男女比100対1で男が多いとかマジ終わってる   作:ののじん

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35話 林間学校へ

 林間学校当日の朝。

 

 聖凰学園の上空には、梅雨らしい灰色の雲が一面に広がっていた。

 

 今にも雨が降りだしそうな空ではあるが、予報では今日一日、天気は崩れないらしい。

 

 午後には班ごとのハイキングが予定されているため、雨が降らないだけでもありがたかった。

 

 いつもより大きな鞄を手に昇降口へ入ると、前を歩いていた雛森さんがこちらに気づいた。

 

「叶多君、おはよう」

 

「おはよう、雛森さん」

 

 雛森さんも、両手で旅行鞄を持っている。

 

 普段の通学鞄とは違い、二泊三日分の荷物が入っているため、それなりに重そうだった。

 

「雨、降らなくてよかったね」

 

「ああ。今日は外を歩くからな」

 

「曇ってるくらいの方が、暑くなくていいかも」

 

「確かに、晴れてる中を何時間も歩くよりは楽そうだ」

 

 雛森さんは空を見上げ、少し安心したように笑った。

 

「荷物、重くないか?」

 

「ちょっと重いけど、大丈夫だよ。叶多君は?」

 

「必要なものしか入れてないから、そこまで重くないな」

 

「ちゃんと整理したんだね」

 

「持っていっても使わないものを入れても邪魔になるだろ」

 

 着替えや洗面道具、タオル、折り畳み傘など、しおりに書かれていた物は一通り確認してきた。

 

 自由時間に使える物も少しは入れているが、鞄が膨らむほどではない。

 

 雛森さんと一緒に教室へ入ると、すでに大半の生徒が集まっていた。

 

「おーい、叶多!」

 

 窓際の席から、大輔が大きく手を振る。

 

 朝からずいぶんと元気だ。

 

「おはよう。声が大きいぞ」

 

「林間学校なんだから、これくらい普通だろ」

 

「まだ学校から出てもいないけどな」

 

「出発前が一番わくわくするんだよ」

 

 大輔の机の横には、今にもファスナーが弾けそうなほど膨らんだ旅行鞄が置かれていた。

 

「それ、何を入れてきたんだ?」

 

「必要な物を一通り」

 

「必要な物だけで、そんなに膨らむのか?」

 

「着替え、タオル、洗面道具、お菓子、漫画、トランプ、携帯ゲーム機」

 

「後半はほとんど遊ぶ物じゃないか」

 

「夜の自由時間に必要だろ」

 

「全部持ってくる必要はないだろ」

 

「どれを置いていくか決められなかった」

 

 大輔らしい理由だった。

 

「そういう叶多は何を持ってきたんだ?」

 

「必要な物と、本を一冊くらいだよ」

 

「少なくないか?」

 

「二泊三日なら十分だろ」

 

「夜に暇になっても知らないぞ」

 

「そのときは大輔の漫画でも借りるよ」

 

「最初からそれを狙ってたのか?」

 

「今決めた」

 

 俺たちが話していると、少し離れた場所から笑い声が聞こえた。

 

 火野さんと神崎さんが、こちらを見ている。

 

 二人の近くに座っている七瀬さんは、机に頬杖をつき、今にも眠ってしまいそうだった。

 

「七瀬さん、もう眠そうだな」

 

 声をかけると、七瀬さんがゆっくりと顔を上げる。

 

「まだ寝ていい時間だから」

 

「もう学校に来る時間だけどね」

 

 火野さんが笑いながら突っ込む。

 

「今日は授業ないし」

 

「授業がなくても朝は朝でしょ」

 

「バスで寝るから大丈夫」

 

 七瀬さんは再び机に頬杖をついた。

 

 普段から低いテンションではあるが、朝は本当に弱いらしい。

 

 教室の後方では、姫岡さんが文庫本を読んでいた。

 

 周囲がいつもより騒がしくても、気にする様子はない。

 

 机の横に置かれた鞄の上には、携帯ゲーム機のケースも載っていた。

 

 大輔ほどではないが、自由時間を過ごすための準備もしてきたようだ。

 

「叶多君、おはよう」

 

 後ろから声をかけられ、振り返る。

 

「おはよう、直樹」

 

 直樹は普段と変わらない落ち着いた様子だった。

 

 林間学校だからといって、朝から大騒ぎするようなタイプではない。

 

「大輔君は、朝から元気だね」

 

「直樹ももっとテンション上げようぜ。林間学校だぞ」

 

「楽しみにはしてるよ。でも、大輔君ほどではないかな」

 

