男女比100対1で男が多いとかマジ終わってる   作:ののじん

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25話 六人の昼休み

 翌日の昼休み。

 

「今日、みんなで食堂に行かない?」

 

 千夏が弁当箱を持って、俺たちの席へやってきた。

 

 その後ろには、瑞葉とここあもいる。

 

「もちろん!」

 

 大輔が迷うことなく答えた。

 

「僕も構わないよ」

 

 直樹も穏やかに頷く。

 

「俺もいいよ」

 

「じゃあ、席が埋まる前に行こう」

 

 千夏に促され、俺たちはそれぞれ昼食を持って教室を出た。

 

 昼休みが始まったばかりだというのに、食堂へ向かう廊下には多くの生徒が歩いている。

 

 聖凰学園の食堂は中等部と高等部で分かれており、高等部だけでもかなり広い。

 

 入口の上には、本日の日替わりメニューが表示されていた。

 

「今日は生姜焼き定食か」

 

 大輔が足を止め、メニュー表を見上げる。

 

「購買でパンを買うって言ってなかったか?」

 

「生姜焼きを見たら気が変わった」

 

「随分簡単に変わるんだな」

 

「昼飯は直感で決めるものだろ」

 

「僕はうどんにしようかな」

 

 直樹も券売機の列へ向かう。

 

 俺と女子三人は昼食を持参していたため、先に空いている席を探すことにした。

 

 食堂の奥に、六人で座れそうな長机が残っている。

 

「あそこにしよう」

 

 千夏が席を確保し、俺たちも順番に腰を下ろした。

 

 少しして、大輔と直樹が料理を載せた盆を手に戻ってくる。

 

 大輔は生姜焼き定食、直樹は温かいうどんだった。

 

「やっぱり昼は米だな」

 

 大輔が満足そうに言う。

 

「五分前までパンを食べるつもりだっただろ」

 

「それは過去の俺だ」

 

「随分遠い過去みたいに言うね」

 

 直樹が苦笑しながら、うどんの器を置いた。

 

 全員の昼食がそろったところで、手を合わせる。

 

「いただきます」

 

 弁当箱の蓋を開けた。

 

 今日のおかずは、豚肉のハニーマスタード焼き、ほうれん草とベーコンを入れたキッシュ風の卵焼き、紫キャベツのマリネ。

 

 隙間には、ブロッコリーとミニトマトを添えている。

 

 下ごしらえは昨夜のうちに済ませていたので、朝は豚肉と卵焼きに火を通して詰めるだけだった。

 

 朝にしたのは、豚肉を焼き、卵液を流して火を通した程度だ。

 

「相変わらずおいしそう」

 

 千夏が俺の弁当へ目を向けた。

 

「叶多君の作るおかず、本当においしいんだよね」

 

「千夏、食べたことあるの?」

 

 ここあが尋ねる。

 

「前に少しだけね。見た目が綺麗なだけじゃなくて、味もちゃんとしてたよ」

 

「千夏がそこまで言うなら、本当においしいんだろうね」

 

 ここあが興味深そうに弁当を覗き込む。

 

「私、おいしくないものを無理に褒めたりしないから」

 

「そこは信用できる」

 

「でしょ?」

 

 千夏は得意そうに胸を張った。

 

 瑞葉も俺の弁当箱へ目を向ける。

 

「今日は洋風なんだね」

 

「ああ。冷めても味が落ちにくいものを選んだ」

 

「ハニーマスタードって、お弁当にも合うの?」

 

「粒マスタードの酸味と蜂蜜の甘みがあるから、冷えても味がぼやけにくいんだ。豚肉も少し濃いめに味をつけてある」

 

「卵焼きも、普通のとは違うよね」

 

「中にほうれん草とベーコンを入れてる。具材は先に炒めて、水分を飛ばしてあるよ」

 

「そこまで考えて作ってるんだ」

 

 瑞葉が感心したように言う。

 

「弁当は昼に食べるものだからな。朝においしくできても、食べる頃に崩れていたら意味がないだろ」

 

「やっぱり、料理になると細かいね」

 

「まあ、こだわりはあるよ」

 

 料理に関してまで、何でもないふりをする必要はない。

 

 手間をかけることと、無駄な手間を増やすことは違う。

 

 豪華にする必要はなくても、雑に作る理由はなかった。

 

「盛りつけも綺麗だね」

 

 ここあが言う。

 

「色まで考えてるの?」

 

「茶色いおかずばかりだと、蓋を開けたときに地味だからな。見た目も食欲に関わる」

 

