男女比100対1で男が多いとかマジ終わってる   作:ののじん

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22話 体力測定

 ゴールデンウィークが明けてから、数日が経った。

 

「今日は一日かけて体力測定をするからね。移動するときは、担当の先生の指示に従ってね」

 

 朝のホームルームで、花城先生がいつもの気の抜けた声で告げた。

 

 服装も普段と変わらず、上下ともにジャージだ。

 

「午前中はグラウンド、午後から体育館で測定します。今日は暑くなるみたいだから、水分補給も忘れないようにしてね」

 

 教室のあちこちから、楽しそうな声と嫌そうな声が同時に上がった。

 

 運動部の生徒にとっては、普段の成果を見せる機会なのだろう。

 

 俺にとっては、できれば早く終わってほしい一日だった。

 

「叶多、顔が暗いぞ」

 

 隣の席から、大輔が楽しそうに声をかけてくる。

 

「運動は得意じゃないんだよ」

 

「やっぱりな。体育を見てて、そんな気はしてた」

 

「なんでそんなにうれしそうなんだよ」

 

「叶多にも苦手なものがあるって分かると、少し安心するだろ」

 

「友達の失敗を期待するな」

 

「失敗までは期待してない。俺より下ならいいと思ってるだけだ」

 

「似たようなものだろ」

 

 大輔は悪びれた様子もなく笑った。

 

 前の席に座っていた直樹が、こちらを振り返る。

 

「記録を競うための行事ではないんだから、無理をしなければいいと思うよ」

 

「直樹が言っても説得力ないぞ」

 

 大輔がすぐに反応した。

 

「どうしてだい?」

 

「お前、運動神経いいじゃないか」

 

「得意な種目と苦手な種目はあるよ」

 

「その苦手が、俺たちの得意より上なんだろ」

 

「そこまで大きな差はないと思うけどね」

 

 直樹は困ったように笑っている。

 

 実際には、大輔の言う通りだろう。

 

 直樹はバスケットボール部に所属し、普段から身体を動かしている。体育の授業でも目立っており、体力測定で苦戦する姿は想像できなかった。

 

「叶多君も、運動は苦手なんだね」

 

 声をかけられ、そちらへ顔を向ける。

 

 瑞葉が少し安心したような表情で立っていた。

 

「意外だった?」

 

「うん。勉強も料理もできるから、運動も得意なのかなって思ってた」

 

「残念ながら、男子の中では下から数えた方が早いと思う」

 

「私も似たようなものだよ」

 

 瑞葉は小さく笑った。

 

「走るのも遅いし、ボールを投げても全然飛ばないの」

 

「それなら、今日はお互い頑張ろう」

 

「うん。最下位にならないくらいには頑張りたいな」

 

「目標が低くないか?」

 

 大輔が口を挟む。

 

「そういう大輔は、どのくらいできるんだ?」

 

「俺は普通だ。普通より少し上かもしれない」

 

「その自信はどこから来るんだ?」

 

「自信を持つことって大事なんだぞ」

 

「まあ、体育を見る限り、普通くらいにはできるもんな」

 

「だろ?」

 

「少し上かどうかは、今日分かるけどな」

 

「そこは素直に信じろよ」

 

 大輔は不満そうに言ったが、普段の体育を見る限り、本当に平均程度には動けている。

 

 少なくとも、俺よりは良い記録を出すだろう。

 

「それじゃあ、そろそろグラウンドへ移動してね」

 

 花城先生の声に促され、教室の生徒たちが立ち上がった。

 

 体操着姿に着替え、校舎を出る。

 

 五月の陽射しは思っていたより強く、グラウンドにはすでに測定用の白線や器具が用意されていた。

 

 最初の種目は、五十メートル走だった。

 

「いきなり走るのかよ」

 

 スタート地点を見た大輔が言う。

 

「午後まで不安を引き延ばされるよりはいいだろ」

 

「叶多は諦めが早いな」

 

「自分の実力を分かってるだけだよ」

 

 男子から二人ずつ走り、残った生徒が記録の確認や誘導を手伝う。

 

 直樹の名前が呼ばれると、周囲から小さな声が上がった。

 

 隣に並んだのは、陸上部へ入った男子だった。

 

「位置について」

 

 二人が腰を落とす。

 

「よーい」

 

 合図と同時に、二人の身体が前へ飛び出した。

 

 序盤はほとんど差がなかったが、中盤から直樹がわずかに前へ出る。

 

 そのまま速度を落とさず、先にゴールラインを駆け抜けた。

 

「水瀬、6秒7」

 

 記録を聞いた大輔が、呆れたように息を吐く。

 

「やっぱり速いじゃないか」

 

「思っていたより記録が出たね」

 

 戻ってきた直樹は、息を切らした様子もほとんどなかった。

 

「そういう問題じゃないだろ」

 

「次、梅原」

 

 担当教師に呼ばれ、大輔がスタート地点へ向かう。

 

「俺の実力を見てろよ」

 

「転ばないようにな」

 

「縁起でもないこと言うな」

 