「叶多と同じようなこと言うなよ」

 

「俺は騒ぐなとしか言ってないぞ」

 

「二人とも目が同じなんだよ」

 

「どんな目だよ」

 

 大輔が不満そうに俺と直樹を見比べる。

 

「大輔君、バスではもう少し静かにした方がいいよ。寝る人もいるだろうから」

 

「分かってるって」

 

 大輔が答えた直後、教室の前方の扉が開いた。

 

「はいはい、席に着けー。今から点呼するぞー」

 

 名簿を片手に持った花城先生が、いつものジャージ姿で教室へ入ってくる。

 

 気だるそうな声に反して、教室へ入ってからの動きには無駄がなかった。

 

 生徒たちが席へ戻ると、すぐに出席確認が始まる。

 

 全員の返事を確認した花城先生は、名簿を閉じた。

 

「忘れ物しても、山にコンビニはないからなー。今のうちに確認しろよー」

 

 花城先生の言葉を受け、生徒たちがそれぞれ鞄の中身を確認し始める。

 

「財布、スマホ、着替え、洗面道具。必要な薬があるやつは薬も確認しろ。向こうに着いてから騒いでも知らないからなー」

 

 口調は緩いが、確認している内容に抜けはない。

 

「あと、今日は午後から班ごとにハイキングだ。勝手に先へ行ったり、班から離れたりするなよー」

 

 生徒たちが返事をする。

 

 持ち物を確認したあと、俺たちは班ごとに教室を出た。

 

 校門付近には、クラスごとに何台ものバスが並んでいる。

 

 教師に混じり、生徒会の上級生たちも荷物の積み込みや生徒の誘導を手伝っていた。

 

 天ヶ瀬先輩は資料を片手に持ち、教師と人数を確認している。

 

 その近くでは、如月先輩、榊先輩、真壁先輩、桜庭先輩も、それぞれ担当の仕事を進めていた。

 

 生徒会室で見かける制服姿ではなく、今日は全員が動きやすい服装をしている。

 

 天ヶ瀬先輩に声をかけようかとも思ったが、今は仕事中だ。

 

 それに、今回は班活動を優先するように言われている。

 

「叶多、早く乗ろうぜ」

 

「ああ」

 

 先に歩いていく大輔を追い、俺もバスへ向かった。

 

 ☆

 

 俺は窓側の席へ座り、その隣に大輔が腰を下ろした。

 

 前の席には雛森さんと火野さん。

 

 通路を挟んだ反対側には、七瀬さんと神崎さんが座っている。

 

 直樹は俺たちより少し後ろの席だった。

 

「出発するぞー。席から立つなよー」

 

 前方に立った花城先生が、車内を見渡す。

 

 最後の人数確認が終わると、バスがゆっくりと学校を出発した。

 

「ついに始まったな!」

 

 大輔が窓の外を見ながら声を上げる。

 

「声が大きいって」

 

「これくらい普通だろ」

 

「もう寝てる人もいるよ」

 

 前の席から火野さんが振り返る。

 

 大輔が通路の反対側へ視線を向けると、七瀬さんはすでに目を閉じていた。

 

「早くない?」

 

「ここあにとっては普通だよ」

 

「まだ出発して五分も経ってないぞ」

 

「学校に来たときから眠そうだったし」

 

 七瀬さんは会話が聞こえているはずだが、反応する様子はない。

 

 このまま到着まで眠り続けそうだった。

 

「叶多、今日の予定って、着いてから開所式だよな?」

 

「ああ。そのあと昼食を食べて、午後からハイキング」

 

「夜は天体観測だろ?」

 

「この天気で星が見えるかは分からないけどな」

 

 窓の外には厚い雲が広がっている。

 

 雨が降る様子はないものの、夜までに晴れるかどうかは微妙だった。

 

 後ろから直樹が声をかけてくる。

 

「星が見えない場合は、室内で星や天体についての説明を聞くみたいだよ」

 

「直樹、よく覚えてるな」

 

「しおりに書いてあったからね」

 

「大輔も読んだだろ」

 

「最初のページは読んだ」

 

「ほとんど読んでないじゃないか」

 

「大事なことは現地で聞けばいいだろ」

 

「大輔君、それだと説明を聞き逃したときに困るよ」

 

「二人とも真面目すぎないか?」

 

「大輔が読まなさすぎるだけだ」

 

 大輔は不満そうに口を尖らせた。

 

 学校周辺の街並みを抜けると、窓の外の景色が少しずつ変わり始める。

 

 高い建物が減り、代わりに田畑や木々が増えてきた。

 

