男女比100対1で男が多いとかマジ終わってる   作:ののじん

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65話 宇宙を駆ける

 ブラック・ウォラントは先行する4機を追い、さらに速度を上げた。

 

 画面の奥には、都市ほどの大きさを持つ巨大要塞が浮かんでいる。

 

 距離が縮まるにつれ、表面を覆う装甲板や砲塔の一つ一つが、はっきりと見えてきた。

 

 その手前を、ラスト・エースの青白い推進光が走っていく。

 

『叶多君、少し右』

 

「ああ」

 

 姫岡さんの声に従い、右へ動こうとする。

 

 ブラック・ウォラントは速度を落とすことなく、滑らかに横へ移動した。

 

 身体を傾ける必要も、細かな操作を考える必要もない。

 

 右へ動こうとした瞬間には、もう機体が応えている。

 

『ちゃんと来てる』

 

「それくらいはできる」

 

『じゃあ、もう少し速くする』

 

「待て」

 

 止めるより早く、ラスト・エースの背部推進器が強く輝いた。

 

 青白い光を引きながら、細身の機体が一気に遠ざかっていく。

 

「速いな……」

 

『すごい。加速した瞬間に、もう前へ出てる』

 

 ヘッドセットから聞こえる姫岡さんの声は、普段より明らかに弾んでいた。

 

 ラスト・エースが大きく弧を描く。

 

 機体が傾いたと思った次の瞬間には進行方向が変わり、フォート・アルファへ向かって再び加速していた。

 

『旋回しても、ほとんど速度が落ちない』

 

「ずいぶん楽しそうだな」

 

『うん。すごく楽しい』

 

 迷いのない返事だった。

 

 普段の姫岡さんなら、もう少し小さく頷くように答えるところだろう。

 

 今は新しい動きを試すたびに、楽しそうな声が聞こえてくる。

 

『叶多君、こっち』

 

「分かってる」

 

 先行するラスト・エースへ追いつこうとした、そのときだった。

 

『前方に敵性反応』

 

 女性オペレーターの声と同時に、視界の中央へ複数の赤い表示が浮かび上がる。

 

『スロール迎撃部隊が接近しています』

 

 フォート・アルファの表面から、小さな敵影が次々と飛び出してきた。

 

 遠目には点にしか見えなかった影が、急速に大きくなっていく。

 

 人型に近いものもあれば、翼のような推進器を備えた飛行型もいる。

 

 どの機体も黒ずんだ装甲で覆われ、赤いセンサー光をこちらへ向けていた。

 

『外部防衛網を突破し、侵入経路を確保してください』

 

『叶多君、右側をお願い』

 

「姫岡さんは?」

 

『左をやる』

 

 答えた直後、ラスト・エースが敵の集団へ飛び込んだ。

 

 正面から放たれた光弾を、機体を横へ滑らせるようにしてかわす。

 

 そのまま敵機の側面へ回り込み、すれ違いざまに射撃を叩き込んだ。

 

 一機が火花を散らし、回転しながら後方へ流れていく。

 

『当たった』

 

 姫岡さんの声がさらに明るくなる。

 

「こっちも来たぞ」

 

 右側から3機の敵が接近していた。

 

 先頭の一機へ視線を向ける。

 

 視界の中央にあった照準が敵機へ引き寄せられ、その輪郭へ重なった。

 

 撃とうとした瞬間、ブラック・ウォラントの右腕が動く。

 

 アサルトライフルが火を噴いた。

 

 連続して放たれた弾丸が宇宙空間を走り、敵機の胴体へ火花を散らす。

 

 だが、まだ止まらない。

 

『叶多君、下に回り込まれてる』

 

 レーダーへ目を向けると、敵機がこちらの下方へ移動していた。

 

 視線を下げ、照準を重ねる。

 

 次の射撃が腹部へ集中した。

 

 装甲が弾け、内部から赤い光が漏れる。

 

 直後、敵機が爆発した。

 

「倒した」

 

『うん。ちゃんと倒せたね』

 

「そっちは?」

 

『今ので二機目』

 

「ずいぶん調子がいいな」

 

『ラスト・エース、すごく動かしやすい』

 

 姫岡さんの声は、普段よりずっと楽しそうだった。

 

『叶多君、上』

 

