男女比100対1で男が多いとかマジ終わってる   作:ののじん

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29話 中間試験最終日

 中間試験初日の朝。

 

 教室へ入ると、普段よりも話し声が少なかった。

 

 机へ向かい、教科書やノートを確認している生徒が多い。

 

 友人同士で話している者もいるが、聞こえてくるのは試験範囲や覚え方についての会話ばかりだった。

 

「おはよう、叶多」

 

 前の席から大輔が振り返る。

 

「おはよう。今日は早いな」

 

「試験の日くらいは早めに来るって」

 

 机の上には英語の教科書と、自分でまとめたノートが広げられている。

 

 普段なら登校してすぐ誰かへ話しかけているところだが、今日は真剣な表情でページをめくっていた。

 

「昨日も勉強したのか?」

 

「当たり前だろ。勉強会で確認したところも、もう一度解き直したぞ」

 

「ちゃんと続けてたんだな」

 

「そう簡単に安心できないって。英語と数学で落としたら、A組の中で一気に順位を落とすかもしれないんだぞ」

 

 大輔は普段の小テストでも、クラスの上位に入っている。

 

 赤点を心配しているのではなく、今の位置から落ちることを気にしているらしい。

 

「そこまで準備してるなら、大きく崩れることはないと思うけどな」

 

「叶多に言われると、少し安心する」

 

 大輔はそう言いながら、再びノートへ視線を落とした。

 

 右隣では、直樹も英語の資料を確認している。

 

「直樹も直前まで見るんだな」

 

「念のためにね。思い込みで間違えることもあるから」

 

「そういうところが、いつも上位にいる理由なんだろうな」

 

 直樹は少し困ったように笑い、資料へ視線を戻した。

 

 直樹は、普段の小テストや授業でも常に上位にいる。

 

 俺も勉強だけなら、大きく劣っているつもりはない。

 

 ただ、直樹はそれに加えて運動でも結果を出している。

 

 俺にはないものを、いくつも持っている人物だった。

 

 教室の反対側では、千夏たちも試験前の確認をしている。

 

 千夏は教科書とノートを交互に見ながら、重要な箇所へ目を通していた。

 

 隣では、ここあが机へ頬をつけたまま単語帳を眺めている。

 

「ここあ、寝ないでよ」

 

「寝てないって」

 

「目がほとんど閉じてるじゃん」

 

「この方が集中できるの」

 

「そんなわけないでしょ」

 

 千夏に肩を揺らされ、ここあは面倒そうに身体を起こした。

 

 里穂は二人の会話へ加わらず、静かに自分のノートを確認している。

 

 表情には余裕があるものの、いつもより丁寧にページをめくっていた。

 

 隣の席では、瑞葉も数学のノートへ目を通している。

 

 真剣な表情で同じ場所を何度か読み返していた。

 

「みんな、そろそろ机の上を片づけてね」

 

 教室へ入ってきた花城先生が、いつもの気の抜けた声で呼びかけた。

 

「机の中も空にしてください。教科書とノートは鞄へ。スマートフォンは電源を切ってね」

 

 ノートをしまい、筆記用具だけを机の上へ残した。

 

「一時間目は英語です。問題用紙と解答用紙を後ろへ回してください」

 

 前の席から用紙が回ってくる。

 

 裏返されたままの問題用紙を机へ置き、開始の合図を待つ。

 

 教室の前にある時計の秒針が進んでいく。

 

「それでは、始めてください」

 

 一斉に紙をめくる音が響いた。

 

 最初に問題全体へ目を通す。

 

 文法、長文読解、英作文。

 

 高校一年の範囲であれば、内容そのものに難しさは感じなかった。

 

 前世では、イタリアでの修業中だけでなく、帰国後に勤めていたホテルでも外国人スタッフや海外から招かれた料理人と仕事をする機会があった。

 

 厨房での指示や打ち合わせ、食材や調理手順についての確認。

 

 そうした実務の中で英語を使っていたため、文章を読んだり、自分の考えを英語で伝えたりすることには慣れている。

 

 ただし、学校の試験で問われる英語は、実際の会話で通じるかどうかとは少し違う。

 

 意味としては成立する表現でも、教科書で習った文法や語順に沿っていなければ正解にはならない。

 

 長文読解と英作文は迷わず進められたが、細かな文法問題だけは選択肢を一つずつ確認していく。

 

