男女比100対1で男が多いとかマジ終わってる   作:ののじん

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33話 班分け

 梅雨入りが発表されてから、雨の日が続いていた。

 

 朝から降り続く雨が、教室の窓を細かく叩いている。

 

 灰色の雲に覆われた空のせいで、教室の中も普段より薄暗く感じられた。

 

「林間学校の日も雨だったら最悪だな」

 

 窓の外を眺めていた大輔が、机へ頬杖をつきながら言った。

 

「山だろ? 雨の中で歩き回るとか、絶対きついって」

 

「雨だったら、活動内容が変わるんじゃないか?」

 

「そうなのか?」

 

「しおりには、雨天時は館内の活動へ変更する場合があるって書いてあった」

 

「さすが生徒会。もう中身を知ってるんだな」

 

「作るのを手伝っただけだよ。予定を決めたのは先生たちだから」

 

 先日の生徒会では、林間学校のしおりを配布できる状態へ整える作業を行った。

 

 誤字や表記を確認しただけだが、自分が関わったものを一年生全員が使うと思うと、少し不思議な気分だった。

 

「館内活動って何するんだろうな」

 

「施設の中でオリエンテーリングをしたり、自然についての映像を見たりするらしい」

 

「それはそれで微妙だな」

 

「雨の中を歩くよりはいいだろ」

 

「まあ、それはそうだけどさ」

 

 大輔は納得しきれない様子で、再び窓の外へ目を向けた。

 

 後ろの席では、千夏と七瀬さんが林間学校の話をしている。

 

「部屋って何人なんだろうね」

 

「四人とかじゃない? ここあ、朝ちゃんと起きられる?」

 

「千夏が起こして」

 

「自分で起きなよ」

 

「無理。朝は人間が活動する時間じゃないから」

 

「林間学校に何しに行くつもりなの?」

 

「寝に?」

 

「旅行じゃないんだけど」

 

 千夏が呆れたように笑っている。

 

 七瀬さんは悪びれる様子もなく、机の上へ突っ伏した。

 

 その少し離れたところでは、高瀬さんが雨で外を走れないことを残念がり、本田さんが持ち物について里穂へ尋ねている。

 

 教室のあちこちで、林間学校の話題が聞こえていた。

 

 まだ二週間ほど先だが、みんな楽しみにしているらしい。

 

 始業を知らせる鐘が鳴る。

 

 それから少し遅れて、教室の前方の扉が開いた。

 

「はい、席に着けー」

 

 花城先生が、大きな紙袋を両手で抱えながら入ってくる。

 

「朝から雨とかやる気なくすよねー。先生も今日はもう帰りたい」

 

「まだ来たばっかりじゃないですか」

 

 男子の一人がそう言うと、教室に笑いが起きた。

 

「先生だって帰れるなら帰りたいんだよ。ほら、日直。これ配ってくれ」

 

 紙袋の中から取り出されたのは、先日生徒会で確認した林間学校のしおりだった。

 

 日直の生徒が前へ出て、一人ずつ配っていく。

 

 俺の机にも冊子が置かれた。

 

 表紙には山と木々のイラストが描かれ、下の方には小さなバスも加えられている。

 

 如月先輩が考えた表紙だ。

 

 華やかではあるが、しおりとして見づらくならない範囲に収まっていた。

 

「お、思ったよりちゃんとしてる」

 

 隣で大輔が表紙を眺める。

 

「林間学校のしおりなんだから、ちゃんとしてないと困るだろ」

 

「もっと先生が作ったプリントをホチキスで留めただけみたいなの想像してた」

 

「失礼だな」

 

「これ、叶多も作ったのか?」

 

「文章の確認を少し手伝っただけだよ」

 

「じゃあ、誤字があったら叶多の責任だな」

 

「最終確認は先生もしてるから、俺だけの責任じゃない」

 

「責任逃れが早い」

 

「お前が言いがかりをつけるからだろ」

 

 俺たちが小声で話している間に、全員へしおりが行き渡った。

 

 花城先生は教卓の前に立ち、出席簿の角で机を軽く叩く。

 