 視線を向けると、残る2機が上下へ分かれていた。

 

 上方へ回り込んだ一機が、こちらへ銃口を向ける。

 

 危ないと思った瞬間、ブラック・ウォラントが横へ滑った。

 

 光弾がすぐ脇を通り過ぎていく。

 

 回避しようと考えてから動いた感覚はなかった。

 

 危険を感じたときには、すでに機体が反応している。

 

「本当に身体みたいに動くな」

 

『うん。すごく自然に動く』

 

 姫岡さんの声には、楽しそうな響きが混じっていた。

 

 再び敵機へ照準を向ける。

 

 敵は距離を取りながら、こちらの周囲を回り込もうとしていた。

 

『そのまま撃ってみて』

 

「まだ遠くないか?」

 

『照準が赤くなったら、射程内ってことだと思う』

 

 敵機へ視線を向ける。

 

 照準がその機体へ重なり、赤く変わった。

 

「赤くなった」

 

『じゃあ、撃ってみて』

 

 射撃を意識した瞬間、アサルトライフルが火を噴いた。

 

 弾丸が敵機を追い、数発が肩口へ命中した。

 

 姿勢を崩した敵が進路を外れる。

 

『当たった。もらうね』

 

 ラスト・エースが視界を横切った。

 

 青白い光を引きながら一気に距離を詰め、すれ違いざまに射撃を叩き込む。

 

 敵機の装甲が弾け、そのまま爆発へ呑まれた。

 

『今の見た?』

 

「ああ。ぎりぎりだったけどな」

 

『もう一回やる』

 

「まず残りを倒してからにしてくれ」

 

『うん』

 

 返事と同時に、ラスト・エースが次の敵へ向かって加速する。

 

 普段の姫岡さんからは想像できないほど、迷いのない動きだった。

 

 前方では、残る3機のVFも戦闘を始めていた。

 

 ノイズ・ゴーストの右肩から、複数の小型機が放たれる。

 

 それらが敵の周囲へ散開すると、今度は左肩の装置が青白い光を放った。

 

 直後、複数の敵機が進路を乱し、何もない方向へ射撃を始める。

 

 そこへノイズ・ゴーストが長銃身のレールガンを向けた。

 

 鋭い閃光が走り、混乱していた敵機の胴体を正確に貫く。

 

 その脇を、グリム・シュラが一気に駆け抜けた。

 

 左肩から半透明のシールドを展開し、正面から浴びせられた弾丸を受け流していく。

 

 左手のサブマシンガンで敵を牽制しながら距離を詰めると、右手に持った大きな剣を振り抜いた。

 

 敵機の装甲が火花を散らし、胴体から大きく切り裂かれる。

 

 さらに後方では、重タンク型のアイアン・ヴァーディクトが両手の巨大なガトリングを持ち上げていた。

 

 左右の無数の砲身が回転を始め、途切れることのない弾幕が敵の群れへ浴びせられる。

 

 複数の敵機が押し流される中、右肩の大型キャノンが火を噴いた。

 

 放たれた砲撃がフォート・アルファの外壁へ突き刺さり、並んでいた防衛砲台を装甲ごと吹き飛ばした。

 

『やっぱり、5機とも全然違う』

 

 その間にも、ラスト・エースは速度を落とさない。

 

 敵の射線を抜け、背後へ回り込み、次々と攻撃を当てていく。

 

 新しい動きを試すたびに弾む声を聞いていれば、顔が見えなくても、姫岡さんが心から楽しんでいることは十分に伝わってきた。

 

『叶多君、前』

 

 フォート・アルファの外壁へ視線を向ける。

 

 無数の装甲板の間に、赤く光る巨大な開口部が見えた。

 

 その周囲には砲台が並び、さらに多くの敵機が侵入口を塞いでいる。

 

『侵入経路を確認』

 

『防衛火器が集中しています』

 

『突破してください』

 

『叶多君、あそこまで一気に行く』

 

「砲台が多すぎないか?」

 

『止まらなければ大丈夫』

 

「ラスト・エースはな」

 

『ブラック・ウォラントも来られる』

 

 言い切ると、ラスト・エースの推進光が一段と強くなった。

 

「待って、姫岡さん」

 

『ついてきて』

 

 返事を待たず、細身の機体が砲火の中へ飛び込んでいく。

 