 実際に使えることと、試験で点を取ることは同じではない。

 

 その違いを意識しながら、順番に解答を埋めていった。

 

 終了を知らせるチャイムが鳴る。

 

「筆記用具を置いてください」

 

 花城先生の声に従い、シャープペンシルを机へ置いた。

 

 解答用紙が後ろから集められていく。

 

「終わった……」

 

 前の席で、大輔が小さく息を吐いた。

 

「手応えは?」

 

「文法はできた。長文の最後が少し怪しい」

 

「それなら、次に切り替えた方がいいよ」

 

 直樹が数学のノートを取り出しながら言う。

 

「答え合わせしないのか?」

 

「今しても点数は変わらないからね。間違いに気づいたら、次の試験へ集中できなくなるかもしれない」

 

「それもそうか」

 

 大輔は少し迷ったあと、英語ではなく数学のノートを取り出した。

 

「叶多君」

 

 声をかけられ、顔を向ける。

 

 瑞葉が数学のノートを抱え、俺たちの近くへ立っていた。

 

「英語、どうだった?」

 

「多分大丈夫。瑞葉は?」

 

「最後の長文が少し難しかったかな。途中で迷ったところもあったし、あまり自信はないかも」

 

「迷ったところがあっただけで、全部悪かったわけじゃないだろ?」

 

「うん。そうだといいんだけど」

 

 瑞葉は小さく笑ったあと、机へ突っ伏しているここあへ目を向けた。

 

「七瀬さんは大丈夫?」

 

「燃え尽きたー」

 

「まだ一教科しか終わってないよ」

 

 千夏が呆れたように言いながら、ここあの肩を揺らす。

 

「終わった英語のことは、もう考えない」

 

 ここあは渋々身体を起こし、鞄から数学のノートを取り出した。

 

「切り替えが早いね」

 

 瑞葉が少し感心したように言う。

 

「終わったものは仕方ないでしょ」

 

「それは確かにそうかも」

 

「雛森さんまで納得するのか?」

 

 大輔が驚いたように言った。

 

「引きずったまま次の試験を受けるよりは、いいと思うよ」

 

「瑞葉、ここあを甘やかさないでよ」

 

「甘やかしてるつもりはないんだけどな」

 

 瑞葉は困ったように笑った。

 

「瑞葉は、数学の方は大丈夫そう?」

 

 俺が尋ねる。

 

「少し不安なところはあるけど、昨日までに一通り解き直したよ」

 

「なら、直前は間違えたところだけ確認すればいいと思う」

 

「うん。そうする」

 

 瑞葉は素直に頷くと、ここあの席を離れ、自分の席へ戻っていった。

 

 休み時間はあっという間に過ぎた。

 

 二時間目の数学も、最初に全体を確認してから解ける問題を進めていく。

 

 難しい問題はあったが、まったく手がつかないほどではない。

 

 一つずつ条件を整理し、途中式を省略せずに書く。

 

 終了まで残り五分。

 

 最後の問題を解き終え、計算を見直す。

 

 途中で符号の間違いを一つ見つけ、慌てずに修正した。

 

 終了のチャイムが鳴る。

 

 解答用紙が回収されると、教室のあちこちから息を吐く音が聞こえた。

 

「叶多」

 

 大輔がゆっくりと振り返る。

 

「どうした?」

 

「勉強会やっててよかった」

 

「ああ、あそこの問題か」

 

「そう。数字は違ったけど、解き方が同じだったところ」

 

「解けた?」

 

「最後まで答えは出た」

 

「なら、問題ないんじゃないか?」

 

「合ってる保証はないけどな」

 

「そこまで俺には分からないよ」

 

「でも、前だったら途中で止まってたと思う。勉強手伝ってくれてサンキューな」

 

 大輔は少し安心したように笑った。

 

 翌日も、その次の日も、決められた教科を順番に受けていく。

 

 朝は教室の空気が張り詰め、試験が一つ終わるたびに少しだけ緩む。

 

 試験期間中は、誰もが普段より早く教室へ集まり、最後の確認を続けていた。

 

 大輔は苦手な範囲を繰り返し見直し、ここあも千夏に急かされながら次の教科へ切り替えている。

 

 瑞葉は不安そうにしながらも、そのたびに確認を重ねていた。

 

 直樹と里穂は、最後まで落ち着いた様子を崩さなかった。

 

 そして、最終日。

 