「しおりはあとで読んどけ。なくしたやつには、先生が一枚五百円で売る」

 

「高くないですか?」

 

「なくす方が悪い」

 

「先生、それ絶対怒られるやつですよ」

 

「冗談だよ。なくすなよ」

 

 花城先生は気だるそうに欠伸をすると、黒板へ大きく『林間学校』と書いた。

 

「今日のホームルームでは、活動班を発表する」

 

 その言葉に、教室の空気が変わった。

 

 男子たちが一斉に顔を上げ、女子たちも近くの友人と視線を交わす。

 

「班は全部で六つ。全員六人班だ。組み合わせは、先生たちで決めてある」

 

「自分たちで決められないんですか?」

 

「駄目。好きな者同士で組ませると、女子が一部の班に固まるからな。女子が二人ずつ入る班を四つ作って、残りの二班は男子だけにしてある」

 

 花城先生は黒板へ向き直り、六つの班を書き出していく。

 

 このクラスには女子が八人いる。

 

 女子が入る四つの班へ二人ずつ分かれ、残る二つが男子だけの班になるらしい。

 

 女子が一人だけで男子に囲まれる形にはしないよう、学校側も配慮したのだろう。

 

「男子だけの班もあるのかよ……」

 

 教室のどこかから、落胆した声が聞こえた。

 

「文句を言うなー。林間学校は女子と遊ぶための行事じゃないぞ」

 

 花城先生が気の抜けた調子で注意する。

 

「それから、二日目のオリエンテーリングは二人一組だ。各班で三組に分かれてもらう」

 

「ペアも先生が決めるんですか?」

 

「基本は班の中で相談して決めろ。ただし、女子の希望を優先すること。無理に男子と組ませるようなことはするなよ」

 

 女子側の負担を減らすための配慮なのだろう。

 

 班分けだけでなく、オリエンテーリングのペアも自分たちで決めるらしい。

 

「じゃあ、発表するぞー」

 

 一班から順番に名前が読み上げられていく。

 

 女子は二人ずつ、四つの班へ分かれていた。

 

 瑞葉は白石さんと同じ班。

 

 千夏は高瀬さん、七瀬さんは神崎さんと同じ班になったようだ。

 

 残る本田さんと姫岡さんが、どの班へ入るのかと思っていると、花城先生が次の名前を読み上げた。

 

「第五班。槻山叶多、梅原大輔、木下陽向(きのしたひなた)黒瀬悠斗(くろせゆうと)、本田ゆりの、姫岡みはる」

 

「おっ」

 

 隣で大輔が嬉しそうに声を漏らした。

 

 俺も黒板に書かれた名前を確認する。

 

 大輔と同じ班なのは助かる。

 

 木下は明るく人当たりがよく、誰とでも穏やかに話せる男子だ。

 

 黒瀬とは、これまでほとんど話したことがない。

 

 いつも教室の端で静かに過ごしていて、自分から誰かの輪へ入っていく姿もあまり見かけなかった。

 

 それに、女子がいる班なのは素直にうれしい。

 

 少し離れた席にいる姫岡さんと目が合う。

 

 姫岡さんはどこか嬉しそうに、小さく手を振ってきた。

 

 俺も軽く手を振り返す。

 

 本田さんも姫岡さんへ顔を向け、にこやかに笑っていた。

 

 人前で話すのが苦手な姫岡さんにとっても、本田さんが同じ班なのは心強いだろう。

 

「よかったな、叶多」

 

「何が?」

 

「俺と同じ班で」

 

「自分で言うのかよ」

 

「俺がいれば退屈しないだろ?」

 

「まあな。騒がしくはなりそうだけど」

 

「それは褒め言葉だな」

 

 大輔は満足そうに頷いた。

 

 全員の名前が発表されると、机を動かして班ごとに集まることになった。

 

 俺と大輔が机を寄せていると、木下が椅子を持って近づいてくる。

 

「よろしく、槻山君、梅原君」

 

「よろしく」

 

「おう。楽しい班にしようぜ」

 

