男女比100対1で男が多いとかマジ終わってる   作:ののじん

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54話 終業式

 7月17日。

 

 1学期最後の教室は、朝からいつもより騒がしかった。

 

 授業はなく、終業式と最後のホームルームを終えれば夏休みに入る。

 

 教室へ入ってくる生徒たちも、普段よりどこか浮ついて見えた。

 

「ついに夏休みだな!」

 

 鞄を机の横へ掛けた大輔が、こちらを振り返りながら声を上げる。

 

「まだ終業式も始まってないぞ」

 

「今日なんて、もう休みみたいなもんだろ。授業もないし」

 

「学校を出るまでは1学期じゃないかな」

 

 右隣の席へ座った直樹が、穏やかな口調で言った。

 

「直樹までそんなこと言うのかよ」

 

「でも、気持ちは分かるよ。僕も夏休みは楽しみだからね」

 

「だろ?」

 

「うん。ただ、まだ終業式が残っているってだけで」

 

「真面目だなあ」

 

 直樹は困ったように笑いながら、机の横へ鞄を掛けた。

 

「直樹は夏休みも部活だろ?」

 

「うん。練習もあるし、大会も控えているからね」

 

「1年からスタメンって、改めて考えてもすごいよな」

 

「先輩たちについていくので精いっぱいだよ」

 

「それでも試合に出るんだろ?」

 

「その予定ではあるよ」

 

 本人は控えめに言っているが、1年生でスタメンに選ばれている時点で、部内でもかなり評価されているはずだ。

 

「俺なんて帰宅部だから、予定のない日は完全に自由だぞ」

 

「夏休みの課題があるだろ」

 

「それは予定に入れなくていい」

 

「入れないと八月の終わりに困ると思うよ」

 

「未来の俺がなんとかする」

 

「その未来の大輔君も、同じことを言っていそうだね」

 

 直樹の返しに、思わず笑ってしまう。

 

「何の話してるの?」

 

 声のした方を見ると、千夏たちがこちらへ近づいてきていた。

 

 瑞葉と七瀬さん、神崎さんも一緒だ。

 

「大輔が夏休みの課題を未来の自分に任せるって話だよ」

 

「絶対、最後に泣くやつじゃん」

 

 千夏が呆れたように言う。

 

「俺は追い込まれてから力を出すタイプなんだよ」

 

「提出日の前日に言い訳するタイプの間違いじゃない?」

 

「だいたいは出してるから問題ない」

 

「たまに遅れてるけどね」

 

 瑞葉にまで言われ、大輔が不満そうに口を尖らせる。

 

「みんなして俺に厳しくないか?」

 

「心配してるんだよ」

 

「火野さんに言われても信じられねえ」

 

「じゃあ、心配してない」

 

「それはそれで傷つくんだけど」

 

 千夏は大輔の抗議を軽く流すと、俺の机へ手を置いた。

 

「叶多も、前に決めた予定は変わってないよね?」

 

「ああ。海も夏祭りも大丈夫だよ」

 

「合宿で忘れたりしない?」

 

「忘れるわけないだろ」

 

「ならよし」

 

 それだけ確認すると、千夏は満足そうに頷いた。

 

 寿司を食べに行った時に、全員の予定を確認して決めてある。

 

 今さら日程を調整し直す必要はない。

 

「直樹の大会も、都合が合えば応援に行きたいよね」

 

 瑞葉が言う。

 

「詳しいことが決まったら、グループに送るよ」

 

「私も行けそうなら行く」

 

「私もぉ」

 

 七瀬さんが眠そうな声で続く。

 

「ちゃんと起きられるの?」

 

「昼なら、たぶん」

 

「試合が始まる時間によると思うよ」

 

 直樹が苦笑する。

 

「千夏、当日起こして」

 

「そこまで面倒見ないって」

 

「じゃあ、前の日に連絡して」

 

「それくらいならしてあげる」

 

 結局面倒を見るらしい。

 

 七瀬さんは安心したように、千夏の肩へ軽く寄りかかった。

 

 やがて予鈴が鳴り、教室に散らばっていた生徒たちが、それぞれの席へ戻っていく。

 

 その少しあと、花城先生がいつものジャージ姿で教室へ入ってきた。

 

「はーい。全員いる?」

 

 出席簿を片手に教壇へ立ち、教室を見渡す。

 

