男女比100対1で男が多いとかマジ終わってる   作:ののじん

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67話 ゲームショウの午後

 アンビバレンス2の映像が終わったあとも、発表ステージは続いた。

 

 発売予定の作品に関する追加情報や、開発中のゲーム映像がいくつか紹介される。

 

 姫岡さんはその後の発表にも目を向けていたが、さっきまでよりどこか上機嫌に見えた。

 

 やがて最後の映像が終わり、ステージ上へ司会者と登壇者たちが並んだ。

 

『以上をもちまして、KIE新作タイトル発表ステージを終了いたします。最後までご覧いただき、ありがとうございました』

 

 登壇者たちが一斉に頭を下げる。

 

 会場を大きな拍手が包み、しばらくして照明が元の明るさへ戻った。

 

 それまでステージを見ていた観客も、それぞれ次の目的地へ向かって動き始める。

 

「終わったな」

 

「うん。よかった」

 

 姫岡さんは書き込みの増えた会場案内を見下ろし、満足そうに頷いた。

 

「気になるゲーム、増えたみたいだな」

 

「うん。たくさん増えた」

 

「帰ったら、また調べるのか?」

 

「調べる。今日発表された情報も、公式サイトに出てると思うから」

 

「なるほど」

 

 すでに帰ってからすることまで決まっているらしい。

 

 俺たちも観客の流れに合わせ、中央ホールを出た。

 

 通路へ戻ると、昼食を求めて移動する人たちで、午前中よりもさらに混雑していた。

 

 時刻を確認すると、もう12時を回っている。

 

「そろそろ昼にするか」

 

「うん。どこで食べる?」

 

「一応、弁当を二人分作ってきたんだけど、どうする?」

 

 姫岡さんが足を止め、俺を見上げた。

 

「二人分?」

 

「ああ。会場の店は混むと思ったから。姫岡さんが別のものを食べたいなら、俺が二つ食べるけど」

 

「食べる」

 

 返事が早かった。

 

「それなら、休憩スペースを探すか」

 

「うん」

 

 会場案内を確認し、飲食可能と書かれた休憩スペースへ向かう。

 

 同じことを考えている人は多く、並べられたテーブルのほとんどが埋まっていた。

 

 空きそうな席を探して少し待っていると、ちょうど食事を終えた二人組が立ち上がる。

 

 俺たちは入れ替わるように席へ着いた。

 

 鞄から保冷バッグを取り出し、中に入れていた二つの弁当箱をテーブルへ並べる。

 

「朝から作ったの?」

 

「ああ。昨日のうちに下ごしらえはしておいたけどな」

 

 弁当箱の蓋を開ける。

 

 中には、一口で食べられる大きさのおにぎりと、鶏肉の照り焼き、卵焼き、野菜の肉巻き。それから汁気の少ない副菜を詰めていた。

 

 会場で食べることを考えて、箸で取りやすく、こぼれにくいものを選んでいる。

 

「おいしそう」

 

「口に合えばいいけど」

 

「絶対おいしい」

 

「まだ食べてないだろ」

 

「叶多君が作ったから」

 

 迷いなく言い切られ、少し返事に困る。

 

 姫岡さんは手を合わせると、最初に卵焼きへ箸を伸ばした。

 

 一口食べ、ゆっくりと噛む。

 

「おいしい」

 

「よかった」

 

「甘くて好き」

 

「卵焼きは甘い方が好きなのか?」

 

「うん。叶多君の卵焼き、ちょうどいい」

 

 姫岡さんは頷くと、今度は鶏肉の照り焼きを口へ運んだ。

 

 食べる速度はそれほど早くないが、箸は止まらない。

 

「今日の発表で、特に気になったのはどれだ?」

 

「一つに決めるのは難しい」

 

 姫岡さんは少し考えながら、野菜の肉巻きを口へ運ぶ。

 

「アンビバレンス2は絶対やる。ユグドラシルのDLCも買う」

 

「海賊のゲームは?」

 

「それも気になる」

 

「時間が足りないだろ」

 

「うん、困る」

 

 言葉とは反対に、その表情は楽しそうだった。

 

「でも、今日来てよかった」

 

「それならよかった」

 

 俺もおにぎりを一つ手に取り、午前中のことを思い返す。

 

「VFも面白かったな」

 

「うん」

 

「それに、ニューロノットがすごかった。考えたとおりに機体が動くんだな」

 

「もともとは軍事研究の技術だから」

 

「軍事用だったのか?」

 

「遠隔操作の機械を、兵士の身体みたいに動かすために研究されてたの。でも、軍では別の方式が採用された」

 