 最後の解答用紙が回収される。

 

 監督の教師が教室を出ていくと、それまで抑えられていた声が一斉に広がった。

 

「終わったー!」

 

 大輔が両腕を上げる。

 

「やっと解放されたー」

 

 ここあも机へ身体を預け、力の抜けた声を出した。

 

「二人とも、まだ結果は出てないけどね」

 

 千夏が笑いながら言う。

 

「今くらい喜ばせてくれよ」

 

「結果が悪かったら、そのとき落ち込めばいいじゃん」

 

「そういう考え方は嫌いじゃない」

 

「ここあも同じ顔してるけど、補習は大丈夫そう?」

 

「……多分」

 

「こりゃダメかも。瑞葉はどうだった?」

 

「大きな失敗はなかったと思う。でも、理科は少し不安かも」

 

「瑞葉が不安なら、私はもっと危ないんだけど」

 

 千夏が苦笑する。

 

「千夏はできたって言ってなかった?」

 

「英語と国語はね。理科は最後の方、ほとんど勘だった」

 

「私も同じー」

 

 ここあが机へ伏せたまま片手を上げた。

 

「ここあは、ほかの教科も勘で解いてたでしょ」

 

「全部じゃないよ。半分くらい」

 

「余計に心配になるんだけど」

 

「埋めたんだから、何点かは入るって」

 

「その考え方で補習を回避できればいいけどね」

 

 千夏は呆れたように言ったが、試験が終わったからか、声にはいつもの軽さが戻っている。

 

「里穂はどうだった?」

 

 千夏に尋ねられ、里穂は机の上の筆記用具を片づけながら顔を上げた。

 

「普通よ。解ける問題は解いたし、分からないところも空欄にはしてないわ」

 

「結構できてそうじゃん」

 

「結果を見るまでは分からないでしょう」

 

 そう言いながらも、里穂に焦った様子はなかった。

 

「直樹は?」

 

 俺が尋ねる。

 

「手応えはあるよ。大きなミスがなければ、かなり取れていると思う」

 

「さすが成績上位者は違うな」

 

 大輔が言うと、直樹は少し困ったように笑った。

 

「結果が出るまでは分からないけどね」

 

「それでも、そこまで言えるのはすごいだろ。俺なんて合ってるかどうか不安な問題ばっかりだぞ」

 

「大輔君も、前よりは手応えがあったんじゃないかな?」

 

「まあな。勉強会でやったところは解けたし、前回よりは自信ある」

 

 大輔はそう言って、少しだけ表情を緩めた。

 

「叶多はどうだった?」

 

 今度は千夏がこちらへ尋ねてきた。

 

「まあ、それなりには解けたと思う」

 

「それなりって、どのくらい?」

 

「難しい問題もあったけど、見直す時間は取れたよ」

 

「それなら、かなりできてそうじゃん」

 

「まぁ、悪い結果にはならないとは思う」

 

 張り詰めていた数日間が終わり、教室にはいつもの空気が戻りつつあった。

 

「せっかく試験も終わったんだし、カラオケ行かない?」

 

 千夏が全員を見回しながら提案した。

 

 机へ伏せていたここあが、勢いよく顔を上げる。

 

「行く!」

 

「さっきまで動けなさそうだったのに、急に元気になったな」

 

「カラオケは別だって。試験中ずっと行きたかったんだから」

 

 試験の疲れなど忘れたように、ここあは楽しそうな表情を浮かべている。

 

「大輔君と直樹君は?」

 

「俺は行くぞ」

 

 大輔が真っ先に答えた。

 

「僕も予定はないから、構わないよ」

 

「瑞葉と里穂も行くよね?」

 

「うん。私も行きたい」

 

 瑞葉が答える。

 

「私も別に予定はないわ」

 

 里穂も断るつもりはないらしい。

 

 千夏は皆の返事を聞いたあと、こちらへ顔を向けた。

 

「叶多も行くでしょ?」

 

「歌わなくてもいいなら」

 

「別に無理しなくていいって。みんなで遊びに行くだけなんだから」

 

「それなら行くよ」

 

「叶多君、歌うの苦手なの?」

 

 瑞葉が少し意外そうに尋ねた。

 

「かなりな」

 

「一曲も歌わないの?」

 

 千夏が面白そうに聞いてくる。

 

「そのつもりだよ」

 

「無理に歌わせたりはしないって」

 

