次に前へ出たのは、制服の上からでも肩や腕の筋肉が分かる、
「高瀬明日香です!」
教室の後ろまで届く、張りのある声だった。
「趣味は筋トレです。中学生の頃からボディビルをやっていて、放課後はだいたいジムにいます!」
制服の袖越しでも、しっかり鍛えられているのが分かった。
全体的に筋肉は凄いが、女性らしいしなやかさがあり、そこまでごつい印象は受けない。
「高校ではジュニア大会で優勝するのが目標です。筋トレに興味がある人は、いつでも声をかけてください!」
屈託のない笑顔で頭を下げる。
見た目どおり、身体を鍛えることが心から好きらしい。
その後、2人の男子が自己紹介を終える。
「次、槻山くん」
「はい」
名前を呼ばれ、俺は席を立った。
教卓の横へ向かうと、クラス全員の視線が集まる。
昨日の出席確認とは違い、今度は俺がどんな人間なのかを確かめるような視線だった。
少し緊張はする。
でもまぁ高校生の自己紹介くらいなら、問題ない。
「
教室を見渡しながら、落ち着いて言葉を続ける。
「趣味と特技は料理です。和食は一通り作れますが、一番得意なのはイタリアンです」
何人かが興味を引かれたように、こちらへ視線を向けた。
「高校進学を機に一人暮らしを始めたので、最近は献立を考えるのも楽しみの一つです」
一人暮らしという言葉に、教室がわずかにざわつく。
「高校では勉強だけでなく、学校行事や新しいことにも積極的に挑戦したいと思っています。1年間、よろしくお願いします」
軽く頭を下げると、教室から拍手が返ってきた。
席へ戻ると、隣の千夏が小声で話しかけてきた。
「イタリアンが一番得意って、なんか本格的だね」
「そうかもね」
「高校生の得意料理って言ったら、普通はカレーとか炒飯とかじゃない?」
「それも作るけど、パスタやリゾットの方が得意かな」
「へえ。ちょっと食べてみたいかも」
「機会があれば、ご馳走するよ」
「本当? じゃあ期待してる」
千夏は軽く笑うと、前へ向き直った。
自己紹介はそのまま続いていった。
「
「はぁーい」
もう一人のギャルだ。
メイクや制服の着こなしは華やかだが、目元は眠たげで、どこか気の抜けた表情を浮かべている。
「七瀬ここあでーす。趣味はカラオケとぉ、服とかアクセ見ること。あと、寝ることかなぁ」
一拍置いて、小さな欠伸を噛み殺す。
「高校ではぁ……まあ、楽しく過ごせたらいいなって思ってまーす。よろしくぅ」
最後まで間延びした調子だった。
派手な見た目に反して、かなり気だるげでマイペースな性格らしい。
さらに一人の男子を挟み、次の女子が前へ出る。
「
柔らかな声だった。
瑞葉は穏やかな笑みを浮かべ、ゆっくりと教室を見渡す。
「趣味は水族館へ行くことと、家にある小さな水槽の世話です」
「水の中をゆっくり泳いでいる魚を見ていると、落ち着くので好きです」
話し方にも、どこか落ち着いた雰囲気がある。
「高校ではいろいろな人と話して、楽しい思い出を作れたらと思っています。これからよろしくお願いします」
丁寧に頭を下げる。
派手な自己紹介ではない。
それでも、柔らかな声と穏やかな笑顔が、不思議と印象に残った。
「次、火野さん」
「はい」
隣に座っていた千夏が立ち上がる。
教卓の横へ立つと、緊張した様子もなく、明るい笑顔を浮かべた。
「
「服とかカフェとか、可愛いと思ったものをよく載せてます」
大勢から注目されても、話し方にはまったく迷いがない。
「高校では友達をたくさん作って、楽しい思い出をいっぱい残したいです。気軽に話しかけてね。1年間よろしく!」
千夏が軽く手を振る。
教室から、ひときわ大きな拍手が起こった。
明るく、人前で話すことにも慣れている。
クラスの中心になるタイプなのだろう。
千夏が席へ戻ると、再び男子の自己紹介が続いた。
そして、次の女子の名前が呼ばれる。
「次、姫岡さん」