「もう夏休みみたいな空気になってるけど、まだ終業式が残ってるからね」

 

「今日は授業ないですよね?」

 

 明日香が尋ねた。

 

「ないよ。終業式と通知表と掃除だけ」

 

「じゃあ、ほとんど夏休みじゃないですか」

 

「学校から出るまでは1学期です」

 

 先生の言葉が、先ほどの直樹と重なる。

 

「水瀬と同じこと言ってる」

 

 大輔が小声で言うと、直樹がこちらを見て笑った。

 

「それじゃ、廊下に並んで。最後の日くらい静かに移動してね」

 

 椅子を引く音が教室内に広がる。

 

「梅原君、走らない」

 

「まだ立っただけですよ!?」

 

「先に言っておかないと走りそうだから」

 

「俺の信用どうなってるんですか」

 

「1学期の行動から判断してるよ」

 

 教室のあちこちから笑い声が上がる。

 

 大輔は納得していない様子だったが、今度は本当に走ることなく廊下へ出た。

 

 ☆

 

 終業式は、特に変わったこともなく進んだ。

 

 校長先生から1学期を振り返る話があり、生徒指導の先生から夏休み中の注意事項を聞く。

 

 事故や病気に気をつけること。

 

 夜遅くまで出歩かないこと。

 

 危険な場所へ立ち入らないこと。

 

 毎年、大きくは変わらない内容なのだろう。

 

 話が長くなるにつれ、体育館の中には少しずつ気の抜けた空気が広がっていった。

 

 少し前に並んでいる大輔は、何度か体重を左右の足へ移している。

 

 女子の列にいる七瀬さんに至っては、立ったまま眠りそうな顔をしていた。

 

 隣にいた千夏が肩を軽く突くと、七瀬さんは薄く目を開ける。

 

 そのまま注意を受ける生徒もおらず、終業式は無事に終わった。

 

 教室へ戻ると、黒板の前には通知表と夏休みの課題が並べられていた。

 

「席について。先に課題を配るよ」

 

 花城先生の言葉に、教室の空気が少しだけ重くなる。

 

 前から順に回されてきた冊子を受け取り、中身を確認した。

 

 国語、数学、英語の問題集に、理科と社会のプリント。

 

 ほかにも、いくつかの教科からレポートや提出物が出ている。

 

 極端に多いわけではない。

 

 ただ、後回しにすれば八月の終わりに苦労する程度の量はあった。

 

「多い……」

 

 後ろから、七瀬さんの気だるげな声が聞こえた。

 

「まだ中身をほとんど見てないでしょ」

 

 千夏が言う。

 

「厚さで分かるぅ」

 

「夏休みは長いんだから、少しずつやれば終わるって」

 

「その少しずつが難しい」

 

「生徒会室で宿題する日もあるんだろ?」

 

 大輔が俺へ尋ねる。

 

「ああ。俺は合宿中にあまり進められないだろうから、ちょうどいいよ」

 

「叶多はその前にもやるんでしょ?」

 

 瑞葉が言った。

 

「できる範囲では進めておくつもりだよ」

 

「やっぱり」

 

「全部残しておくより楽だからな」

 

 七瀬さんが、机の上に置いた課題と俺を交互に見る。

 

「叶多君、五日までにどれくらいやる?」

 

「まだ中身を見ただけだから、そこまでは決めてないよ」

 

「じゃあ、私も同じくらいやる」

 

「俺の進み具合が分からないだろ」

 

「あとで聞く」

 

「自分で決めようよ」

 

 千夏に言われ、七瀬さんは課題を鞄の中へしまった。

 

「じゃあ、次は通知表ね。名前を呼ばれた人から取りに来て」

 

 前の席から順に名前が呼ばれていく。

 

 通知表を受け取った生徒たちは、自分の席へ戻るなり中身を確認していた。

 

「槻山君」

 

「はい」

 

 教卓の前へ立つと、花城先生が通知表を差し出した。

 

「槻山君は問題なし。この調子でね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 短いやり取りを終え、自分の席へ戻る。

 

 通知表を開くと、音楽と体育が4で、それ以外はすべて5だった。

 

 試験や提出物、授業態度には問題がない。

 

 音楽は筆記や鑑賞こそ悪くなかったものの、歌唱の評価まではどうにもならなかったらしい。

 