 大輔が軽く手を上げると、木下は柔らかく笑った。

 

「梅原君がいるなら、にぎやかな班になりそうだね」

 

「それ、褒めてる?」

 

「もちろんだよ」

 

 木下はそう答えたが、少しだけ視線を逸らしていた。

 

 その後ろから、黒瀬も椅子を持ってやってくる。

 

 長めの前髪が目元にかかり、猫背気味に歩いていた。

 

「……よろしく」

 

 黒瀬はそれだけ言うと、空いている席へ静かに座った。

 

「よろしく、黒瀬」

 

「よろしくな」

 

「よろしく、黒瀬君」

 

 俺たちが順番に声をかけると、黒瀬は小さく頷いた。

 

 愛想がないというより、何を話せばいいのか分からないように見える。

 

 続いて、本田さんがしおりを手に近づいてきた。

 

「みんな、よろしくね」

 

「よろしく、本田さん」

 

「よろしくな」

 

「よろしくお願いします」

 

 木下も丁寧に頭を下げる。

 

 黒瀬も少し遅れて、

 

「……よろしく」

 

 と小さく答えた。

 

 本田さんは気にした様子もなく笑い、空いている席へ腰を下ろす。

 

 最後に、姫岡さんがしおりを胸元に抱えながら近づいてきた。

 

「姫岡さん、こっち」

 

 俺が本田さんの隣を指す。

 

 姫岡さんは小さく頷くと、その席へ座った。

 

「姫岡さん、よろしくね」

 

「……よろしく、お願いします」

 

 本田さんに声をかけられ、姫岡さんは少しだけ肩の力を抜いたようだった。

 

「よろしく、姫岡さん」

 

「……はい。よろしくお願いします」

 

 俺が声をかけると、以前よりも自然に返事が返ってくる。

 

 木下と大輔も続けて挨拶した。

 

 黒瀬は少し迷ったあと、姫岡さんへ顔を向ける。

 

「……よろしく」

 

「よ、よろしく、お願いします」

 

 短いやり取りだったが、二人とも口数が少ないせいか、どこか似た空気を感じた。

 

「まずは班長を決めろ。それから、オリエンテーリングのペアも話し合っておけー」

 

 花城先生が教室の前から声を上げる。

 

「班長は叶多でいいだろ」

 

 大輔が当然のように言った。

 

「なんで俺なんだよ」

 

「生徒会だし、真面目だし、こういうの得意そうだから」

 

「それだけで決めるなよ」

 

「僕も槻山君でいいと思う」

 

 木下も控えめに手を挙げる。

 

「ちゃんとまとめてくれそうだし」

 

「私も槻山君がいいと思う」

 

 本田さんも賛成する。

 

 姫岡さんは迷うことなく、小さく頷いた。

 

「……私も、槻山君がいいです」

 

 最後に黒瀬へ視線が集まる。

 

「……異論はない」

 

「随分と堅い言い方だな」

 

 大輔が笑うと、黒瀬は少しだけ居心地悪そうに目を逸らした。

 

「分かった。じゃあ、俺が班長をやるよ」

 

「決まりだな」

 

 大輔が満足そうに笑った。

 

「飯ごう炊さんも、叶多がいれば安心だな」

 

「まあ、料理なら任せてくれ」

 

「お、頼もしい」

 

「ただし、全部一人でやるわけじゃないぞ。火起こしや片づけは手伝ってもらうからな」

 

「俺、食べる係」

 

「そんな係はない」

 

 木下が小さく笑う。

 

「槻山君って、料理できるんだ」

 

「一応、特技だから」

 

「すごいね。僕はカップ麺くらいしか作れないんだ」

 

「お湯を入れるだけだろ」

 

「三分きっちり待てるよ」

 

「自慢するところじゃないよ」

 

 本田さんが楽しそうに笑い、姫岡さんもわずかに肩を揺らした。

 

 黒瀬もほんの少しだけ口元を緩めたように見えた。

 

「次はペアだな」

 

 大輔がしおりを開き、オリエンテーリングの説明へ目を通す。

 

