男女比100対1で男が多いとかマジ終わってる   作:ののじん

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3話 出席確認

 予鈴が鳴る。

 教室のざわめきが、少しずつ小さくなっていく。

 千夏も前を向き、俺も姿勢を正した。

 

 廊下の方から足音が近づいてくる。

 担任だろうか。

 そう思った直後、教室の引き戸が開いた。

 

 入ってきたのは、ジャージ姿の中学生くらい少女だった。

 首にはホイッスル。

 紺色のジャージを羽織り、その下には少しだぼっとした白いTシャツを着ている。

 襟元がずれてブラ紐が見えている。

 髪は高い位置でまとめられていて、動きやすさを優先した格好だった。

 

 たぶん、140センチぐらいかな。

 

 その少女が教卓の前に立つ

 

「はい、注目」

 

 短い一言。

 

 それだけで、教室の空気が少し引き締まる。

 

 高い声が良く通る。

 

「今日から1年A組の担任になります。花城(はなしろ)いろはです。担当は体育。1年間よろしくお願いします」

 

 ……先生だったのか。

 

 俺だけではなく、教室のあちこちで同じような空気が流れた。

 

 驚き。

 戸惑い。

 そして、少しのざわめき。

 

 無理もない。

 見た目だけなら、どう見ても上級生どころか中等部の生徒にも見える。

 それでいて、本人は教卓の前に立って当然という顔をしていた。

 

「はいはい、ざわざわしない。驚くのは分かるけど、私はちゃんと教師です。早めに慣れてください」

 

 さらりとそう言って、花城先生は名簿を開いた。

 見た目について向けられる反応には、もう慣れているのだろう。

 必要以上に気にした様子はない。

 むしろ、生徒たちの戸惑いを受け流して、すぐに場を進める余裕があった。

 

「今日はこのあと入学式があります。細かい説明は式が終わってから。まずは出席を取るので、呼ばれたら返事をしてください」

 

 小柄で童顔。

 声まで子供っぽい。

 けれど、仕切り方は完全に教師のそれだった。

 花城先生は名簿に視線を落とし、テンポよく名前を呼び始めた。

 

 出席番号順に名前が呼ばれていく。

  出席番号順に名前が呼ばれていく。

 

 これから同じ教室で過ごす男子たち。

 彼女を作るという意味では、全員がライバルになり得る相手だ。

 

梅原大輔(うめはらだいすけ)くん」

 

「うぃーっす」

 

 気の抜けた返事が聞こえた。

 思わずそちらを見る。

 

 襟足を長めに残したウルフカット。

 ネクタイは緩く、制服もかなり着崩している。

 軽薄そうというか、かなりチャラい。

 

 花城先生は返事の仕方を気にした様子もなく、そのまま次の名前を呼ぶ。

 ずいぶんと適当な先生なのかもしれない。

 

 そして入学初日から目立つやつだな。

 少なくとも、名前と顔はすぐに覚えた。

 

神崎里穂(かんざきりほ)さん」

 

「はい」

 

 落ち着いた声が返った。

 肩の下まで伸びた艶のある髪。

 目鼻立ちの整った、誰が見ても美人と答えそうな女子だった。

 姿勢もよく、制服の着こなしにも隙がない。

 

 男子たちの視線が集まっているが、本人は気にした様子もなかった。

 注目されることに慣れているのだろう。

 

白石玲(しらいしれい)さん」

 

「……はい」

 

 消え入りそうな声だった。

 

 艶のある黒髪は胸元まで伸び、頬の横だけが綺麗に切り揃えられている。

 

 重めの前髪と姫カットが、端正な顔立ちによく似合っていた。

 

 かなりの美少女だと思う。

 

 ただ、本人は周囲の視線が怖いのか、胸元のリボンを握って小さく俯いている。

 

 人前に出るのが苦手そうだ。

 

高瀬明日香(たかせあすか)さん」

 

「はい!」

 

 教室の後ろまで届く、はっきりした返事だった。

 短く切り揃えられた髪に、健康的に日焼けした肌。

 女子としては背が高く、制服越しでも分かるほど体が引き締まっている。

 見るからに運動部といった雰囲気だ。

 

 男子から視線を向けられても、特に気にせず正面を見ていた。

 

 その後、俺の名前が呼ばれる。

 

槻山叶多(つきやまかなた)くん」

 

「はい」

 

 短く返事をする。

 その直後、いくつかの視線がこちらへ向いた。

 

 男子だけではない。

 

 女子の何人かも、俺の顔を確かめるように見ている。

 

 容姿に関しては、前世より恵まれている自覚がある。

 これは多分大きな武器になるだろう。

 今世の自分が恵まれていると、改めて実感した。

 

 俺は気にしないふりをして前を向いた。

 

 その後も名前が呼ばれていく。

 花城先生は名簿に印をつけると、そのまま次へ進んだ。

 

七瀬(ななせ)ここあさん」

 