「自分で食べるだけなのに?」

 

「自分で食べるからこそだよ。せっかく作るなら、おいしそうに見えた方がいいだろ」

 

「叶多君って、料理のことになると急に専門家っぽくなるよね」

 

 瑞葉が楽しそうに笑う。

 

「普段は違うのか?」

 

「普段も真面目だけど、料理の話をしてるときは少し楽しそう」

 

「そうかな」

 

「うん」

 

 自分ではあまり意識していなかった。

 

 前世から長く続けてきたことだから、料理について考えるのは習慣になっている。

 

「一口くれないか?」

 

 大輔が俺の弁当を見ながら尋ねる。

 

「自分の生姜焼きがあるだろ」

 

「それはそれ。これはこれだ」

 

「仕方ないな」

 

 俺は豚肉を一切れ取り、大輔の皿へ載せた。

 

「お、ありがと」

 

 大輔はさっそく口へ運び、何度か噛んでから大きく頷く。

 

「うまい。甘いだけじゃなくて、ちゃんと酸味もあるな」

 

「粒マスタードを使ってるからな」

 

「生姜焼きもいいけど、こっちも飯に合う」

 

「味見の割には、ずいぶんしっかり食べるね」

 

 直樹が苦笑する。

 

「友人の料理はちゃんと評価しないとな」

 

「ただ食べたかっただけでしょ」

 

 ここあが淡々と指摘した。

 

「結果的に評価もできたんだから問題ない」

 

「そういえば、叶多君」

 

 千夏が弁当を食べながら、こちらを見る。

 

「生徒会に受かったんだって?」

 

「ああ。書記として採用されたよ」

 

「そうなんだ」

 

 瑞葉が顔を上げる。

 

「おめでとう、叶多君」

 

「ありがとう」

 

「書記だったんだね」

 

「字も綺麗だし、真面目だから向いてそう」

 

 千夏も頷く。

 

「今日から活動するの?」

 

「ああ。生徒会は原則、平日の放課後は毎日活動するらしい。今日は初めて仕事を教わることになってる」

 

「毎日なんだ」

 

 瑞葉が少し驚いたように言う。

 

「アルバイトもやってるんでしょ?」

 

「勤務がある日は、仕事の進み具合を見て早めに上がっていいことになってるよ。学校の予定を優先してもらえることにもなってる」

 

「それならいいけど、無理しないでね」

 

「ああ。気をつけるよ」

 

 瑞葉は安心したように、小さく頷いた。

 

「ほかに選ばれた一年生は誰だったの?」

 

 ここあが尋ねる。

 

「会計が一年B組の鷹取慧吾君。庶務が一年D組の石倉航平君だよ」

 

「鷹取君なら知ってる」

 

 千夏がすぐに反応した。

 

「中等部のとき、委員会で何度か一緒になったことがある」

 

「話したこともあるのか?」

 

「少しだけね。真面目な人だったと思う」

 

「鷹取君って、髪を後ろに流してる人だよね?」

 

 ここあも心当たりがあるらしい。

 

「ああ」

 

「ちょっと目立つよね。姿勢もいいし」

 

「石倉君は?」

 

「昨日初めて会ったよ。まだほとんど話してない」

 

「先輩たちはどうだった?」

 

 瑞葉が尋ねる。

 

「天ヶ瀬先輩と如月先輩以外は、昨日が初対面だったんだよね?」

 

「ああ」

 

「どんな人たちだったの?」

 

 少し考える。

 

 桜庭先輩は穏やかそうだった。

 

 真壁先輩は強面だったが、話し方は落ち着いていて、石倉君へも丁寧に接していた。

 

 そして、俺の指導役になる榊先輩は――。

 

「個性的な人たちだったよ」

 

「随分まとめたね」

 

 ここあがすぐに突っ込む。

 

「一人ずつ説明すると長くなるからな」

 

「榊先輩はどうだった?」

 

 千夏が意味ありげに笑いながら尋ねた。

 

「どうして榊先輩だけ聞くんだ?」

 

「叶多の指導役なんでしょ?」

 

「そうだけど」

 

「それで、実際どうだったの?」

 

 千夏が改めて尋ねる。

 

「かなり綺麗な人だったよ」

 

「ほらな」

 

 大輔が得意そうに言った。

 

「俺が言った通り、超絶美人だっただろ?」

 

「お前は美人らしいってことしか知らなかっただろ」

 

「一番大事な情報だ」

 

「仕事には何の役にも立たないと思うよ」

 

 直樹が冷静に指摘した。

 