 俺は前方の砲台へ視線を向けた。

 

 砲台へ照準が重なると、右肩の大型ランチャーが標的へ向いた。

 

 発射しようとした瞬間、砲弾が放たれた。

 

 砲台の一つへ直撃し、外壁の一部ごと爆炎に包む。

 

 ラスト・エースはその煙を突き抜け、さらに奥へ進んでいった。

 

『次、左』

 

「見えてる」

 

 左肩のミサイルポッドが開く。

 

 複数の弾頭が白い軌跡を引きながら散開し、侵入口を守る敵機と砲台へ次々と命中した。

 

 爆発が連続し、赤い開口部までの進路が開いていく。

 

『叶多君、上手くなってる』

 

「姫岡さんの指示が分かりやすいんだ」

 

『じゃあ、もっと速くする』

 

「待て。それは違う」

 

 姫岡さんの小さな笑い声が、ヘッドセットから聞こえた。

 

 直後、ラスト・エースが一段と加速する。

 

 残された青白い推進光を追い、ブラック・ウォラントも赤い開口部へ飛び込んだ。

 

 外壁を抜けた先には、巨大な通路が真っ直ぐに伸びていた。

 

 壁面には無数の配管と機械装置が並び、その隙間から防衛砲台が次々とせり出してくる。

 

『内部防衛網が起動しました』

 

『オブリヴィオン・ランスの発射まで、残り8分』

 

「まだ先か」

 

『このまま真っ直ぐだと思う』

 

 ラスト・エースが通路の中央を駆け抜ける。

 

 背後から複数の誘導弾が追いすがると、背部から無数の光をばらまいた。

 

 誘導弾がその光へ吸い寄せられ、機体の後方で次々と爆発する。

 

『今の、フレアだ』

 

「楽しそうだな」

 

『使ってみたかったから』

 

 その間にも速度は落ちない。

 

 左右から現れる敵機をラスト・エースが引きつけ、俺が後方から撃ち落とす。

 

 前方を塞ぐ隔壁はアイアン・ヴァーディクトの砲撃が吹き飛ばし、分岐した通路から現れた敵はグリム・シュラが切り開いていった。

 

 ノイズ・ゴーストが先行させた小型機は、進路上の敵と砲台を次々と表示していく。

 

 俺たちはその情報に従い、何度か通路を曲がりながら要塞の奥へ進んだ。

 

『発射まで、残り5分』

 

 表示される残り時間だけが、目に見えて減っていく。

 

 けれど、最初ほど操作に戸惑うことはなかった。

 

 敵へ視線を向ければ照準が重なり、避けようとすれば機体が動く。

 

 右手のアサルトライフルで敵を削り、近づかれれば左手のマグナムを撃ち込む。

 

 肩の武装も、必要だと思った瞬間には狙った方向へ向いていた。

 

『叶多君、右から来る』

 

「見えてる」

 

 横合いから飛び出してきた敵機へ、左手の銃口を向ける。

 

 一発の砲声とともに、敵機の上半身が大きく弾けた。

 

『今の格好よかった』

 

「姫岡さんが教えてくれたからな」

 

『うん。タイミングもぴったりだった』

 

 ラスト・エースが急旋回し、正面の敵を撃ち抜く。

 

 通路の終端にあった巨大な隔壁が開き、その向こうに広大な空間が現れた。

 

 中央には、要塞を貫くような巨大な砲身が伸びている。

 

 無数の装置と太い配線に囲まれたその兵器は、先端へ赤黒い光を集め始めていた。

 

『目標を確認』

 

『恒星破壊兵器、オブリヴィオン・ランス』

 

『発射まで、残り3分』

 

「ようやく着いたか」

 

『壊せば終わりだよね』

 

「多分な」

 

『じゃあ、全部撃つ』

 

 ラスト・エースの両肩が開き、小型ミサイルが一斉に放たれた。

 

 左右へ大きく広がった弾頭が、砲身を守る防衛装置へ次々と命中する。

 

 爆炎の中から敵機が飛び出してきた。

 

 俺はアサルトライフルを撃ちながら前へ出る。

 

 右肩の大型ランチャーが火を噴き、砲身を支える基部の一つを吹き飛ばした。

 