 体育も真面目に取り組んではいるが、運動神経は悪い方だ。どちらも予想していた範囲だった。

 

「叶多、どうだった?」

 

 前の席から大輔が小声で尋ねてくる。

 

「音楽と体育が4で、あとは5だった」

 

「それでも、ほとんど5じゃねえか」

 

「音楽が4なのは、やっぱり歌?」

 

 千夏がこちらを振り返った。

 

「ほかに思い当たるところがないから、たぶんな」

 

「筆記はできるのにね」

 

「知識があっても、音程は取れないからな」

 

「体育は?」

 

「運動神経がよくないからな。実技では、5を取れるほどじゃなかったんだろ」

 

「自分のこと、冷静に見てるよね」

 

「昔から分かってることだからな」

 

 そのあと、直樹も通知表を受け取って戻ってくる。

 

「直樹は?」

 

 大輔がすぐに尋ねた。

 

「全部5だったよ」

 

「やっぱりオール5かよ」

 

「試験や提出物に問題がなかったからね」

 

「勉強だけじゃなくて体育まで5なの、ずるくないか?」

 

「ずるくはないと思うよ」

 

 直樹は困ったように笑いながら、通知表を鞄へしまった。

 

 学年1位で、バスケ部でもスタメン。

 

 授業態度にも問題がないのだから、すべて5でも不思議ではない。

 

「梅原君」

 

「はい」

 

 今度は大輔が呼ばれ、教卓へ向かう。

 

 花城先生は通知表を手渡す前に、一度中身へ目を落とした。

 

「梅原君も成績は問題なし」

 

「よかった」

 

「試験もきちんとできてるし、5が取れている教科もあるよ。ただ、提出物はもう少し余裕を持って出そうね」

 

「一応、ほとんどは間に合ってますよね?」

 

「ほとんどはね。でも、たまに遅れてるでしょ」

 

「……ありました」

 

「そこだけ気をつければ大丈夫」

 

「分かりました」

 

 大輔は通知表を受け取り、普段と変わらない様子で戻ってきた。

 

「どうだった?」

 

「5が3つで、ほかは4。3はなし」

 

「十分じゃないか」

 

「だろ?」

 

 大輔は満足そうに通知表を机へ置いた。

 

「提出物を早く出せば、5が増えるかもしれないってさ」

 

「なら、2学期は早めに出すといいんじゃないかな」

 

 直樹が言う。

 

「分かってるんだけど、期限まで日があると後回しにしたくなるんだよ」

 

「それで毎回ぎりぎりになるんだろ」

 

「でも間に合ってる」

 

「今、先生からその考えを直せって言われてただろ」

 

「夏休みの課題から変わる予定だ」

 

「いつから始めるの?」

 

 直樹に尋ねられ、大輔は少し考えた。

 

「明後日」

 

「明日は?」

 

「夏休み初日だから休む」

 

「さっそく後回しにしてないか?」

 

「初日くらいはいいだろ」

 

「大輔君らしいね」

 

 直樹は注意するよりも先に、諦めたように笑った。

 

 ☆

 

 通知表の配布が終わると、1学期最後の掃除に移った。

 

 机を運び、床や窓際を普段より少し丁寧に片づけていく。

 

 大輔が話してばかりで花城先生に注意される場面もあったが、大きく時間がかかることはなく、教室はすぐに元の状態へ戻った。

 

 全員が席へ着くと、花城先生が教壇へ立った。

 

「夏休みだからって、生活を崩しすぎないこと。課題は早めに終わらせること。事故や病気にも気をつけてね」

 

 そこで一度言葉を切り、教室全体を見渡す。

 

「2学期に、全員元気に戻ってくればそれでいいから」

 

 普段は面倒そうに話す先生だが、最後はきちんと担任らしい言葉で締めた。

 

「じゃあ、今日はこれで終わり。日直、号令お願い」

 

 号令に合わせて礼をする。

 

 その瞬間、教室のあちこちから一斉に声が上がった。

 

 1学期が終わり、夏休みが始まったのだ。

 

 すぐに教室を出る生徒もいれば、友人同士で予定を話し始める生徒もいる。

 

 俺も配られた課題を鞄へ入れた。

 

「叶多、免許が取れたら連絡してね」

 

「ああ。無事に取れたらな」

 