「それで、ゲーム会社が買ったのか」

 

「うん。軍事研究で使われていた技術のうち、民間でも利用できる特許や研究データをオルネクサが買ったの」

 

「それをゲーム向けに作り直したのが、ニューロノットか」

 

「そう。ゲームなら、読み取った動きが多少曖昧でも、補助AIが自然な動きに整えてくれるから」

 

「なるほど。軍では採用されなかった技術でも、使う場所が変われば役に立つんだな」

 

「うん。戦場で使うのと、ゲームで使うのは違うから」

 

 あれほど直感的に動かせたのも、俺の考えをすべて正確に読み取っていたからではなく、ゲーム側の補助があったかららしい。

 

「ニューロノット、欲しくなった?」

 

「欲しいけど、さすがにすぐ買える値段じゃないな」

 

「確かに高い」

 

「ああ。当分はコントローラーで遊ぶことになりそうだ」

 

「それでも全部遊べるよ」

 

「そうみたいだな。ニューロノットは、いつか買えればいい」

 

「発売したら、一緒にやろう」

 

「ああ。約束したからな」

 

「うん」

 

 短く返し、姫岡さんはまた卵焼きへ箸を伸ばす。

 

 どうやら、かなり気に入ったらしい。

 

 そのまま二人で弁当を食べ終え、空になった容器を片づける。

 

「ごちそうさまでした」

 

「お粗末さま」

 

「おいしかった」

 

「そう言ってもらえるなら、二人分作ってきた甲斐があったな」

 

「次も食べたい」

 

「次って、いつだ?」

 

「またどこか行くとき」

 

 もう次がある前提らしい。

 

 俺は返事をしながら、保冷バッグを鞄へ戻した。

 

「午後はどうする?」

 

「物販を見たい」

 

「何か買うものは決めてるのか?」

 

「まだ。見てから決める」

 

「それ、買いすぎたりしないか?」

 

「大丈夫。予算は決めてる」

 

 そう言う姫岡さんは、すでに会場案内の物販エリアを見つめていた。

 

 休憩スペースを出た俺たちは、人の流れに混じって物販エリアへ向かった。

 

 会場の一角には、KIE作品のグッズをまとめて扱う大きな公式ショップが設けられていた。

 

 店内は作品ごとに区画が分けられ、Tシャツやパーカー、トートバッグ、マグカップといった実用品から、キーホルダー、缶バッジ、ステッカー、クリアファイルまで、さまざまな商品が並べられている。

 

 店の入口で買い物籠を一つ取り、俺たちは作品ごとに分けられた売り場を見て回ることにした。

 

「どこから見る?」

 

「VF」

 

 迷いのない返事だった。

 

 『VANGUARD FRAME』の区画へ向かうと、正面の棚に英雄級VF5機のフィギュアが並べられていた。

 

 ブラック・ウォラント、ノイズ・ゴースト、グリム・シュラ、アイアン・ヴァーディクト、ラスト・エース。

 

 午前中に試遊した5機すべてが、それぞれ単品で販売されている。

 

「全部ある」

 

 姫岡さんは足早に棚へ近づくと、真っ先にラスト・エースの箱を手に取った。

 

 透明な窓の向こうには、白い装甲と細身の機体を再現したフィギュアが収められている。

 

「それにするのか?」

 

「うん。これは買う」

 

「決めるの早いな」

 

「ラスト・エースだから」

 

 姫岡さんは箱を籠へ入れると、隣の棚へ視線を移した。

 

 そこには、英雄級VF5機の設定画や世界観、初期登場勢力の情報を収録した先行設定資料集が積まれている。

 

「設定資料集もある」

 

「ゲームはまだ発売前だろ?」

 

「先行公開版みたい。英雄級VFの設定が載ってる」

 

 姫岡さんは一冊手に取り、表紙と裏表紙を交互に確かめる。

 

「それも買うんだな」

 

「うん」

 

 姫岡さんは設定資料集も籠へ入れた。

 

 どうやら、VFに関しては最初から迷うつもりがないらしい。

 

 その後も姫岡さんは、機体別のキーホルダーやエンブレム入りの缶バッジを一つずつ見て回った。

 

 気になった商品を手に取っては見比べ、いくつかは棚へ戻していく。

 

 何を買うか迷う時間も楽しんでいるようだった。

 

 俺もせっかくなので、売り場を見て回ることにした。

 

 ほかのゲームは今日初めて知ったものばかりだが、VFなら実際に遊んだ分、記念に何か欲しいと思えた。

 