 遠くには、雲に覆われた山の稜線が見える。

 

 前の席で、雛森さんがスマホを窓へ向けていた。

 

 流れていく景色を撮影しているようだ。

 

 俺もスマホを取り出す。

 

 灰色の空の下に連なる山々は、晴れた日とは違った雰囲気があった。

 

 窓へ自分の姿が映り込まないよう角度を変え、何枚か撮影する。

 

「叶多君も写真撮るんだね」

 

 雛森さんが座席の隙間から振り返った。

 

「上手くはないけど、気になった景色は残したくなるんだ」

 

「分かる。あとで見返したとき、そのときのことも思い出せるよね」

 

「ああ」

 

「いい写真が撮れたら、グループに送ってね」

 

「雛森さんもな」

 

「うん」

 

 雛森さんは嬉しそうに笑い、再び窓の外へスマホを向けた。

 

「俺も何か撮るか」

 

 隣に座る大輔もスマホを取り出し、窓の外へ向ける。

 

 しばらくして、撮った写真をこちらへ見せてきた。

 

「どうだ?」

 

「山より、手前のガードレールの方が目立ってるな」

 

「走ってるバスから撮ってるんだから仕方ないだろ」

 

「次の景色に期待だな」

 

「今に見てろ。叶多よりいいの撮るからな」

 

「別に勝負じゃないだろ」

 

 大輔はそう言いながら、再び窓の外へスマホを向けた。

 

 その後も何枚か写真を撮っていたが、十分ほどすると急に静かになった。

 

 隣を見ると、座席に深くもたれ、目を閉じている。

 

 先ほどまでの元気はどこへ行ったのだろう。

 

 寝つきの早さだけなら、七瀬さんにも負けていない。

 

 大輔の体が通路側へ傾いたため、肩を押して座席へ戻す。

 

 再び窓の外へ視線を向けると、山が先ほどよりも近くに見えた。

 

 ☆

 

 午前十時頃。

 

 バスは予定どおり宿泊施設へ到着した。

 

 施設は木々に囲まれた広い敷地の中にあり、正面には大きな宿泊棟と運動場がある。

 

 バスから降りると、街中より少し冷たい空気が頬に触れた。

 

「思ったより涼しいな」

 

 大輔が大きく両腕を伸ばす。

 

「ずっと寝てた人は元気そうだね」

 

 火野さんが笑う。

 

「寝たから元気なんだよ」

 

「途中の景色、ほとんど見てないでしょ」

 

「帰りにも見られるから問題ない」

 

「帰りも寝るんじゃない?」

 

「それは帰りにならないと分からない」

 

 大輔は悪びれた様子もない。

 

 荷物を受け取った生徒たちは、教師の指示に従ってクラスごとに整列した。

 

 施設の入口付近では、生徒会の上級生たちが受付や荷物の確認を手伝っている。

 

 天ヶ瀬先輩は名簿を見ながら、到着したクラスの人数を確認していた。

 

 先輩が顔を上げる。

 

 一瞬だけ目が合った。

 

 俺が小さく頭を下げると、天ヶ瀬先輩も軽く頷く。

 

 それだけで、すぐに手元の名簿へ視線を戻した。

 

「生徒会の先輩たち来てるんだね」

 

「運営を手伝うらしい」

 

「叶多君も何か仕事するの?」

 

「基本は一年生として班活動を優先することになってる。ただ、人手が足りないときは声をかけるかもしれないって言われてるよ」

 

「そうなんだ」

 

「ああ。今のところは、みんなと同じ参加者だな」

 

 雛森さんは納得したように頷いた。

 

 開所式は施設前の広場で行われた。

 

 施設長と学年主任からの挨拶に続き、職員から施設内の利用方法について説明を受ける。

 

 食堂や浴室の場所、消灯時間、立ち入り禁止の区域。

 

 大輔は途中で小さく欠伸をしたが、花城先生と目が合った瞬間、何事もなかったかのように背筋を伸ばした。

 

 開所式が終わると、俺たちは宿泊棟へ荷物を運んだ。

 

 部屋へ入れるのはハイキングのあとになるため、今は指定された場所へ鞄をまとめて置いておく。

 

 荷物を置き終えたあとは、施設の食堂へ移動した。

 

 ☆

 

 食堂には六人掛けのテーブルが並び、入口近くの配膳台から昼食を受け取る形になっていた。

 

 今日の献立は、川魚の塩焼き、山菜の煮物、きのこ汁、漬物と白いご飯。

 