「バイクもすぐに買うの?」

 

「そのつもりだよ」

 

「海に行く日までには届きそう?」

 

「どうだろう。契約してから納車まで時間がかかるだろうし、たぶん間に合わないと思う」

 

「そっか。じゃあ、届いたら見せてね」

 

「ああ」

 

「楽しみにしてる」

 

 それだけ言うと、千夏は七瀬さんたちのところへ戻っていった。

 

 俺も鞄を肩へ掛け、教室を出ようとする。

 

「……か、叶多君」

 

 後ろから、小さな声で名前を呼ばれた。

 

 振り返ると、姫岡さんが自分の鞄を胸の前で抱えるようにして立っていた。

 

「姫岡さん。どうかした?」

 

「その……少し、いい?」

 

「ああ」

 

 姫岡さんは、まだ教室に残っている生徒たちを気にするように視線を動かした。

 

 何か話したいことがあるらしい。

 

「外で待ってるよ」

 

 俺の様子を見た直樹が言う。

 

「悪い」

 

「大丈夫。ゆっくりでいいよ」

 

 直樹は大輔と一緒に教室を出ていった。

 

 姫岡さんは2人の姿が見えなくなるのを待ってから、鞄の中へ手を入れた。

 

 取り出したスマホの画面には、大きなイベント会場の写真が表示されている。

 

「な、夏休みのことで……」

 

「うん」

 

「8月7日に、ゲームショウがあるの」

 

「ゲームショウ?」

 

「いろんな会社が参加して、新しいゲームを試したり、発表を見たりできるイベントで……」

 

 好きなものの説明になったからか、姫岡さんの声が少しだけ滑らかになる。

 

「まだ発売されてないゲームも遊べるし、今年は『ヴァンガード・フレーム』っていう新作も出るみたいで……」

 

「それ、どんなゲーム?」

 

「人型兵器を動かして、みんなで任務を攻略するロボットアクションなの。機体や武器を組み替えられるだけじゃなくて、選んだ種族によって戦い方そのものが変わるらしくて……」

 

「種族?」

 

「う、うん。空中戦が得意だったり、近接戦に特化してたり、重装甲の機体で砲撃したり……。種族ごとに新しく操縦者を育てられるから、機体や武器を組み合わせながら、自分だけの戦い方を作れるの」

 

 姫岡さんの声が、わずかに弾んだ。

 

「姫岡さんが好きそうなゲームだな」

 

「うん。すごく楽しみ」

 

 姫岡さんはそう答えると、少しためらうように指先を合わせた。

 

「それと、お父さんが|KLAEIN INTERACTIVE ENTERTAINMENT《クライン・インタラクティブ・エンターテインメント》で働いてて……ゲームショウの優待チケットをもらったの」

 

 クラインといえば、家電や映像機器を中心に、情報通信や半導体、エンターテインメントまで幅広く手がける世界的な企業グループだ。

 

 その傘下にあるクライン・インタラクティブ・エンターテインメントは、家庭用ゲーム機『ORNEXA PLAY(オルネクサ・プレイ)』を展開しており、現在は第6世代機となる『ORNEXA PLAY 6』まで発売されている。

 

「優待チケット?」

 

「一般の人も試遊できるんだけど、少し早く入れたり、一部の試遊で優先受付が使えたりするみたいで……」

 

 そこまで話すと、姫岡さんは一度口を閉じた。

 

「それで、その……か、叶多君がよかったら、一緒に行かない?」

 

「俺も一緒に行っていいのか?」

 

「うん」

 

 姫岡さんが小さく頷く。

 

「叶多君はゲームに詳しくないって言ってたけど、いろんな種類を少しずつ試せるから……初めてでも、楽しめると思う」

 

「確かに、それなら俺でも遊べそうだな」

 

「でも、興味がなかったら、無理にとは……」

 

「興味はあるよ」

 

「……本当?」

 

「ああ。姫岡さんが楽しそうに話してたから、一度ちゃんと見てみたいと思ってた」

 

 姫岡さんの肩から、わずかに力が抜けた。

 

「それに、俺一人で行っても何を見ればいいか分からないからな。姫岡さんが一緒なら助かるよ」

 

「だ、大丈夫。会場の地図も、出展される作品も調べておくから」

 

「頼りにしてる」

 

「うん」

 

 姫岡さんが大きく頷く。

 