 ブラック・ウォラントのメタルキーホルダーと、英雄級VF5機のエンブレムステッカーセットを手に取る。

 

 少し離れた棚には、ブラック・ウォラントの機体エンブレムが描かれた黒いマグカップも置かれていた。

 

「叶多君も買うの?」

 

「ああ。せっかく来たし、記念にな」

 

「ブラック・ウォラントばっかり」

 

「使った機体だからな」

 

 俺がマグカップを手に取ると、姫岡さんは側面に描かれたエンブレムをじっと見た。

 

「それ、かっこいい」

 

「だろ?」

 

「うん。叶多君に似合う」

 

「マグカップが?」

 

「ブラック・ウォラントが」

 

「そうか?」

 

 どういう基準なのかは分からないが、姫岡さんの中ではそうらしい。

 

 結局、俺はキーホルダーとステッカーセット、それからマグカップを買うことにした。

 

 姫岡さんは籠を抱えたまま、次の売り場へ目を向ける。

 

「次はあっちを見る」

 

「ああ」

 

 姫岡さんは楽しそうに歩き出した。

 

 その先には、別作品のぬいぐるみやキャラクターグッズが並んでいた。

 

 姫岡さんはぬいぐるみを両手で持ち上げ、しばらく顔を見つめる。

 

 丸い身体に短い手足がついた、どこか間の抜けた見た目の魔物だった。

 

「かわいい」

 

「そうか?」

 

「かわいい」

 

 そこは譲る気がないらしい。

 

 少し考えたあと、姫岡さんはぬいぐるみも籠へ入れた。

 

「これで終わり」

 

 姫岡さんは籠の中を見下ろす。

 

 入っているのは、ラスト・エースのフィギュアとVFの先行設定資料集。それから、今選んだ小さなぬいぐるみの三つだった。

 

「欲しいものは決まったみたいだな」

 

「うん」

 

 俺たちは店内の奥にある共通会計へ向かった。

 

 列はできていたが、レジの数が多いため、少しずつ進んでいく。

 

 順番が来ると、姫岡さんは籠の商品を会計台へ並べた。

 

 フィギュアと設定資料集は緩衝材で包まれ、ぬいぐるみと一緒に大きめの袋へ収められていく。

 

 俺も続けて、ブラック・ウォラントのメタルキーホルダーと、英雄級VF5機のエンブレムステッカーセット。それから、ブラック・ウォラントの機体エンブレムが描かれたマグカップの会計を済ませた。

 

 店を出ると、姫岡さんは袋を両手で持ち直した。

 

「満足した?」

 

「うん。すごく」

 

 姫岡さんは袋の上から覗くぬいぐるみの頭を軽く整えると、買ったばかりの品を大事そうに抱えて歩き出した。

 

 俺も自分の袋を持ち直し、後を追う。

 

 時刻を確認すると、午後3時から始まるトークイベントまでは、まだ1時間ほど残っていた。

 

「まだ時間あるな」

 

「展示を見たい」

 

「どの辺りを回る?」

 

 姫岡さんは片手で会場案内を開き、現在地からステージまでの間に並ぶブースを確認する。

 

「こっちから行けば、いくつか見られる」

 

「じゃあ、その順番で行くか」

 

「うん」

 

 俺たちは混雑を避けながら、ステージのある中央ホールへ向かって歩き始めた。

 

 途中にあったのは、宇宙空間で廃棄施設を探索するゲームや、空中を飛びながら競技を行う対戦ゲームの展示だった。

 

 どちらも試遊列は長く、今回は大型スクリーンに流れる映像を見るだけにする。

 

「これも気になる」

 

「面白そうだな」

 

「うん。あとで調べる」

 

 姫岡さんは会場案内の端へ小さく印をつけた。

 

 気になる作品が増えていくのも、こういうイベントの楽しみ方なのだろう。

 

 さらに進むと、照明を落とした小さな展示区画が見えてきた。

 

 大型スクリーンに映っているのは、夜の海に浮かぶ研究施設だった。

 

 停電した通路を一人称視点で進み、無線機から聞こえる声を頼りに、暗闇の中を探索している。

 

 床に落ちた工具が転がる音がすると、画面の奥で何かが動いた。

 

「ホラーか」

 

「うん」

 

 姫岡さんは足を止め、映像を見上げる。

 

 画面の中の人物が息を潜めると、無線機から途切れ途切れの声が流れた。

 

『聞こえるなら、返事をしないで』

 

 直後、暗い通路の奥から大きな影が現れる。

 

 周囲で映像を見ていた人たちが小さく息を飲んだ。

 

「怖そうだな」

 