 大輔は隣の男子と並び、合図を待った。

 

 スタートは悪くない。

 

 途中で少しフォームが崩れたものの、そのまま最後まで走り切る。

 

「梅原、7秒2」

 

「ほら、普通より少し上だろ」

 

 戻ってきた大輔が得意げに胸を張った。

 

「確かに悪くないな」

 

「最初から信じろって言っただろ」

 

「次、槻山」

 

 名前を呼ばれ、俺はスタート地点へ向かった。

 

 隣に並んだ男子は、普段の体育でも足が速い方だった。

 

 勝てるとは思っていない。

 

 せめて、あまり大きな差をつけられないようにしたい。

 

「位置について」

 

 腰を落とし、地面へ手をつく。

 

「よーい」

 

 合図が鳴った。

 

 一歩目から、身体が思ったように前へ出ない。

 

 懸命に腕を振っているつもりなのに、隣の男子はあっという間に遠ざかっていく。

 

 残り半分を過ぎた頃には、勝負になっていなかった。

 

「槻山、9秒1」

 

 ゴールを通過し、膝へ手をつく。

 

 五十メートルしか走っていないのに、妙に疲れた。

 

「思ってたより遅いな」

 

 戻ると、大輔が正直な感想を口にした。

 

「俺もそう思ってるよ」

 

「体育を見た感じ、もう少し速いと思ってた」

 

「走る機会が少なかったから、ばれなかっただけだな」

 

「安心しろ。まだ下はいる」

 

「慰め方が雑すぎるだろ」

 

 女子の測定も、隣のコースで始まった。

 

 最初に走った明日香は、男子の中へ混じっても目立つほど速かった。

 

 力強く地面を蹴り、最後までほとんど速度が落ちない。

 

「高瀬、6秒9」

 

「速っ」

 

 大輔が思わず声を上げる。

 

「本当に男子より速いな」

 

「種目によっては、って言っただろう?」

 

 直樹は驚きながらも、どこか納得している様子だった。

 

 明日香本人は記録を聞くと、わずかに眉を寄せた。

 

「もう少しいけたと思ったんだけどな」

 

「十分速いでしょ」

 

 千夏が笑いながら声をかける。

 

「次は千夏の番だぞ」

 

「分かってるって」

 

 千夏はここあへ手を振り、スタート地点へ向かった。

 

 合図と同時に勢いよく走り出す。

 

 明日香ほどではないが、身体の使い方が軽く、女子の中ではかなり速い。

 

 その姿を眺めていた大輔が、急に黙り込んだ。

 

「どうした?」

 

「いや……体力測定って、いい行事だなと思って」

 

「急に何を言い出すんだよ」

 

「走ってる姿を見ると、普段とは違う魅力があるだろ」

 

 そう言いながら、大輔の視線は女子のコースからほとんど動いていない。

 

「大輔君。どこを見ているんだい?」

 

 直樹に穏やかに尋ねられ、大輔はわざとらしく顔を逸らした。

 

「不可抗力だろ。動くものに目が行くのは生物として当然だろ? あんなに上下に揺れてたら……分かるだろ?」

 

「気持ちは分からなくもないけど、口に出すなよ」

 

「ほら、叶多だって分かってるじゃないか」

 

「分かってても、心の中に留めておけよ」

 

 千夏の次には、里穂とここあが走った。

 

 里穂は髪が乱れるのを気にしていた割に、走り方は綺麗だった。記録も女子の中では平均を上回っている。

 

 ここあはスタートこそ速かったものの、途中から少し速度を落とした。

 

「疲れたー」

 

「まだ五十メートルしか走ってないよ」

 

 千夏に言われ、ここあは面倒そうに肩を落としている。

 

 ゆりのは速くはなかったが、最後まで一生懸命に走り切った。

 

 ゴールしたあとも笑顔を崩さず、次に走る玲へ声をかけている。

 

 玲は緊張してスタートで少し遅れたものの、思っていたより悪くない記録だった。

 

 瑞葉の名前が呼ばれる。

 

「行ってくるね」

 

「ああ。頑張って」

 

 瑞葉は緊張した様子でスタート地点へ向かった。

 

 隣に並んだのは、前髪少女みはるだった。

 

「位置について」

 

 二人が構える。

 

「よーい」

 

 合図と同時に、瑞葉が懸命に駆け出した。

 

 速くはない。

 

 腕の振り方も少しぎこちなく、足運びも綺麗とは言い難かった。

 

 それでも、最後まで速度を落とさずに走っている。

 

 一方のみはるは、開始直後から明らかに身体が重そうだった。

 

 瑞葉が先にゴールへ入り、その数秒後にみはるが続く。

 

「雛森、9秒4。姫岡、10秒3」

 

 戻ってきた瑞葉は、少し息を切らしながらも笑っていた。

 

「叶多君と同じくらいだったね」

 

「本当だな」

 

「負けたけど」

 

「0.3秒なら誤差みたいなものだよ、次はどうなるか分からない」

 

「じゃあ、次は負けないように頑張るね」

 

 瑞葉はそう言って、小さく笑った。

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