「じゃあ、一緒に行こうか」

 

「……いいの?」

 

「ああ。8月7日だよね? その日は空いてるよ」

 

「本当!?」

 

「ああ」

 

 念を押すように聞かれ、もう一度頷いた。

 

 姫岡さんはしばらく動かなかった。

 

 返事を理解するまで、少し時間がかかったようにも見える。

 

「……よかった」

 

 小さく漏れた声は、普段よりもずっと柔らかかった。

 

「時間や集合場所は、あとで決めよう」

 

「うん。メッセージ、送る」

 

「分かった。楽しみにしてるよ」

 

「……私も、楽しみ」

 

 スマホを大事そうに鞄へ戻す。

 

 前髪で表情は隠れているが、口元にはわずかに笑みが浮かんでいた。

 

「それじゃ、また連絡するね」

 

 姫岡さんは小さく頭を下げる。

 

「ああ。またな」

 

「……また」

 

 姫岡さんは千夏たちとは別の方角へ歩いていった。

 

 教室に残っている生徒も、すでに少なくなっている。

 

 俺は鞄を持ち直し、廊下へ出た。

 

「話は終わったか?」

 

 少し先の窓際で待っていた大輔が声をかけてくる。

 

「待たせたな」

 

「姫岡さんと何話してたんだ?」

 

「夏休みにゲームショウへ行かないかって、姫岡さんに誘われた」

 

「2人で?」

 

「ああ」

 

「林間学校の時も、姫岡さんとゲームの話で盛り上がってたもんな」

 

 大輔が納得したように頷く。

 

 しかし、すぐに何かへ気づいたように俺の顔を見た。

 

「それにしても、女子と2人で出かけるのかよ」

 

「そうなるな」

 

「……叶多、すげえな」

 

「何がだよ」

 

「普通に女子から誘われて、そのまま2人で出かけるんだぞ。しかも、全然動揺してないし」

 

「ゲームショウへ行くだけだろ」

 

「いやいやいや、女子と2人っきりで行くのがすげーって言ってんの」

 

 大輔は、どこか畏れるような目を俺へ向けた。

 

「叶多君はゲームに詳しくないんだよね?」

 

 直樹が尋ねた。

 

「ああ。だから、姫岡さんに教えてもらうつもりだよ」

 

「それなら、いろいろ教えてもらえるといいね」

 

 三人で昇降口へ向かう。

 

 廊下の窓から差し込む日差しは強く、外からは蝉の声が聞こえていた。

 

「直樹はこのあと部活か?」

 

「うん。今日は午後から練習だよ」

 

「終業式の日くらい休みにすればいいのにな」

 

「大会も近いからね」

 

「俺は帰ったら寝る」

 

 大輔が堂々と言う。

 

「明日から夏休みなのに、今日から寝るのか?」

 

「1学期を頑張った自分へのご褒美だ」

 

「まぁ今日くらいは、ゆっくりしてもいいんじゃないかな」

 

「だろ?」

 

「ただ、夏休みの課題まで後回しにしすぎないようにね」

 

「分かってるって」

 

 直樹の言葉にも、大輔はまったく気にした様子がない。

 

「叶多は明日バイトだったよな」

 

「ああ。明後日は午前中に宿題を進めて、午後からバイク店へ行く予定だ」

 

「合宿に行く前から忙しいな」

 

「最初に進めておいた方が、あとが楽だからな」

 

「俺とは逆の考え方だ」

 

「大輔君も少しは見習うといいんじゃないかな」

 

「俺は追い込まれてから力を出すタイプなんだ」

 

「追い込まれる前に動けばいいだろ」

 

「それができたら苦労しない」

 

 昇降口で靴を履き替え、校舎の外へ出る。

 

 夏の日差しが一気に降り注ぎ、熱気が肌へまとわりついた。

 

 1学期は終わった。

 

 明日はカフェのアルバイト。

 

 その次はバイク店へ下見に行き、すぐに10日間の合宿免許が始まる。

 

 海や夏祭りだけでなく、姫岡さんと出かける予定も増えた。

 

 どうやら今年の夏休みは、のんびり過ごす時間の方が少なくなりそうだ。

 

 けれど、不思議と嫌な気はしなかった。

 

 俺は2人と並び、蝉の声が響く校門へ向かって歩き出した。

 

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