「聞いてるだけでも楽しいしねー」

 

 ここあがあっさりと同意した。

 

 カラオケが趣味の本人にそう言われると、少し安心できる。

 

「じゃあ、叶多君も参加で決まりね」

 

 千夏は満足そうに頷いたあと、教室の中を見回した。

 

「どうせなら、クラスの女子全員も誘わない?」

 

「全員?」

 

 大輔が聞き返す。

 

「せっかくの打ち上げなんだから、人数が多い方が楽しいでしょ。まだみんな教室にいるし」

 

 一年A組の女子は八人。

 

 今ここにいる瑞葉、千夏、ここあ、里穂に加えて、玲、ゆりの、明日香、みはるを誘えば全員になる。

 

「十一人になるけど、部屋に入れるのか?」

 

「大部屋を取れば大丈夫でしょ」

 

「俺は賛成だぞ。賑やかな方が楽しそうだし」

 

「大輔君の意見を待ってたわけじゃないけどね」

 

「賛成してるんだからいいだろ」

 

 千夏は大輔の抗議を軽く流し、教室の前方へ顔を向けた。

 

「高瀬さん、本田さん!」

 

 帰り支度をしていた明日香とゆりのが、呼ばれてこちらを見る。

 

「これからみんなでカラオケに行くんだけど、二人も一緒に行かない?」

 

「カラオケ?」

 

 明日香が少し驚いたように聞き返した。

 

「今日も、ジム行くの?」

 

「今日は休むつもりだったから、私は行けるよ」

 

「私も大丈夫よ」

 

 ゆりのも笑顔で答える。

 

「じゃあ二人とも参加ね」

 

「白石さんと姫岡さんにも声をかけようか」

 

 瑞葉が教室の後ろへ視線を向けた。

 

 玲は自分の席で静かに鞄を閉じている。

 

 その少し離れた場所では、みはるも俯いたまま帰り支度を進めていた。

 

「私たちも一緒に行くよ」

 

 ゆりのが言う。

 

 瑞葉とゆりのが先に二人のもとへ向かい、千夏とここあもその後を追った。

 

「白石さん、姫岡さん」

 

 瑞葉に声をかけられ、二人が顔を上げる。

 

「これからクラスのみんなでカラオケに行くんだけど、二人も一緒に行かない?」

 

「私たちも?」

 

 玲が驚いたように尋ねた。

 

「うん。女子は全員誘おうって話になったの」

 

「私も行っていいの?……」

 

「もちろんだよ」

 

 瑞葉がすぐに答える。

 

「みんなで行こう」

 

「最初は私たちの近くにいればいいし、無理にたくさん話さなくても大丈夫よ」

 

 ゆりのも穏やかに声をかけた。

 

 玲は少し迷うように指先を重ねていたが、やがて小さく頷いた。

 

「私も、もう少しみんなと話せるようになりたいし……行ってみる」

 

「よかった」

 

 瑞葉が嬉しそうに笑う。

 

「姫岡さんは?」

 

 千夏に尋ねられ、みはるは前髪の奥で視線を揺らした。

 

「わ、私も……一緒にいていいのかな……」

 

「いいに決まってるじゃん。姫岡さんも一緒に行こうよ」

 

 みはるはしばらく迷ったあと、小さく頷いた。

 

「……じゃあ、私も行く」

 

「これで女子全員ね」

 

 千夏が満足そうに言った。

 

 一年A組の女子八人全員が、俺たちの周りに集まっている。

 

 普段から話すことの多い瑞葉や千夏たちだけでなく、玲やみはるとは、まだまともに言葉を交わしたことがほとんどない。

 

 ほかの女子とも仲良くなれるいい機会かもしれない。

 

「本当に全員来ることになったな」

 

 大輔が感心したように呟く。

 

「何か問題ある?」

 

「あるわけないだろ。むしろ最高の打ち上げだと思ってる」

 

「まあ、賑やかにはなりそうだな」

 

「だろ?」

 

「人数も多いし、先に店へ連絡した方がよさそうだね」

 

 直樹が言う。

 

「じゃあ、私が調べるー」

 

 ここあはすでにスマートフォンを取り出していた。

 

 男子三人に、女子八人。

 

 試験が始まる前には、クラスの女子全員と放課後を過ごすことになるとは思ってもいなかった。

 

 俺たちはそれぞれ帰り支度を済ませると、十一人で教室を出た。

 

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