「六人だから、三組に分かれればいいんだよな」

 

「そうだな。女子の希望が優先らしいけど」

 

 俺がそう言うと、大輔が期待を隠さず、本田さんと姫岡さんへ視線を向けた。

 

「それじゃあ、まず二人に決めてもらうか」

 

「そうだね」

 

 本田さんは班の男子を一人ずつ見たあと、木下へ顔を向ける。

 

「私は木下君と組んでもいいかな?」

 

「僕?」

 

 木下が驚いたように目を瞬く。

 

「うん。穏やかで話しやすそうだから」

 

「もちろん。僕でよければ、よろしくお願いします」

 

「よろしくね」

 

 一組目は、本田さんと木下に決まった。

 

 大輔が分かりやすく肩を落とす。

 

「梅原君、顔に出てるよ」

 

「何が?」

 

「残念そう」

 

「そんなことないって」

 

 木下に指摘され、大輔は慌てて表情を戻した。

 

 残る女子は姫岡さんだ。

 

 みんなの視線が集まり、姫岡さんはしおりを持つ手に少しだけ力を込めた。

 

 やがて、前髪の隙間から俺を見る。

 

「……槻山君と、組んでもいいですか?」

 

「もちろん。よろしく」

 

「……はい。よろしくお願いします」

 

 姫岡さんは安心したように、小さく頭を下げた。

 

 これで二組目も決まった。

 

 残ったのは大輔と黒瀬だ。

 

「じゃあ、俺たちだな」

 

 大輔が黒瀬の肩を軽く叩く。

 

 黒瀬は驚いて身体をわずかに揺らした。

 

「……そうなるな」

 

「せっかくだし、一位を狙おうぜ」

 

「俺は体力に自信がない」

 

「そこは気合いで何とかしよう」

 

「一番信用できない言葉だ」

 

 黒瀬がぼそりと返す。

 

 一瞬の間を置いて、班のみんなが笑った。

 

 黒瀬も冗談を言うらしい。

 

 大輔は少し意外そうな顔をしたあと、楽しそうに笑う。

 

「なんだ。結構しゃべれるじゃん」

 

「必要なら話す」

 

「じゃあ、当日はいっぱい話してもらうからな」

 

「善処する」

 

 三組のペアが決まり、俺は用紙へ名前を書き込んだ。

 

 俺と姫岡さん。

 

 本田さんと木下。

 

 大輔と黒瀬。

 

 それぞれ相性も悪くなさそうだ。

 

 この班なら、林間学校の三日間もうまくやっていけるだろう。

 

 ☆

 

 放課後。

 

 俺が生徒会室へ入ると、先輩たちだけでなく、鷹取と石倉もすでに席へ着いていた。

 

「失礼します」

 

「ああ。これで全員揃ったな」

 

 天ヶ瀬先輩が手元の書類を閉じる。

 

「一年生は、今日林間学校の班が発表されたそうだな」

 

「はい」

 

「そうか」

 

 天ヶ瀬先輩は全員へ視線を巡らせる。

 

「林間学校に関して、もう一つ伝えておくことがある」

 

 先輩の声音が、いつもの仕事をするときのものへ変わる。

 

「担当教員から、生徒会へ運営補助の依頼があった」

 

「運営補助ですか?」

 

 石倉が聞き返す。

 

「ああ。現地での点呼や備品管理、活動場所への誘導を手伝ってほしいそうだ」

 

 天ヶ瀬先輩は一度言葉を切った。

 

「そのため、私たち二年生の役員も林間学校へ同行することになった」

 

「先輩たちも来るんですか?」

 

「そういうことだ」

 

「一年生の補助役員三名は、あくまで参加者だ。通常の班活動を優先してもらう」

 

「分かりました」

 

「ただし、手が必要な場合には声をかけることがある。そのつもりでいてくれ」

 

「はい」

 

 天ヶ瀬先輩たちも林間学校へ来る。

 

 生徒会の仕事が完全に離れるわけではないのだろうが、それでも少しだけ、当日の楽しみが増えた気がした。

 

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