男女比100対1で男が多いとかマジ終わってる   作:ののじん

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50話 にーに、おめでとう

 7月12日、日曜日。

 

 今日はバイトも休みだ。

 

 朝食を済ませ、使った食器を洗っていると、テーブルの上に置いていたスマホが鳴った。

 

 画面には、母さんの名前が表示されている。

 

「もしもし」

 

『叶多、誕生日おめでとう』

 

「ありがとう、母さん」

 

『もう16歳なのね。和樹君と司君も、おめでとうって言ってたわよ』

 

「父さんたちにも、ありがとうって伝えておいて」

 

『自分でもあとで連絡してあげなさい』

 

「分かってるよ」

 

 母さんの声は普段と変わらなかったが、どこか嬉しそうだった。

 

『ちゃんと朝ご飯は食べた?』

 

「今、食べ終わったところ」

 

『ならよかった。今日は何か予定があるの?』

 

「今のところは特にないよ」

 

『そう。せっかくの誕生日だけど、無理に予定を入れずに過ごすのもいいかもしれないわね』

 

「そうするつもり」

 

 友達と出かける約束もなく、夕食も自分で用意するつもりだった。

 

 誕生日だからといって、必ずしも特別な一日になるわけではない。

 

『ところで、夏休みはいつ帰ってくるの?』

 

「まだ決めてない。帰る前に、バイクの免許を取りたいと思ってるんだ。普通二輪の」

 

『バイクの免許? 普通二輪って、400ccまで乗れる免許よね?』

 

「うん。夏休みに合宿へ行こうと思ってる」

 

『そうだったのね。もう行くところは決めているの?』

 

「候補は決めてる。日程と費用も調べたから、あとで送るよ。申し込みには保護者の同意が必要だから、そのことも相談したくて」

 

『分かったわ。内容を確認してから、和樹君と司君にも話しておく』

 

「ありがとう」

 

『免許を取ったら、バイクも買うつもりなの?』

 

「ああ。乗りたいバイクは、もう決めてる」

 

『そこまで調べていたのね。購入費なら、私たちで出してもいいのよ』

 

「いや、それはいい」

 

『16歳の誕生日祝いも、まだ渡していないでしょう? 和樹君と司君も、叶多が欲しいものなら出してくれると思うけど』

 

「気持ちは嬉しいけど、自分が欲しくて乗るものだから、自分で払いたい」

 

『安い買い物じゃないのよ』

 

「分かってる。バイク本体だけじゃなくて、自賠責と任意保険、ヘルメットやグローブにかかる費用も調べてる」

 

『それを全部、自分で払えるの?』

 

「一括は難しいから、契約については父さんたちに相談したい。でも、支払いは俺がするつもりだよ」

 

『ずいぶん前から考えていたのね』

 

「中途半端な気持ちで相談してるわけじゃないから」

 

 電話の向こうで、母さんが少し考えるように黙った。

 

『分かったわ。そこまで考えているなら、頭ごなしに反対するつもりはないわよ』

 

「ありがとう」

 

『ただし、買いたいバイクと合宿先、それに必要な費用をまとめて送って。和樹君と司君にも確認してもらうから』

 

「ああ。今日中に送るよ」

 

『ローンのことも、2人にきちんと相談しなさい。契約する側にも責任があるんだから』

 

「分かってる」

 

『それと、ヘルメットやグローブも安さだけで選ばないこと。安全に関わるものなんだからね』

 

「そこは妥協しないよ」

 

『ならいいわ』

 

 母さんの声が少し柔らかくなる。

 

『でも、購入費を私たちが出すという話は、まだ取り下げていないからね』

 

「俺は自分で払いたい」

 

『叶多がそう考えていることは分かったわ。でも、私たちにも何かさせてちょうだい』

 

「……それは、父さんたちとも話してから決めるよ」

 

『ええ。それでいいわ』

 

 そのとき、電話の向こうから幼い声が聞こえてきた。

 

『ママ! りっくん、いちご食べる! 早く!』

 

「律か?」

 

『ええ。苺を早く食べたいんですって』

 

『ママ、早く! いちご食べるの!』

 

『はいはい。電話が終わったら食べようね』

 

 律は俺と話していることには気づいていないらしく、電話の向こうで何度も母さんを急かしていた。

 

「元気そうだな」

 

『元気すぎるくらいよ。最近は、起きている間ずっと何か話してるの』

 

『ママ! いちご、まだ?』

 

『もう少し待ってね。りっくん、今はにーにと電話してるのよ』

 

『にーに?』

 

『そうよ。今日は、にーにのお誕生日なの。おめでとうって言ってあげて』

 

 少し間が空いた。

 

『にーに、おめでとう』

 

「ありがとう、りっくん」

 

 俺の声が聞こえると、りっくんは不思議そうに黙り込んだ。

 

『ママ、にーにどこ?』

 

『電話の向こうにいるのよ』

 

『向こう?』

 

『そう。にーにの声が聞こえるでしょう?』

 

『にーに?』

 

「りっくん、久しぶり」

 

『にーに、いちご食べる?』

 

「帰ったら、一緒に食べよう」

 

『一緒、食べる?』

 

「ああ。一緒に食べよう」

 

『にーに、りっくん、一緒!』

 

 電話の向こうで、りっくんが嬉しそうな声を上げた。

 

『よかったわね、りっくん』

 

『にーに、早く帰ってきて!』

 

「夏休みになったら帰るよ」

 

『にーに、帰ってくる?』

 

「ああ。帰る日が決まったら、また電話するから」

 

『いちご、一緒、食べる!』

 

「約束な」

 

『うん!』

 

『それじゃあ、合宿のことは、また詳しく送ってね』

 

「ああ。今日中に送るよ」

 

『分かったわ。待ってるから』

 

 通話を終え、スマホをテーブルの上へ戻す。

 

 静かになった部屋の中でも、りっくんの嬉しそうな声が耳に残っていた。

 

 夏休みに帰ったら、まずは約束どおり、一緒に苺を食べよう。

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