 普段の学食ではあまり見かけない、山間の施設らしい内容だった。午後からハイキングがあるためか、量は多すぎず、食べやすくまとめられている。

 

 俺たちは昼食を受け取ると、班ごとに指定された席へ座った。

 

 同じテーブルを囲むのは、俺、大輔、木下君、黒瀬君、本田さん、姫岡さんの六人だ。

 

「お、川魚じゃん。こういうのが林間学校っぽいんだよ」

 

 大輔が満足そうに箸を取った。

 

「さっきまで寝てたのに、食事になったら元気だな」

 

「寝たから元気なんだよ。それに、こういう場所まで来て、いつもと同じ飯だったら少し残念だろ」

 

「こういう場所に来ると、その土地のものを食べたくなるよな」

 

 俺も川魚へ箸を伸ばす。

 

 皮は香ばしく焼けており、身は淡泊だが、ほどよく旨味があった。

 

 向かい側では、姫岡さんが魚を前にしたまま、慎重に箸を動かしていた。

 

 身はほとんど崩れていない。

 

 綺麗に食べているというより、細かな骨を一本ずつ避けているらしい。

 

「姫岡さん、骨を取るの大変そうだな」

 

 声をかけると、姫岡さんが箸を止めた。

 

「す、少し」

 

「背中側から開くと取りやすいよ」

 

「こう?」

 

「ああ。箸を骨に沿わせるように動かせば、身が崩れにくい」

 

 姫岡さんは俺の説明を聞きながら、慎重に箸を動かした。

 

 骨から身が綺麗に外れる。

 

「……取れた」

 

「そのまま反対側も開けば大丈夫だよ」

 

「あ、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 姫岡さんは小さく頷き、先ほどよりも少し軽い手つきで魚を食べ始めた。

 

「骨、多いな」

 

 隣から大輔の声が聞こえた。

 

 見ると、大輔の皿では魚の身と細かな骨が混ざっている。

 

「今の説明、聞いてただろ」

 

「ああ。背中側から開くんだよな」

 

 大輔は姫岡さんにした説明を思い出すように、魚へ箸を入れた。

 

 骨に沿わせるように身を開くと、さっきまでよりも綺麗に外れる。

 

「お、本当だ。さすが叶多だな」

 

「ちょっとしたコツだけど、覚えておくと便利だぞ」

 

「次からはこれで食べる」

 

「覚えてればな」

 

「それくらい覚えてるって」

 

 本田さんが、俺たちのやり取りを見て小さく笑った。

 

「槻山君って、魚の食べ方にも詳しいのね」

 

「詳しいってほどじゃないよ。前にどこかで知って、覚えてただけだ」

 

「料理するときも、こうやって骨を外すの?」

 

「いや、普段は調理する前に骨抜きで取ることが多いよ。これは食べるときのちょっとしたコツだね」

 

「そうなのね。知ってると便利そう」

 

「ああ。丸ごとの焼き魚を食べるときには役に立つよ」

 

 本田さんは丁寧に骨を避け、魚の身を口へ運んだ。

 

「おいしいわ」

 

「本田さんは、魚料理が好きなの?」

 

 木下君が尋ねる。

 

「ええ。魚も肉も好きよ。好き嫌いはほとんどないわね」

 

「それはいいね。食べられないものが少ない方が、こういうときも楽しめそうだし」

 

「そうね。せっかく用意してもらったのに、食べられないものばかりだともったいないでしょう?」

 

「大輔は魚より肉の方が好きそうだな」

 

 俺が言うと、大輔は魚から顔を上げた。

 

「味は好きだぞ。ただ、骨を取るのが面倒なんだよ」

 

「さっきよりは綺麗に食べられてるじゃない」

 

 本田さんが大輔の皿を見て笑う。

 

「槻山君の説明を聞いてたものね」

 

「聞いたばかりだからな。さすがに今は忘れないって」

 

 大輔は得意げに答えると、今度は反対側に座る黒瀬君へ話を振った。

 

「黒瀬、川魚うまいよな」

 

「ああ」

 

「山菜は?」

 

「普通にうまい」

 

「きのこ汁は?」

 

「それも同じ」

 

 大輔が箸を止め、黒瀬君を見る。

 

「もう少し会話を広げてくれよ」

 

「食事の感想だけで、そこまで広げられない」

 

「何かあるだろ。香りがいいとか、出汁が利いてるとか」

 

「それは叶多に聞いた方がいい」

 

「俺に投げるなよ」

 

「適任だろ」

 

 黒瀬君が淡々と答える。

 

 本田さんが二人のやり取りを見て笑った。

 