「え、あ、はい」
長い前髪が目元を完全に覆っている。
少し背中を丸めながら教卓の横へ向かい、クラス全員の前に立った。
「ひ、姫岡みはるです。趣味はアニメと漫画と、ゲームです」
最初こそ言葉に詰まっていたが、好きなものの話になったからか、少しずつ声がはっきりしていく。
「特にロボットアニメが好きで……『紫電のレガリア』が一番好きです」
紫電のレガリア。
名前なら聞いたことがある。
何年も続いている人気シリーズだったはずだ。
「機体のデザインも格好いいんですけど、戦闘シーンの演出とか、登場人物同士の関係も丁寧に描かれていて……特に第2期の最終決戦は――」
そこまで勢いよく話したところで、みはるの言葉が止まった。
教室中から視線を向けられていることに気づいたらしい。
「あ、えっと……すみません。話しすぎました」
急に声が小さくなる。
「こ、高校では、同じ趣味の友達ができたら嬉しいです。よろしくお願いします」
みはるは頭を下げると、少し早足で席へ戻っていった。
話し始めには詰まるようだが、会話そのものが苦手というわけではなさそうだ。
好きなものについてなら、むしろ止まらなくなるタイプらしい。
その後、何人かの男子が自己紹介を終える。
「次、本田さん」
「はい」
明るく柔らかな返事が聞こえた。
縦にも横にも存在感のあるぽっちゃり女子。
彼女が前へ出ると、自然と教室中の視線が集まった。
「本田ゆりのです。趣味は料理と食べ歩きです」
ゆりのは緊張した様子もなく、親しみやすい笑顔を浮かべた。
「特にお菓子を作るのが好きで、クッキーやケーキをよく友達に配っています。美味しいお店を探すのも好きなので、おすすめがあったらぜひ教えてください」
食べるだけではなく、作る方も好きらしい。
料理という共通点には、少し親近感が湧いた。
「高校でも、いろいろな人と仲良くなれたら嬉しいです。よろしくお願いします」
ゆりのが丁寧に頭を下げる。
教室から返った拍手は温かかった。
近くの席にいる男子たちも、自然と笑顔になっている。
見た目の印象は強いが、それ以上に話し方と笑顔が柔らかい。
人当たりがよく、周囲から好かれるタイプなのだろう。
自己紹介はさらに続いていく。
「次、水瀬くん」
「はい」
落ち着いた返事とともに、
例のイケメンだ。
教卓の横へ向かうだけで、教室にいる女子たちの視線が自然と集まる。
「水瀬直樹です。趣味は身体を動かすことと読書です。中学ではバスケットボール部に入っていました」
聞き取りやすい声だった。
話し方にも余裕があり、大勢の前に立っても緊張した様子はない。
「高校でも勉強と部活動を両立しながら、充実した3年間にしたいと思っています。気軽に話しかけてもらえると嬉しいです。よろしくお願いします」
直樹は爽やかな笑顔を浮かべ、軽く頭を下げた。
直後、女子たちを中心に大きな拍手が起こる。
顔がいい。
背も高い。
運動もできるのか。
A組にいるという事は勉強もできる。
そのうえ、話し方にも嫌みがない。
女子たちの視線が集まるのも当然だろう。
彼女を作るという意味では、間違いなく手強い相手になりそうだ。
だが、相手が優れているからといって、俺が諦める理由にはならない。
競うのなら、自分もそれ以上に努力すればいい。
そう思いながら、俺も直樹へ拍手を送った。
それから残った男子たちの自己紹介も終わり、最後の生徒が席へ戻る。
「はい、お疲れさまでした」
花城先生が名簿を閉じた。
「一度に全員を覚えるのは難しいと思いますが、これから毎日顔を合わせます。少しずつ話していってください」
教室を見渡す。
名前と顔。
趣味や性格。
昨日の出席確認だけでは分からなかったものが、少しだけ見えてきた。
個性的な人間ばかりだ。
このクラスで、これから1年間を過ごすことになる。
そう考えると、昨日よりも少しだけ高校生活の実感が湧いた。