 他の3機も同時に攻撃を始める。

 

 レールガンの閃光が砲身を貫き、巨大なガトリングの弾幕が周囲の装甲を削り取っていく。

 

 グリム・シュラは爆炎を突き抜け、露出した装置へ大剣を叩き込んだ。

 

『構造破損を確認』

 

『出力、低下しています』

 

『叶多君、中央』

 

 姫岡さんの声に従い、砲身の奥へ視線を向ける。

 

 破損した装甲の隙間から、赤く輝く巨大な中枢部が見えた。

 

「見つけた」

 

『一緒に撃とう』

 

「ああ」

 

 照準が中枢部へ重なる。

 

 ラスト・エースも隣へ並び、両手の銃を向けていた。

 

『いくよ』

 

「ああ」

 

 ブラック・ウォラントの武装が一斉に火を噴いた。

 

 その隣から、ラスト・エースの射撃とミサイルが重なる。

 

 集中した攻撃が中枢部の装甲を突き破り、内部の光が大きく膨れ上がった。

 

 次の瞬間、オブリヴィオン・ランスの中央を巨大な爆発が飲み込む。

 

 砲身を満たしていた赤黒い光が消え、周囲の装置も次々と停止していった。

 

『オブリヴィオン・ランス、機能停止』

 

『作戦成功です』

 

 視界の中央へ、ミッションクリアの文字が大きく表示される。

 

「終わったみたいだな」

 

『……もう終わり?』

 

「残念そうだな」

 

『うん。もっと動かしたかった』

 

 姫岡さんの声には、隠しきれない名残惜しさが滲んでいた。

 

 爆炎に照らされていた要塞の光景がゆっくりと暗くなり、画面が黒へ切り替わる。

 

『体験プレイを終了します』

 

『機体の操作を停止し、案内があるまでそのままお待ちください』

 

 ブラック・ウォラントの操作が終了した。

 

 さっきまで思うままに応えていた機体が画面から消え、機体を動かそうとしていた意識の行き先だけが、急になくなった。

 

 目の前に見えていた宇宙も、巨大要塞も、すべてなくなっていた。

 

「……終わると変な感じだな」

 

『うん。急に身体が小さくなったみたい』

 

「機体と比べたら、かなり小さいからな」

 

 姫岡さんが小さく笑う。

 

 ほどなくして、ヘッドセットからスタッフの声が聞こえてきた。

 

『お疲れさまでした。ただいまから機器を取り外しますので、身体を動かさずにお待ちください』

 

 頭を覆っていたヘッドセットが持ち上げられ、続いて額からニューロノットが外される。

 

 遮られていた会場の音が一気に戻ってきた。

 

 周囲の試遊台からも、興奮した声や名残惜しそうな声が聞こえている。

 

 隣を見ると、姫岡さんも機器を外してもらったところだった。

 

 髪を軽く整えながら、まだ画面を見つめている。

 

「楽しかったか?」

 

 声をかけると、姫岡さんはこちらを向いた。

 

「うん」

 

 それだけ答えると、少し間を置いて続ける。

 

「思ってたより、ずっと楽しかった」

 

 普段と変わらない小さな声だった。

 

 けれど、その表情は試遊を始める前よりも明らかに明るい。

 

「発売されたら買うのか?」

 

「買う」

 

 今度は迷いのない即答だった。

 

「ニューロノットも?」

 

「お父さんに頼んでみる」

 

「買ってもらえそうなのか?」

 

「多分。ちゃんとお願いする」

 

 その返事を聞く限り、どうしてもニューロノットで遊びたいらしい。

 

 俺も正面の画面へ目を戻す。

 

 そこには5機のVFが並び、その下に発売日が表示されていた。

 

 9月26日。

 

 まだ少し先だ。

 

 それなのに、さっきまで動かしていたブラック・ウォラントの操作感は、今もはっきりと残っている。

 

「叶多君」

 

「どうした?」

 

「発売されたら、一緒にやろう」

 

「俺、本体も持ってないぞ。ニューロノットなんてもっと無理だ」

 

「家に使ってない本体があるから、貸す」

 

「いいのか?」

 

「うん」

 

「それなら、やれるかも」

 

「うん! やろう」

 

 姫岡さんの顔に、嬉しそうな笑みが浮かんだ。

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