男女比100対1で男が多いとかマジ終わってる   作:ののじん

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58話 次はツーリングで

 免許合宿も、いよいよ最終日となった。

 

 最初の頃は長く感じた教習も、終わりが近づいてみればあっという間だったように思える。

 

 朝食を終えた俺は、宿舎の部屋で荷物をまとめていた。

 

 着替えや教本を鞄へ戻し、忘れ物がないか机やベッドの周りを確認する。

 

 今日は卒業検定がある。

 

 無事に合格すれば、教習所での予定はすべて終わりだ。

 

 もっとも、ここを卒業しただけで免許が手に入るわけではない。

 

 帰ってから運転免許センターで学科試験を受ける必要がある。

 

 それでも、今日の検定に合格しなければ先には進めない。

 

 鞄の口を閉じたところで、集合時間が近づいていることに気づいた。

 

 俺は必要なものだけを持ち、部屋を出る。

 

 教習所へ向かう途中、久我さんの姿を見つけた。

 

 久我さんも荷物をまとめ終えたらしく、大きめの鞄を肩に掛けている。

 

「おはよう」

 

「ああ」

 

 久我さんは短く返事をすると、俺の隣へ並んだ。

 

「眠れたか?」

 

「普通にな」

 

「緊張してる?」

 

「してねぇ」

 

 即答だった。

 

 ただ、いつもより口数が少ない。

 

「槻山はどうなんだよ」

 

「少しはしてるよ」

 

「そうは見えねぇけどな」

 

「緊張しても、やることは変わらないからな」

 

「相変わらずだな、お前」

 

 久我さんはそう言って、小さく息を吐いた。

 

 教習所へ着くと、すでに何人かの受講生が待機場所へ集まっていた。

 

 やがて検定についての説明が始まり、走行順が発表される。

 

 俺は久我さんより先だった。

 

「先に行ってくる」

 

「ああ。落ちんなよ」

 

「久我さんもな」

 

「あたしは落ちねぇよ」

 

 強気な言葉とは裏腹に、久我さんは僅かに眉を寄せていた。

 

 俺はヘルメットを被り、検定車へ向かう。

 

 発進前の確認を済ませ、教官の合図を待つ。

 

 コース自体は、これまで何度も走ってきたものと変わらない。

 

 急制動、スラローム、一本橋。

 

 一つずつ、教習で習った通りにこなしていく。

 

 一本橋では規定時間を意識しすぎず、まずは落ちずに渡り切ることを優先した。

 

 最後まで大きな失敗はなく、検定を終える。

 

 車体を停めて降りると、ようやく肩の力が抜けた。

 

 待機場所へ戻ると、久我さんが壁にもたれていた。

 

「どうだった?」

 

「多分、問題ないと思う」

 

「なら受かってんだろ」

 

「多分な」

 

 しばらくして、久我さんの名前が呼ばれる。

 

「行ってくる」

 

「ああ」

 

 久我さんはヘルメットを被り、検定車へ向かった。

 

 待機場所からコースのすべてを見ることはできない。

 

 それでも、一本橋の周辺だけは見える位置にあった。

 

 やがて久我さんの乗る車体が、一本橋の手前へ進んでくる。

 

 一度停止し、ゆっくりと発進した。

 

 橋へ乗った直後、車体が僅かに揺れる。

 

 だが、久我さんは落ちなかった。

 

 視線を先へ向けたまま、速度を調整し、最後まで渡り切る。

 

 俺は無意識に息を吐いていた。

 

 検定を終えて戻ってきた久我さんは、ヘルメットを脱ぐなり俺を見た。

 

「見てたか?」

 

「ああ。一本橋、安定してたな」

 

「当然だろ」

 

「練習したからな」

 

「余計なこと言うんじゃねぇ」

 

 そう言いながらも、久我さんの口元は僅かに緩んでいた。

 

 全員の検定が終わったあと、俺たちは結果が発表される部屋へ移動した。

 

 壁際に並べられた椅子へ座り、教官が入ってくるのを待つ。

 

 室内には落ち着かない空気が漂っていた。

 

 やがて教官が結果の書かれた用紙を手に現れる。

 

 順番に名前が呼ばれていき、俺と久我さんも無事に合格を告げられた。

 

「受かったな」

 

「ああ」

 

 久我さんは短く答えたが、その表情にははっきりと安堵が浮かんでいた。

 

 卒業証明書を受け取り、最後の説明を聞く。

 

 運転免許センターでの学科試験や、必要な持ち物についての説明が終わると、合宿の全日程が終了した。

 

 教習所の外へ出る。

 

 行きに乗ってきた送迎車が、駐車場で俺たちを待っていた。

 

「これで終わりか」

 

 久我さんが教習所の建物を振り返る。

 

「あっという間だったな」

 

「最初は長ぇと思ったけどな」

 

「俺も同じだよ」

 

 送迎車へ乗り込む前に、久我さんが足を止めた。

 

「槻山」

 

「どうした?」

 

「連絡先交換してやるよ」

 

「ああ」

 

「出せ」

 

「分かった」

 

 俺はスマートフォンを取り出し、久我さんと連絡先を交換した。

 

 登録された名前を確認すると、久我さんも画面を見ながら短く頷く。

 

「これでいいな」

 

「ああ」

 

「バイク買ったら連絡しろ」

 

「久我さんも、納車されたら教えてくれ」

 

「言われなくても見せる」

 

 久我さんはスマートフォンをポケットへしまった。

 

 それから少しだけ間を置き、こちらを見る。

 

「今度、ツーリングでもしようぜ」

 

「いいな。行こう」

 

「まだ免許取ってねぇけどな」

 

「久我さんもだろ」

 

「あたしは受かる」

 

「俺も受かるつもりだよ」

 

「なら、決まりだな」

 

 久我さんは満足したように頷いた。

 

 送迎車へ乗り込み、俺たちは並んだ席へ座る。

 

 車が動き出すと、窓の外で教習所の建物が少しずつ遠ざかっていった。

 

 合宿は今日で終わる。

 

 けれど、久我さんと会うのは、これが最後ではない。

 

 次は教習車ではなく、それぞれのバイクで走ることになりそうだ。

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