいよ」

 

 ホールを担当している男性スタッフが皿を受け取り、客席へ運んでいく。

 

 それを見送る間もなく、次の注文票が届いた。

 

「次はナポリタンとハンバーグだね」

 

 宗一郎は穏やかな口調のまま、手元のフライパンを動かしている。

 

「ハンバーグは僕がやるから、付け合わせをお願いするよ」

 

「分かりました」

 

 昼時の店内は、ほぼ満席だった。

 

 次々と注文が入るが、厨房内に慌ただしい声はない。

 

 宗一郎は忙しいときでも表情を変えず、必要な指示だけを出していた。

 

 初めて見る注文の組み合わせでも、無理にすべてを俺へ任せようとはしない。

 

 できる仕事と、まだ覚えていない仕事をきちんと分けている。

 

 料理人としてだけではなく、人へ教えることにも慣れているのだろう。

 

「槻山君、五番テーブルのナポリタンもお願いできるかな」

 

「はい。先に入っている二番テーブルの分と一緒に仕上げます」

 

「うん。任せるよ」

 

 注文票を確認し、二皿分の材料を用意する。

 

 同じ料理を続けて作る場合でも、注文が入った順番は崩さない。提供の時間に差が出ないよう、ほかの料理の進み具合も見ながら火へかけていく。

 

 宗一郎から教わったのは一度だけだったが、材料の分量も手順もすでに頭へ入っていた。

 

「本当に飲み込みが早いなあ」

 

 宗一郎が感心したように呟く。

 

「一度作り方を見せてもらいましたから」

 

「一度でここまで覚えられる人は、そう多くないよ」

 

 前世の経験がある以上、初めて厨房へ入った高校生と同じではない。

 

 それでも、この店では新人だ。

 

 料理を作る技術があっても、店の味や仕事の流れを無視していい理由にはならない。

 

 任された仕事を終えるたび、次の注文票へ手を伸ばした。

 

 昼の混雑が落ち着いた頃、宗一郎が小さく息を吐いた。

 

「お疲れさま。少し休憩にしようか」

 

「はい」

 

 使用した器具を洗い、調理台を拭く。

 

 片づけを終えてから休憩スペースへ向かうと、テーブルの上に一皿のナポリタンが置かれていた。

 

「賄いだよ」

 

「ありがとうございます」

 

「今日は槻山君に作ってもらおうかと思っていたんだけど、忙しかったからね」

 

「次は俺が作ります」

 

 俺が答えると、宗一郎は嬉しそうに目を細めた。

 

「それは楽しみだなあ」

 

 期待されるほどのことでもないと思うが、断る理由もない。

 

 次の勤務では、冷蔵庫にある食材を確認して何か作ることにしよう。

 

 ☆

 

 アルバイトを終えて部屋へ戻ったのは、午後七時を少し過ぎた頃だった。

 

 今日は連休最終日ということもあり、夜まで働く予定は入れていない。

 

 シャワーを浴び、簡単に夕食を済ませる。

 

 賄いを食べていたため、夜は野菜と卵を使った軽いスープだけにした。

 

 食器を洗い終えると、机へ教科書とノートを広げる。

 

 ゴールデンウィーク中はアルバイトや大輔たちとの勉強会もあったが、自分の勉強時間も確保していた。

 

 聖凰学園の授業は進むのが早い。

 

 入学試験を突破したからといって、何もしなくても成績を維持できるわけではなかった。

 

 英語の教科書を開き、授業で進む予定の範囲へ目を通す。

 

 知らない単語をノートへ書き出し、意味を調べる。

 

 数学は連休前に習った範囲を解き直した。

 

 特別難しい問題ではない。

 

 それでも、途中式を省略せず、一問ずつ確認していく。

 

 成績を維持できているのは、単純にその分の時間を使っているからだ。

 

 時計の針が午後九時を回ったところで、ペンを置く。

 

 予定していた範囲までは終わった。

 

 軽く肩を回していると、机の端へ置いていたスマートフォンが震える。

 

 画面に表示されていたのは、母さんの名前だった。

 

「もしもし」

 

『叶多? 今、大丈夫?』

 

「ああ。ちょうど勉強が一区切りついたところだよ」

 

『偉いわね。でも、ちゃんと休みも取りなさい』

 

「明日から学校だから、軽く復習してただけだよ」

 

『今日は何をしていたの?』

 

「昼はアルバイトに行ってたよ」

 

『お店にはもう慣れた?』

 

「まだ覚えることはあるけど、料理も少しずつ任せてもらってるよ」

 

『そう。ちゃんと評価してもらえてるのね』

 

 母さんの声が、少し嬉しそうに弾む。

 

「マスターも穏やかな人だし、働きやすい店だよ」

 

『それなら安心だけど、勉強もあるんだから頑張りすぎないようにね』

 

「試験前や学校の予定があるときは、勤務時間を調整してもらえることになってるよ」

 

『叶多は無理をしていても平気な顔をするから、そこだけは心配なのよ』

 

「本当に無理はしてないよ。仕事も楽しいし」

 

『……楽しいならいいけど』

 

 母さんの声から、わずかに力が抜けた。

 

『結局、連休中は一度も帰ってこなかったわね』

 

「アルバイトを始めたばかりだったからね」

 

『一日くらい、顔を見せてくれてもよかったのに』

 

「まだ家を出てから一か月くらいだろ」

 

『一か月も、よ』

 

 どうやら母さんにとっては、短い期間ではないらしい。

 

「まとまった休みが取れたら、一度帰るよ」

 

『本当でしょうね?』

 

「ああ」

 

『あの子も、叶多の料理が恋しいって言ってたわよ』

 

「そうか」

 

『今度帰ってきたら、何か作ってあげてね』

 

「分かったよ」

 

『学校は楽しい?』

 

「ああ。友達もできたし、悪くないよ」

 

『友達もできたの?』

 

「同じクラスの二人と、よく一緒にいるよ」

 

『どんな子たちなの?』

 

「一人は明るくて、よく話す奴。もう一人は穏やかで、勉強も運動もできる」

 

『そう。なら、少し安心したわ』

 

 母さんの声が、わずかに柔らかくなる。

 

『明日からまた学校でしょう? あまり夜更かししないようにね』

 

「ああ。もう寝る準備をするよ」

 

『朝ご飯もちゃんと食べるのよ』

 

「分かってる」

 

『それじゃあ、おやすみなさい』

 

「おやすみ」

 

 通話を終え、スマートフォンを机へ置いた。

 

 ゴールデンウィークは、今日で終わりだ。

 

 最後に目覚ましの時刻を確認してから、俺は部屋の照明を消した。

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