「はぁーい」

 

 間延びした返事とともに、気だるそうに手が上がった。

 金髪を高い位置でまとめた、ツインテールハーフアップ。

 メイクや制服の着こなしは華やかで、千夏と同じくギャルと呼ぶのが一番近そうだ。

 

 ただ、明るく活発な千夏とは雰囲気が違う。

 可愛らしい顔立ちをしているが、目元は眠たげで、どこか気の抜けた表情を浮かべている。

 周囲から視線を向けられても特に気にせず、手を下ろすと小さく欠伸を噛み殺していた。

 見た目に反して、かなりのんびりした性格らしい。

 

雛森瑞葉(ひなもりみずは)さん」

 

「はい」

 

 柔らかな声だった。

 艶のある黒髪を顎のあたりで切り揃えた、前髪のないボブヘア。

 片側の髪を耳にかけた、落ち着いた髪型をしている。

 派手な格好をしているわけではない。

 制服も丁寧に着ているだけだ。

 それでも、穏やかな目元と整った顔立ちには、自然と目を引かれるものがあった。

 先ほどまでの女子たちとはまた違う、柔らかな雰囲気をまとっている。

 

火野千夏(ひのちなつ)さん」

 

「はーい」

 

 隣から軽い返事が聞こえた。

 

姫岡(ひめおか)みはるさん」

 

「え、あ、はい」

 

 一拍遅れて返事が聞こえた。

 長い前髪が目元を完全に覆っている。

 髪にも制服にも飾り気はなく、少し背中を丸めて座っていた。

 話し始めに詰まる癖があるらしい。

 だが、声が極端に小さいわけでもなく、返事自体はしっかりしている。

 

 机の横から覗いている鞄には、アニメらしきキャラクターの小さなストラップがたくさんついていた。

 

本田(ほんだ)ゆりのさん」

 

「はい」

 

 明るく柔らかな返事だった。

 

 かなり大柄な女子だ。

 

 横にも縦にも存在感があり、教室にいる女子の中でもひときわ目立っている。

 ぽっちゃりというより、デ……いや失礼か。

 かなり――いや、かなーりふくよかだ。

 

 だが、丸みのある顔に浮かべた笑顔は親しみやすい。

 

 近くに座っている男子と目が合うと、ゆりのはにこりと笑った。

 相手の男子も、嬉しそうに笑い返している。

 

 見た目だけなら好みが分かれそうだが、人当たりはかなり良さそうだ。

 周囲の男子の反応を見る限り、意外にも人気があるらしい。

 

 いや、あの笑顔を見れば、人気があるのも分からなくはない。

 

 その後も出席確認は続く。

 

水瀬直樹(みなせなおき)くん」

 

「はい」

 

 爽やかな声が返った。

 何気なくそちらへ視線を向ける。

 

 柔らかな茶色の髪を、自然なセンターパートに分けている。

 端正な顔立ち。

 すらりとした長身。

 制服もきちんと着こなしているが、堅苦しい印象はない。

 口元には人当たりのよさそうな笑みが浮かんでいた。

 

 間違いない。

 

 こいつがこのクラスで一番のイケメンだ。

 いや、もしかしたら学年で一番かもしれない。

 

 教室にいる女子たちも、何人か直樹へ視線を向けている。

 

 まずい。

 

 非常にまずい。

 

 ただでさえ女子が少ないというのに、同じクラスにこんな男がいるとは。

 俺は入学初日から、静かに戦慄した。

 彼女を作るという意味では、間違いなく最大のライバルになる。

 もっとも、本人はそんな俺の警戒など知る由もなく、爽やかな顔で前を向いていた。

 

 やがて最後の名前が呼ばれ、花城先生は名簿を閉じた。

 

「はい、全員いますね。1年A組は36人。男子28人、女子8人です」

 

 女子8人。

 数字として聞くと、改めて多さを実感する。

 しかも、全員がそれぞれ違った意味で目を引く女子ばかりだった。

 

「それでは、これから入学式へ向かいます。出席番号順に廊下へ並んでください」

 

 花城先生が名簿を閉じる。

 その言葉を合図に、クラスメイトたちが一斉に立ち上がった。

 椅子を引く音と話し声で、教室が再び騒がしくなる。

 

「いよいよ入学式だね」

 

 隣で千夏が立ち上がりながら言った。

 

「そうだな。ようやく高校生になった実感が湧きそうだ」

 

「もう入学してるけどね」

 

「式が終わるまでは、まだ仮ということで」

 

「あはは、何それ」

 

 千夏は楽しそうに笑い、そのまま列へ加わっていく。

 俺も席を立った。

 

 個性的な女子たち。

 明らかに目立つ男子たち。

 それに、見た目も声も子供のような担任教師。

 どうやら1年A組は、退屈とは無縁のクラスになりそうだ。

 これから始まる高校生活に、少しだけ胸が高鳴る。

 俺はクラスメイトたちに続き、教室を後にした。

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