「面白そう」

 

「姫岡さん、こういうのもやるのか?」

 

「見るのは好き」

 

「遊ぶのは?」

 

「一人ではやらない」

 

 そこは即答だった。

 

「じゃあ、買わないのか?」

 

 姫岡さんは少し考えてから、俺を見る。

 

「叶多君と一緒ならできる」

 

「俺と?」

 

「うん」

 

「俺も怖いものが平気とは限らないぞ」

 

「二人なら大丈夫」

 

「その根拠は?」

 

「一人じゃないから」

 

 単純だが、姫岡さんにとっては十分な理由らしい。

 

「発売したら考えるか」

 

「うん」

 

 また一つ、一緒に遊ぶかもしれないゲームが増えた。

 

 展示区画を出て時計を見ると、トークイベントの開始まであと30分ほどになっていた。

 

「そろそろ向かった方がよさそうだな」

 

「うん。前で見たい」

 

 俺たちは中央ホールへ向かう人の流れに加わった。

 

 午前の発表ステージほどではないが、会場の前にはすでに列ができている。

 

 スタッフの案内に従って最後尾へ並ぶと、姫岡さんは買ったばかりの袋を足元へ置かず、両手で抱えたまま待っていた。

 

「ずっと持ってると疲れないか?」

 

「大丈夫」

 

「フィギュアが心配なのか?」

 

「うん。潰したくない」

 

「それなら、俺が持とうか?」

 

「大丈夫、ありがとう」

 

 しばらくすると列が動き始め、俺たちは再び中央ホールの中へ入った。

 

 今回のステージには大型スクリーンのほか、実物のニューロノットや、開発段階の試作機らしきものが展示されている。

 

「ニューロノットの話もするみたいだな」

 

「うん。開発者も出るって書いてある」

 

 午前中に実際に使ったあとだからか、俺も少し興味があった。

 

 席へ着くと、姫岡さんは袋を膝の上へ置き、ステージへ視線を向ける。

 

 やがて照明が落ち、司会者が姿を現した。

 

『皆様、お待たせいたしました。ただいまより、KIEスペシャルトークイベントを開始いたします』

 

 会場から拍手が起こる。

 

 登壇したのは、『VANGUARD FRAME』の開発責任者と、ニューロノットの開発に関わった技術者たちだった。

 

 午前の試遊で使用した英雄級VFの開発映像や、ニューロノットが現在の形になるまでの試作機が紹介されていく。

 

 初期の装置は今よりも大きく、頭部を覆う部分もかなり重そうだった。

 

「最初は、あんなに大きかったんだな」

 

「研究用だから」

 

「今の形になるまで、ずいぶん変わってる」

 

「一般向けに軽くしたって」

 

 姫岡さんは登壇者の話を聞きながら、小声で教えてくれる。

 

 トークイベントは、開発時の失敗談や、操作補助AIの調整についての話へ進んでいった。

 

 専門的な部分はすべて理解できたわけではないが、午前中に自分で使った分、話の内容は想像しやすかった。

 

 やがて最後の質問が終わり、司会者が再び中央へ立つ。

 

『それでは、トークイベントの最後に、優待入場者の皆様へお配りした抽選券の結果を発表いたします』

 

「抽選券」

 

 姫岡さんが小さく呟いた。

 

「そういえば、もらってたな」

 

「忘れてた」

 

「俺も忘れてたよ」

 

 俺たちはそれぞれ鞄から、朝の受付でもらった小さな抽選券を取り出した。

 

 券の端には、6桁の番号が印刷されている。

 

『当選番号は、ステージ上のスクリーンへ順番に表示いたします。お手元の抽選券をご確認ください』

 

 最初に発表されたのは、KIE作品のグッズセットだった。

 

 続いてゲームソフトの引換券や、ORNEXA PLAY 6用の周辺機器が発表される。

 

 俺の番号は、どれにも当てはまらない。

 

「姫岡さんは?」

 

「今のところ全部外れ」

 

「俺も同じだ」

 

 最後に残ったのは、特賞だけだった。

 

『特賞は、ニューロノット製品版です。発売日にご指定の住所へお届けいたします』

 

 会場がざわつく。

 

 午前中に価格を見て諦めたばかりの品だ。

 

『当選番号は――』

 

 スクリーンに、6桁の数字が大きく表示された。

 

 俺は手元の券を見下ろす。

 

 もう一度、スクリーンを見る。

 

「叶多君」

 

「ああ」

 

 姫岡さんも、俺の抽選券とスクリーンを交互に見ている。

 

 数字は、すべて同じだった。

 

 

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