「梅原君と黒瀬君、意外と仲がいいのね」

 

「どこがですか。さっきから俺ばっかり喋ってるんですよ」

 

「大輔が二人分喋るから、俺が話す必要がない」

 

「そういう一言はすぐ出てくるんだな」

 

 大輔は呆れながらも、楽しそうに笑った。

 

 木下君も小さく吹き出す。

 

「でも、ちゃんと会話にはなってるよね」

 

「俺が頑張って続けてるんだよ」

 

「助かってる」

 

「絶対そう思ってないだろ」

 

 大輔は文句を言いながらも、本気で嫌がってはいない。

 

 黒瀬君も表情こそほとんど変わらないが、大輔の話を無視しているわけではなかった。

 

 会話の調子は噛み合っていないようで、案外この二人はうまくやっていけるのかもしれない。

 

 姫岡さんも、二人のやり取りが聞こえるたび、口元をわずかに緩めていた。

 

 先ほどより肩の力も抜けているようだった。

 

 食事を終えた生徒から、食器を返却口へ運んでいく。

 

 俺たちも全員が食べ終わるのを待ち、六人で席を立った。

 

 食器を返したあとは、午後のハイキングに必要なものを取りに戻る。

 

 大きな旅行鞄は置いたままにして、水筒やタオル、雨具などを小さな鞄へ移した。

 

「雨、降るかな」

 

 木下君が窓の外を見ながら言う。

 

「今日は大丈夫らしいけど、山の天気は変わりやすいからな」

 

「折り畳み傘は持っていった方がいい?」

 

「コースを歩くなら、傘より雨具の方がいいと思う」

 

「じゃあ、入れておくよ」

 

 木下君は頷き、薄手の雨具を鞄へ入れた。

 

 本田さんも、自分の水筒やタオルを小さな鞄へ移している。

 

「本田さん、飲み物は足りそう?」

 

「大丈夫よ。水筒にちゃんと入れてきたから」

 

「重かったら持つよ」

 

「ありがとう。でも、自分で持てるわ」

 

 本田さんはやわらかく断ったあと、木下君の鞄へ目を向ける。

 

「木下君の方が、荷物が多くない?」

 

「念のために、いろいろ入れてきたから」

 

「私のことを手伝う前に、自分が疲れないようにしないと駄目よ」

 

「あ、うん」

 

「困ったときは、お互いに助ければいいでしょう?」

 

「そうだね」

 

 本田さんはそう言って微笑んだ。

 

 木下君が周囲へ気を配りすぎていることにも、きちんと気づいているらしい。

 

「叶多、地図はお前が持ってくれよ」

 

 大輔が水筒を鞄へ入れながら言う。

 

「まだ地図を受け取ってないだろ」

 

「受け取ったらって話だよ」

 

「最初から人任せにするなよ」

 

「俺は先頭を歩く役をやる」

 

「道が分からない人を先頭にはできないだろ」

 

「じゃあ、盛り上げ役」

 

「それは頼まなくてもやるだろ」

 

「俺の長所だからな」

 

「自分で言うんだ」

 

 黒瀬君が淡々と呟く。

 

「黒瀬も少しは盛り上げる努力をしろよ」

 

「大輔だけで足りる」

 

「またそれかよ」

 

 準備を終えた俺たちは、教師の指示に従って施設前の広場へ移動した。

 

 ☆

 

 広場には、一年生が班ごとに集められていた。

 

 空は相変わらず雲に覆われている。

 

 雨の気配はないが、森の方から吹いてくる風は少し冷たかった。

 

 担当教師から、それぞれの班へ一枚ずつ地図が配られる。

 

「これから、指定されたコースを班単位で歩いてもらいます。競争ではありません。必ず班員全員で行動してください」

 

 担当教師が地図を広げ、歩くコースを指でなぞる。

 

「途中に休憩場所と確認地点があります。道から外れないこと。体調が悪くなった場合は、すぐに班員か近くの教師へ伝えてください」

 

 担当教師が一通りの説明を終えると、今度は花城先生が俺たち六人を見回した。

 

「今の説明どおり、必ず六人揃って行動しろよー。途中で体調が悪くなったやつがいたら、無理に進ませず、近くの先生か上級生に知らせること」

 

「分かりました」

 

「それと、道が分からなくなっても適当に進むな。地図を確認して、戻る時間だけは忘れるなよー」

 

 俺たちが頷くと、花城先生は次の班の確認へ向かった。

 

 曇り空の下、木々に囲まれた道が森の奥へ続いている。

 

 こうして、林間学校最初の活動である班別ハイキングが始まった。

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