「美人って、それだけ?」

 

「昨日は自己紹介をしただけだからな」

 

「榊先輩って、男殺しらしいよ」

 

 ここあが何でもないことのように言った。

 

「物騒な呼び方だな」

 

「本当に殺すわけじゃないって。話した男子が、みんな夢中になるって意味」

 

「そんなにすごいのか?」

 

 大輔が真剣な表情になる。

 

「一度、話してみたいな」

 

「自分から話しかければいいじゃん」

 

「簡単に言うなよ。相手は二年の有名人だぞ?」

 

「さっきまで一番大事な情報だとか言ってたのに」

 

「それとこれとは別だ」

 

「榊先輩は、男子との距離が近いって有名だからね」

 

 千夏が続ける。

 

「普通に話していても、顔を近づけたり、腕に触れたりするらしいよ」

 

「いい先輩じゃないか」

 

 大輔が即答した。

 

「梅原君は単純すぎぃ」

 

 ここあが呆れたように言う。

 

「男子なら嬉しいだろ」

 

「相手との関係によるんじゃないかな」

 

 直樹が答える。

 

「ほら、直樹だって否定してない」

 

「喜ぶとは言っていないよ」

 

「槻山君は?」

 

 ここあが突然こちらへ話を振った。

 

「綺麗な人だとは思うけど、少し距離感が近い人なのかなとは思った」

 

「苦手なの?」

 

「まだ一度会っただけだから分からないよ。ただ、親しくないうちから距離を詰められるのは、少し苦手かもしれない」

 

「へえ。榊先輩を苦手って言う男子、珍しいかも」

 

 ここあは意外そうに目を丸くした。

 

「この学校の男子なら、女子に触られたら喜ぶ人の方が多いと思うよ」

 

 千夏も言う。

 

「親しくもない相手から、意味もなく触られるのは苦手なんだ」

 

「榊先輩みたいな美人でも?」

 

「美人かどうかは関係ないだろ。まだ一度しか話してないんだから」

 

「真面目だね」

 

 ここあは面白そうに笑った。

 

「叶多は少しずれてるからな」

 

 大輔が得意げに言った。

 

「お前に言われたくないよ」

 

 瑞葉は俺たちの会話を聞きながら、小さく笑った。

 

「叶多君らしいと思う」

 

「そうかな」

 

「うん。相手が女子だからって、何でも喜んだりしなさそうだから」

 

「僕は、そういうところに好感を持つけどね」

 

 直樹が穏やかに言った。

 

「相手が女子だからといって、必要以上に態度を変えないところは信頼できると思うよ」

 

「直樹にそこまで言われると、照れるな」

 

「本当のことを言っただけだよ」

 

「俺も叶多のことは信頼してるぞ」

 

 大輔も会話へ加わる。

 

「勉強を教えてくれるし、飯もうまいからな」

 

「理由が自分本位すぎるだろ」

 

「信頼の形は人それぞれだ」

 

「格好よくまとめようとしても無理っしょ」

 

 ここあに切り捨てられ、大輔は不満そうに生姜焼きを口へ運んだ。

 

「それより、生徒会が毎日なら、本当に忙しくなるね」

 

 瑞葉が話を戻す。

 

「ああ。でも、自分で希望して入ったんだからな」

 

「頑張ってね」

 

「ありがとう」

 

「今度、生徒会の話も聞かせて」

 

「話せることならな」

 

 瑞葉は嬉しそうに頷いた。

 

 その後は、食堂の新しいメニューや、次の試験範囲について話しながら昼食を続けた。

 

 千夏が話題を振り、ここあが遠慮なく突っ込み、大輔が余計なことを言う。

 

 直樹が穏やかにまとめ、瑞葉が楽しそうに笑っている。

 

 これまでは男子三人で昼食を取ることが多かった。

 

 女子三人を加えた六人で囲む食卓は、今までとは違う賑やかさがある。

 

 昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。

 

「そろそろ戻ろうか」

 

 千夏の言葉に、全員が食器や弁当箱を片づけ始める。

 

「また一緒に食べようね」

 

 瑞葉が俺たちへ言った。

 

「ああ」

 

 俺が頷くと、瑞葉は嬉しそうに笑った。

 

 女子三人と一緒に昼食を取ることになるとは、入学した頃には想像もしていなかった。

 

 彼女ができたわけではないが、こうして女子とも自然に話せる友人関係を築けたのは、素直にうれしい。

 

 俺は空になった弁当箱を袋へ戻し、みんなと一緒に食堂を出た。

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